2018/10/31
打率、投球数などをリアルタイム表示! 「ARスマートグラス」で野球を観戦してきた
超楽しいスタジアムに「なにか」を組み合わせるともっと楽しい
スタジアムって独特ですよね。
通路からスタンドに足を踏み出すと、なんか高揚感があって。
ひいきの球団を全力で応援するのはもちろん、スタジアムならではのグルメとビールも最高。
最近はもっと進化していて、アイドルのコンサートみたいなうちわも売ってるし、専用のメイク用スペースなんかまで完備されていて、スタジアムにやってくればワクワクしてしまうものです。
そこに最先端の通信技術を組み合わせることで、さらに楽しくなるのではないか? そんな面白い試みが、10月2日、札幌ドームでの北海道日本ハムファイターズvs埼玉西武ライオンズ戦で行われました。観客の皆さんにスマートグラスをつけてもらい、目の前の野球の試合をARで体験するという「ARグラスを活用した実証実験」。
そう、スタンドでニッコニコのみなさんが装着されているのが、ARスマートグラス。レンズ自体は素通しで、フィールドでの試合の模様をつぶさに見ながら、そこにさまざまなデータが映し出されるという仕組み。たとえば打率やどのコースをよく打てるか、打者と投手の対戦成績、選手の「調子度」など。
今回、札幌ドームの試合中に行われたのは、「スポーツ×通信」=「スポーツテック」の試みで、スポーツ観戦の現場に通信テクノロジーを持ち込むことで、観戦体験の新たな価値を生み出せないか、という実証実験でした。この日はメディアだけでなく、一般の日本ハムファイターズファンのみなさんを招待し、実際にスタジアムでプロ野球のAR体験をしてもらいました。
スマートグラスでプロ野球をAR体験。 どんな景色が見えるのか?
こちらが今回の実験で使ったスマートグラス「R-9」。KDDIがアメリカ「ODG」社と共同開発したもの。
グラス越しのフィールドはこんなふうに見えます。
なお、こちらはグラスをかけた時の見え方を図にしたもの。そのため客席やフィールドまでCGになっています。
フィールドは無人ですが、実際には眼の前で行われている試合の模様が肉眼で普通に見えているわけです。
上が「スタッツモード」、下が「フィールドモード」。グラスのツルに仕込まれたスイッチで切り替えることができます。投影されているデータは……
- ①個別対戦成績(投手編)=(対決している打者に対する)奪三振数、与四球数、与死球数と、選手の本日の調子度を表す。
- ②個別対戦成績(打者編)=(対決している投手に対する)打率、安打数、打点と、選手の本日の調子度を表す。
- ③中継映像=中継映像を実況・解説音声とともに配信。
- ④ホットゾーン=1球ごとの球種・球速・ストライク/ボールと、コースごとの打者の打率を表示。
- ⑤試合テキスト速報=いまフィールドでなにが起きたかをテキスト形式で表示。
- ⑥スコアボード=イニングごとに更新。
- ⑦方向別打率=打者の打席からの方向別打率を表示。
画面上部①〜④のデータは、グラスをかけて上を向けば出現。同様に画面下部⑤⑥のデータは下を向くとグラス内に現れます。⑦はフィールドモードに切り替えることで見られます。
実際、座席からフィールドはこんなふうに見えるのですが……
スマートグラスをかければ、この画像の上下にいろいろなデータが出現するわけです。
今回、実際に体験された日本ハムファイターズファンのみなさんの声を聞くと……
- ・テレビのほうが詳細にデータを把握しながら見られると思っていたから、球場で生で観戦しながら、同じ視界の中で情報を取り込めるのがとても面白い。
- ・解説、実況中継、生での観戦と、盛りだくさんの見方ができて楽しい。
- ・球場でAR観戦が楽しかったので、友人にもすすめたい。
- ・グラスに映し出される情報の内容・機能など、面白い試みだと思うので、利用料金500円くらいからお試しでサービスをはじめてほしい。
- ・基本的にはおもしろいと思う。スマホでやってもいいかも!
……と、好感触。
普段野球をあまり見ない筆者にとっても、もう非常に新鮮な感覚。応援の熱気やカキーンという打球の音、重要な局面で一球ごとに数万人がハッと息を呑む感じなど、スタジアムで全身で野球を体感しながら、スマートグラスの中ではデータが常に提供され続けているのが、まさにライブとテレビ観戦とのいいとこ取り!
生の試合の模様と並行して実況の映像が流れ、音声が聞こえてくる。選手の情報がその場で得られるので、ピッチャーとバッターの“戦い”がより際立つ感じ。その日まで知らなかったくせに「おお、今日は松本剛いい振りしとるな!」とかイッパシのことが言えるし、面白かったっす。
スポーツ×通信でどんなことが実現できるのか?
