雀部 | | 伊藤さん伊藤さん、そんなに熱くならないで(笑) 見ることがテーマだった『13』、聴くことがテーマだった『沈黙』ともに精緻かつ魅力的な<嘘>で塗り固められていましたから。とくに『沈黙』に出て来る"ルコ"の描写そのものが、私は一番感心したんですけど。17世紀にアフリカから漂流してきた難破船の生き残りが生み出した"生"の音楽とされるこの"ルコ"の描写には本当にしびれました。 こちらもほんとうに実在したものかと思いましたもの。 |
伊藤 | | ホント、抜群の構成力ですね。それになんとも語り口がウマい。濃密に情報を詰め込んでいるのにそれが物語を邪魔しない。いや、スゴいです。 |
雀部 | | だいたい調べた情報を詰め込みすぎると読みにくくなるのが普通なんですよ。例えば某女性推理作家の作品なんか、たぶん苦手ではないかと見受けられる科学的な記述がいっぱい出てきて、とても読みにくかったと最後まで読み通したカミさんが言ってました。 あ、私は途中で挫折しましたとも(汗) |
伊藤 | | あ~、さて……。 うう。改めて書こうとすると難しいよぅ。 スゴい作品ですっ! ムチャクチャ面白い~! みんなも読もうっ! いじょ。 ……じゃ許されないだろーな~。 う~む。書評者泣かせ。 |
雀部 | | ですねぇ。面白みを詳しく説明しようとすると、粗筋をなぞるだけになっちゃうし。 設定自体が、戦争抑止力になるほど面白い物語を紡ぎ出すという、いわば古川日出男さんからの読者に対する挑戦状みたいなものですから(笑) |
伊藤 | | ワタクシの拙い筆で果してどこまでこの作品の面白さが伝えられるのか、はなはだ不安なのですが、ともあれコイツは<<他人に薦めずにいられない>>グレートな作品なのでなんとか頑張ってみまふ。 |
雀部 | | よろしく(笑) 冒険小説ファン、ファンタジーファンのみならず、歴史小説ファンにもお薦めかも知れませんね。あ、歴史小説ファンだと<嘘>を見破ってしまうかな~。 |
伊藤 | | え~、精緻にして巧妙なる“後書き”によればですね~、この作品の『原作』である「The Arabian Nightbreeds」という作品は19世紀中頃に植民地時代の北アフリカや東地中海沿岸の民間伝説を採集した地理学者がそれをアラビア語の口語体で書き留め、一つの物語に仕上げたものらしい、と。 伝承文学の形式を重んじた原著者は無記名のまま出版し、それが20世紀初頭に“再発見”され、様々な国の言語に訳され無数の海賊版を産み一気に全世界に拡散した、のだそうです。んで、今もって作者は不明、と。 それを「歴史的事実」として知っていた著者はたまたまアラビアで英訳本(無記名、発行所不明)を手に入れ、一読、たちまちのめりこみ、日本語訳を自分の手で行う事を思い付いた、と。 えぇえぇ、ワタクシ、原本読んで見たいなぁと一所懸命Googleで検索しましたとも。 Hitしませんでしたとも。余計に好奇心を掻きたてられましたとも。 きっと文学史に詳しいヒトなら、クスクス笑いながら後書き読んだんでしょうねぇ。 それとも“……ひょっとして?”って気持ちになったかな? |
雀部 | | 故半村良さんの『産霊山秘録』もそうでしたね。私なんか、あまり人口に膾炙してはいないけど実在の書かと思っていましたもの(汗) このへんの設定も一興ですね。なんか、著者が読者をうまく騙してやろう、読者は騙すなら騙し続けて欲しいようという阿吽の呼吸もあるように思います(笑) |
伊藤 | | ほんに罪つくりなシト。 さてさて。……とまぁ、上記の説明だけ読んでると “19世紀の民間伝承ぅ? じゃ、要するに民話やんけ!” とか思うでがショ? “そんなモンを21世紀に生きる我らが読んで面白いんかい?!” とか思ったりするでしょ? ちっ! ちっ! ちっ! (e_-)b" いや、マヂで凄い本なんですわ~、コレ。 凡百のファンタジー作品を軽がると吹っ飛ばす、重厚にして軽妙、芳醇にして後味爽やかな語り口。悪人も善人も魅力に溢れ、愛憎入り乱れる先の見えない展開に、次々とページをめくるうち、読み終ってみれば物語の王道を行く天晴なる結末! いんや~、オヂサンたまげたね。 |
雀部 | | は~い、歯医者さんもたまげました(爆) なんせ、登場人物が魅力的すぎますもん。君主が退位(死去)した場合、次の君主として推挙されるのは、前王が召し抱えていた奴隷の誰かになるというマルムーク王朝下でとある国の知事の奴隷であるアイユーブを筆頭として、出てくる若者がみんな美男子とくれば。そうか、アーダムだけは醜怪でしたね(笑) |
伊藤 | | どれを取ってもキャラ立ちまくり。 ああ、これが本当に150年以上昔に書かれたモノならば、そして、民間伝承をまとめた結果としてこの作品が存在するのならば――いつの時代にも偉大なる“語り部”は存在し、決して古びる事のない“時代を超越した物語”というモノもホントに存在しちゃうのだなぁ、などとワタクシしみじみ実感しちゃってましたです。 ……んが。今にして思えば、実はワタクシのその賛辞の全ては古川センセに捧げられてしまうモノなのでありますなぁ。 ふんガ~! スゲぇぜ! ついてくぜっ、古川のアニィ! だから、一発なぐらせろ~! うわ~ん! |