零回目
なんだこの、クソでかい猫は!?
中肉中背の俺の頭と同じ位置に頭がある大型な猫というより虎……じゃないよな。俺の知っている虎は全身から黒い湯気を出さないし、俺の頭ぐらい一呑みにしそうな口から垂れた唾液で地面に穴が開かない。
「あっ、えっと、お、お座り」
動物園の虎は躾を重要視されているから、もしかしてと思ったが無理か。
声と共に口から白い息が漏れている。そういや、めちゃくちゃ寒いぞ。
だけど、気温を気にしている場合じゃない。目の前には黒く巨大な虎がいるんだ。
充血なんてレベルじゃない赤く染まった目に見つめられているだけで、足が震え、呼吸が苦しくなる。
本能が逃げろと叫んでいるが、足が全く動いてくれない。
じりじりとにじり寄ってくる、黒い虎が笑ったように見えるけど……気のせいだよな。
「な、なあ。お腹空いているならペットフードの方が、う、うまいぞ」
前に進むことはできないが、何とか後退りながら説得を試みるが、言葉が通じるわけがない。更に詰め寄ってくる。
冗談だよな、おい、なんで大口開けてんだよ。
何だよあの牙は……サメの歯みたいに二重になってるぞ。
なあ、冗談だって言ってくれよ。
何で、俺はさっきまで炎天下の中、ゼネコンに図面を貰いに行っていた、だけじゃないか。
こんな場所でどうしてっ!
「虎に食われないといけな――」