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♪~(出囃子)(五りん)あれ?
♪~
ハハッ… あれ?
あっ。(笑い声)
(拍手)
(笑い声)(志ん生)あっ…。
(拍手)
え~ 我らが主人公韋駄天こと金栗四三と痛快男子 三島弥彦。
<日本人が初めて出場したストックホルムオリンピック。庶民は 一体 どうやってオリンピックを体験したんでしょう?>
(孝蔵)<はい ニュース映画です>
<2週間前に既に終了したオリンピック大会。そのニュース映画が今 まさに日本で公開中>
(弁士)かくもたくましき東西偉丈夫の…。
<まだ無声映画の時代でしたが銀幕の中 飛んだり跳ねたりする西洋人の見事な肉体見たこともねえ競技の数々に東京市民は大興奮>
(弁士)投げた 投げた。跳んだ。 また投げた。
(野口)何だ これ… 何 投げてんだ?
(橋本)おい マラソン ちゃんと見せろよ!
そうだよ!マラソン見せろ!
来た! 金栗さん 金栗さん どこだ?
(弁士)号砲一発一斉に飛び出した 世界の韋駄天たち。炎天下の下 ソレンツナ教会で折り返し10里の道をいざ走る!四三 映ってねえぞ!
(永井)やかましい!静かに見ておれんのか。
舎監殿…。
永井さん 体協を代表して感想をひと言。
まだ結果も出ておりませんから。(本庄)出ました!
現地の特派員から電報が入り「金栗 敗退」と。えっ?
(野口)「カナクリキケン ハイタイス」。
(ダニエル)ニッシャビョウデス。
(四三)すいまっせん…。
(弥彦)足袋をプレゼントした選手がいたと言っていたね。
亡くなったそうだよ。日射病による髄膜炎らしい。
<初めての死者が出たオリンピック。しかし 4年後も開催されることが決定しました>
「その恥をすすぐために粉骨砕身して マラソンの技を磨きもって皇国の威を上げん」。
<四三が ベルリンオリンピックへの決意を胸に帰国する頃日本では明治天皇が崩御し元号が大正に変わりました>
ああっ!うわっ!
<大正元年9月我らが韋駄天 金栗四三は単身 東京に帰ってきました>
♪「敵は幾万ありとても」
<「敵は幾万」の合唱に見送られこの地を後にして はや4か月>
あっ 金栗さん!
野口君 橋本君!
あ~ 危ない 危ない…。ああ… すまん すまん。
整列!(可児)お帰り。
この度は ご苦労さまでした。
(一同)ご苦労さまでした。ただいま。
<地味な出迎えも今の四三には かえって救いでした>
(笛の音)
ああ…。
(橋本)大喪の礼が済んだばかりでねどこも まだ自粛自重のムードさ。
乃木陸軍大将が自決なさったのは?
はい… 新聞で。
そうか。長旅 ご苦労だったね。
可児先生 こん度は 俺の力不足で黎明の鐘となること…。
あ~… もう そういうのはあとで ちゃんと やってもらうから。疲れたろう。 ほら 荷物持ってやれ。あっ はい。
あっ ありがとう。
あっ 嘉納先生は ヨーロッパ視察ばしてから アメリカ回りで…。
ばっ! ど… ど…どぎゃんしたとですか?
えっ? アハハハ…まあ これも また おいおい。
おいおい…。
こぎゃん投ぐったい。えっ?
<四三は オリンピック土産に日本では まだ知られていないスポーツの道具をいくつも持ち帰りました>
「また投げた」! アハハハ…。
諸君から 多大なるご支援と激励のお言葉を賜り…。
<そして 寄宿舎に戻ると荷を解く間もなく 報告会が催されました>
しかるに 我が不肖により陛下をはじめ 諸君の希望に反し帝国運動史上に拭うべからざる汚点をしるしたことは紛れもない事実であります!
<…と堅苦しい挨拶で始まりましたが金栗君の 血のにじむような努力を間近で見てきた学友みんな 温かく受け止め彼を責める者は誰一人… うん?>
おい 女だ。 おなごがいるぞ。 誰?
