「敵基地攻撃」とは、1956年に鳩山一郎内閣が示した政府見解である。
鳩山首相は「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他に手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」として、敵基地攻撃を合憲とした。
1990年代以降、北朝鮮による弾道ミサイル発射が繰り返されるたび、自民党が自衛隊の敵基地攻撃能力保有を求めてきたが、政府は自衛隊が保有できる兵器を「自衛のための必要最小限度のものでなければならない」とし、「自衛隊には敵基地攻撃能力はない」と答弁してきた。
この答弁通り、戦闘機に関しては、F4から空中給油装置を取り外して航続距離を制限していたが、1980年代に調達を開始したF15以降の戦闘機は空中給油装置を外すことをやめた。
その後さらに、飛びながら燃料供給できる空中給油機を導入して戦闘機の航続距離を延長。上空から敵の動向を探る空中警戒管制機(AWACS)も導入し、領空に踏み込んだ戦闘機を統制できるようになった。
海上自衛隊が将来の空母保有に備えて、艦橋を右舷に寄せた空母型の輸送艦や護衛艦を建造してきたのと同様、航空自衛隊も「敵基地攻撃」に踏み切る「その日」に備えてきたのだ。
そして、今回の大綱・中期防で、巡航ミサイルの導入と妨害電波を出して敵のレーダーをかく乱させる電子戦機の保有を決定したことにより、自衛隊の「敵基地攻撃」能力は「ない」から「ある」に180度方向転換することになる。
海上自衛隊が空母化する「いずも」は、米国と中国が対立する南シナ海など海外での戦闘機運用を可能にする攻撃的兵器であり、「敵基地攻撃」能力の一環とみることができる。
自衛隊が攻撃的兵器体系の保有へと歩を進め、のみならずその総仕上げを迎えたのは、自民党国防部会の「大綱提言」が安倍晋三内閣によって丸呑みされたからにほかならない。ためらう自衛隊制服組を無視して、大綱・中期防をまとめたのが自民党であり、安倍首相だった(2018年12月19日、現代ビジネス「『いずも空母化』は自衛隊の要望ではなく実は『自民党主導』だった」)