仮想通貨自動売買(bot取引 / システムトレード)とは?
多くの仮想通貨取引所は取引(資産を買ったり売ったりすること)をするための「API」を公開しています。
APIとは「Application Programing Interface(アプリケーションプログラミングインターフェース」のことで、端的にいうと「外部のプログラムが(取引所の)システムに接続するための入り口」のようなものです。
このAPIを公開している取引所では、例えば我々一般のユーザーでもAPIを経由して作成されたプログラムが仮想通貨の売買を自動的に行う仕組み「仮想通貨自動売買(bot取引)」を行うことができます。これによって、ヒトの目視確認と手動取引では行うことが難しい複雑な取引戦略を実施することが可能です。
本投稿で紹介するのは金融における取引戦略の一つであり、仮想通貨の自動売買ロジックとしても秀逸な「タルムード戦略」について紹介させていただきます
自動売買の取引戦略「タルムード戦略」とは?
■本来のタルムード戦略の意味
仮想通貨/暗号資産が開発される以前から金融の世界で利用されている売買戦略はいくつも存在しますが、今回本投稿で紹介させていただくのはその中の一つである「タルムード戦略」というものです。
「タルムード(Talmud)」というのは元々ユダヤ教の聖典であり、タルムード戦略というのは「ユダヤ人の資産運用に関する戦略」ということになります。またタルムード戦略は「均一投資戦略」と呼ばれることもあります。
このタルムード戦略(Talmud Strategy)について、1989年にRoger C, Gibson氏によって初版が発行された「Asset Allocation: Balancing Financial Risk」 の冒頭において以下のように表現されています。
Let every man divide his money into three parts, and invest a third in land, a third in business and a third let him keep by him in reserve.
これを直訳すると、
「全ての人に、その人のお金を3つに分割して、3分の1を土地に、3分の1をビジネスにそれぞれ投資させ、残りの3分の1をそのまま確保させよう。」
というような意味になるかと思います。
これはそのままの意味に受け取るとお金を土地とビジネスと貯金に分けようという意味になりますが、実際の解釈としては「それぞれ性質の違う金融資産に保有しているお金を分配してリスクを分散しよう」というような解釈が正しいようです。
実際に、既存金融の世界ではこのタルムード戦略を踏襲して、「金利資産」「固定資産」「流動資産」などに保有している資金を分配してリスク分散をしようというような考え方が浸透しています。
タルムード戦略は単純なリスク分散の考え方という側面以外に数学的に非常に面白い特性を持った考え方です。それを以下で説明させていただきます。
■タルムード戦略では取引するたびに「通貨の総量」が増える
タルムード戦略の基本的な考え方は以下の数式によって表現されます。
2つ資産をトレードする際、取引前の2つの資産の数量(xとy)と価格(p)、取引後の数量(x'とy')と価格(p'))の関係において、2つの資産(xとy)の相乗平均が取引後(x'とy')の相乗平均と比べて必ず増加する、というのを表した数式です。
と、数式を見せられてもこれだけで理解することは難しいので簡単な例を紹介します。以下の例ではJPYとBTCを上記のモデルを使って取引を行うこととします。
タルムード戦略の取引の流れサンプル
今回のサンプルでは仮想通貨の取引経験者がわかりやすいように、BTCとJPYの2通貨でタルムード戦略を実施した際の例を紹介させていただきます。
■1. 取引前の状態
タルムード戦略では2つ以上の通貨(資産)が同じ価値の総量になるように数量を保有している前提から取引がスタートします。
この例では以下のような条件から取引を開始するものとします。
BTCの価格(BTC/JPYのレート) : 400,000
BTCの保有数量 : 1BTC
JPYの保有数量 : 400,000JPY
価格が400,000円のBTCを1枚と400,000JPYを保有している状態です。
400,000JPY分のBTCと同額400,000JPYを持っているという状態ですので、2つの通貨BTCとJPYのそれぞれの価値の総量が均等になっている状態であると表現できます。
この状態が取引する前の状態です。
■2. 取引1回目|価格が変動した後に価値総量を均等にする
仮想通貨の市場は常に動いていますから、当然BTCの価格(BTC/JPYのレート)も変動します。
取引前のBTCの価格(BTC/JPYレート)は400,000でしたが、今回の例ではわかりやすくするためにBTCの価値が10%上がり、価格(BTC/JPYレート)が440,000になったと仮定しましょう。
1回目の変動後のBTCの価格(BTC/JPYのレート) : 400,000 → 440,000