賄いのおばさんだろ。
後援会の皆様から頂戴した寄付金は計画を立てつつ大切に使わせて頂きました。
あっ…しかしながら 思わぬ出費もあり…。
大森監督が 太かドイツ人に連れられて食堂車行ったとです。
ほんなら 大森監督 そのドイツ人の分まで払ったとです。 しかも…。
(大森)君らは 2円ずつでいいよ。(弥彦 四三)はあ!?
大森監督には参ったばい。(笑い声)
いや~ さすがは半かじりの大森さんですな。
諸君 スウェーデン語で水ば 何て言うか分かる人。
(一同)水?地歴科の福田先生 ご存じなかですか?
(福田)う~ん ばってん…。
正解! そう 水は「バッテン」って言うとばい。
な~ん…。金栗さん うそはいけないな うそは。
いやいや…。「美人」は何と言うのかね?
(一同)お~!(可児)北欧美人は肌が美しいというが…。
(二階堂トクヨ)敗因は何だと思われますか?
皆さん 腫れ物に触るようにわざと核心を避け大して面白くもない話題で白々しく 場を盛り上げようとなさっているようですがはっきり申し上げて時間の無駄です。
金栗さん羽田の予選で世界記録を出しながら本選で棄権し 国民の期待を裏切った原因は何だと思われますか?
えっ? だ… 誰?
♪~
「よ~うっ!」(太鼓の音)
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
「よ~うっ!」(拍子木の音)
そもそも予選のコースは地図とコンパスで測っただけだそうですしタイムも疑わしい。
(治五郎)世界記録だぞ!
三島選手に至っては 審判員が周囲に乗せられ 浮かれて走っただけで選手登録すらしていなかった。
いっちょ やりますか~?
果たして この2名が オリンピックにふさわしい選手だったのか国民の多くが不満を抱いています。
だけん 誰ですか?
おい 黙れ! 賄いの分際で!
私の弟子の二階堂だ。(一同)弟子?
お答え下さい!(橋本)答えんでいいぞ 金栗君。
そうだ! 金栗さんは 精いっぱい やった。それで十分です!
精いっぱいやって勝てなかった原因を聞いてるんです。
(平田)つまみ出せ!女のくせに生意気だぞ!
何を!? この大バカ者!いや 俺…。
教職に就かんとする者が なんと下劣な!撤回しなさい!
この 棚から落ちた ぼた餅め~!
ぼた餅?
たまたま 男に生まれただけのぼんくらという意味だ!
何だと~!何!?
敗因は 一つじゃなかです!
食事の問題 練習法 当日の天候…。
ばってんどれも言い訳にしかすぎんけん胸の奥にしまって ただ黙々と…。
それじゃ駄目なんだよ!
敗北から学ばなければ意味がない。
いいかね? 我が国の体育は10年… いや 50年 遅れている。それが君らの敗因である。
10年後 50年後… 欧州人と肩を並べるために 今 何をすべきか!?
それを考えるのが 君らの使命である!そのとおり!
ばってん おるには4年しかなかです!
次のベルリンオリンピックまで4年しかなかです。
舎監殿のおっしゃるとおり国民の体格の改良は急務です。
ばってん… 10年待てば おるは 31。50年待てば 71ばい。
とうに走れんとです!
4年後も… 出るつもりなのかね 君は。
はい!
ベルリンのスタジアムの旗ざおに必ず 日の丸ば揚げたかです。
ストックホルムの悔しさ 恥ずかしさを晴らすため明日から粉骨砕身してマラソンの技ば 磨こうと思っとります!
♪~
<出た~! 「勝つためにノート」>
ひゃあ~!
<4年後のベルリン大会に向け 早速トレーニングを再開した 我らが韋駄天>
金栗君 何をしてるんだね?
おう 舗装路対策ばい!
ヨーロッパん道は舗装されとるばってんこれに慣れんと 足腰のこたえると!
ん~ おお~っ!
