事実上の軍隊へ…?自衛隊の「専守防衛」はもはや風前の灯火だ

今年から「敵基地攻撃」能力をもつ
半田 滋 プロフィール

米国に払うカネは「安くても1兆2000億円」

他国は自衛隊の変化に驚きを隠さない。大綱・中期防の閣議決定を受けて、中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は「強烈な不満と反対」を表明した。

その一方で、米国のトランプ大統領は大いに目を細めていることだろう。閣議了解の中に「(F35Aの)平成31年度以降の取得は、完成機輸入によることとする」とあるからだ。

防衛省は、日本の航空機産業を育成するため、F4後継のF35Aを国内で組み立てることを決め、三菱重工業、三菱電機、IHIの防衛産業3社に合計1870億円を支払い、生産ラインを完成させた。

だが、米政府は日本での組み立てを認める代わりに、米政府が価格を一方的に決める対外有償軍事援助(FMS)方式を譲らなかった。

 

日本で生産されるF35Aは書類上、いったん米政府の所有となり、それから日本政府に売却される。この回りくどい方式の中で、米政府は完成機の輸入より50億円以上も高い1機150億円の値をつけた。これでは高すぎるので、国内組み立てを止め、米国からの直輸入に切り換えるというのが今回の閣議了解の意味である。

防衛省が掲げた「国内企業参画」の目標など、もはや消えたも同然。生産ラインの構築に投じた巨額の費用もドブに捨てることになる。「計画は失敗、税金は無駄遣い」となったが、安倍政権が責任を取るはずもない。

米政府から購入する105機分の総額は、安く見積もって1兆2000億円にもなる。トランプ米大統領が嬉々として「日本がすごい量の防衛装備品を買ってくれる」と話したのは、このことを指している。

つまるところ、日本政府は面白いように米政府のワナにはまり続け、引き続き米政府の「言いなり」となっているのである。

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大綱・中期防には米国から輸入するミサイル迎撃システムの「イージス・アショア」導入も明記された。これにより、防衛省が米国にFMSで支払う総額は、2019年度だけで7013億円に達する。

過去最高額は2016年度の4881億円だから、新記録の更新だ。日本の防衛費は、米政府の「第二国防費」の様相を呈している。

安倍首相は政権発足から1年後の2013年末、現行の大綱・中期防を閣議決定した際、「向こう10年を見通して策定した」と説明した。これを5年で前倒し改定したのは、16年の安全保障関連法の施行を受け、軍事への傾斜を強めたからに他ならない。

ひとりの首相のもとで大綱・中期防が改定されたのは、これが史上初めてだ。安倍政権下で、日本の安全保障政策が急速に右旋回していることの証明である。