価格が変動したので、戦略に従ってBTCとJPYの保有数量を合わせないといけません。
それぞれBTCとJPYをいくらずつ保有すればいいかは上記した条件の元、中学校で習うような簡単な連立方程式で解くことができます。この例ではどのように計算するかは割愛させていただきます。
結論としては、BTCとJPYの保有数量が以下の内容で取引を行います。
売り:0.0454545454545455BTC
買い:20,000JPY
BTC/JPY取引レート:440,000
1回目取引後の状態
BTCの価格(BTC/JPYのレート) : 400,000 → 440,000
BTCの保有数量 : 1BTC → 0.954545454545455BTC
JPYの保有数量 : 400,000JPY → 420,000JPY
こちらも手元の電卓等で計算していただければ解りますが、BTCとJPYの価値の総量がちょうど均等になっているはずです。
BTCとJPYの価値基準が違うためこの状態だと一見わかりにくいのですが、実はこの取引が約定した時点でJPYとBTCを合わせた数量がほんの少し増加しています。(2つの通貨の相乗平均増加している)この証明は後述させていただきます。
■3. 取引2回目|再度価格が変動し、同様に価値総量を均等にする
1回目の取引後、再びBTCの価格が変動します。
今回のサンプルでは、タルムード戦略の特性をわかりやすく確認していただくために、一度440,000まで高騰したBTCの価格(BTC/JPYレート)が再度取引前の状態である400,000に戻ったと仮定して説明させていただきます。
(仮定ではありますが、一度上がった価格が短期間に元の価格に戻るというようなことは仮想通貨市場では頻繁に起こりますので、仮定として現実味が無いということは無いはずです)
2回目の変動後のBTCの価格(BTC/JPYのレート) : 400,000 → 440,000 → 400,000
再び価格が変動したので、戦略に従ってBTCとJPYの保有数量を合わせないといけません。
2回目の価格変動後、戦略に従って以下のような取引を行います。
売り:19090.9090909091JPY
買い:0.0477272727272728BTC
BTC/JPY取引レート:400,000
2回目取引後の状態
BTCの価格(BTC/JPYのレート) : 400,000 → 440,000 → 400,000
BTCの保有数量 : 1BTC → 0.954545454545455BTC → 1.00227272727273BTC
JPYの保有数量 : 400,000JPY → 420,000JPY → 400909.090909091JPY
上記を確認いただけると、レートが取引前の状態に戻っているにも関わらず、取引前の状態に比べてJPYとBTCの枚数が増加していることがわかります。
タルムード戦略に置ける取引は上記のように2つ以上の資産の価格(取引レート)を元に、価値の総量が均等になるように取引を行うと、取引する毎に資産の数量が増加する特性を使った取引戦略であるといえます。
価値基準が異なる2つ以上の資産の増減を算出する場合には相乗平均を使ってその評価を行うことになります。上記の取引例についても以下のように表すことができ、実際にBTCとJPYの相乗平均が取引毎に増えていることが理解いただけるかと思います。
自動売買におけるタルムード戦略の留意事項
上記した流れで取引を行えば、取引を行えば行うほどその保有数量が微量ずつ増加することになりまず。
当然資産(通貨)の価格はリアルタイムで変動しますし、それに応じてリアルタイムで取引注文を行う必要があるため、やはり自動売買取引botなどに戦略通りに取引を行ってもらうのが好ましいでしょう。
■大きな収益は見込めない、小さな収益を積み立てる戦略である
タルムード戦略を踏襲した取引では、基本的に大きな収益は見込めません。入れる通貨種類やパラメータによって上下しますが、相乗平均で計算した時に1ヵ月に0.2%-1%程度の資産総量が安定して増加するようなパフォーマンスになることが多いです。
また、あくまで相乗平均ベースで総量が増えるものであり、取引している通貨の価値(仮想通貨の法定通貨立てでの価値)自体が大幅に下落した場合は仮に保有総量が増えていたとしても、その価値が下がっているという状況は起こり得ます。
■価格が変動しつつ、一定の価格に戻ってくるような相場に強い
なので、タルムード戦略に最も適した相場は、価格の上がり下がりがありつつ、基本的には一定の価格に戻ってくるような相場が適していると考えられます。
例えば2018年は中旬以降、各種仮想通貨の価格が一定の価値を上下して増えも減りもしないという相場が続きました(ヨコヨコ相場などと表現されることもある)、このような相場でいくつかの通貨銘柄を入れて取引をしていれば、仮にJPYやUSDなどの法定通貨立てで換算していても安定して一定の収益を出すことができたと考えられます。
■3つ以上の資産でタルムード戦略取引を行える市場が少ない