<ストックホルムで四三君が どぎもを抜かれたのは海外選手の短距離走のようなスタートダッシュ。このころ 東京の風景にある変化が起こっていました。電信柱です。 電話の普及によってこの時代 急に増えたようです。これに四三君は目をつけました。電柱は 40~50m間隔で立っている。まず最初の5本を軽く流し次の5本を全力疾走。心臓が爆発しそうになると次の5本は流す。これを何度も繰り返し速度の変化に体を慣らす。名付けて 電信柱練習法!>
あ~!
<一方後輩の野口源三郎君は四三君の持ち帰った道具に興味を持ち…>
おお~!重い!こんな重いものを西洋人は… すごいな~。
野口 野口。 槍 槍… 槍は どぎゃんね?
あっ 叫びながら 叫びながら投げったい。
や~!
お~! 飛んだ 飛んだ!大したもんばい!(どよめき)
<新たなスポーツが始まる気配を見せていました>
ところで どうにも気になるのがさっきの賄いのおばちゃん。(笑い声)
あ~… じゃねえや 永井先生の弟子二階堂さん。
(孝蔵)<四三君が生活する寄宿舎から目と鼻の先に東京女子高等師範学校現在の お茶の水女子大学があります。おばちゃんは ここの助教授なのです>
出たな ぼた餅。
永井先生の使いで参りました。金栗氏は?
(永井)「学校体操教授要目」。
肋木とスウェーデン体操を基盤に健康で強靱な肉体を作る方法をまとめたものだ。これを持って 二階堂君と共に全国の学校を回るつもりだった。
ほう~。(永井)ところが二階堂君が 文部省の要請で英国に留学することになった。
キングスフィールド体操専門学校で3年間 学びます。
誰か代役をと話したら君が適任だろうと 二階堂君が。
ばっ! おるが?
ばってん 日々のトレーニングもありますけん…。
はあ~ 金栗…。
「肋木 肋木」と バカの一つ覚えのように私が唱えるのには理由があるのだよ。二階堂。はい!
ぶら下がることで おのずと背筋が伸び横隔膜が拡張され 胸筋が鍛えられる。
ハッ ハッ ハッ!
近年 肺病の治療にも効果があると証明された。
ばってん 嘉納先生は…。嘉納先生のやり方じゃ駄目なんだよ!
すいません。皮肉にも君のおかげで それが証明されたんだ。
優勝候補だった君が 30km地点で倒れた。約半数が棄権し聞けば 死者が出たそうじゃないか。
(ラザロ)ノー ノー ノー ノー ノー!
やはり 無謀だったんだよ。
理想ばかり追い求め 地に足が着いとらん。
4年後も出るなど 暴挙と言うほかない。(トクヨ)そのとおり!
暴挙である! ハッ ハッ ハッ!ハッ ハッ ハッ! ハッ ハッ ハッ!
暴挙…。はい。
私に言わせりゃ永井さんの方が よっぽど暴挙だよ。
…と言いますと?思い込みの激しい人だからね。
行くさきざきで問題になってる。
この間も ある小学校で…。
こんなものは こうしてしまえ!
こんなもの!
ここに 肋木を作りなさい!
よ~し 胸を張れ 胸を~。
いいか~? 落ちたら死ぬと思いなさい!
ばっ!極端なんだよ。
これだって… え~ 見たまえ。
「気を付け」「休め」「屈伸」「懸垂」体操に これだけのページ割いてるのにバスケットボールもフットボールも 綱引きも遊戯で ひとまとめだよ。
マラソンは?遊戯だね。
お… 鬼ごっこと一緒?
残念だが 永井さんの言うことも半分は当たってる。
嘉納校長の留守中 我が大日本体育協会は波乱ずくめでね…。
私が把握してた借金はほんの一部だったんだよ。
冗談じゃないよ!あんたじゃ 話になんないんだよ。
嘉納を出せ 嘉納を!ですから校長は ストックホルムに…。
オリンピックはとうに終わってるだろう!
借金 踏み倒すために海外に行ったんじゃないのか!?
お前が保証人になれ 可児!ああっ ああ~っ!
ああ~! あっ…。おい!
