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 福島第一原発で大事故を起こし、国の支援で経営再建中の東京電力が、別の原発建設が中断している青森県東通(ひがしどおり)村への寄付を表明した。まず18年度分として約2億円を出し、さらに19年度分も検討するという。

 村側の呼びかけに応じたもので、地域振興策に使われる。東通村に停止中の原発がある東北電力も、約4億円の寄付を申し出ている。両社とも「地域貢献」と説明するが、原発事業に引き続き協力してもらうための見返りにしか見えない。

 東電は8年前の事故で経営危機に陥ったが、実質国有化されて、破綻(はたん)を免れた。「被害者への賠償や、除染廃炉などの後始末に支障が出ないように」という理由だった。

 事故処理費用は22兆円と見積もられ、東電が自ら稼いだ資金だけでなく、全国の消費者や企業が払う電気料金と国の税金も元手となっている。

 事故への対応をまっとうするために、巨額の国民負担で存続を許された立場や、経営効率化を徹底する社会的な責任を忘れたのだろうか。寄付は趣旨も効果も不透明と言わざるを得ず、許されない。

 そもそも東電は事故後、経費節減策として寄付の原則廃止を打ち出していた。例外は福島の復興関連に限られていたはずだ。廃止は、政府が認定した事業計画にも盛り込まれている。今回の寄付は、その方針を事実上ほごにするものだ。東電の経営を差配する経済産業省は、是正を指導すべきだ。

 福島の事故前から、全国の原発がある地域では、大手電力会社が税収や寄付、雇用などを提供し、自治体側は原発に協力する、という関係が長く続いてきた。このことが、原発の建設や安全確保などをめぐる緊張感の低下を招いた面もある。各地に蔓延(まんえん)していたもたれあいの構図が再び、なし崩しで強まることを危惧する。

 事故後には、電力大手各社が立地自治体などへの寄付を縮小する動きがみられたが、その後、復活も目につく。電力大手は最近まで販売の地域独占が認められ、今も安定した経営基盤を持つ公共性の高い企業だ。料金収入の使い道には、とりわけ高い説明責任があることを忘れてはならない。

 電力業界と自治体の「持ちつ持たれつ」が続く背景には、他に産業が乏しく、原発依存から抜け出せない地元側の事情も大きい。だが、国内の原発は本格的な廃炉の時代を迎えており、「原発マネー」はいつまでもあてにできるわけではない。地域経済への打撃をやわらげ、自立を促す支援策づくりを、政府は急ぐべきだ。

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