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ついに完成した世界最高水準の国産戦闘機用エンジン「XF9-1」- 日本のミリタリーテクノロジー 開発者インタビュー【前編】

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世界トップレベルの燃焼ガス温度

こういった技術のおかげでXF9-1のタービン入口温度は1800℃以上出せるようになりました。空気を吸う量と熱効率を突き詰めて大推力を引き出しているというのが、このXF9-1の特徴と言えるかと思います。

——1800℃というのは、アメリカやロシアのエンジンと同じくらいの温度なのでしょうか?

正確にはどこの国も公表していないんですよ。まあそんなもんかなという推定です。ただ、1800℃という数字は世界のトップクラスなのは間違いないと思います。ナンバー1かどうかはわからないですが、最高水準ではあります。

——先代の戦闘機用ジェットエンジンにあたる「XF5-1」は1600℃でしたが、そこからどのような技術革新があったのでしょう?

XF5-1はおよそ20年前のエンジンになります。その時点で1600℃というのは、特に世界最高クラスの性能ではなかったんですよ。そこから200℃上がったというのは大きな向上だと思います。

実は高温に耐えられる金属材料は日本が得意な分野でして、ニッケル系の単結晶材の技術が向上したんです。それは防衛省だけじゃなくNIMSさん(国立研究開発法人 物質・材料研究機構)などが基礎的な研究を進めて、そういうものを引き継ぎながらIHIさんで仕上げた……というような材料技術の進展が大きいですね。

アフターバーナ最大推力5tのXF5-1の実物。推力的にはXF9-1の1/3、サイズ的にもかなり小さい(本文一番上写真参照)。ちなみに「X」とは試作型を意味した記号。量産されるとつかなくなる。

——なるほど、外部機関とも連携を取った着実な蓄積がこの20年の間にあったんですね。

あと、回転部品であるタービンはニッケルで作っているんですが、その外枠部分の回転しないタービンシュラウドは、CMCという耐熱材料で作っています。セラミックは高温に強いですけど割れちゃうんで、それを解決するためにセラミックスの繊維を織り込んで作った材料なんです。

非常に軽くて高温に強い上に脆さも多少解決しているので、ノズル(編注:ジェットが噴出するエンジンの最後端)の動くところなどにも使っています。その技術も日本は強いんですよ。回転する部品まではまだ使えないんですけどね。

CMCでできたタービンシュラウドの一部。実際に金属製の従来品と持ち比べてみたのだが格段に軽い。セラミック系材料だけあってか、表面は素焼きの陶器のようにざらついている。

現在の戦闘機はたくさん電気が必要

——XF5-1で培った技術を活かして今回XF9-1を開発したのでしょうか?

高圧圧縮機と燃焼器、そして高圧タービンは、ジェットエンジンの肝とも言える部分で“コア”と呼ばれているんですが、さすがにXF5-1のコアの技術は古いものなので、XF9-1で直接取り入れた部分はさほど多くないです。

ただXF5-1は、実際に先進技術実証機であるX-2に取り付けて飛行試験をやっていますので、機体とのインテグレーションや、実際の飛行で得られたものは大きかったですね。

XF5-1の燃焼器を除いたコア部分(実物)。左側が高圧圧縮機、右側が高圧タービン。このXF5-1のコア部分を流用して、海上自衛隊の哨戒機P-1のF7エンジンは作られた。

——実際に飛ばしてみるとまた違った課題が見えてくるんですね。

関係している会社や立場によって視点も違うので、例えば、飛行機を作っている三菱重工さんの観点から見た改善すべきポイントが出てくるわけです。我々はエンジンだけを見ているから、ついエンジンに偏ってしまいますが、エンジンは飛行機につけて初めて生きるものですからね。

飛行機側からの観点はX-2で学びましたので、そういったことは最初からXF9-1に盛り込まれています。


X-2の飛行試験映像(防衛省 防衛装備庁公式YouTubeチャンネルより)

——他にXF9-1の特徴としてはどのようなものがありますか?