飛び降りますよ!?と… 飛んだとですか?
あ~!
誰も止めてくれなかったからね。あ~ それで…。
はあ~ 嘉納先生 早う帰ってきなさればよかばってんが…。
元気出したまえ。
私だって この4か月遊んでたわけじゃないぞ。
(笛の音)
見たまえ。これは… 何ば しよっとですか?
円形デッドボールだ。円形デッドボール?
ルールは簡単。 外から飛んでくる球をよける よける ただよける。
反射神経と とっさの判断力を鍛える。
おほほほ… 楽しかごたるですな~。
遊びじゃないぞ。英国で発祥した れっきとした球技だ。
あ~。
さあ 金栗君 入りたまえ。えっ?
入るぞ。ば… ばってん 可児先生 足…。
な~に よけるだけだ。
いや… え~?(笛の音)
<この競技は 後にドッジボールと改名され広く 全国の児童に親しまれました。体協理事 可児 徳の最大の功績それはドッジボールを日本に紹介したことだったのです>
あっ 捕ってしもうた。 すいませんこれ 捕ったら どぎゃんなりますか?
ノー ノー ノー ノー… デッド!金栗 デッド!
<え~ ルールは まだ発展途上のようです>
(可児)外!デッド… はい。
はい いきま~す。
金栗!はい!
痛~! あたたた…!
熊本の兄さんから 手紙ばい。ありがとうございます。
(実次)「ストックホルムの結果甚だ残念なり。正直 兄は失望した。應援して下さった世間さまに申し譯がない」。
あ~!
我らの一歩は… 日本人の一歩ばい!
速かろうが遅かろうが我らの一歩には 意味のあるったい!
あ~!
う~ん そのころ 私はってえと…。
<名人 円喬についたはいいが弟子なんだか俥屋なんだか分かりゃしねえ>
(孝蔵)「よし! じゃあ それ 一分で売って下さいよ。 ひとつ 当たるやつを」。
「何言ってんだい。 当たるやつが分かってりゃ 俺が買っちまうよ。今ね これ 一枚っきゃねえんだ。鶴の千五百番」。
「よし 買おう!」ってんで うち帰って…。
(円喬)時に 美濃部君…。
はい!お前さん 売れたいのかい?
そりゃあ 師匠売れたくねえやつはいませんよ。
でもね 俺は 人にペコペコしてまで売れたかねえです。
そんなら 美濃部君… いや…。
朝太君。
(志ん生)<おっ ようやく小ばなしの一つも教えてくれるのか… と期待したが>
旅にでも出てみるかい?旅?
(席亭)ドサ回りだよ。
小円朝師匠は知ってるね?知らねえです。
まあ とにかく 若え者一人貸してくれって言われたんだよ。
そういうことですかい。
どうりで 近頃 朝太って呼んでみたり美濃部君って呼んでみたり…。
「コンチキショウ!」。「痛っ! 何をするんでございます。ケガでもしたら どうするんですか」。「何を言ってんだ お前 この野郎!」。
…で破門なんですね。 えっ? 詰まるところお払い箱ってわけなんですね。そう 悪い方に考えなさんな。
初高座で「富久」やってしくじったからですかい? えっ?
師匠の湯飲み 2つほど割っちまったからですかい?
扇子とか キセルとか 黙って質屋に入れちまったからですかい?
円喬は お前さんを買ってんだよ。
「亀の甲より年の功だって… なっ」。
ヘヘヘ… またまた。(席亭)うそじゃねえ。あの 偏屈で めったに人を褒めない円喬がだよ。
聞いてないかい?
そういや 言ってたな…。
おめえには 何かあるって。
フラがある。
フ… フ… フラ… ですか?
芸は まだまだだが… うん。お前さんには フラがあるよ。
フラっていうのはね…。はい。
(汽笛と列車の走行音)
…ということだ。
行ってくれるね?
・(汽笛)
…ってんで 23で私は旅に出ることにしました。
フラがあるよってね言ってくれたんですね 師匠が。
ねえ あにさんフラって何ですか?
