1. 夢の様な学級 一
強い陽射しが人々を焼いてしまうような夏の、それも平日の昼間。炎天下に
「なぁ、そろそろ着くけど着いたらあいつらに会う前に少し木陰で休もうぜー。おれ暑くてたまんないわー」
友人二人の内の、つば付きキャップを被った男子の方、
いつもは元気に走り回る彼からすれば少し珍しいな、と結衣は思った。
「うん、そうだね。わたしもこの暑さには参っちゃう」
今度は二人の友人の内の女子の方、
由香は麦わら帽子を被っており、格好もワンピースといかにも涼しそうには見えるがそうでもないらしい。
確かにこの暑さは結衣も同感だった。
この暑さは、恐らくここ
結衣達の住む胡蝶村は村の人口も少なく、大半が還暦をとうに過ぎている老人達で成している、いわゆる過疎村だ。結衣達はその村に住む村人であり、その村の中に一つだけ存在する小学校に通っている。
小学校とは言っても全校生徒はたったの四十三人しかおらず、そんな極小規模の学校であるだけあって、教員の数も決して多くはない。
授業の方法も、全校生徒が一つの教室に集まり個別で勉強をする、言わば初めから最後まで自習をして、分からない所のみ教師に訊く、という様なものだ。結衣達はその小学校の中では四年生であり、今年の春から上級生の一員として生活を送っている。
そんな小学生がどうして平日の昼間に出歩いているのかと言うと、これから校舎とは別の場所で勉強をするからだ。もちろんその事は学校の方も知っている訳で、教師の方からも許可を得てやっている事だ。単に手が回らないだけの話なのかもしれないが。
そして、その勉強するという場所が現在三人が目指している場所であり、学校からもそこまで遠くはなく、この村の中心に位置する神社、
そうこうしている内に、目の前に二匹の狛犬と数段程度しかない階段と大きな鳥居が視界にはっきりと映る様になってきた。
「おーい! ゆいとゆかー! 早く来いよー!」
走って神社の木陰へと向かっていったのだろうか。階段の上には歩が腰に手を当てて立っていた。
歩の顔には先程の暑さによるバテの疲れを一切感じさせない明るい笑みも浮かんでいた。
「あっ! ずるーい、わたしも涼ませろーっ!」
「あ……待ってよ! ゆいちゃん!」
歩の笑う姿を見て、すかさず結衣と由香は歩と神社の木陰向かって走り出す。
この天聖神社は広大な敷地面積を誇る神社だ。しかもその敷地内だけまるで密林のごとく木々が生い茂り、その存在感から古来より村の人々の信仰を集めていたほどだ。
先祖から伝わるその話に違わず壮大な緑の天井が風に揺れ動く様は、結衣達に何とも形容し難い自然と心地良さを味わせてくれる。
「生き返る〜っ」
「ふふふっ。歩くんおやじくさいね」
「あっ! ゆかおまっ、笑ったな!?」
「歩くん面白ーい!」
階段の上に腰掛けて涼む三人は実に満足げであり、村の
「あ、もう太陽が南から少し動いた所にあるよ。そろそろお昼過ぎ頃じゃないかな? みんなももう『夢学級』にいると思うからそろそろ行かない?」
しばらく涼んでいると由香が言った。言われてから空を見上げると、太陽の位置は真南より少し西にあった。
「えー、もうちょっと涼んでても大丈夫じゃなーい?」
「歩くーん? もう行かないとみんな迷惑するからさっさと行くよ? ほら立って」
「お、鬼嫁がいじめるーっ」
「誰が鬼嫁じゃーっ! このおやじーっ!」
歩が舌を出して結衣を挑発し、結衣がそれを追いかけて、由香がそれをくすくすと笑いながら見守る。
それはいつもの事で、結衣達はそれをいつも通り楽しんでいた。
やはり、男子と女子の性別の違いによる体力の差もあってかいつも結衣は歩に追い付けはしないのだが、三人の表情は楽しみと笑みに満ちていた。
「ふふふっ。そろそろみんなが待ってる『夢学級』に行くよ」
由香が走り回って息を切らせている二人に声を掛けると結衣は歩に「次は追い付いてやるからね!」と言い、歩は「おうよ! その時を待ってるぜ!」と言って歩き出す。
歩き出すとは言ってもプレハブ小屋はすぐそこだ。数分もしない内に着くだろう。
「さて、勉強勉強っと」
由香がそう言った。