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 地球温暖化対策の長期戦略づくりに向け、政府の有識者懇談会が提言をまとめた。

 脱炭素社会の実現をめざすという理念を示した点は評価できるが、それを形にしていくための肉付けが心もとない。政府はいま何をするべきなのかを見すえ、より説得力のある長期戦略をつくらねばならない。

 2050年までの温室効果ガス排出削減の長期目標に、どのようにたどり着くのか。その道筋を示すのが長期戦略だ。温暖化対策の国際ルール・パリ協定の下、各国は長期戦略を国連に提出する必要がある。

 主要7カ国のうち未提出なのは日本とイタリアだけで、政府は6月に大阪であるG20サミットまでにまとめる予定だ。そのたたき台として、企業や経済団体のトップ、学者、地方自治体の首長ら10人の有識者が昨年夏から議論を重ねてつくったのが今回の提言である。

 「産業革命以降の気温上昇を1・5度未満にする」というパリ協定の高い目標に貢献する意思を示したものの、全体的にはエネルギー基本計画など従来の政策の枠内にとどまっている。世界が脱炭素に向けて加速するなか、これではG20議長国として議論をリードできまい。

 たとえば温室効果ガス排出削減の長期目標は、従来通り「50年に80%減」とした。排出ゼロの脱炭素社会の実現時期も「今世紀後半のできるだけ早期」として具体的には示していない。

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーについては「主力電源化をめざす」と述べるにとどめ、拡大のための数値目標は盛り込まなかった。脱石炭も明記せず、むしろ、二酸化炭素の回収・地下貯留(CCS)などの実用化によって石炭を使い続ける道を残している。

 腰が引けた背景には、「鉄鋼や電力などへの悪影響を避けたい」という産業界の意向がある。炭素税排出量取引などカーボンプライシングの本格導入に踏み込まず、経済性を失いつつある原発の継続を想定したことが、それを象徴している。

 既存の産業を守れば、目先の利益は失わずにすむかもしれない。だが、世界が脱炭素時代を迎えたとき、国際的な発言力は弱まり、産業の競争力は失われるのではないか。

 CCSのような新しい技術への挑戦は大切だ。しかし優先すべきは、脱石炭と再エネ拡大という目の前の課題に取り組むことだ。そのためには、エネルギー基本計画の見直しやカーボンプライシングの導入など思い切った政策転換が欠かせない。

 そんな骨太の長期戦略を描けるよう、政府は省益を超え、一丸となって取り組むべきだ。

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