(今松)俺が知ってると思うな。あとで師匠に聞いてみな。
ア~アアア~アアア。
どいた どいた! どいた どいた!
(万朝)どこ行くんだい?
(志ん生)<とにかく 小円朝の弟子の万朝って野郎と新橋駅へ向かったんです>
見送りにも来ねえたぁあんたのところの師匠も薄情だね。
うちの師匠は売れっ子だからね。今日も4軒 掛け持ちだからね。
あああ… とっとっと。(小梅)師匠 大丈夫かい?
お~ 俥屋 今から新橋駅行って3時に四谷 間に合うかい?
(清さん)走ってみなきゃ分かんねえがあっ 乗んな。
急用かい?実は 朝太が旅に出る。
何だって!?(円喬)んん~!
あっ…。
よっしゃ。 こうしちゃいらんねえや。
おいおい… あたしゃ 乗ってないんだ!(小梅)ちょっと 清公!
あたしゃ 乗ってないんだよ!(小梅)乗せておくれよ!
(清さん)え~ どけどけ! どけどけ!
口ばっかじゃなくてもっと速く走れないの!? 清公!
もっと もっと もっと!
(円喬)お~い!
(清さん)悪いが師匠市電にでも乗ってくれ!
無理だよ…あたしゃ 今まで どこ行くも美濃部君に引っ張ってもらってたんだから!
ふだん 走り慣れてねえ師匠すっかり息が上がっちまった。
弟子の見送りに師匠が走るなんて聞いたことがねえ こりゃ。
師匠が走ると書いて 「師走」か。
いやいや師匠 まだ9月ですよ。(笑い声)
9月?
分かってるよ バカ野郎。
水くせえじゃねえか 孝ちゃん。どこ行こうってんだい。
まずは浜松だな。ヘッ そのあとは分からねえ。
達者でね。 もう しくじるんじゃないよ。
うるせえや。
ちょっ… どいてくれ。
(三遊亭小円朝)小円朝だ。 今日から あたしが師匠だよ。
よろしくお願いします。(万朝)どうぞ。
(車掌)出発!(ベル)
(汽笛)
(円喬)美濃部君!
美濃部君?師匠!
バカ野郎! あたしゃ 師匠じゃないよ。
これからは こいつが… あっ 違う。このお方が お前の師匠だ。
(小円朝)それ 今 言ったとこだよ。
ああ… そうかい。
師匠 長い間…。
頼むよ~ 小円朝さんよう。 なあ?
大事な弟子 貸すんだからよ倍にして返してくれよな。
(小円朝)あ~ 分かってらぁ…。(万朝)ちょちょ…。
フラがあんだよ!フラがあんだよ フラが! なっ?
こいつは大化けすんだからよ立派に育ててくんないとあたしゃ 承知しないよ!
♪~
(円喬)餞別だ。 持っていきな。
(志ん生)<敷島って言やあ当時の高級タバコだ。それを3箱も くれたんだ>
こんな高価なもの頂くわけにはいかねえです。
いいから…。要らねえです。持っていきやがれ!
要らねえです!持ってけってんだよ!いてっ!
♪~
(すすり泣き)
何するんだ コンチクショー…。
泣くやつがあるかい。
ちゃんと勉強すんだよ。(汽笛)
じゃあな。
師匠!
師匠…。
俺がフラなら…。
あんた フラフラじゃねえか。
(汽笛)
(孝蔵)<大正元年11月。二階堂トクヨが英国留学に旅立ちます>
行ってまいります。(永井)二階堂トクヨ君!
ばんざ~い!(一同)ばんざ~い!
(永井)ばんざ~い!(一同)ばんざ~い!ばんざ~い!
T N G! T N G!(女性たち)キャ~!
<年をまたいで 三島弥彦がヨーロッパの視察と語学の勉強を終え半年ぶりに帰国>
三島君 どうかね? 初めて負けた気分は。
ああ… すっきりしたよ。
乾杯!(一同)乾杯!
