ついに発表となった新元号。同時にメディアをにぎわしているのは、「新元号を商標登録したり、ドメインとして取得しようとしたりする人々」。果たして商標やドメインの登録は可能なのか? 会社名として新元号を使うことは? 商標など知的財産権に詳しい福井健策弁護士に聞いた。

新元号を発表する菅官房長官

Q1 元号の商標その他の登録は可能なのでしょうか。

A1 これは制度によって異なる。最も厳しいのは商標の登録で、原則としてできない。商標権は、誰かのブランドや商品名を他の人がまねて顧客を混乱させないための制度だ。そのため、そもそも「誰々の商品・サービスだ」と識別できるような特徴のある名前やマークでないと登録できない。つまり、お菓子を対象に「おいしいクッキー」などは登録できないのだ。

 同じ理屈で、元号を、元号を意味するような形で登録することも、「商標審査基準」というガイドラインでこの「識別性」がない場合の典型として挙げられている。よって「平成」そのものも登録できないし、「平成クッキー」も、平成生まれのクッキーと思われるだけで多くのクッキーが当てはまりそうなので、恐らく登録はできない。

 そして、この審査基準は従来、「現元号」の登録だけを不可と記載していたのだが、この1月に改訂されて「元号」一般に対象が拡大された。よって、これから「旧元号」になる「平成」も、5月以降も相変わらず登録はできないことになる。今から「平成」や「令和」の商標出願が殺到しても、登録は認められないだろう。

Q2 では、元号を含む商標は一切存在できないのですか。

A2 そうではない。まず、従来、旧元号の登録は可能だったので、「明治大学」「大正製薬」など「元号+普通名称」の商標は現に存在している。これら旧元号の登録も今後はできなくなろうが、既に存在している登録の多くは恐らくそのまま存続を認められるだろう。

 また、登録が認められない理由はあくまで「識別性」がないことが主なので、「元号+特徴的な言葉」で誰のサービス・商品か識別できるようなものは登録を認められる可能性は十分にある。例えば芸人の平成ノブシコブシさんは改名しなければいけないか心配だと発言していたが、改名の必要はもちろんないし、ノブシコブシは疑いなく特徴的なので、本人たちなら商標登録も可能だろう。

 ちなみに、商標は対象になる商品やサービスを指定して登録するものだ。そしてある言葉に識別性があるかどうかは、登録しようとする商品・サービスによって違ってくる。よって、お菓子を対象にして「平成クッキー」は登録できないだろうが、お笑いを対象にして「平成クッキー」なら登録できる可能性はある。誰かトライしてもいいかもしれない。

Q3 会社名はどうでしょうか。

A3 これは商号登記という制度で、法務局で行うものだ。実は商標と違い、元号を商号にできないといった規制はない。現に東京商工リサーチの調べでは、平成を用いた企業名は全国に1270社もあるという。他社と誤解されそうな商号は使用できないという規制はあるが(会社法8条ほか)、「平成社名」がこれだけ共存できていることから分かるとおり、同じ元号を使っているという程度では問題なさそうだ。恐らく「令和」を用いた社名は今後、数多く生まれるだろう。それ自体は結構であるが、他の会社と取り違えられないよう紛らわしいロゴや説明は避けるべきだし、利用者側も別な会社と取り違えないよう気をつけたい。

Q4 ドメインも自由なのですか。

A4 そうなのだ。これはレジストラーという存在を通じて登録するインターネット上の住所を示す表記だが、基本的には早い者勝ちであり、元号はいけないといった規制もない。現に「heisei.com」も「heisei.jp」も登録されている。しかも会社名と違い、同じドメインは1社しか取れないので、殺到・混乱は起こり得る、最も要注意の分野だ。

reiwa.orgドメインが押さえられた例。登録は新元号発表の日に行われ、登録者の身元は秘匿されている

 さらに、ドメインは転売も可能であり、過去には億単位の単価で転売された例もある。こうした転売を狙う「ドメイナー」と呼ばれる存在もいて、現に「reiwa」「leiwa」などを用いた新たなドメイン取得が次々起きている。これも一概に悪い行為ばかりとは言えないが、他社と紛らわしいドメインを取得すれば紛争の元となるし、場合によっては業務妨害に当たることもある。レジストラーの余計な仕事を増やさないよう、節度はもって新元号を迎えたい。

 (写真/共同通信社)

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