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【社説】

キトラ古墳壁画 文化財守る心の象徴に

 奈良県明日香村のキトラ古墳の壁画を国宝にするよう、国の文化審議会が答申した。早ければ六月にも正式に指定される。「令和」に入って初めて誕生する国宝を、文化財を守る心の象徴にしたい。

 キトラ古墳の壁画は、一九八三年に発見された。極彩色で、七世紀末から八世紀初頭の飛鳥時代のものとされる。石室の四方の壁に青竜(せいりゅう)と白虎(びゃっこ)、朱雀(すざく)、玄武(げんぶ)の「四神図」が描かれている。天井には東アジアで最古とされる天文図があり、古代の宇宙観を伝える。

 国内の古墳で見つかった極彩色壁画は、「飛鳥美人」で名高い高松塚古墳(明日香村、国宝)とキトラの二例だけ。湿気が強く、風水害も多い日本で、これほどの壁画が残ってきたのは奇跡的だ。

 文化審議会は、唐招提寺(奈良市)の木造薬師如来立像(りゅうぞう)などとともに、国宝への指定を文部科学相に答申した。注目すべきは、修復と保存のためとはいえ、壁画が古墳からはぎ取られ、近くの保存管理施設で収蔵されていることだ。

 壁画はカビなどで劣化し始めたことから、文化庁が二〇〇四年、はぎ取りと修復を始めた。キトラに先立ち、一九七二年に発見された高松塚の壁画が、カビでひどく傷んだ手痛い失敗を教訓にした措置だ。修復は一六年に終わり、施設で年に数回公開されている。

 文化財は、もともとあった場所で管理する「現地保存」が基本原則。修復も、当初の状態をできるだけ残すため、必要最低限にとどめるのが望ましいとされる。

 原状とは大きく異なる状態となっていても国宝とすることは、昨年十月に重要文化財に指定してから半年ほどの早さで「格上げ」を決めたことと合わせて、壁画の貴重さを重視し、保護の態勢を強める姿勢の表れでもあろう。

 折しも近年は考古学ブームだ。関心の中心となっているのは縄文時代。東京国立博物館で昨年夏に開かれた縄文展には、三十万人以上が訪れた。書店では「土偶女子」を名乗る譽田(こんだ)亜紀子さんの著書が注目され、ゲームセンターのカプセル玩具のコーナーでは、土偶や土器のおもちゃが広い世代の人気を集める。

 このブームを追い風に、縄文をはじめ幅広い時代の文化財を社会全体で守り、後世へと確かに手渡す機運を高めたい。先人の思想や生活、美意識、さらにはこの国の歴史を次代に語り継ぐ重要な「証言者」だからだ。平成時代の知見と技術で守った飛鳥時代の宝は、その良い象徴になるだろう。

 

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