法律・税務・賃貸Q&A

敷金の運用益と不当利得

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士

質問

 当社の店舗賃貸借契約書には敷金は無利息で返還すると書いてありません。借家人(賃借人)から「敷金は利息をつけて返還せよ、利息を付けないのであれば敷金を運用しているのだから利息分は不当利得だ」と言われました。賃貸人である当社は、利息分を不当利得として返還する義務はあるのでしょうか。

月刊不動産2016年02月号掲載
・閲覧された回数/ 6402回  ・参考になった人数 / 9人

回答

Answer

 賃借人に対して利息分を返還する必要はありません。賃貸人が、賃借人から預かった敷金を運用して運用益を得ても、不当な利得であるとはいえないからです。そもそも、わが国では金銭を預ければ当然に利息がつくという建前になっておらず、敷金や保証金は、もともと利息を発生しないものとして賃貸借契約において預かることが合意されているため、たとえ運用益が発生しても、賃借人には敷金だけを返還すれば良いことになります。

敷金とは何か

 敷金とは、裁判例では、「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」(最高裁昭和48年2月2日判決、敷金返還請求訴訟)をいうものと理解されており、現在、改正作業中の民法改正法案においても同様の定義がなされています。つまり、敷金とは、賃貸人が、賃借人の賃料支払債務等の賃借人の債務を担保する目的で賃借人から預かっている金銭です。

預り金と利息の関係

 預り金には利息が付くのが当然だと思われるかもしれません。確かに銀行に金銭を預ければ利息がつきますし、住宅ローンを借り入れた場合にも利息の支払いが必要とされています。しかし、金銭を預ければ当然に利息がつくかといえば、わが国の法律ではそのような建前はとられていないのです。

 例えば金銭を貸し付ければ当然に利息が付くと思われていますが、わが国の法律はそのような定めにはなっていません。金銭を貸し付ける契約は金銭消費貸借契約といいますが、消費貸借契約を規定している民法第587条は、消費貸借の成立要件については、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物を受け取ることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」と定めており、利息の支払いは消費貸借の成立要件とはされていません。

 しかし、利息を支払うことを約束することを禁止しているわけではありませんので、利息を支払う約束をすれば、利息を支払わせることも可能です。

 このことは、消費貸借契約をしたからといって、当然に利息がつくわけではなく、消費貸借は原則として無利息であることを意味しています。もっとも、実際の取引では、金銭の貸し借りの際にはほとんど全ての契約で利息を支払う旨の契約がなされていますから、貸金については、利息を支払うのが常態となっています。

 このように、金銭を貸し付けた場合ですら、利息を支払う旨の特約がない限り、利息を請求することはできないのです。ましてや、敷金は貸金ではなく、賃借人の賃料支払債務等の賃借人の債務を担保する目的で交付されている金銭です。したがって、利息の約定がなされない限り、元々無利息が原則なのです。

敷金の無利息返還の約定がない場合

 一般に、建物賃貸借契約においては、敷金は無利息で返還する旨の約定が取り交わされていますが、仮に敷金を無利息とする旨の約束を賃貸借契約で合意しなかった場合であっても、もともと敷金は利息の約定がなされない限り無利息が原則ですから、利息が発生することはありません。貸金ですら利息の約定がなければ利息を請求できないのですから、保証金の場合も利息を支払う約束がなされない限り、無利息で返還すればよいことになります。

 ただし、敷金に利息を付する特約は禁止されていませんので、利息を付する約束をした場合には、敷金に利息をつけて返還しなければならなくなります。

敷金・保証金の運用益と不当利得の成否

 一般には、敷金や保証金は賃貸人により資金運用されていることもあるかと思われます。実務上も、敷金や保証金の運用益は、賃貸人の賃貸物を使用収益させることの対価の一部であると認識されています。

 賃貸人が敷金や保証金を運用して運用益を上げている場合で、賃借人が無利息で敷金や保証金の返還を受けた場合であっても、賃借人から賃貸人に対して不当利得として利息分の返還を求めることはできません。何故なら、敷金や保証金はもともと利息を発生しないものとして賃貸借契約において賃貸人が預かることが合意されているからです。

 敷金は、将来、賃貸借契約が終了し、賃借人が賃借物を明け渡したときに返還義務が発生するものと考えられています。賃貸借契約が終了した際に、敷金の元本額を返還すれば足ります(未払賃料等の賃借人の未払債務を控除した残額のみを返還するとの契約になっているケースが多いと見られる)。賃貸人は、賃借人から預かった敷金の元本額を契約通りに返還すれば、賃借人に損失が発生したとはいえません。賃貸人の運用益には法律上の原因があり、不当な利得であるとはいえないからです。

Point
  • 敷金は賃貸借契約上の賃借人の金銭債務の担保として交付される金銭です。
  • 敷金は利息が発生する性質のものではないため、利息を支払う約定がない限り無利息です。
  • 保証金も利息を支払う約束がない限り、無利息です。
  • 敷金は、これを運用していたとしても、賃貸人と賃借人との間で締結した建物賃貸借契約において、敷金として預かる旨の合意に基づいて預かっているものですから、賃貸人の不当利得とはなりません。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

このQ&Aは参考になりましたか?

ホーム 協会について 一般のお客様はコチラ 開業・入会をご検討の方へ