楽勝ムードが吹き飛びかけた4点目を、僕は信じられない思いで見ていた。7回、2死一、三塁。谷元の139キロが糸原に打ち返された。ウソだろう…。そう思ったのは打たれたからではなく、糸原が初球を打ったことに対してだった。
637打席(531打数)立った昨季の糸原だが、初球打率8分3厘はセ・リーグの規定打席到達31人中最低だった。誰もが得意とするはずのカウントで、トライの少なさ(12打数1安打)も衝撃だ。配球をじっくりと見て対応するのは得意だが、いきなり球種を絞って打つのは苦手。それを自覚しているから、むやみに振っていかない。その糸原が初球を仕留めた。ときにデータは覆される。そこが野球のおもしろみでもある。
「初球」にこだわって見た試合でもあった。暴投と敵失がからんでいただいた1回の先取点だが、始まりは遠藤の二塁打だった。
「今日は自分が(巨人の)亀井さんだと言い聞かせてプレーしました」。中大の先輩のようにアグレッシブに…。2年ぶりに転がってきた先発チャンスを2安打、1打点でつかんだ。
メッセンジャーは初球をたたけ。これもデータが教えてくれる攻略レシピだった。昨季のセ・リーグには規定投球回をクリアした投手が8人いたが、最も初球を打たれたのがメッセンジャーだ。なんと被打率4割3分3厘。トータルが2割4分7厘で、2ストライク後は1割6分2厘(同5位)だから、打者が振るべき球はハッキリしている。4回の追加点もアルモンテの初球打ち(中前打)が起点となった。
「いい投手なので追い込まれてはダメ。そういう意味でも初球からいきました」とも遠藤は話した。データ通りだったメッセンジャーと、覆した糸原。ちなみに昨季のセ・リーグの「初球王」は、打者ならビシエド(打率5割6分3厘)、投手はジョンソン(被打率2割2分9厘)。どちらも納得できる名前だと思う。