トップページへ 弾道ミサイル迎撃 ミサイルの弾道 弾道ミサイルの発射 ご意見ください
これまで、地上から発射して地上に到達するようなミサイルをとり上げてきましたが、ここでは、高速
で進入してくる目標(Target)をミサイルで打ち落とす場合、ミサイルがどのような原理に基づいて目標を
追尾しているのだろかということを説明することにしましょう。
追尾の方式には、いろいろな方式がありますが、ここでは、ミサイルが他のシステムから指示を受け
ずに、自分が得た情報に基づいて進路を変えて目標に命中する方式を取り上げます。この章の標題が
「航法(Navigation)」となっているのは、目標に関する情報からミサイルが自分自身の進路を時々刻
々と定めて飛ぶことからきています。結果的に、ミサイルはある飛翔経路(Flight Path)に沿って運
動することになります。
さて、ミサイルが移動目標に命中するにはどんな情報が必要でしょうか。なお、ここでは、目標の速度
と方向は一定でないものとします。一応、目標情報として考えられるのは、ミサイルを基準座標として、
目標に関する方向情報、位置情報、速度情報及び加速度情報などが考えられます。
しかし、ミサイルとしては、できるだけ少ない情報から進路を決定できれば、それに越したことはないわ
けです。もちろん、先にあげた情報が簡単に得られるのであれば、よりよい進路決定ができるますが、ミ
サイルの最終目的は、目標に命中してこれを破壊することですから、ロケットモータと弾頭に十分な重量
配分をしなければなりませんので、他の部分の容積、重量は厳しく制限されます。
では、最小限、どの情報があればよいのでしょうか。そこで、皆さん、猟犬が獲物を追いかけるときの
猟犬の追いかけ方を想像してみてください。目標について、猟犬が関知できる情報は方向に関する情
報のみです。すなわち、猟犬は常に、自分の向き(速度ベクトル)を獲物の現在位置方向に向けて追い
かけることになります。そして、最終的に獲物を追いつめて食らいつきます。この追尾の方法は、最初
どの方向から追いかけ始めても、最後には獲物の後ろに回り込んでしまうので、専門用語で、純粋追
尾航法(Pure Pursuit Navigation)、その結果生ずる追尾の軌跡を純粋追尾コースと呼んで
ます。また、例に挙げましたように、猟犬が獲物を追いかけるときのコースですので、別名、
"Hound-and-Hare Course"(猟犬が野ウサギを追いかけるコース)とも呼ばれています。
純粋追尾航法は極めて単純ですが欠点があります。後ほど、この航法と、その欠点を補った比例航
法をとりあげて説明することにします。
移動目標を追尾するには、最小限、ミサイルからみた目標の方向情報が必要なことはいま述べたとお
りですが、そのために、ミサイルは、人間の目に相当するシーカ(seeker)をミサイルの先端部分に搭
載し、シーカの中心部で目標を捉えるようにトラッキング(tracking)しています。このトラッキングも一
種の追尾ですから、ミサイルは、シーカと機体をそれぞれ目標の動きに追尾させていることになります。
以下、これらについて、少し詳しく説明しましょう。
シーカによって目標をトラッキングするには、先ず、目標から反射された電磁波又は目標から放射されてい
る電磁波を検出しなければなりません。アクティブホーミング方式(ミサイル自身が目標に向けて電波を放射し、
その反射波を検出して追尾する方式)及びセミアクティブホーミング方式(ミサイル以外のトラッキングレーダか
ら目標に向かって放射された電波を検出して追尾する方式)では、この電磁波は電波であり、パッシブホーミング
方式(目標自身が放射している電磁波を検出してホーミングする方式)では、通常、赤外線です。これらの電磁波
を検出するには、その波長帯に応じた検出器が必要になります。たとえば、ヒトの視細胞は、可視光線
(0.38~0.77μm)を検出できるようになっていて、最も感度のよい波長は中間の0.55μm付近(緑色)にあり、
これから外れるにつれて次第に感度が低下していきます。そして、可視光線より波長が短くなると紫外線
(Ulutra-violet;UVと略記)、また、可視光線より波長が長くなると赤外線(Infra-red;IRと略記)となり、ともに人間
の目では感知できなくなります。
第2に、シーカの中心軸を目標に向けなくてはなりません。これが、トラッキングといわれていることです。
第3に、トラッキングを容易に行うためには、ミサイルの機体に搭載されているシーカ部は機体の動きと独立して
自由に左右上下にシーカ軸の向きを変えることができるような構造になっていなくてはなりません。このことは、ヒト
の目の構造を考えればすぐわかると思います。ちょっと視線を動かすだけで、からだ全体を動かさなくてはならなく
なったらどんなに大変なことでしょう。
以下、ホーミング方式としてはパッシブホーミング方式、シーカとしては赤外線(IR)シーカ、検出器としては赤外
線検出器を例にとって説明することにします。(この方式を以下、「IRホーミング方式」と呼ぶことにします。)
先の第2のところで、シーカの中心軸(光軸)を目標に向けることが出てきましたが、ヒトの目であれば、いま視野
の真ん中で目標を捉えているのか、端の方で捉えているのかはすぐ気がつきます。これは、ヒトの網膜が多数の
視細胞から構成されていて、対象物を画像として捉えることができるからです。しかし、視細胞が1個しかなかった
らどうでしょうか。そんなことは想像をつかないでっしょうが、実は、大方のIRホーミング方式のミサイルのシーカで
は視細胞に相当する検出器は1個で構成されているのです。したがって、対象物の大きさや形などは一切わかり
ません。わかるのは、ただ対象物が放つ赤外線の強弱のみです。すなわち、検出器の抵抗が赤外線の強弱によ
って変化することを利用して検出しています。(このタイプの検出器を「光導電セル」という。これ以外に赤外線に
よって電気を起こす「光起電池」などがある)。これをヒトの目で例えるなら、周囲が暗くなったり明るくなったことだ
けがわかるといった状態です。ミミズの目(?)は、これに近い状態で、頭部に複数の光を感じる細胞が集まってい
るということです。
ミミズは、暗い方向に身を寄せるため、明るい方向を感知する必要があります。このため、しきりに頭部をを左
右上下に振っています。高級なミサイルも、まさしく、シーカの光軸を目標に向けて維持するため、原理的にはこれ
と同じ動作を行っています。すなわち、検出対象物の回りを等価的に光軸が1周するようにし、その結果、受光す
る赤外線の強度がどの方向でも同じになるようになるように対象物に対して光軸を維持すればトラッキングができ
ることになります。
高速移動目標をトラッキングするミサイルでは、上の動作を連続して高速回転で行わなければなりません。この
ため、ミミズが頭部を振るように光軸を振り回すことは適していません。そこで、光軸の前に赤外線を透過する部
分を持ったスリット円盤を設定し、この円盤を高速で回転することによって、等価的に同じことを行わせています。
雨戸の節穴を通して射してくる太陽光線が、太陽の移動とともに移動していくことを連想していただくわかると思い
ます。
実際に、赤外線光学系に使われているスリットは、その一例を模式的に示すと上の図のようになってなっています。
この光学部品はレティクル(reticle)と呼ばれているものです。レティクルとは、通常、軍用の双眼鏡や潜望鏡などの
光学装置の照準用の目盛状格子のことですが、赤外線追尾系でも、その用語が使われています。レティクル基板
