アイドル自殺事件で救済に立ち上がったリーガルファンディングとは何か

現代ビジネス
2018年12月13日 10:00

「アイドルブームの闇」


ご当地アイドルや地下アイドルが、ユーチューブやインスタグラムといったネット環境などを利用、活躍の場を広げるなか、今年3月に発生した愛媛県を拠点とする「愛の葉Girls(えのはガールズ)」のリーダー・大本萌景さんの自殺は、「アイドルブームの闇」を照らすものとして注目を集めた。

「歌って踊って耕して」という農業支援のアイドルとして、ライブや物販のイベントをこなし、充実した毎日を送っていたハズの16歳の少女が自ら命を絶ったことは痛ましい。背景には何があったのか。

自殺から7カ月後の10月12日、萌景さんの母・幸栄さん(42)など遺族が、原因は萌景さんが所属していた芸能事務所・hプロジェクト(愛媛県松山市)の「ブラックな労働環境、社員のパワハラ、社長の学校と芸能活動の両立阻害」などにあるとして、損害賠償請求訴訟を起こした。請求金額は約9200万円である。

幸栄さんは萌景さんの姉の可穂さん(19)などと記者会見を開き、ワイドショーなどメディアの個別取材にも応じ、「自死の状況」などを切々と語ったが、「心の闇」には親といえども入っていけない領域があり、提訴には「死の原因を探りたい」という気持ちも込められていた。公判は、東京地裁で来年1月から始まる。

1万人以上はいるというアイドル及びアイドル予備軍は、いずれも劣悪な労働環境のなか、権利関係も擁護もされていないとして、昨年、若手弁護士が中心となり「芸能人・アイドル駆け込み寺」の日本エンターテイナーライツ協会が設立されるなど、見直し機運が生まれつつある。

萌景さんの裁判は、そうした現状を裁くことにもなるが、一方で、メディアやSNSを通じた情報発信が、hプロ攻撃に回るのは、被告という立場を考えれば仕方がないとしても、報道に接していた私に、多少の違和感があったのは事実である。

例えば、「自殺の前日、通信制から全日制の高校に転学する費用12万円を、佐々木貴浩hプロ社長が断った」という件。拒絶によって心に負った傷は大きかっただろうが、おカネを含め、家族でケアは出来なかったのか、といった点についてはもう少し実情を知りたいと思った。

また、この裁判が一般社団法人リーガルファンディングの第一号案件であり、同法人のホームページなどで大きく採り上げられているのも気になった。新規の弁護士ビジネスとして、国民の耳目を引きやすい本件が選ばれたのではないか。

リーガルファンディングのホームページには、12月12日の時点で、369名が賛同して支援金を拠出、その金額が187万7777円に到達したことを告げている。

裁判を起こし、正当な権利を要求、金銭や謝罪を求めるにもカネが要る。「法の世界もカネ次第」であるのは、冷徹な事実である。そこに、「国民的共感」を背景に、法定費用を調達する手段が生まれるのは望ましく、意義も意味もある。

だが、その第一号が本件であるのは、話題性を優先させたものではないか、という感もある。実際、反響は大きく、hプロは公判が始まる前から猛烈なバッシングにさらされた。佐々木社長は、そこが納得いかない、という。

「事実関係に争いがある民事訴訟で、お母さん側の言い分のみが、メディアを通じて幅広く流され、我々の名誉や信用は大きく毀損、経済的なダメージも受けました」

佐々木社長は裁判でなにを語るのだろうか。

「真実の追究」と「社会への警鐘」


リーガルファンディングは、訴訟社会の浸透とともに、今後、増加していくのは間違いない。だからこそ、その「功罪」を確かめておく必要がある。法人理事の望月宣武弁護士に、浮上している問題を聞いた。

――リーガルファンディングを立ち上げた狙いは何か。
「社会的に意義があり、市民から共感が得られる事案で、弁護士報酬等の費用が障害となって、訴訟が起こせない人のために立ち上げた」

――リーガルファンディングで訴訟提起を公表、広く一般に費用を募る場合、当該被告に批判が集まるのでは?
「訴訟提起の事実を公表することによって被告に非難が集まるのは、一般的なことであり、クラウドファンディングサービスに限ったことではない」

――ただ、被告となり広報されたことで、名誉や信用が毀損、経済的被害も発生しているという。
「名誉毀損等については、プロジェクトのオーナー(原告)に第一次責任がある。ただし、運営側(当法人)としても名誉毀損となるような記載がないように注意喚起している」

――第一号が本件だったことで、被告側には『(ファンディングの)話題作りに利用された』という不満もあるようだ。
「第一号だからという理由で本件を選んだわけではない。当法人のサービスリリースのタイミングと、第一号の提訴のタイミングが重なっただけ。ただ、ご当地アイドルの現状が厳しいことを私自身知っていたので(望月氏は日本エンターテイナーライツ協会理事も務める)、そこに社会的意義があり、市民からの共感を得られることなどから採り上げるに相応しいと考えた」

――第一号だから派手になったわけではない?
「プロジェクトオーナー側は、国民的共感を得るために、ホームページ、SNS、メディアなどを積極的活用したが、当法人として広報したわけではない。市民からの共感については、『支援額』という形で市民の方から評価をいただく」

――プロジェクトの決定は、「複数の弁護士や専門家で構成された委員会の審査」を経ているとのことだが、「公正な審査」はどう確保されるのか。
「当法人の行なっている審査は、プロジェクトとして公開するのに問題がないかという観点で行なっており、その範囲は比較的広くしようと思っている。もちろん、違法性の高いプロジェクトを通すようなことはない」

――賠償などの請求金額はどう決定されるのか。
「当法人は、請求金額の当否について判断していない。請求額を決めるのは、プロジェクトオーナー自身。ただ、不当な高額請求訴訟であると判断すれば、審査が通らないこともあるだろう。第一号は、交通死亡事故の場合と同様に計算しており、死亡慰謝料や逸失利益は高額になるのが通常であり、不当ではないと考える」

萌景さんの自殺が第一号となったのは、「共感を集められる裁判」だったからである。だから見返りがなくとも、369名が裁判費用を投じた。

公判の過程は、支援者に伝えられ、「真実の追究」とともに、「社会への警鐘」ともなる。その行方を見守りたい。