第101話 最強賢者、当てられる
俺の発言で、周囲の空気が固まった。
「が……学園をやめるって、どういうこと?」
「学園をやめるということだ」
俺の答えに納得できなかったのか、アルマが同じことを聞き返す。
ルリイも、固まっているようだ。
確かに、少し唐突だったかもしれない。
元々は、ギルドに登録したらすぐに、俺は学園をやめるつもりだった。
ただ、今の状況のまま放っておくと人類が滅んでしまいそうだったため、手を出すために一時的に学園にとどまったのだ。
しかし、結界が安定的に動き始め、ちゃんとした環境で無詠唱魔法を訓練できる環境が整えば、もうその心配はなくなるだろう。
「えっと……飛び級?」
「いや、退学って扱いになるだろうな。別に卒業資格が欲しくて、この学園に来た訳じゃないし」
その発言を聞いて、ルリイ達が考え込む。
「よく考えてみるとマティ君って、先生達に教わることがなさそうですもんね……」
「むしろ、先生達に教えてた気が……」
確かに、教わったことはほとんどなかったかもしれない。
今の世界の常識は多少教わることができたが、俺もすでに今の世界の常識はあらかた身についたので、すでに教わる必要はなさそうだし。
そんなことを話していると、校長の姿が見えた。
ちょうどいいから、校長にも話しておくか。
「む、マティアスか。こっちに向かってきたようだが……何か用か?」
俺が近付くと、校長が先に声をかけてきた。
話が早いな。
「はい。この学園を――」
「ああ。退学の件か。結界が完成したら、学園を出るつもりなんだろう?」
……本当に話が早いな。
もしかして、すでに予想されていたか。
特に、そんな素振りを見せた覚えはなかったのだが。
そんなことを考える俺を前に、校長が言葉をつなぐ。
「その様子を見る限り、どうやら当たりらしいな。……当たり前といえば当たり前か。我が校の教師陣はマティアスに教えられるばかりで、何一つ教えられなかったからな。校長として、ふがいないばかりだ」
そこまで、卑下することはないと思う。
……少し、擁護しておくか。
「そんなことはありません。ここの先生は、俺に常識を教えてくれました。おかげで俺も、今や立派な常識人です」
俺の発言を聞いて、校長はさらに深刻な顔になった。
「……本当に何一つ教えられず、ふがいないばかりだ」
なぜだろう。
この学園の先生は、しっかりと俺に常識を教えてくれたというのに。
学園は、間違いなく役に立ったはずなのに。
そんなことを考えていると、また校長が口を開く。
「だが私は、マティアスを退学にするつもりはない。こういう状況を想定して、ベストな選択肢を考えておいたからな」
「……それは、引き留めるってことですか?」
そうなると、少し面倒だな。
校長は、国王にも気軽に会えるレベルで、この国と結びついている。
無理矢理学校を出て、敵対したりすれば――
「いや、引き留めはしないぞ。ただ、籍だけ学校に置いておいてほしいということだ」
「籍だけ?」
「ああ。そうすれば学園はマティアスの実績を盾に、自由に動いて効果的な教育を行うことができるし、王立学園の学園生という扱いであれば、私や国からも色々と便宜を図りやすい。お互いにとって、損はない選択だと思うが」
つまり、バックにつくから、名前を貸せということか。
確かに、悪くない提案だ。
「その提案、受けましょう」
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書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!