は通常薄い板の形をしていますが、要求される赤外線の波長帯で優れた透過性を示す光学材料が選ばれます。
レティクルのパターンは、数多くのパターンが存在します。上図のパターンは、説明状単純化したもので、灰色の
部分は赤外線を透過しないような物質がコーテングされています。レティクルパターンは、一般に、写真製版技術を
使って制作されます。図では、中心部の円の大きさは、光源像と等しく、その半分が不透過になっていますので、像
が中心にあれば、透過率50%で一定強度の赤外線を受光します。像が中心から離れると、受光信号は、オンーオ
フにチョッピングされるとともに、段々と、その振幅が大きくなっていきます。これによって、光源像がどの回転角度
のとき中心からどのくらい離れているかを知ることができます。このようにして、赤外線源をトラッキングする方式を
レティクル走査方式と呼んでいます。
レティクル走査は、トラッキングの機能以外に、空間フィルタの機能も果たしています。すなわち、目標の背景あ
るいは周囲に存在する大きな雑音源(例えば、雲などは太陽光を反射する場合強烈な雑音源になります。)を除去
ないし抑圧する機能を持っています。
検出器には固有の時定数がありますので、レティクルの回転速度は、検出器が最良の動作をするような周波数で
赤外線を変調するように設定されます。
レティクルを透過した赤外線は、赤外線検出器上に集光され、その熱によって、検出器の導電率を上げますが、
熱は、入射光のみならず周囲の温度を吸収することによっても起こり、雑音を増加去る原因になります。そこで、
通常、検出器を人工的に冷却します。特に、比較的長い波長帯に用いられる光導電型の検出器の多くは液体窒素
(絶対温度 77°K = -196°C)で冷却するのが一般的です。
ビデオカメラやデジタルカメラが普及した現在、目標をイメージ(画像)として捉えることは至極当然のように思わ
れるでしょうが、これは、主として固体撮像素子(CCD)が急激に発達したことによります。目標像を多数の画素の上
にイメージとして捉えれば、その像を画面の中心にくるようにトラッキングすることは容易です。
パッシ・ブホーミングミサイルにイメージ方式を用いるようになったのは、日本国産の91式携帯地対空誘導弾(携
帯SAM)が最初です。国産携帯SAMの開発の話が持ち上がったのは、1975年(昭和50年)頃です。当時、米国
は携帯SAMは、第1世帯の携帯SAMとして赤外線ホーミング方式のレッドアイ(Red Eye)から、この改良版である
スティンガー(Stinger)に代替わりした時代でした。防衛庁技術研究本部では、国産の短距離地対空誘導弾(俗称
「短SAM」、赤外線ホーミング方式)の開発が終盤を迎え、赤外線ホーミング方式のミサイルにつては、ある程度の
技術蓄積を得た時代です。
CCD(charge-coupled device 電荷結合素子)については、1974年にRCAが現行テレビジョン標準方式と共用
性を考慮した256×320画素の素子を発表していました。また、デジタル画像処理に欠かせないマイクロプロセッ
サについては、1971年に日本の電卓メーカの要求に基づいて、インテルが4ビットの i4004 を発表し、1975年
には、8ビットの、Z80(ザイロク),i8085(インテル),6502(モトローラ)などが発表されていました。
一方、自衛隊としては、経空脅威の増大と多様化にともなって、第一線部隊等の防空能力を高めるため、携帯
SAMの必要性が痛感されていました。当時、携帯SAMには、先にあげたスティンガー(IRホーミング方式、米国)、
以外に、ブロウパイプ(blowpipe、指令・照準線方式、Command-Line-Of-Sight、CLOSと略記、英国)及び
RBS-70(レーザ・ビームライダー方式、LBRと略記、スウェーデン)がありました。
CLOSとLBRの両方式とも、射手は、ミサイルが目標に命中するまで、照準を維持していなければなりません。
射手としては、ミサイルが発射筒から射出されたあとは、ミサイル自体で、目標にホーミングしてもらいたいところで
す。この機能を「撃放し性」といいますが、CLOSとLBR方式は、撃放し性がありませんし、迫りくる目標に対して正
確に照準を維持することはさらに困難です。
この点、IRホーミング方式は優れていますが、問題は、ホーミングのためのIR(赤外線)源はジェットエンジンの
排気ガスであるという点です。目標が低空で真正面から侵入してきた場合、その排気孔は機体に隠れてしまい、
赤外線を検出することは難しくなります。射手としては、自分に向かってくる目標こそ、できるだけ遠方で撃墜した
わけです。この機能を「前方迎撃性」といいますが、IRホーミング方式は、この前方迎撃性に欠けています。
しかし、当時、総合的に判断すれば、スティンガーが最も優れた携帯SAMでした。
携帯SAM装備の必要性が出てきた時代は、以上のような環境にありました。装備するためには、既存システム
の購入と新規開発の二通りの方法がありますが、購入の方が、期間とコストの面ではるかに有利であることは、明
らかです。ただし、スティンガーには、「前方迎撃性」に問題がありましたし、また、将来の技術趨勢を見通したとき、
デジタル技術が主流を占めるであろうという予測から、開発に踏み切ったわけです。もちろん、前方要撃性の要求
から「イメージ方式」を採用することになりました。開発の当初は、東芝と川崎重工(シーカ部:日本電気下請け)の2
社が競争試作することになりましたが、仕様書を書く段になって、当時、「赤外線ホーミング」という用語はありました
が「イメージホーミング」という用語は、文献上見あたりませんでしたので、その仕様書で初めて用語を定義した次
第です。
開発試作時の、CCDの画素数は、80×80画素(ピクセル)という、極めて貧弱なものでしたが、実際にミサイル
自身の眼(シーカ)でみた目標がテレメータモニタ上に映し出され、命中するまでの一部始終を、ミサイルの眼を
通して見ることができたときは感激しました。
デジタル画像処理は、画像の2値化、エッジの強調、欠落部分の補正、重心座標の計算さらにはパターン認識な
ど、多様な要求に高速かつ柔軟に対応できます。最近の新聞に「プレステ2軍事転用のおそれ」(2000.4.15,朝日)と
いう記事がありましたが、軍事評論家の江畑謙介氏が指摘しているように、この辺の技術に関係するものです。
注: ○ 携帯SAMは、国内開発と同時に、米国のスティンガーを購入するという2本立て進められました。
○ 国産の携帯SAMは最終的に東芝が開発し、可視メージと赤外線のハイブリッド方式になりました。
(可視イメージだけでは、夜間の交戦性に欠けるためです。)
ヒトの眼球は、眼球を取り囲む筋肉によって保持され、また、その筋肉の伸縮によって、視軸が意図する方向」
へ向くようになっています。ミサイルのシーカも、機体と独立して空間に対して光軸を一定方向に保持しつつ、目標を
トラッキングするためには、必要に応じて光軸を意図する方向に向ける必要があります。このため、シーカ部(光学
系と検出器など)は機体に対して2軸のジンバルを介してジャイロ上にマウントされています。ジャイロ(gyroscope)
は高速回転する物体がその回転軸を空間に対して一定方向に維持するする性質があることを利用したものです。
維持する力(角運動量)は、回転軸に関する慣性モーメントと回転速度の積に比例しますから、ジャイロとしてはで
