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ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行 作者:星崎崑
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第2話  異世界屋敷はヨーロッパの香り

 






 行くべきか行かぬべきか、それが問題だ。



 鏡を前にして俺は唸っていた。この鏡が別のどこかへ通じているとしても、別に無理して行かなくてもいいのだ。必ず帰ってこられる保証もないし、うっかり鏡が割れたらおそらくはそれでジ・エンド。どちらにも行き来できなくなろうだろうしな。

 向こうに行けないのはともかく、帰ってこれなくなるとかマジ勘弁。


 ……かといって、なにもせずにこの鏡をオクかなんかで売ると言ってもな……。

 最低でもどこへ繋がっているのか程度は調べないと、売りようがない。「超レア! どこかへ繋がっている魔法の鏡! 特価1億円」では誰も買わないだろう。というか本気にされない。どうみてもネタ出品だものね……。


 というわけで、とにかく鏡の世界を探索してみることにした。

 鏡が繋がっているのは謎の石作りの部屋。その木製の扉を開いた先がどうなっているか全くの未知数なのだが、考えられる範囲で準備してすぐ戻れる範囲だけ調べてみようと思う。


 玄関から編み上げブーツを持ってきて履き、懐中電灯で照らしながら鏡の世界へ入る。ヌルッとした触感もなく世界を移動する。本当に奇妙だが、今はとにかく探検だ。この鏡自体のことはおそらくどれほど調べてもわかるまい。


 木の扉に(かんぬき)が掛かっていたので外し、少しだけ扉を開いて向こう側を伺う。

 石の部屋は地下室だったのだろうか、扉の向こうは同じような石作りの昇り階段で、階段が途切れた先から淡く光が洩れている。正直すでに心臓バクバクなんだが、とにかく進むしかない。正直かなりビビッてます。


 おっかなびっくり階段を上った先は、西洋風の屋敷の廃屋の一室だった。窓から指す日の光が、淡く部屋内を照らしている。

 広さとしては3LDKといったところだろうか。現代的な西洋屋敷という風情よりは、もう少し雑な石作りの屋敷で、残されたオーク材の重厚なテーブルや、マホガニー製の食器棚が、かつての住人の生活を偲んでいる。


 イギリスかフランスあたりへと繋がっていたのだろうか……? と考えながら、残されている道具を物色する。食器棚やテーブルなどの家具は残されているが、小物類はこれといってなにも見つからなかった。前住人は大物だけ残して引っ越したのだろうか、上手くすればオクで売れるものが見つかると思ったんだが……。

 まあ、食器棚やテーブルもかなり良い物なので、売れば相当良い金になるだろう。勝手に持って帰って売っていいのかどうかは知らんが。


 どうやら外国と繋がっていることが判明したので、外に出てみることにする。恥ずかしながら、少しだけファンタジー的な異世界と繋がっているんじゃないかという懸念があったのだ。

 鏡の世界ってだけで十分にファンタジーだしな。


 家の外も完全に荒れ果て、雑草というレベルでは到底片付けられないレベルの有様である。つか、木だよこれ。林の中に家があるって感じに近い。日本家屋だったらとっくに倒壊してるだろう。


 そうでなくても家はもともと林の中にポッカリと開いた場所にあったみたいで、回りは全部、背の高い広葉樹の林。それでもなんとか、もともと道だったらしきところを発見し、しばらく歩いて行くと草原に出た。人影は全くない。田舎っていうか、手付かずの土地って感じ。



 されどもめげずにしばらく歩いていると、小さい村を発見した。


 鏡のある屋敷と比べると質素な石作りの家が十数件ある。俺は林の中から身を隠して発見した第一村人の農夫を観察してみることにした。


 農夫は西洋系のおっさんといったところ。やはり外国……、つまり地球のどこかではあるらしいが、ここで俺が出て行っても身分証明もなけりゃ、言葉も通じないわけで実際どうしようもない。

 さて、どうするか……。


 そのまま隠れて観察を続けていると、畑の反対側から農夫の嫁といった風情の女がやってきて叫んだ。


「あんたー、お昼持って来ただよー!」


 それに気付いて作業を中断し、返事をしながら女のほうへ向かう男。



 ……うむ。完全に日本語だったな。


 厳密には、日本語として「理解した」という感じだ。耳に入ってきたときはまったく別の聞きおぼえのない言語だったはずだ。だがなんていうか、脳内で一瞬で日本語として変換された。

 これなんて翻訳こんにゃく?





