組み立てが終わった機体は別棟の検査工場に移され、日本側を排除した中で米軍幹部、ロッキード・マーチン社の技術者など米側だけで最終検査が行われる。最終検査には、F35Aの最大の特徴であるステルス性のチェックが含まれる。
事故機は小牧南工場で生産された1号機にあたり、米側による最終検査を受けた後、米国に運ばれ、ロッキード・マーチン社でも検査を受けた。「日本の製造技術を高く評価する米側の技術者もいた」と話す防衛省幹部もいる。
だが「最終組立」の言葉からわかる通り、小牧南工場で行われているのは、米側の指示通りに組み立てること。部品の大半はブラックボックス化され、その部品の持つ意味も製造技術も日本側には開示されていない。
F35Aをめぐる日米の関係について、防衛省幹部は「三菱重工がロッキード・マ-チン社の『下請け』に入ったと考えれば分かりやすい」と解説する。
つまり今回、米側の指示通りに日本側が組み立て、最終検査を米側が行った機体が墜落したのだ。
機体の不具合が墜落の原因であると仮定すれば、その責任は日米双方にあるようにみえるが、日本以外で生産した約300機の機体はこれまで1機も墜落していない。米側が日本側に責任を押しつける条件は揃っている。
三沢基地に配備された13機のF35Aのうち、4機は米国で製造され、残り9機は日本で組み立てられた。米国製の4機は、米国で航空自衛隊の操縦士の訓練に充てられており、非公表ながら飛行時間は数百時間から1000時間程度とみられる。
一方、国内で組み立てられた事故機の飛行時間は280時間にすぎなかった。
新品同様の機体に不具合があったとすれば、製造上の問題が最初に疑われる。また設計上の問題が、たまたま当該機に現れた可能性も否定できない。
防衛省は墜落した機体とともにフライトレコーダーを海底から回収し、事故原因を調べるが、そもそもブラックボックスの固まりのようなF35Aの事故原因を分析する能力は日本側にはなく、米側と共同する必要がある。
仮に米側のみが分析を行うことになった場合、機体の秘匿性から、結果だけを日本側に伝えてくる可能性さえある。その場合、事故調査は一方的なものになりかねず、真相にどこまで迫ったのか、日本側が知る術はないことになる。
このような問題が浮上するのは、日本が米政府のさだめた「対外有償軍事援助(FMS)」でF35Aを調達しているからだ。
小牧南工場で最終組立が行われた機体は帳簿上、いったん米政府に移管され、米政府の言い値で防衛省が購入する。形式的には米政府の「好意」で売ってもらっている以上、日本政府は価格はもちろん、米政府が求める生産方式を唯々諾々と受け入れるほかない。
この理不尽なFMSの仕組みが、事故の真相解明の妨げとなるおそれはないだろうか。