きるだけ質量が大きく、回転半径の大きい回転体が望ましいわけです。なお、ジャイロは、回転軸以外の軸回りに
外力(トルク)が加わると、歳差運動(precession)を起こします。実は、この性質を利用して、ジンバルにトルクを加
えて、光軸の向きを変えています。
赤外線検出器をジャイロマウントすることは、かなり厄介なことです。それは、可動部に搭載されている検出器に
対して外部から冷却液を加えたり、電圧をかけなければならないからです。特に、CCDのような個体撮像素子にな
りますと、電源以外に制御関連及び信号取り出し関連などのリード線が多数接続されることになりますので、それが
ジャイロに対して負荷にならないように処理しなければなりません。
黒体(black body)は、入射した電磁波のすべてを完全に吸収する物体と定義されます。逆に、黒体にある温
度が与えられた場合、その温度において放射される電磁波が他のどんな物体より大きいものです。すなわち、
黒体はすべての温度、すべての波長に対して完全な吸収体であり、また放射体でもあります。なお、放射や吸収
の、効率を放射率(emissivity factor)と呼びますが、黒体の場合、この値は1です。
どんな物体でも、その温度が絶対温度で 0 °K 以上であれば赤外線領域でエネルギーを放射しています。
ただし、その物体の性質と表面仕上げの状態により放射される赤外線エネルギーの量と分光特性は異なってき
ます。これは、温度が同じでも、放射率が異なるからです。放射率が1未満の物体は Gray Body と呼ばれて
います。
放射体の絶対温度、放射線のピーク時波長、放射線の強さと波長の関係は、つぎの説明するプランクの法
則によって関係づけられています。
黒体の放射強度、スペクトル分布及び温度の関係は、次に示すプランク(Planck)の法則で表されます。
Wλ=C1/ {λ5・EXP(C2/(λ・T)-1) (1)
Wλ : 単色放射発散度(spectral radiant emittance) [W/(cm2)(μ)]
T : 黒体の絶対温度 [°K]
λ : 放射電磁波の波長
EXP( ) : 指数関数
C1 : 3.7402×10-12 [W・cm2]
C2 : 1.43848 [cm・deg]
黒体の絶対温度をパラメータにして単色放射発散と波長の関係をグラフに描くと次の図のようになります。
図において、6,000°K は概略太陽の放射温度に相当します。また、800°K はシジェット機の排気ガスの温度、
300°K は日中の地球上の温度に相当します。
赤外線波長域 1~1,000μm は、次のように分類されています。(国立天文台編 「理科年表」、1999年版)
1 ~ 5 近赤外線
5 ~ 25 中赤外線
25 ~1000 遠赤外線
なお、100~1000 μm はサブミリ波とも呼ばれています。
式(1)を波長λで微分することによって容易に Wλ が最大になる波長 λm が求まります。結果は次のように
なります。
λm・T=const (2)
ここで、
const=0.2897 cm・deg
= 2,897 μ・deg
です。この式は、黒体の温度が上昇していくと、そのピーク波長が波長の短い方にずれていくことを示していま
すので、その発見者の名にちなんで Wien の変位則 と呼ばれています。前に示したグラフも、この様子示して
います。例えば、ジェットエンジンの排ガスの温度 800°K について、そのピーク波長を求めると、
λm=2897/800=3.62 μm
が得られます。したげって、ジェットエンジンの排ガスを検出するなら、この付近の波長域に対して良好な検出感
度を有する赤外線検出器を用いればよいことがわかります。
式(2)の波長 λm を式(1)のλに代入すると、ピーク波長における単色放射発散 Wλm が次のように
与えられます。
Wλm = 1.3T5×10ー15 [W/cm2] (3)
すなわち、ピーク波長における単色放射発散は近似的に黒体温度の5乗に比例します。例えば、常温(300 °K)
に対して、太陽の有効温度(6000°K) は20倍高温ですから、そのエネルギー比は
205=(2×10)5=25×105=32×105=3.2×106
ですから、約300万倍ほど大きくなります。
式(1)を全波長領域(λ=0~∞)にわって積分すると、
W= ∫0 ∞ Wλdλ=T4σ (4)
σ : Stefan-Boltzmann の定数(= 5.673 ×10-12 W/cm2・deg4)
が得られます。すんわち、W は絶対温度の4乗に比例します。式(4)の関係を Stefan-Boltzmann の法則
といいます。
4月13日の朝日朝刊に、米本土ミサイル防衛(NMD)は ”おとり風船爆弾” でその防衛網を間単に破れると
いう報告書を、米国の科学者らが発表したという記事がありました。その対抗策の一つに、「液体窒素で冷却した
金属の覆いで核弾頭を包み、熱追尾の赤外線センサーに探知されるのを難しくする。」手段がありましてが、これ
は、式(3)、式(4)から導かれる結果です。なお、液体窒素の温度は絶対温度で 77°K です。また、弾道ミサイ
ルの飛翔高度である地上高度 200~1,000 km 大気温度は絶対温度で800~1000°K です。当然、
おとり風船もこの温度に耐えるものでなければなりません。
全赤外線領域における赤外線の減衰は、大気の組成成分の共鳴吸収帯から生じます。水蒸気、炭酸ガス及び
オゾンのような3原子分子では、この吸収が大きくなります。このうち、対流圏では水蒸気が主要な減衰源となりま
す。共鳴吸収は波長依存性がり、赤外線を透過させる波長帯を大気の「窓」(windows)と呼ばれています。
1~15μm 間の主要な大気の窓はつぎのとおりです。
① 1.0 ~ 2.4μm
② 3.0 ~ 5.0μm
③ 7.0 ~14.0μm (ただし、9.5~10.0μm帯は炭酸ガスによって吸収)
3 純粋追尾コース(Pure Pursuit Course)
純粋追尾コースは、ミサイルの速度ベクトルが常に移動目標(ターゲット)の方向を向くようにミサイルが目標を
追尾するときに生ずるミサイルの飛翔軌跡です。この軌跡が猟犬がウサギを追いかけるときの軌跡に類似してい
ることから "hound-and-hare" コースともいわれることは、前に述べました。
(1) 運動方程式
ここでは、次の仮定のもとにミサイルの運動方程式を導き出します。
① 目標は直線等速運動をする。
② ミサイルの速度は一定とする。
③ 目標とミサイルの速度ベクトルで決まる2次元平面を設定して方程式をたてる。
上図において、各記号は次のとおりです。
T:目標の現在位置位置
M:ミサイルの現在位置
Vt:目標速度
Vm:ミサイル速度
r:目標とミサイルの現在距離
φ:目標速度ベクトルと視準線(Line of Sight;以下 LOS と略記)
図に示すように、目標が遠ざかって行く場合(遠行目標)は、運動方程式は次のようになります。
ただし、(d/dt) は時間に関して微分することを示しています。
dr/dt=Vt・cosφ - Vm (1)
r・(dφ/dt)=-Vt・sinφ (2)
式(1)と(2)から次の式が得られます。
(dr/dt)/r = (p・cscφ - cotφ)・(dφ/dt) (3)
ただし、p= Vm/Vt
式(3)は、変数分離型の微分方程式ですから、両辺をそれぞれ積分すると
r=C1・(sinφ)p-1/(1+cosφ)p (4)
C1=r0(1+cosφ0)p/(sinφ0)p-1 (5)