「KDDIは近年、スポーツテックの取り組みを積極的に行っています」と語るのは、KDDI ライフデザイン事業企画本部 ビジネス統括部長・繁田光平。今回の実証実験の責任者です。
昨年12月にはサッカー日本代表のEAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会で「自由視点映像」とVRを導入。サッカーゲームでゴールシーンなど、グルッと視点を移動させながらリプレイできる機能がありますが、その自由視点映像を実際の試合シーンで見られるわけです。さらには、VRゴーグルを装着して観戦することで、自分の席以外の場所からの観戦もできるというもの。
今年6月、沖縄セルラースタジアムでの「北海道日本ハムファイターズ vs 福岡ソフトバンクホークス」公式戦では、その「自由視点」でバッターボックスの模様を、観客席毎に設置したタブレットに配信し、ライブ体験ができる実験を行いました。
また、今年7月からは「XRstadium (エックスアールスタジアム)」という、スポーツをVRで観戦できるサービスの提供も開始しています。
「普段からスポーツを楽しんでいる方がより楽しめるように、一方あまりスポーツに触れてない方でもスポーツを楽しめるきっかけになるように、通信を活用した様々な検証を行ってきました。今回の実験もその流れのひとつです。実際に体験いただいたお客様のご意見を伺いながら商用化を目指していきたいと考えています」
「今回の実験は“ARスマートグラスに様々なデータが表示される”というかたちでしたが、スマートフォンで代用することも視野に入れています」と繁田。たとえばスタンドからフィールドにスマホをかざすことで、ディスプレイ上に様々なデータが表示される、といった具合に。
システム的には、球場内に独自に無線LAN環境を構築。選手やチームのデータは、さまざまなスポーツのデータを収集・分析している企業「データスタジアム株式会社」が提供しました。中継映像と音声は日本ハムファイターズによるものを使用。KDDIは通信とアプリの開発を担当しています。
では、実際に試合を行った北海道日本ハムファイターズさんはどう見たのでしょうか?
初のAR野球観戦体験 今後はどうなる?
今回の「ARグラスを活用した実証実験」に協力いただいた、北海道日本ハムファイターズのゲストリレーション部部長・森野貴史氏は、新たなテクノロジーの導入に「意欲的」といいます。
「近年のプロ野球のお客様へのサービスのあり方として大きな流れのひとつが、いわゆる『ボールパーク化構想』です。野球を見に来るだけでなく、スタジアムに来ること自体が楽しめるような場のつくり方であったり、サービスであったり。多様化するお客様のあり方に対して、回答はひとつではないと思っています。
今回のようなテクノロジーの活用は非常に有効だと感じました。たとえば、『ARグラスシート』のようなものを設置すれば、“今度はあの席で見たい”とリピートしてくださる方もいるでしょうし、もっと単純に“あのARグラスをかけると試合がわかりやすいよね”って思ってくださる方もいるかもしれません」
新規客を増やし、コアなファンのリピート率を高めるのが重要と森野さん。そのために常にアンテナを張り、あらゆる手立てを試すことを検討しているそう。
「ARグラスで見られるデータが選択できると、もっといいかもしれないですね。野球ファンはみんな監督になりたがるんです(笑)。ある局面で、次に打つ手を考えるのが大好きなんですよ。そういう判断をするための手助けになるデータが表示できるといいのではないでしょうか。また、初めて来た人に向けて、試合を楽しむためのわかりやすいデータを提供できるといいですね」
2023年には新球場の開設を発表している北海道日本ハムファイターズ。森野さん曰く「それに向けたハード面、サービス面でのチャレンジはすでに始まっているんです」。そして、その頃には、高速・大容量、多接続、低遅延の次世代通信ネットワーク5Gの運用も開始されているはず。
KDDI・繁田もそんな未来に向けた準備に力が入ります。
「スマートグラスに表示されるデータということでいえば、応援歌の歌詞や時間帯によるトイレの混み具合、どんなビールの売り子さんがスタンドのどの位置にいるか、なんてことも検討しました(笑)。私は大学まで野球をやっていたので、個人的にはマニアックなデータが出ると楽しいんですけど、今後は人によって情報を出し分けたりしたいですね。
あと、実況もチャンネルを選べて、たとえば出身校に言及したり、芸能的な視点で選手を扱ったりと、ニーズに応じて色々なことができたらもっと面白くなると思うんです。KDDIとしては、今後も『スポーツテック』を追究していきたいと考えています。5Gの時代に『スポーツ×通信』で新しいなにかを成し遂げたいですね」
5Gはいよいよ2019年より運用予定。高速・大容量、多接続、低遅延という通信の圧倒的なパワーを日常のさまざまなシーンと組み合わせることで、どんなワクワクが生まれるのでしょう。
文:武田篤典
写真:稲田平
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