(一同)あ~。
僕は すっぱり諦めて 銀行員になるよ。
スポーツは 趣味で わいわいやるのが性に合ってる。 ハハハハ…。
久しぶりに野球でもやるか?てんぐ てんぐ てんてんぐ~!
何だ? どうした 吉岡天狗。
(吉岡)俺たちは天狗ではない。 人間に戻るんだ。
(本庄)押川天狗?
(押川)実は 天狗倶楽部を解散しようと考えてる。
何だって!?
君は若いが 私は もう36だ。寄る年波には勝てんよ。
俺も 30。 てんてんぐ~!
…などと叫んでる場合ではないんだ。
それに明治が終わって世の中も大きく変わったんだ。
(中沢)近頃は 軍部が兵式体操を推奨し競技スポーツを軽視する風潮が強い。そこへ来て 野球害毒論だ。
野球は害毒…。
選手は不良?
(弥彦)なんという偏見!
バットを振ったこともないくせに!おお…。
スポーツ大国だよ アメリカは!
よし…。
それなら 僕は アメリカへ渡ろう。
三島天狗。
兄貴に頼んで 横浜正金銀行のサンフランシスコ支店へ行こう!
アメリカが強い理由を見極めてやる!
ハハッ ハハハハハ!
いいぞ 三島天狗! さすが痛快男子だ!
我らは スポーツを愛し…。
スポーツに愛され!
ただ純粋にスポーツを楽しむ元気の権化~!
T!(一同)お~!
N!(一同)お~!
G~!(一同)お~!
(一同)てんぐ~!(太鼓の音)
(一同)て ん ぐ~!
うお~!(太鼓の音)
<明治の痛快男子たち天狗倶楽部の時代もまた幕を閉じました>
あ~!
(永井)嘉納校長 ご苦労さまでした。(一同)ご苦労さまでした。
<そして3月ようやく 選手団長 嘉納治五郎が大森未亡人 安仁子と共に帰国します>
大森君だ。
<大森氏は カリフォルニアの病院で息を引き取りました。妻 安仁子は 夫の遺志を継ぎ日本へとどまる決意をしました>
監督 お疲れさまでした。
お疲れさまでした。
何だ? これは。
私の机は!?
あちらに。
校長室…?
これ 物置になってるじゃないか!
私の写真…。
何だ この肋木は!?
会長 どうぞ ご着席下さい。永井!
<嘉納治五郎の目に飛び込んできたのは変わり果てた体協の姿でした>
可児君 これは一体 どうなってるんだね!?
新しい理事を紹介させて頂きます。
理事!?
(岸 清一)嘉納先生 ご無沙汰しております。
岸君…。
あなたが作った借金の返済と体協の財政立て直しを弁護士の岸さんが一手に引き受けて下さいました。それから 新しい役職を設けました。
(武田千代三郎)副会長の武田です。
副会長だと!?
時代は変わったんですよ… 嘉納さん。
「短距離は歐米人に到底勝つ見込み無し。只長距離は可能性がある。金栗君は幾分氣が引けたから疲勞が早かったのだろう」。
こん「氣が引けた」っちゅうとはつまり プレッシャーのことですね。
ハハハハ…。
卒業後の進路は決まったかね?
いえ。 まだ1年ありますけん。
家族とも よう話し合います。
君は若い。ベストを尽くせば 4年後 必ず勝てる。
そぎゃんでしょうか?
どうした? えっ? 君らしくないな。
何だか… 何だか その…オリンピック前と後では 日本が…東京が まるっきり違ってしまったような気のしませんか?
無論 よか結果ば残せんかったけん多少の非難は覚悟しておりました。
ばってん…。
何だね?
ばってん 三島さん 俺たちは精いっぱい やりましたよね?ああ。
一回りも二回りも大きか西洋人に交じってへこたれんで戦いましたよね?
パンとチーズと薄いみそ汁でよう走りましたよね?
日の丸と NIPPONのプラカードば持って堂々と歩きましたよね!?
あれは… うそじゃなかですよね!?