r0 、φ0 はそれぞれ r、φ の初期値
が得られます。
目標が近づいてくる場合(近行目標)は、同様にして、つぎの式が得られます。
dr/dt=-Vt・cosφ - Vm (6)
r・(dφ/dt)= Vt・sinφ (7)
(dr/dt)/r = -(p・cscφ + cotφ)・(dφ/dt) (8)
r=C2・(1+cosφ)p/(sinφ)p+1 (9)
C2=r0(sinφ0)p+1/(1+cosφ0)p (10)
さて、微分方程式の解としての式(4)及び積(9)は、 r とφ に時間 t を陽の形で含んでいないので、このままの
形では飛翔経路を描くのはできません。そこで、式(1)の両辺に、 cosφ を乗じ、また式(2)の両辺に sinφ を
乗ずることによって
(dr/dt)・cosφ=Vt・cos2φ-Vm・cosφ (11)
r・(dφ/dt)・sinφ=-Vt・sin2φ (12)
が得られますので、式(11)から式(12)を辺々引き算すると
(dr/dt)・cosφ-r・(dφ/dt)・sinφ=Vt・cos2φ+Vt・sin2φ-Vm・cosφ
=Vt・(cos2φ+sin2φ)-Vm・cosφ
=Vt-Vm・cosφ (13)
=Vt-Vm・{(dr/dt)+Vm}/Vt (14)
=Vt-p・(dr/dt)-p・Vm (15)
が得られます。なお、式(13)から式(14)を導き出すには、式(1)から得られる
cosφ={(dr/dt)+Vm}/Vt
なる関係式を使っています。
式(15)は次のように、微分方程式に書き改めることができますので、容易にその解を求めることができます。
(dr/dt)(cosφ+p)-r・(dφ/dt)・sinφ=Vt-p・Vm (16)
(cosφ+p)dr-r・sinφdφ=(Vt-p・Vm)dt (17)
上式において、
u=cosφ+p
du=sinφdφ
と置くと式(17)は次のようになります。
u・dr - r・du=(Vt-p・Vm)dt (18)
式(18)は完全微分方程式の形をしていますので、次のように解けます。
∫r0 r u・dr - ∫φ0 φ r・du=∫0t (Vt-p・Vm)dt (19)
r・(cosφ+p)-r0・(cosφ0+p)=(Vt-p・Vm)・t (20)
t={r・(cosφ+p)-r0・(cosφ0+p)}/(Vt-p・Vm) (21)
近行目標の場合は式(20)と(21)は次のようになります。
r・(cosφ-p)-r0・(cosφ0-p)=(p・Vm-Vt)・t (22)
t={r・(cosφ-p)-r0・(cosφ0-p)}/(p・Vm-Vt) (23)
以上で、目標とそれを追尾するミサイルの軌跡をプロットする式が出そろいました。実際に、プロットすする手順
は次のようになります。(ここでは、近行目標について示します。)
① Vm、Vt、を設定する。これより、p=Vm/Vt
② ミサイル初期位置(Xm0, Ym0)を座標原点として、目標初期位置を(Xt0, Yt0)を設定する。
これより r0 = sqrt(Xt02 +Yt02)、φ0 =tan-1(Yt0/Xt0)
③ 式(10)からC2を求める。
C2=r0(sinφ0)p+1/(1+cosφ0)p
④ 新たに φ=φ+Δφ を設定し(φの初期値はφ0)、この φ を式(9)に代入して r を求める。
r=C2・(1+cosφ)p/(sinφ)p+1
⑤ r を式(23)に代入して、経過時間 t を求める。
t={r・(cosφ-p)-r0・(cosφ0-p)}/(p・Vm-Vt)
⑥ 目標の新座標位置求める。
Xt = Xt0 - Vt・ t、 Yt = Yt0
⑦ ミサイルの新座標位置を求める。
Xm = Xt - r・cosφ、 Ym = Yt - r・sinφ
⑧ 目標座標位置 ≠ ミサイル座標位置 の場合は、④ ~⑦ を繰り返す。
(2)例 題
次の初期条件で、前に示した計算手順により計算した結果をグラフに示します。
① 目標速度 Vt=250 m/s
② ミサイル速度 Vm=375 m/s (p=1.5)、 500 m/s (p=2.0)、 750 m/s (p=3.0)
③ 目標初期位置 Xt=10,000 m、Yt=5,000 m
④ ミサイル初期位置 Xm=0 m、Ym=0 m
⑤ 初期直距離 r0=11,180.34 m
⑥ φ0=0.463648 rad=26.56505°
⑦ C2=573.4897 (p=1.5), 278.6405 (p=2.0), 65.77809(p=3.0)
⑧ Δφ=2°(=0.034907 rad)
グラフに示した3ケースについて、ミサイルの飛翔時間と要撃点(水平距離)をまとめて示しておきます。
P ( =Vm/Vt ) 1.5 2.0 3.
飛翔時間(sec) 21.665 (19.225) 16.481 (15.726) 11.771 (11.583)
要撃位置 Xm (m) 4583.59 (5193.75) 5879.77 (6068.50) 7057.37 (7104.22)
上の表で、赤字で示した( )内の数値は、三角形の正弦定理から求められるリード角(未来修正角度)をとって
ミサイルを直線飛翔させた場合の飛翔時間と要撃位置の値です。これらの値は、次のようにして計算できます。
リード角を α とすると、
α=sin-1(sinφ0/p)
これで、三角形の2つの角が求まりましたので、残りの角を β とすると
β=180°-(α+φ0)
再び正弦定理を適用して
Vm・t =r0・(sinφ0/sinβ)
これより、飛翔時間 t は
t=r0・(sinφ0/sinβ)/ Vm
要撃位置(ミサイルの飛翔した水平距離)は
Xm=Xt0-Vt・t
で与えられます。
グラフに示しましたように、純粋追尾コースでは、目標速度に対するミサイルの速度比( p=Vm/Vt > 1 )が小さ
くなると、飛翔経路の湾曲が大きくなり、赤字で示した理想的な値との差が目立ってきます。
目標とミサイルがともに、等速運動をする場合は、速度の情報が得られれば、当然、上で示したようにリード角を
計算して理想的なコースを飛翔させることができるわけです。すなわち、移動目標を追尾する場合は、位置の情報
よりも速度の情報の方が質が高いといいましょう。位置の情報では後手後手になるのは明らかです。
(3) 飛翔時間 (Time of Flight)
飛翔時間 tf は式(21)又は式(23)において、r=0 とおくことによって、次のように求められます。
tf=r0・(cosφ0+p)/(p・Vm-Vt) ;遠行目標 (24)
tf=-r0・(cosφ0-p)/(p・Vm-Vt) ;近行目標 (25)
前の例題では、Vt=250 m/s、Vm=375 m/s、500 m/s、750 m/s の場合について、飛翔時間を計算し、
その結果を示しています。
(4) ミサイルの旋回角速度
純粋追尾コースにおけるミサイルの旋回角速度(turning rate)は、LOS(Line of Sight)の旋回角速度に等しく、
遠行目標及び近行目標の旋回角速度は、式(2)及び式(7)から、それぞれ次のように求められます。
dφ/dt=-Vt・sinφ/r ;遠行目標 (26)
dφ/dt= Vt・sinφ/r ;近行目標 (27)
ミサイルが目標を要撃する瞬間( r → 0 )に LOS の旋回角φ(ミサイルの速度ベクトルと目標の速度ベクトル
のなす角)はどうなるのでしょうか。それには、遠行目標については式(4)、近行目標については式(9)において、