 ◇◆◆◆◇





 ひとまず、いったん屋敷へ帰ることにした。


 今回の自動翻訳でまた一気にファンタジー度が増した。うっかり「やぁ! 日本から観光に来た者です、HAHAHA!」なんて声を掛けたらいきなりオマワリさんを呼ばれて拘束! となる可能性も排除できないからな。現代の地球の西洋の国なら、そんなことはないだろうけども、最悪の可能性も考えておかないといかん。


 屋敷に帰った俺は、なにかこの世界に関する情報がないか今一度家捜ししてみることにした。まだ見てない部屋もあるとはいえ、リビング? にテーブルと花台くらいしかないところを見るとあまり期待はできそうもないが……。


 最初に書籍を探したが、やはり一冊も見つけられなかった。文字を見れば一目瞭然だったんだがな。


 他の部屋にも家具がいくつか残されていた、タンスやベッド、チェアにデスク、チェストにブックビューロー。どれも良い品だ。まとめて売れば100万円は下らないだろう。もう、これらを売っちゃって、それでこの鏡のことはおしまいにしてしまってもいいのかも……、と思ってしまう程度には美味い(うまい)です。

 一般的には泥棒行為に当たるのかもしれないけれどな。ま、見た感じ完全に廃屋だし大丈夫だろ。そんなに生真面目には生きてないぜ、こちとら。


 しかし、肝心の決定打になる情報が見つからないな。

 この家にあるのは、地下室の箱の中にあった例のシェイクスピア服と、英国アンティークみたいな趣の家具類だけである。まあ、これらだけとっても現代世界とは思えないわけだが、アンティーク趣味の人が住んでた家と言われてしまえばそこまでであるからして。


 あとは裏口と屋根裏ぐらいしか見るところが残っていない。正直、屋根裏はただでさえホコリっぽいのに勘弁してほしいので、裏口を開けてなにかないか探してみる。


 と、そこに蜘蛛がいた。


 厳密には裏口の壁のところに蜘蛛が巣を張ってたのだが、この蜘蛛、胴体だけで10センチほどもある。そして脚が12本あり、脚も入れた全長は25cmくらいだろうか。巣の真ん中で大人しく佇んでいるだけだが、……これはでかい。

 蜘蛛が苦手な人が見たら気絶してもおかしくないレベルだわ。


 携帯のカメラでおっかなびっくり写真に収めて、鏡の部屋から自分の部屋へ戻る。



 携帯の蜘蛛の画像を元に巨大な蜘蛛についてネット検索する(ググる)。ちょうど同じサイズのものでルブロンオオツチクモというのが出るが、これではない。そもそもツチグモじゃないしな。ジョロウグモの類のようだし。

 そもそも脚が12本ある時点で蜘蛛ですらないし。


 落ち着くために台所でコーヒーを入れて持ってきて、一息入れた。

 インターネットでの情報が絶対だと言うつもりはないが、これでひとつの可能性が消えたと見て間違いないだろう。


 とりあえず「現代の地球のどこか」ではない。過去の地球か、異世界かの二択になったわけだ。

 今、ググッても見つけられないクモは、単純に絶滅しただけかもしれないからな。とはいえ、自動翻訳の件もあるし、異世界の可能性のほうが高いと言わざるを得ないだろう。これからは、異世界にいるものとして行動したほうが良さそうだ。


 つまり、モンスターが出るかもしれない。とか、魔法で撃たれるかもしれない。とか、異端審問に掛けられて火あぶりなるかもしれない。とかだ。



 気楽な気持ちでうろついていたらヤバイと思っとかないと……。






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