大阪府知事選と大阪市長選は、ともに「大阪維新の会」が制し、府議選と市議選でも勝利した。大阪都構想への再挑戦が見込まれるが、奇策に頼らず、慎重で丁寧な手続きを求めたい。
任期を丸ごと務められるように、知事と市長が突如、辞職し、入れ替わって出馬した。自民や公明など反維新勢力の虚を突き、戦略的には成功だったとしても、法の“抜け道”的な奇策には感心できない。
ともかくも、知事と市長はクロス選での当選を大勝で決めた。維新は、府議選でも過半数の議席を獲得し、市議選では半数には届かなかったものの、第一党を確保した。都構想へのお膳立てを整えたかにみえる。
都構想は、政令市である大阪市を廃止し、同市を構成する二十四の行政区を四つの特別区に再編。東京都の特別区と同様に、区長と区議会を公選にして、「普通の市」に似た構造にする。
これにより、大阪府と大阪市が同じような施設や組織をつくる「二重行政」が解消され、費用も節約できるという。これに対し、自民などは「新庁舎整備などに莫大(ばくだい)な経費が必要」「大阪都にしなくても、今の府と市が真摯(しんし)に議論すれば二重行政は軽減できる」と指摘する。「大阪市」が消えることへの抵抗感も大きいようだ。
都構想の実現には、府市議会それぞれの同意が前提。過半数に届かない市議会での紛糾も予想される。そもそも、地域のあり方をがらりと変える施策である。数の力で突っ走らず、なるべく多くの会派の賛同を得る努力をすべきだ。
維新が仕掛けた今回のクロス選は、都構想に反対する公明との協議が不調に終わり、電撃的に行われた。説得への努力は十分だったか。もう奇策は許されない。反対勢力との誠実で地道な協議が強く求められる。
都構想の是非を問う住民投票は二〇一五年に一度、否決された。維新が目指すのは、府市議会の承認後の再度の住民投票での「可決」である。総務省によると、市町村合併をめぐる住民投票で「再投票」の先例はわずかにあるという。
仮に、再投票にまで進むとしても、有権者に都構想の長所と短所を徹底的に周知した上で行うべきである。それがなくて、大混乱を招いた英国の欧州連合(EU)離脱問題のような例もある。今後のプロセスは、「急がず、丁寧に」をモットーにしてほしい。
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