r → 0 としたときの φの極限を求めればよいわけです。結果は次のようになります。
遠行目標: r → 0 のとき φ → 0
近行目標: r → 0 のとき φ → π(=180°)
すなわち、目標に対してどの方向からミサイルを発射しても、最終的に、ミサイルは目標の後ろに回り込んでしま
います。前に示した飛翔経路の図で、ミサイル速度が遅い場合は、この感じがよく出ていますが、ミサイルの速度
が速くなっても結果は同じです。
次に、ミサイルの旋回角速度は、最終的にどうなるのでしょうか。結果は P(=Vm/Vt) の値によって異なり、次
のようになります。
P(=Vm/Vt) 1 < p < 2 p=2 p>2
遠行目標 0 -4・Vt/C1 -∞
近行目標 0 4・Vt/C2 ∞
ただし、1 < p < 2 の場合は、旋回角速度は 0 → 最大値 → 0 と変化します。なお、遠行目標の場合、「負」
の符号がついているのは、時計回りの回転を「負」としてるためです。
(5) ミサイルの横加速度
ミサイルの横加速度 Am は
Am=Vm・(dφ/dt)
ですから、(4)で求めた旋回角速度に、ミサイルの速度をかけることによって求めることができます。
以下に、前の例題と同じデータを使って、ミサイルの横加速度を計算した結果を示します。
1 < p < 1 の場合は、tf=20.214 秒のとき最大横(旋回)加速度 31.41g が生じています。
p=2.0の場合は、 要撃点(tf=16.481 秒)で、最大横(旋回)加速度は 183 g に達します。また、
p>2.0の場合は、要撃点(tf=11.771 秒)で、最大横(旋回)加速度は無限大になります。
(6) 純粋追尾航法の要約
① 目標の進行方向にかかわりなく、最終的にミサイルは目標の後ろに回り込んでしまう。
② ミサイルの速度が目標の速度の2倍を越えると、ミサイルに要求される横加速度は最終的に無限大
になる。
③ ミサイルの速度が目標の速度の1倍を越え、かつ2倍を越えない範囲において、ミサイルに要求される
横加速度は極大値を示す。なお、極大値 Amax は、次のようになります。
Amax=(Vm・Vt/C1)・(1+p/2)p{1-(p/2)2}1-(p/2) ;遠行目標 (28)
Amax=(Vm・Vt/C2)・{1-(p/2)2}1+(p/2)/{1-(p/2)}p ;近行目標 (29)
この結果、ミサイルの速度を少なくとも目標の速度の2倍以下に抑えなくてはならないという厳しい制約を
受けます。ミサイルの速度を遅くすると、飛翔時間が長くなりり、近行目標では敵機に頭上近くまで差し込まれ
てしまいます。この様子を、グラフで示すと次のようになります。
グラフは、前の例題のデータを使って、飛翔時間と最大横加速度を表示したものです。
ミサイルの許容旋回加速度は高々 20 g 程度でしょうから、P=1.35、これをミサイルの速度に換算
すると、Vm=338m/s、このときの飛翔時間は、24.75秒 となり、目標は水平距離 3.8 km まで接近
しています。
4 比例航法(Proportional Navigation)
前節で説明した、純粋追尾航法では幾多の問題があり実用にならないことは明らかです。しかし、こ
れから説明する比例航法の原点にある航法ですので、敢えて紙面を費やしました。すなわち、ホーミグの
ための航法は、既に説明した純粋追尾航法、これから説明する比例航法を含め、3 が、これらは、いず
れも LOS ( Line Of Sight;視準線)と、それに対する目標の速度ベクトルとミサイルの速度ベクトルの関係
によって決まる航法です。
(1) 比例航法の基本原理
上図は比例航法の原理を説明する図です。図において、記号は次のとおりです。
0 : ミサイル誘導開始位置
φ : 誘導開始時における航路角
M : ミサイルの現在位置
VM:ミサイルの速度(ここでは一定とする)
T : 目標の現在位置
VT:目標のの速度(ここでは一定とする)
λ : LOS(Line Of Sight;視準線)の回転角(φ基準)
γ : ミサイルの速度ベクトルの回転角(φ基準)
R: ミサイルと目標間の距離
比例航法は、LOSの回転角速度(dλ/dt)にミサイルの速度ベクトルの回転角速度(dγ/dt)を比例
させて誘導飛翔する航法ですので、その運動方程式の基本式は次式で示されます。
dγ/dt = N・(dλ/dt) (1)
式(1)において、比例定数 N は「航法定数」(Navigation Constant) と呼ばれています。
式(1)の両辺を時間について積分すると
γ = N・λ + δ0 (2)
ただし、δ0 は γ の初期値(リード角)
が得られます。式(1)、(2)において、
N=1、δ0=0 の場合・・・・・・・ 純粋追尾コース(pure pursuit course)
N=1、δ0≠0 の場合・・・・・・・ 偏倚追尾コース(deviated pursuit course)
又は、一定見越角航法(fixed lead navigation)
dλ/dt=0 の場合・・・・・・・ 一定航路角コース(constant-bearing course)
となります。
比例航法はこれら同族の追尾コースにおいて、航法定数 N の値を適当に選ぶことによって、迎撃の終末
段階において、ミサイルを目標の前方又は後方からほぼ直線的に命中させることができる特長を持っています。
このため、現在、ホーミング方式をとるミサイルの多くは、比例航法を採用しています。
なお、一般に、Nの値を大きくするほど、早期にミサイルを直線コースに乗せることができますが、その分、
ミサイルに加わる横加速度も大きくなります。次に、一定見越角航法とConstant-bearing Courseに
ついて、簡単に説明しておきます。
一定見越角航法は、基本的には、純粋追尾航法ですから、純粋追尾航法の欠点をそれほど補うものでは
ありません。p=Vm/Vt、見越角をδとすると、
p2・sin2δ > 1 の場合、ミサイルは目標の回りをスパイラル状に旋回して、有限時間内に命中しません。
次に、p2・sin2δ ≦1 かつ p2・(3・sin2δ+1)≧4 の場合、λ=sin-1(p・sinδ) になる点で、ミサイル
は無限大の横加速を要求されます。この航法で、ミサイルに要求される横加速度が有限になるのは、
p2・(3・sin2δ+1)<4 の場合です。この条件では、pの値は、1~2となります。純粋追尾航法に比較して
いくらか有利な点は、追尾の途上で、LOSの旋回角がλ=sin-1(p・sinδ) 満足すると、この点で、横加速
度が 0 になり、その後、直線飛行(constant bearing course)に入り、命中するという点です。
Constant-bearing Course は、LOS( Line Of Sight、ミサイルから目標を見通した線、ここでは、
「視準線」と呼ぶことにします ) が空間に対して一定方向に維持されるように追尾したときの、ミサイルの飛翔
コースです。いま、ミサイル、目標とも速度一定、目標が直線飛行するものとし、LOSと目標の速度ベクトルとの
なす角(この角を、ここでは「航路角」と呼ぶことにします)を φ とすると、ミサイルが次に示すリード角 δ をとっ
て飛翔した とき目標に衝突します。
δ = sin-1{( VT / VM )・sin(φ)} (3)
このケースでは、もちろん、ミサイルも直線飛翔しますから、ミサイルに加わる横加速度は零になり、理想的な
