第235話 最強賢者、まともな迷宮都市へ辿り着く
「一気に強く……なんかうまい話すぎて、逆に怖い気もしますね……」
「簡単に強くなれるのに今までやらなかったってことは、何か理由があるの?」
鋭いな。
まあ、さすがに気付くか。
「問題点もある。……体や魔法制御力が育つ前に、そうやって経験値を稼ぎすぎると……魔法を使えなくなる可能性があるんだ。だから今までは教えていなかった」
「魔法を使えなく!?」
「ああ。魔法制御力に対して魔力が多くなりすぎると、魔力が制御不能になって魔法を使えないようになる。魔法が使えないと魔法制御力を鍛えるのも難しくなるから、下手をするとそれが一生続く。……詠唱魔法なら使えるかもしれないけどな」
詠唱魔法は、魔力の制御を詠唱による補助に全て委ねるシステムだ。
あれを使えば、魔力が全く制御できなくても魔法を使えるかもしれない。
逆に言えば、今までちゃんとした魔法が使えていた人間が、詠唱なしでは魔法を使えないところまで落ちてしまう可能性があるのだ。
まあ、イリスくらい膨大な魔力があれば、制御は適当でも魔力を使えるのだが。
「詠唱魔法しか使えないって、それじゃ魔法を使えないのと大して変わらないじゃないですか……」
「まさにその通りだ。……今の二人なら魔力が増えても扱える程度の魔法制御力はあるし、ちゃんと限界を見極めながら経験値を稼ぐから問題ないけどな」
制御できる魔力量を超えたからと言って、その瞬間に魔法が全く使えなくなるというわけではない。
まず徐々に魔法の制御が効きにくくなってきて、それが行きすぎると魔法を使えなくなるのだ。
だから、魔法の制御力が落ちてきたところで経験値稼ぎを止めて離脱する。
離脱が簡単なのは、自動昇降機付き迷宮のメリットの一つだな。
「……間違って稼ぎすぎないように、気をつけないと!」
「それよりまず気にするべきなのは、27階層の敵の強さですけどね……」
ルリイは不安に思っているようだが、魔族とすら何度も戦っているルリイ達にとって、27階層の魔物は強敵でもなんでもない。
そもそも『イーリアス管理迷宮』27階層の敵は、階層の割にとても倒しやすいし。
「まあ、細かいことは到着してから決めよう。27階層以外にも、『イーリアス管理迷宮』にはいい狩り場があるからな」
「そうしよう! ……このパーティーで『ギャンブル迷宮』に行ったら、凄く儲かりそうだし!」
「……アルマ、そんなにお金が必要なんですか?」
ルリイが、もっともな疑問を口にした。
今のアルマには、別に金を稼ぐ必要性などないだろう。
国王からの褒美で、まだ受け取っていないものがたくさんあるし……それを受け取って換金するだけで、数百年は遊んで暮らせる。
「別にそういうわけじゃないけど、なんていうか……ボクの冒険者としての血が騒ぐんだよ!」
なるほど。
確かに、迷宮に潜って一攫千金というのは冒険者の浪漫かもしれない。
前世の時代にも、そういう理由で迷宮の深い階層に潜るような冒険者はいた。
……今の時代だと、凄く浅い階層に潜って適当に狩りをするだけで一攫千金になってしまうので、張り合いがなさそうだが。
そんな会話と共に俺達は、『イーリアス管理迷宮』へ行くことを決めた。
『イーリアス管理迷宮』のある『迷宮都市イーリアス』は、俺達の足なら数時間で着ける距離だ。
ここで色々と考えている暇があったら、行ってから考えた方が早い。
◇
「ここが迷宮都市イーリアスか……」
ちょうどお昼頃。
俺達は目的地の、迷宮都市イーリアスへと辿り着いていた。
「メルキアとは、結構雰囲気が違うね」
「まあ、あの時のメルキアは特殊な状況だったから、普段のメルキアだとどうかは分からないけどな」
俺達が行ったときの迷宮都市メルキアは、絶望的なまでに無能なクズ領主の暴政によって酷い有様になっていた。
それはもう、街を照らすための魔法灯が爆発事故を起こして死人が出るのが日常茶飯事という有様だった。
あまりの酷さに、魔族の関与すら疑ったほどだ。
それに比べて、イーリアスは活気ある冒険者の町といった感じが強い。
町を歩いている者の半分以上は冒険者で、その多くは希望に目を輝かせている。
ところどころ、落ち込んだ様子の冒険者達もいるが……恐らく彼らは、昇降機の高い利用料を払って冒険にでかけたものの、実力不足やアクシデントなどで撤退を余儀なくされた者だろう。
そういった部分は、まさしく『ギャンブル迷宮』といった感じだな。
そんなことを考えながら俺は、近くの看板を見る。
看板にはでかでかと『迷宮入り口 昇降機利用所まで400メートル』と書いてあった。
その下には、昇降機利用料のことが書かれていた。
どうやら昇降機の利用料は、行き先の階層の深さに100エルミをかけた金額のようだ。
ちなみに行き先が3階層以下の場合、昇降機利用料はタダになるらしい。
これは、初心者冒険者達が浅い階層で練習をできるようにという配慮だろうか。
昇降機の管理者にとっても、冒険者はお客さんなのだ。
無理をして死なれてしまうより、しっかりと経験を積んで生き残り、昇降機を利用してほしいということなのだろう。
「入り口はあっちみたいですね」
「噂には聞いてたけど、やっぱり昇降機の利用料は高いね……」
4人家族が1日70エルミくらいで暮らせることを考えると、確かに安くはないな。
かといって、俺達のパーティーの活動資金は幸いなことに潤沢だ。
国王の許可証を使えば、もしかしたらタダにしてもらえるかもしれないが……別にそこまでしてケチることはないだろう。
大人しく利用料を払うことにしよう。
レベル上げをするためには、魔力や体力を節約できる昇降機は便利だしな。
拙作『異世界賢者の転生無双』の書籍版が、【4月14日】に発売します!!
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!