発電能力の高さですね。飛行機の中で電気を作ることのできる部分はエンジンしかありません。今や戦闘機というのは電子機器の塊でして、レーダーで敵を見つけてミサイルを撃ったり、相手からのレーダーを感知して逃げたりだとかでいちいち電気を使うわけです。

将来の戦闘機がどんなものになるにしろ電気を大量に使うのは明らかなので、それに対応できる発電能力は次世代エンジンには必ず求められる能力です。

——とはいえ、大きな発電機は積めないと?

そうなんです。ものすごく大きな発電機を積めば大電力を作れるかもしれないけど、そうするとまた飛行機内のスペースを取り合ってしまう。そこでエンジンのスタータと兼ねさせることにしました。

——スタータとは、自動車のセルモータのようなものですか?

そうです。ただ、車のセルモータはエンジンを始動するときにしか使わないですよね。一方、発電機は車が動いている間ずっと使います。今までの飛行機って、これを分けて積んでいたんです。しかし原理的にはモータと発電機は表裏一体と言うか、電流をかければ力が出るし、力をかければ電流が出るものですから、それならということで“スタータジェネレータ”というひとつの装置にしたというわけです。

これは世界的なトレンドでもあるんですが、うまくいけばデメリットはない装置です。作るのは難しいですが一石二鳥です。この発電能力と省スペース化もXF9-1の売りですね。

XF9-1を横から見たところ。前方下側にある張り出しの中に、スタータジェネレータは搭載されている。発電能力は180kW級でこれも世界トップレベル。

そして気になるコスト面

——XF9-1はコストも考慮されているのでしょうか?

まさにコストは大変重要なファクターでして、非常に重視しています。世界で戦闘機を作っている国はたくさんありますが、費用が高すぎると誰も買ってくれません。なので競争力のある価格になるよう努力しています。ちょっとでも安ければその分、飛行機の数もミサイルも増やすことができますからね。

例えば、ファンのこれまでの作り方は、ブレードとディスクが一体構造(ブリスク)の部品として製造する際、金属の塊を削って作っていました。だから無駄も多いし、手間もかかるのでコストが高い。一カ所でも折れたら全部最初からやり直しだったんです。

そういった削り出しで作るやり方から、3Dプリンターとか、“線形摩擦接合”という、パーツとパーツのつなぎ目を摩擦でぐりぐりっとこすりつけることでくっつけるような作り方でコストを下げられないかとチャレンジしています。

——やはりサイズが大きくなると、それだけコストもシビアになってくるのでしょうか?

エンジンを大きくすると金属素材を一様に加工するのは難しくなったりします。XF5-1のタービンディスクは金属の粉末を焼き固めて作っていたんですけど、同じやり方ではどうしても大きい設備が必要になってきて値段も高くなってしまう。

そこでXF9-1では、日本エアロフォージさんという会社の設備を活用して、金属を叩いて製造する“鍛造”でタービンディスクを作っています。

XF9-1の高圧タービンのスケールモデル。タービンの羽根が取り付けられた“円盤”がタービンディスク。国産溶製鍛造ニッケル-コバルト基超合金で作られている。溶製とは複数の金属を溶かし合わせるという意味。

——やはり日本は材料と加工技術が優れているんですね。

それもそうですし、あとCFDという、コンピュータで流体を解析するシミュレーションの技術も高いんですよ。そこらへんの技術がなければXF9-1のファンの形を作ったりとかはできなかったです。ただ、日本の弱点と言えば、3Dプリンターは外国を追っかけているところはありますね。

——エンジンの耐久性も欧米の一線級エンジンと同等でしょうか?

基本的にエンジンの耐久性は使われ方次第です。戦闘機と言ってもいろんな飛び方がありまして、何度もアクセルとブレーキを踏み込むような飛び方をするものもあれば、基本的にアクセルを踏んでいるだけの長時間巡航といったものもあります。

ただ、ミリタリー用エンジンの耐久性はある程度規格が決まっていて、とりあえず世界標準の値があるのでそこを目指そうとしています。どんな使い方をするにしても、こういう耐久性が必要というのは決まっているんです。


後編では引き続き髙原さんに、XF9-1の開発舞台裏や今後の見通し、戦闘機用ジェットエンジンを国産で作る意味などについてお伺いします。最大推力試験で起きた奇跡とは…。後編をお楽しみに。(つづく)

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