航法となります。しかし、一般に目標は、速度も変わりますし、回避運動を行いますから、追尾間、目標の速度と
航路角の情報を得て、新たなリード角を計算して、このリード角にそって飛翔する必要があります。これをミサイ
ル自体で行うものとすると、ミサイルの負担が大きくなるし、またアクティブホーミング方式に限定されることにな
ります。
比例航法に話を戻します。
前に示した図において、ミサイルと目標の距離 R の時間的な変化率は次のようになります。
dR/dt=-{VT・cos(λ+φ)+VM・cos(N-1)λ}
=-VT{cos(λ+φ)+p・cos(N-1)λ} (4)
ただし、p=VM/VT
また、LOSの旋回角 λ の時間的な変化率(旋回角速度)は次のようになります。
dλ/dt=(1/R)・{VT・sin(λ+φ)-VM・sin(N-1)λ}
=(1/R)・VT{sin(λ+φ)-p・sin(N-1)λ} (5)
ただし、「反時計回り」を正回転とします。
式(4)、(5)から
dR/R={cos(λ+φ)+p・cos(N-1)λ}/{sin(λ+φ)-p・sin(N-1)λ}・dλ (6)
が得られますが、この微分方程式は、N=2 のとき、すなわち
dR/R={cos(λ+φ)+p・cosλ}/{sin(λ+φ)-p・sinλ}・dλ (7)
の形のとき、両辺を不定積分することとによって解を求めることができます。
しかし、求められた解は、時間tを陽に含んでいませんので、この解からミサイルの飛翔軌跡を描くことはでき
ません。そこで、ここでは、式(4)、(5)を数値積分することによって飛翔軌跡を求めることにしました。
その結果を以下に示します。使用したデータは、純粋追尾の例題に用いたデータと同じです。なお、数値積分の
微少時間幅(Δt)は 0.05 秒 (50 msec) です。
P(=Vm/Vt)=1.5 と 2.0 の場合のそれぞれについて、N=2,3 及び 4 をとした場合のミサイルの
追尾軌跡を示しましたが、Nの値が大きくなるにつれて、要撃の最終段階で直線コース(Constant-bearing
Course)に乗って命中している様子がわかります。もちろん、発射時に適正なリード角をとって打ち出せば
終始、直線コースにのって要撃することも可能です。
飛翔時間(Time Of Flight)を、先の純粋追尾、比例航法(リード角=0)、同(適性リード角)について示すと
次のようになります。
ミサイルの飛翔時間(秒)
P | 純粋追尾航法 | 比例航法(リード角=0) | 比 例 航 法 (適性リード角) | ||
N=2 | N=3 | N=4 | |||
1.5 | 21.67 | 19.65 | 19.45 | 19.38 | 19.23 |
2.0 | 16.48 | 15.90 | 15.82 | 15.80 | 15.73 |
純粋追尾航法と比較すると、飛翔時間もかなり改善されることがわかります。また、比例航法では、航法定数
N の値が大きくなると、直線飛翔部分が多くなるので、飛翔時間は少なくなりますが、それほど差がないことも
わかります。なお、適性リード角は、P=1.5の場合 17.35°、P=2.0 の場合 12.92°になります。
(2) 飛翔経路の曲率
前に示したグラフにおいて、ミサイルの飛翔経路は式(4)、(5)にしたがって視準線の旋回角(λ)と距離(R)
が変化して行き、その途中で、
sin(λ+φ)=p・sin((N-1)・λ) (8)
が満足されると、式(5)において dλ/dt=0 となるので、λ=一定 となり、それ以降 Constant-bearing
Cource に乗ったことになり、直線的に目標に向かっていくことになります。
飛翔間のどの時点で、式(8)を満足するか、あるいは飛翔間に解が存在するか否かは、N,p,φの値に
依存しますので、以下、この点を少し説明いたします。
ミサイルの飛翔経路の曲率をκ とすると曲率は次の式で与えられます。
κ =(1/Vm)・(dγ/dt) (9)
式(9)に式(5)を代入すると
κ=(N/Vm)・(dλ/dt) =(N/R)・{(1/p)・sin(λ+φ)-sin(N-1)λ} (11)
(10)
が得られます。
次に、視準線の回転角λが飛翔経路の曲率κ に与える影響度は
dκ /dλ=(∂κ /∂λ)+(∂κ /∂R)・(dR/dλ)
で与えられますから、この式に、式(4)、(5)を代入すると λの κ に対する影響度は
dκ /dλ=(N/R)・{(2/p)・cos(λ+φ) + (2-N)・cos(N-1)λ} (12)
のようになります。
いま、ミサイルが誘導を開始する時点(t=0)で、λ=0 とすると、航路角 φ は 0~180°ですので
式(5)で与えられる dλ/dt 及び式(11)で与えられる dκ /dλ は正であり、λは時間の経過につ
れて増大(反時計回転)し、それにつれて曲率 κ も増大します。
ここで、曲率 λ が零になるときの λ の値を λf 、また、曲率が極大値をとるときの λ の値を λm
とすると、これらの値は、それぞれ、式(11)及び(12)の右辺を 0 とおくことによって、次の式で表され
ます。
<曲率 κ が 0 になるときの λ (=λf)を求める式>
sin(λf+φ)-p・sin(N-1)λf = 0 (13)
<曲率 κ に極大値を与えるλ(=λm)を求める式>
2・cos(λm+φ)+p・(2-N)・cos(N-1)λm = 0 (14)
式(13)の λf 意味は、λが目標の侵入につれて増大しミサイルが左に旋回し、λf に達すると、それ以降
λは一定になり直線飛行に移り λf を越えることはなく、その最終値がであることを示しています。
次に、λ が 0~λf 間を変化するとき、曲率 κ に極大値を与えるλm が存在する条件を求めてみまし
ょう。このためには、λm≦λf でなければなりませんので、この条件下に、式(13)、(14)と多少の三角関
数の公式を使うと
<λm=λf になる条件>
cos2(λf+φ) = {( 2 - N )2・( p - 1 )2 } / { 4 - ( 2 - N )2 } (15)
cos2(N-1)λf = { 4・( p2 - 1 )} / { p2・( 4 - (2 - N )2 ) } (16)
が得られます。
式(15)、(16)を眺めてみますと、左辺は正、右辺の分子も p>1 ですから、正です。したがって、右辺全
体が正になるためには、N<4 でなければ λm≦λf になり得ないことがわかります。
(3) 曲率の増減による飛翔経路のパターン区分
N<4 の条件のもとに、式(15)、(16)から λf を消去すると
p≦2/(2-N) ; 1≦N<2 (17)
p≦2/(N-2) ; 2<N (18)
が得られます。すなわち、 P と N が上の関係を満足する領域で曲率が極大値をとります。この関係をグラフ
で示すと下図のようになります。
グラフにおいて、曲率に極大値が存在するのは「混合型」の領域です。この領域では、後で説明するように
航路角 φ の値によって、「漸増型」、「漸減型」又はこれらの組合わせ型(「極値型」)をとります。
「漸増型」では、φ の値に関係なく、曲率 κ が漸次増大します。また、「漸減型」では、φ の値に関係なく
曲率 κ が漸次減少します。なお、図において、実際には、N及びPの値は1以上です。
それでは、実際に飛翔経路の曲率がどのような景況を示すか、前に示した例題の内、P(=ミサイル速度/
