三回目
「動けなかった……」
初めて見せる黒虎の咆哮に晒された俺は、体の震えが治まらなかった。
声を聞いた瞬間、何も考えられなくなった。
その後はお決まりの頭からパックんちょ。美味しくいただかれましたとさ。
「戦うなんて無謀だったんだ、なら」
俺は声も気配も足音もできる範囲だが殺して、静かに洞窟の行き止まりまで進んでいく。
二度目の再会となる岩肌剥き出しの通行停止ゾーン。
まさに袋の鼠だが。今回は今までとは違う。音を立てていないから、あの黒虎には気づかれていない……そう、信じたい。
隅の方で息を潜め、身を小さくして息を潜める。膝を抱えていれば寒さも少しはましだ。
俺は石だ、石だ、何も考えない。何でもない。無機物だ。
そうだ。俺は石だから、何も怖くない。何も考えない。
前方から漂ってくる臭い息も関係ない。
垂れた唾液がスーツを焦がす臭いがするのも気のせいだ。
そう、皮膚を撫でる妙に生暖かい熱風も――何もかも――
背中と肘の下あたりに何か鋭いものがめり込んで――
「ぐあああああっ、痛い、痛いっ、やめろおおおおおおっ、や――」