ああ。 紛れもない… 現実さ。
よかった…。
だ~れも証明してくれんけん今 こぎゃんして東京で暮らしとる自分はうその自分で本当の自分は まだストックホルムにおるとじゃなかかてそぎゃ~ん 時々 思うばい… ハハハ。
情けなか。
確かめに行くかね?
(弁士)西暦1912年7月6日。ストックホルム競技場で開催されたオリンピック大競技会 開会式。ふだんの鍛錬による成果がここに結実するのであります。オランダ イタリーに続いて 日本の代表金栗四三選手 三島弥彦選手。たった2人の日本選手団 堂々の行進。アジア初出場の快挙であります。おっ 来た来た…。
あれ? あれ? 終わり?
短いな。な… なして…。
(弁士)続いて 100m走。あっ。
(弁士)予選にて 次々と 10秒台11秒台前半の好成績を記録する…。
あっ あれ あれ…。あっ。
三島さんじゃなか?来た来た 来た来た…。
あれ あれ。いや あれ… チリの選手だよ。
(弁士)体格の差は歴然なれど三島は泰然自若。さて こちらは7月14日に開催されたマラソン競走。日本からは金栗四三選手の登場であります。
♪~
(実次)「四三殿とにかく 一度 熊本へ帰ってこい。話したいこともある」。
ばっ! あ~ たまがった!(スマ)あっ…。
し… 四三が!(シエ)実次! 実次!
(実次)お~ 来た来た!
兄上 こん度は俺の力不足で。
分かっとる! 何も言うな!
…で いつまでおらるっとか?
はい… 4~5日は。
(一同)お~!(笑い声)
そぎゃんね。 あ~ なら 問題なか。
俺に任せろ。 ついてこい。はっ? 何が?
な~ん 悪かようにはせん。
<悪かようにはせん。何も言うな。 俺に任せろ>
俺に任せろ。<何を尋ねても この3つを繰り返す兄。経験上 嫌な予感しかしません>
いやいや…。(実次)悪かようにはせん!兄上?
男なら 堂々としとけ。
いや 男も おなごもなか…。
四三 お前も来年で いよいよ卒業ばい。
高師ば出たからには 学校の先生になって熊本に帰ってこんといかん。
えっ… ばっ! えっ?
何も言うな!
今から 見合いば してもらう。
はあ?
失礼します。
(実次)金栗実次です。
これが 弟の四三です。
春野スヤでございます。
はあ?
ばばばばば~!
ばっ! ばっ… ばばばっ!
な~し… な~し スヤさんが?
(実次)よう聞け 四三!
実は…。
(幾江)説明してる時間はなか。続きは来週。
<夏だ! ふんどしだ!>(五りん)韋駄天と河童。
プロフェッショナルだよ。マラソン一本でいこうと思うとる。
<んっ? これは夢?>
せ~い!(幾江)おるは こん人が好きだけん。こん人と暮らしたか。
やっぱり 水に流して下さい。
<ここが人生の勝負どき!男を見せろ 韋駄天!>
東京都文京区。
ここは 近代日本の教育の土台を作ったとされる東京高等師範学校があった場所です。
ここで 嘉納治五郎や永井道明はその後に残る体育教育の姿を生み出しました。
嘉納治五郎は スポーツ…あるいは武道ですねこうしたものの価値を認めていきつつ永井道明の方は 体操を中心としたいかに体格をきちんと作るかそれで 戦前までは この肋木が中心的な器材になったと…。
「学校体操教授要目」という教材の普及に力を入れた永井に対し治五郎は 水泳実習や健脚競争を取り入れます。
(真田)水泳 あるいは長距離走はお金がなくてもまた運動のうまい下手に関係なく誰でもできる こういうスポーツこそ国民みんなが行うべきスポーツだと。
東京高等師範学校の卒業生が広めた夏は水泳 冬はマラソンという習慣は今もなお 根づいています。
おほほほ…。
ちなみに 可児 徳が イギリスから持ち帰ったとされるドッジボール。
(真田)日本ではこんなに盛んになっていますが生まれたヨーロッパではほとんど やられていないと。ヨーロッパでドッジボールって何ですか?という質問を受けたことあります。