目標速度)=1.5、航法定数=2,3,4 の場合の曲率を以下に示します。
上の図は「P=1.5,N=2」ですから「混合型」に分類されますが、N の値が小さため、ミサイルの旋回が
飛翔の後半に持ち越され、終末に曲率が極大になっています。
上の図は「P=1.5,N=3」ですから前図と同様に「混合型」に分類され、曲率は漸増傾向を示しています。
ただし、前図と比較して、最大曲率は1/20程度になっています。(前図とスケール違っていることに注意し
てください。) このようにN値をあげるに従って飛翔経路の後半に集中していた経路の湾曲が経路全般に分散
してきます。
上の図は「P=1.5,N=4」ですから「漸減型」に分類され、最終的に曲率は零になります。
以上、3ケースについて示しましたが、このうち、最初の2ケースは、「混合型」でした。混合型では、発射時の
航路角 φ の値によって、漸増型、極値型及び漸減型になります。
そこで、曲率に極大値を与える λm が 0 になるような航路角をφ0 とすれば、航路角がこれより大きくなると
漸減型になります。φ0 の値は、式(14)において、λm=0 といおいて、φ について解くことによって次の式で
与えられます。
φ0=cos-1{P・(N-2)/2} (19)
次に、航路角をφ0 より小さくしていくと、λm は増加していき、λf に等しくなり、漸増型になります。
このときの航路角をφm とすると、φm は式(15)、(16)において、λm=λf とおくことによって、次式で与
えられます。
φm = cos-1{P・(N-2)・sqrt((P2-1)/(P2・N・(4-N)) - (1/(N-1))cos-1(2・sqrt((P2-1)/(P2・N・(4-N)) (20)
航法定数Nをパラメータにとって、φ0 とφm の値をグラフに描くと下図のようになります。ミサイルの飛翔経路
の曲率が極大値をとるのは、図において航路角 φ が φ0 とφm に挟まれた範囲にある場合です。そして、
φ が φ0 より大きくなると漸減型に、φm またより小さくなると漸増型になります。
例えば、P=1.5,N=3.0 の場合について、φ0 とφm の値をグラフから求めると
φm=34.5°、φ0=41.4°
が得られます。そこで、目標の侵入高度を 5000 m(航路角=26.57°) から 7500 m に上げて、
航路角を 36.87°すると、この値は、φ0 とφm の間にありますので、曲率は極値型になります。これを
グラフに表示してみると下図のようになり、その様子がわかるでしょう。なお、図は、極値付近を拡大して表示
しています。
(4) ミサイルの横加(旋回)速度
ミサイルに要求させる横加速度 Am は、ミサイルの旋回角速度(dγ/dt)にミサイルの速度(Vm)を乗じ
たものですから、式(1)と(5)から次のようになります。
Am=(N/R)・Vm・VT{sin(λ+φ)-p・sin(N-1)λ} (21)
式(21)に基づいて、前の例題について、p(=Vm/ VT)=2 として、N=2、3、4 と変えた場合の、ミサイル
に加わる横加速度(g)を以下に示します。
上に示した図を眺めると、航法定数 N のもつ意味が直感的によく理解できると思います。
N=2の場合は、ミサイルは当初、緩やかに旋回し、所要旋回量は最終段階に持ち越され、要撃点で最
大加速度約 35g が要求されることになっています。しかし、純粋追尾航法では、p=2 の場合無限大の加
速度 を要求さ れるのですから、それに比べれば、著しく改善されることがわかることと思います。ミサイル
耐加速度は機体構造上はおよそ 50g( g = 9.8 m/s2 ) 程度まではもつでしょうが、空力操舵で旋回加
速度を稼ぐのは困難です。
N=3 の場合は、混合型と漸減型の境界に位置していて、初期に比較的小さい横加速度を生じ、その後、
ゆっくりと横加速度は減少し、最終段階で零になっています。
N=4の場合は、漸次型ですから、当初比較的大きな横加速度を生じますが、その後、横加速度はほぼ
直線的に減少し、最終的に零になっています。
(5) リード角挿入による飛翔経路湾曲の改善
ミサイルを発射するとき、リード角(未来修正量)をとって発射するのが一般的ですので、リード角を挿入した
場合、飛翔経路の湾曲がどのように改善されるか」、一例を示します。なお、リード角は、ミサイルシステムに目
標トラッキングレーダ備わっている場合は、そのレーダによって正確に計算され、自動的に挿入されます。携帯
用SAM(対空誘導弾)では、予め定めた固定的なリード角を挿入します。
最初に、ここで取り上げている例題を再表示しておきます。
目標速度:250 m/s(等速) 、ミサイル速度:目標速度の 1.5 倍(375 m/s)(等速)
目標初期位置:水平距離 = 10,000 m 高度 = 5,000m、 目標の運動:水平直進入
ミサイルの比例航法定数 N = 2
このデータから、直ちに次の値が計算されます。
① 初期経路角φ = tan-1(5,000/10,000) = 26.5651°( 0.463648 rad)
② 初期直距離 R0 = sqrt( 5,0002+10,0002 ) = 1118.34 m
次に、リード角 δ は、3角形に関する正弦公式から、次のように計算されます。
( Vm・t ) ・ sinδ = (Vt・t) ・sinφ
これから、
δ = sin-1{(Vt/Vm)・sinφ} = sin-1{(1/P)・sinφ}
ただし、Vt:目標速度、 Vm:ミサイル速度、 t:飛翔時間、 P = Vm/Vt
となります。データを入れて具体的に計算すると次のようになります。
③ リード角 δ = 17.346°(0.30227 rad)
これで、会合点を計算するための3角形は完全に決定されましたので、目標の飛翔距離 Xt は ,
次のように計算されます。
Xt = R0・{sinδ/(sin(φ+δ))}
④ 目標飛翔距離 = 4,806.25 m
目標の速度 Vt は 250 m/s ですから、飛翔時間 TOF ( Time Of Flight )は次のようになります。
⑤ TOF = 4,806.25 / 250 = 19.225 sec
ここでは、以上のような予備知識のもとに、リード角 δ= 0°、δ = 適正リード角/2 ( =8.673 °),
δ = 適正リード角( = 17.346 °) とした場合の、ミサイルの飛翔経路の外観を示して、ミサイルに加わる横
加速度の観点から、説明を加えます。なお、ここに上げた例題では、P=1.5 、N = 2 ですから、先に説明した
飛翔経路パターン上は、「混合型」に属し、経路角 φ が小さいから実際には「漸増型」になり、飛翔経路の曲
率は要撃点で最大になり、当然、横加速度も要撃点で最大になります。
リード角を考慮に入れたミサイルの運動方程式は、式(4)、(5) を修正して、次式で与えられます。
dR/dt =-VT{cos(λ+φ)+p・cos((N-1)λ+δ)} (22)
ただし、p=VM/VT
dλ/dt =(1/R)・VT{sin(λ+φ)-p・sin((N-1)λ+δ)} (23)
ただし、「反時計回り」を正回転とします。
リード角をとらなかった場合(δ=0°)飛翔経路はかなり湾曲します。特に飛翔の後半以降に湾曲が顕著
になってきます。
リード角を適正リード角の 1/2 挿入しただけでも、飛翔経路の湾曲はかなり改善されることが感じられるで
