社説

社説[安保法施行3年]「専守」の逸脱危惧する

2019年4月10日 05:00

 安全保障関連法が施行されてから3年が経過した。

 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認や、他国軍への後方支援拡大、国連平和維持活動(PKO)拡充などを可能にした法律である。

 施行からこの間、自衛隊の任務は大幅に広がり、米軍との軍事一体化が急速に進んでいる。

 政府は2月、安保法に基づき、自衛隊が米軍の艦艇や航空機などを守る「武器等防護」を2018年に16件実施したことを明らかにした。17年の2件、16年のゼロに比べ大幅に増えた。

 当初政府は「可能な限り最大限の情報公開をする」との方針を示していたが、実施時期や具体的な状況の説明はない。国民の目が届かないところで、既成事実化することは許されない。

 政府は今月中旬からエジプト・シナイ半島に陸上自衛隊の幹部自衛官2人を派遣することを閣議決定した。

 安保法の新任務である「国際連携平和安全活動」を初適用し、イスラエル、エジプト両軍の停戦監視活動をする「多国籍軍・監視団」(MFO)に司令部要員として派遣する。国連が統括していなくても国際的な機関の要請を条件に派遣を認めるものだ。

 新任務の地ならしをして将来は部隊派遣を念頭に置いているのではないかとの疑念が拭えない。

 南スーダンのPKOでは安保法の「駆け付け警護」を付与。後に日報では直前に「戦闘」の表現が頻発していたことがわかったが、政府は「武力衝突」と強弁した。南スーダンの検証も不可欠である。

    ■    ■

 専守防衛が形骸化しかねない自衛隊の「打撃力」強化も懸念材料だ。

 政府は昨年12月、安保法施行後初めてとなる防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」と、装備調達を進める「中期防衛力整備計画」(19~23年度)を閣議決定した。

 海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」を改修し、艦載機として米国から導入する最新鋭ステルス戦闘機F35Bを念頭に置く。事実上の空母化である。

 南西諸島防衛のために、敵の射程圏外から攻撃できる3種類の長距離巡航ミサイルの導入も明記した。

 いずれも敵基地攻撃能力の保有につながる。専守防衛を逸脱する可能性が高い。

 中国など周辺国の反発を招くのは間違いなく、軍拡競争につながりかねない。

    ■    ■

 自衛隊の任務がなし崩し的に広がり、米国の戦争に巻き込まれる。日本がそんな「戦争のできる国」に向かっていることを強く危惧する。

 安保法案は圧倒的な反対の世論や多くの憲法学者が「違憲」と指摘する中、衆参両院で強行採決を繰り返して成立した。安倍政権は憲法解釈の変更で、集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。内閣法制局は検討過程を公文書として残しておらず、検証ができないことは重大な問題だ。

 国是の専守防衛が揺らいでいる。防衛予算の膨張、米国からの武器購入の急増、急激に変わる自衛隊の任務などを国会で議論すべきだ。

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