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いまだ消えないマイナンバー制度への誤解
しかし、マイナンバーカードの活用がいまだに課題なのは、政府がマイナンバー制度の求める情報リテラシーを周知できていない問題があるからではないか。
マイナンバーカードは裏面記載のマイナンバーとは無関係に、顔写真付きの身分証として本人確認に使える。カード内蔵ICチップはJPKIのアプリを搭載し、インターネットでIDやパスワードに代わる強力な手段となる。マイナンバーそのものは使わずになりすましを防げる。
ところが、コンサートなどのイベント主催者がチケット転売を防ぐための来場者の本人確認に、なぜかマイナンバーカードを受け付けないという例が相次いだ。
実際、あるイベントのWebサイトには「顔写真付きマイナンバーカードは会場にお持ちいただいても、本イベントでは有効な身分証明書として認められません」との注意書きがあり、明らかにマイナンバーカードの位置付けを誤解している。
マイナンバーでは在日外国人を含め、国内に住むすべての人に唯一無二の識別子を付与する。このためか、マイナンバーそのものへの誤解が根強い。マイナンバーがまるで秘密の暗証番号であるかのような勘違いや、マイナンバーで個人情報を引き出せるかのような誤った思い込みが見受けられる。マイナンバーとマイナンバーカードの混同も依然として続いている。
マイナンバーは誰に対しても秘密にする必要はない。金融機関の口座番号と同様、企業の従業員が給与の振込先として勤務先に伝えても、それ以外の不要な相手に教えることはないのと同じだ。
しかもマイナンバーは納税や行政手続きにしか利用できない。行政機関はマイナンバーではなく、マイナンバーを基にした機関別符号と呼ばれる別の識別子で個人情報を管理している。仮にマイナンバーが流出したところで、直ちにあらゆる個人情報が漏れるような仕組みではない。
マイナンバー制度が企業などにマイナンバーの厳格な管理を求めているのは、唯一無二の識別子であるマイナンバーに、誰かが勝手にいろいろな個人情報をひも付けるリスクがあるからだ。個人情報が本人も知らない相手に共有されてプライバシーの侵害につながるような違法行為を未然に防ぐ狙いがある。
マイナンバーカード裏面のマイナンバーは法律で決められた相手にだけしか見せなければよい。それでも、ITに詳しい専門家でさえ「マイナンバーは秘密にする必要がある」と誤解している例が後を絶たない。マイナンバー制度は国内に住むすべての人に一定の情報リテラシーを求める側面があるわけだ。
自治体や企業がマイナンバーの提出を求める際に、煩雑な紙の作業を強いている問題もある。企業や証券会社などの金融機関は顧客からマイナンバーの届け出を受け付ける際、通知カードや運転免許証などのコピーを郵送させたり、画像として読み取るアプリを利用させたりする例が多い。