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【社説】

景気鈍化 暮らしの異変見逃すな

 多くの人がやはりと思ったはずだ。日銀が公表した三月の短観が企業の景況感悪化を裏付けた。米中貿易問題など懸念材料が増える中、暮らしに異変が起きていないか丁寧に見極める必要がある。

 短観では、代表的指標である大企業製造業の景気判断が六年三カ月ぶりの悪化幅を示した。

 ここから見て取れるのは、米中の景気変調の影響が鮮明になったことだ。両大国への輸出に頼る製造業の景況感が明らかに悪くなり、景況感に打撃を与えた。

 一方、大企業非製造業や中小企業の景況感は横ばいだった。ただ今後、米中の経済状況の余波がこうした企業にも及ばないか不安はぬぐえない。

 中国経済は、トランプ米大統領の強い貿易不均衡批判を背景に減速傾向が加速している。三月の全国人民代表大会でも経済成長率の目標値を下方修正した。

 堅調と思われた米国でも債券市場で気になる事態が起きた。通常、期間の長い金利は、返すまでのリスクが増すため短期より高い。しかし三月下旬に一時、短期の金利が長期を上回った。

 市場では、近い将来のリスクが意識され長短金利が逆転したとの見方が広がった。逆転は景気後退へのシグナルだとの指摘だ。

 現段階では米中交渉の行方が世界経済の鍵を握っているのは間違いない。六月に大阪で行われる二十カ国・地域(G20)首脳会合の議長国として日本は、米中の摩擦緩和に向け各国の協調意識を高めるよう最大限努めるべきだ。

 今年は、消費税増税も予定されている。景気鈍化局面で最も注視すべきは雇用と消費だ。

 国内の大企業には余力のあるうちに賃上げへのさらなる努力を求めたい。一昨年度、企業の内部留保は四百四十六兆円と過去最高を更新した。

 超低金利政策による円安や株価安定が企業の経営環境を下支えしたことは否定できないはずだ。消費への配慮という意味でも賃金については柔軟に対応してほしい。

 一方、完全失業率は2・3%(二月)と低い水準を保っているが、景気動向次第で数値はあっという間に上昇する恐れもある。特に雇い止めなど非正規労働者から影響が及ぶ可能性が高い。さらに長時間労働など、職場環境の一層の悪化も心配だ。

 雇用の劣化は人々の消費生活を壊し、社会の亀裂を深める。今は景気後退に備え官民が一体で異変に目を凝らす時だろう。 

 

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