しょう。ただし、「漸増型」ですから、要撃点直前付近で湾曲が残っています。
適正なリード角を挿入していますので、飛翔経路は完全名直線になっています。すなわち、発射と同時に
ミサイルは、consgtant bearing cource に乗って目標を横目で見ながら突き進んでいきます。もちろん、
ミサイルに横加速度は全くかかりません。
つぎに、リード角=0°の場合と、リード角=8.673°(適正リード角の半分)について、ミサイルの所要
横加速度を示します。最初に示す2つのグラフは、全体の景況を概観したものです。これらの図は、要撃点
の加速度が不正確です。それは、数値積分の積分幅が 50 ms ですので、最大、要撃点手前50 ms での
加速度(ミサイルの速度が 375 m/s ですから距離にして、約 20 m 手前における加速度)を示すことになり、
要撃点における加速度を示していませんので注意して下さい。この部分は、後で、時間を拡大して、より正確
なグラフを示します。
上の2つのグラフを比較すると、所要リード角の半分だけでも挿入することによって、横加速度が緩和さ
れること分かると思いますが、要撃点直前までの加速度が緩やかに増加している部分を拡大してみましょう。
リード角をとらなかった場合に比較して、横加速度が 50% ほど減少していること読みとれると思います。
次に、数値積分幅を 50 ms から 10 ms に細かくして、要撃点の手前 4 m 付近における横加速度を
表示します。かなり大きな横加速を要求されますが、時間的には、高々 10 ms の期間であり、この間に
要求される横加速度は平均して 100 g 程度ですから、ミサイルの変位量に換算すると 5 cm と微少な
値ですから、この加速を無視しても、要撃精度に影響はないでしょう。
ミサイルに加わる横加速度は、終末段階に加わる瞬間的な横加速度よりも、飛翔間の平均横加速が重要
でしょう。そこで、上の3ケースについて、飛翔時間(TOF;Time Of Flight)、平均横加速度、要撃点(X座標値)、
目標移動距離を表にまとめて示します。
リード角(度) | TOF(sec) | 平均横加速度(g) | 要撃点(m) | 目標移動距離(m) |
0 | 19.648 | 2.418 | 4912.0 | 5088.0 |
8.673 | 19.328 | 1.319 | 4832.0 | 5168.0 |
17.346 | 19.225 | 0 | 4806.3 | 5193.7 |
表に示しましたように、TOFは、リード角を取らなかった場合に比較して、適正なリード角(17.346°)を取った
場合 432 msec 短くなっています。この例では、ミサイルの速度は 375 m/s ですから、ミサイルの飛翔距離
に換算すると 162 m になりますが、要撃点の差は105.7mになっています。これは、ミサイルが斜め前方から
命中していることによります。平均加速度は、適正リード角を取った場合、ミサイルは直線飛翔しますから零に
なります。適正リード角の 1/2 を挿入した場合は、リード角を取らなかった場合に比較して、横加速度は45%
ほど軽減しています。ここでは、航法定数 N を 2 として、横加速度が漸次増加していく例を示しましたが、Nの
値を 4 として、横加速度が漸減する例では、リード角なしで発射した場合の平均横加速は、1. 003 g で、TOF
は19.426 sec です。
いま仮に、次の図に示しますように、ミサイルが等速円運動をして、飛翔間、遠心力に釣り合う横加速度をうけ
るものとすると、そのときの円の半径を r として、横加速度 α は次のようになります。
α = Vm2 /r (24)
三角形と円の幾何から図における円の半径 r は次式で求められれます。
r = d×(cosθ/sin2θ) (25)
上式においた d は要撃点の直距離であり、上の表から要撃点のX座標は 4912 m 、Y座標は
5000 m ですから、
d = sqrt(49122+50002)=7009.12 m
θ = cos-1(4912/7009.12)-φ= 45.509°-26.565°=18.944°
と求まります。これから、
r =10,795.268 m
が得られます。
したがって、ミサイルが発射されてから要撃点まで、等横加速度で旋回したとすると、式(24)からその加
速度は
α=3752/10795.268 m/sec2 =13.027 m/sec2 = 1.329 g (26)
ただし、g = 9.8 m/sec2
となります。
そこで、平均横加速度の大小の点から、初期の追尾誤差を修正するストラテジーを整理すると、① 要撃開
始前に所要の修正を行って飛翔間には横加速の生じない方式(「事前修正型」)、② 主として飛翔の前段階
で修正をする方式(「前段修正型」)、③ 飛翔間の終始を通じて均等に修正する方式(「均等修正型」)及び
④ 主として飛翔の後段で修正する方式(「後段修正型」)に分類されます。
前の例題で計算された平均横加速度を、① ~ ④ の順に並べてみると、
① 0g < ② 1.003g (比例航法N = 4) < ③ 1.329g (円運動) < ④ 2.418g (比例航法N = 2)
のようになります。① は Constant Bearing 方式でも、また比例航法でも成り立ちます。また、比例航法の場合、
航法定数Nの値には関係しません。
上のことは、時間的に変化するものを追尾して、その誤差をつめていく場合のストラテジーに関しての一つ
の指針を示しています。すなわち、将来が予測できるならば事前に対策処置を講じることが最良であり、対策
処置が遅れるほど高くつくということです。ただし、事前修正を行うためには、情報を得るための費用と、その
結果に基づく処置、ミサイルの場合はミサイルに射向をつけるという最小限のエネルギーを必要とします。
早めに手を打つということが結果的に安くつくことは、病気、事故、安全管理等でよく経験することですし、現在
の日本の経済状態、特に財政危機などもその典型的な例でしょう。わかっていてもできないのが人間の性でしょ
うか。
「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦い而る後に勝ちを求む」(「孫子」)。
ここでは、ターゲットと及びミサイルが、ともに直線等速運動を取り上げましたが、それでも、比例航法の特長
がある程度理解していただけたことと思います。実際には、ターゲットは、回避運動をするでしょうし、これを迎え
撃つミサイルも、零速度から数秒の時間を経て所定の速度に達します。(例えば、ミサイルに、目標となる航空
機の2倍程度の速度すなわち600 m/s の速度を要求するとするとして、15~20 g で加速すると3~4秒を要
します。) また、空力操舵を行えば、その分だけ、抗力が増大し、ミサイルの速度は低下します。
この章の始めに述べましたように、 比例航法はこれら同族の追尾コースにおいて、航法定数 N の値を適当
に選ぶことによって、迎撃の終末 段階において、ミサイルを目標の前方又は後方からほぼ直線的に命中させ
ることができる特長を持っています。 このため、現在、ホーミング方式をとるミサイルの多くは、比例航法を採用
しています。一方、このミサイル攻撃を回避する航空機側からすれば、ミサイルをできる限り引きつけ、ぎりぎり
のところで急激に旋回して LOS(Line Of Sight)の旋回角速度大きくさせることによって、ミサイルを振り切ると
いうことになりましょう。