タルムード戦略を踏襲した自動売買取引botを走らせるうえで、もう一点重要な留意事項があります。
基本的にタルムード戦略はリスクヘッジなどの観点から3つ以上の通貨を入れてその価値を均等にするという使われ方をするための戦略です。
その場合に障害になるのが、取引所の取引板の数です。
例えばUSD、XRP、BTCの3つの資産(通貨)の価値を均等にするように取引をしようとすると、
- XRP/USD
- BTC/USD
- XRP/BTC
基本的には上記の3つの取引板があることが望ましいです。
ただ、現状運営されている一般的な仮想通貨取引所を見ると、「XRP/BTC板が無い」のでXRPとBTCの価値を合わせにくい、というような事態がおこります。(その場合でもUSDをブリッジにするやり方も考えられますので解決策自体はあります)
■RippleのDEXと相性が良い
我々が把握している仮想通貨取引所の中でタルムード戦略で自動売買を行うのに現状最も適していると考えているのが、RippleのDEX(分散型取引所)です。
RippleのDEXの大きな特性として、存在する全ての通貨(IOU)同士の取引板があることというのがあります。なのでRippleのDEXであれば、入れている全ての通貨の通貨ペアで取引を行うことができます。
RippleのDEXについては本メディアでも紹介をさせていただいていますので、そちらもご覧ください。
【Ripple(リップル)のDEX徹底解説】イラストで解説するRippleネットワーク
https://ohmycrypto.news/articles/62XRP Ledger(レジャー)が分散型取引所(DEX)の機能を持っていることは、仮想通貨界隈でもあまり知られていない事実です。この投稿ではRippleの分散型取引所を理解する上で必要な概念から、その特徴までをイラスト付きで解説しています。
タルムード戦略を使ったオープンソースの取引bot「XMM」
実際にこのタルムード戦略の取引ロジックを踏襲した自動売買botがフリーのソースコードとして公開されていますので、こちらで紹介させていただきます。
RippleのDEXで動く「XMM」という名前の取引botとして無料で公開されており、Rippleウォレットとウォレット内にいくつかの通貨(IOU)を保有していれば比較的簡単に動作します。
Trading Bot for Ripple Network. Contribute to codedot/xmm development by creating an account on GitHub.
実際に筆者もこのXMMを使って自動売買を行っていますが、現状非常に安定して稼働しているととともに、安定的に取引収益を発生させています。
ドキュメントが英語なのと、コードがJavaScriptで記述されておりJavaScriptの基礎知識が必要ですが、興味がある方はぜひ動作させてみてください。
実際にタルムード戦略bot「XMM」を動かしてみる
XMMはフリーで公開されているbotですが、動かすには多少の知識が必要となりますので、どなたでもXMMを使っていただくために、未経験者がXMMを実際に動かすためのガイドラインをnoteで公開させていただくことに致しました。全編回覧は有料とさせていただきましたが、noteの方で現在の実績の一部を公開しておりますので、ぜひ無料部分だけでも回覧いただければ幸いです。
誰でもできる仮想通貨取引bot「XMM」|通貨枚数を増やす取引戦略|未経験者でもできるbot稼働までのガイドライン|OhMyCryptoNewsボット研究チーム|note
https://note.mu/ohmycrypto/n/n04cc00370f8bはじめに はじめまして、Oh My Crypto Newsの仮想通貨自動売買bot研究チームです。我々チームでは金融の世界で古くから研究されているレガシー取引戦略を参照しながら、マーケットメイク戦略とアービトラージ戦略を中心に中長期的に収益を上げられる自動売買取引botを発見・開発することを目的に活動しています。 本noteはタルムード戦略という取引戦略を踏襲した仮想通貨自動売買bot「XMM」の紹介と実際にXMMの取引botを走らせるまでのガイドラインです。 XMMはチャートを分析してタイミングを測るような戦略ではなく、チャートに関わらず一定の取引ルールで取引を行います。以
まとめ
タルムード戦略は、基本的にリスクヘッジを前提に設計された取引戦略であり、「ローリスクローリターン」な戦略であるとも表現できます。
ローリスクの代わりに、取引特性として「大きく負けにくい」という特性もあり、例えば最近プレゼンスを上げてきている「仮想通貨レンディングサービス」などの代替手段になるようなものと考えていただけると思います。
OhMyCryptoNews編集部です。読者の皆様にとって価値ある情報を届けられるよう日々邁進致します。分散型取引所(DEX)に関する情報や海外取引所関連情報にアンテナを立てております。