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【社説】

<虐待なくすために>(2)辛い記憶の連鎖を断つ

 妊娠が分かった時には、住んでいる市区町村に妊娠届を出し母子手帳を受け取る。高知県須崎市では、この時に記入してもらうアンケートに「よろしければあなたの子どもの頃についてお聞かせください」という項目を入れている。

 子どもの頃、甘えん坊だったかどうか。父母はどう接してくれていたか-。虐待予防の活動をしているNPO法人「カンガルーの会」代表の沢田敬医師が作ったひな型にもとづき、県内では同様の質問をアンケートに入れている自治体も多い。

 沢田医師のもとにはかつて「このままでは子どもを殺してしまう。助けて」と駆け込んできたお母さんがいた。逆上すると子どもを風呂に突っ込んだりしていた。お母さんも子どもの頃自分の親から海に突き落とされていた。

 須崎市の保健師、西本美公子さんは「子どもの頃について『楽しくなかった』『忘れた』などに丸を付ける人は心に留めるようにしている」と言う。表情など、何となく気になるお母さんの様子も裏面に書き留める。

 もちろん、虐待された過去があってもそれを子どもに繰り返さない親も大勢いるし、虐待に至る要因は複合的だ。ただ自分が虐待されていたことで子どもへの適切な接し方が分からず、虐待につながってしまう可能性なども指摘されている。

 心配なお母さんはより手厚く支えることで、辛(つら)い記憶があったとしても、その連鎖を断ち切りたいと西本さんたちは考えている。

 出産前後の家庭訪問では、信頼関係を築くことに心を砕く。ふすまが破れている場合などはDV(配偶者などへの暴力)を疑う。貧困など育児以外の心配事も、担当部局などと連携して支える。沢田医師は「自分が虐待を受けていた人は、なかなか人を信頼できない。生まれて初めて信頼する人が保健師さんの時もある」と話す。

 自治体で働く常勤保健師の数は全国で約三万五千人。介護予防などを行う地域包括支援事業など、仕事の領域は広がっている。「新たな領域に中堅が回り、母子保健は新人が担わないといけない状況が市町村の現場で出てきている」と西本さんは言う。

 政府は、虐待のある家庭の支援や介入に当たる児童相談所の体制を強化する方針を決めている。そこまで深刻化する前の、予防のネットワークをどう築き上げていくかも議論を深める必要がある。

 

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