続いて文法の勉強はどうだろうか。文法は参考書や教材などで規則を覚えるのが普通の勉強法だが、このやり方では不十分だ。 私たちは言語の法則を単純化し、整理して覚えれば効率よくマスターできると思いがちだ。しかし参考書や教材に掲載されている文法は一部にすぎず、それらを覚えても英語を上手に使いこなすようにはならない。 わかりやすい例は、aとtheの使い方だが、一般的にはaは単数で数えられるもので、theは特定のものやすでにあるものを指すときに使われる。しかし、実際にはそれですべて説明できるものでもない。 例えば、脳の場所などの解剖用語で、基本的にtheをつけてはいけないが、そういう細かいルールは文法書には書かれていない。言語というのは文法のレベルでは捉えきれないもの。極めて奥が深い自然法則で成り立っているのだ。 では、文法書に書かれていない文法を身につけるには、どうすればいいのか。 長文や会話の中で、その状況を含めて丸ごと暗記するのがいい。昔からよく言われることですが「習うより慣れろ」が一番なのだ。 リスニングにも、脳科学的におすすめできない勉強法がある。聴き流すだけリスニング教材のスピードラーニングのように、英文を見ないで音だけをわかるまで繰り返し聴くやり方だ。 脳が英語として理解できない音を繰り返し聴いても、途中からそれを理解し始めることはない。日本語と根本から異なる英語の音声をリズムの連なりとして聴かなければ、リスニングの上達を妨げるので注意が必要。脳は、繰り返された情報は大切なものだと勝手に認識する性質を持っている。そのため、聞きとれない音のままで繰り返し聴くと、それが間違ったまま定着してしまい、かえって正しく聴きとることができなくなるのだ。 聞きとれないものを背伸びして聴くのが危険だとすると、リスニング力がおぼつかないのにスピードラーニングやCNN、BCCなどの海外ニュースを聞き流すだけではそもそも効果がないということになる。 それよりも、きちんと聴きとれるものを繰り返し聴く、あるいは聴きとれないものがあったら文字で確認してから再度聴く、というのが合理的な勉強法なのだ。 今紹介した効果的な勉強法なら、はたしてどのくらいで自分の脳を英語にチューニングできるだろうか。それを考えるには、まず省エネ脳について話す必要がある。 世間一般的に、脳が活性化するほど頭は上手く働いている、というイメージがある。しかし、そのイメージは実は正しくない。 脳は、言語の基本的な処理をする文法・読解・語彙・音感の4つの部位がある。英語の習熟度の低い人に英語の文法問題を解かせたところ、脳を赤外線カメラで見ると、文法の部位を中心に他の部分の活動も活発になる。しかし、英語習熟度の高い人に同じ問題を解かせると、文法の部位がわずかに活動しただけだ。 これは、英語力がある人ほど、脳をあまり使わなくても英語を処理できるようになったということが言える。つまり、脳は省エネ運転をするようになるわけなのだ。 意識することなく自然に英語を読んで話せる省エネ能に切り替わるまでに、およそ5年かかるということがわかってきている。一方、日本人の母国語である日本語から言語構造的に遠い英語やフランス語を仕事で使えるようにまで読めて話せるようになるには、約2500~3000時間の学習が必要だというデータがある。 短期間の勉強で英語棒に切り替わらないことは確かだが、継続的に勉強するために、モチべ―ションを維持する工夫も必要になる。 例えば、ミステリー小説好きの人なら英語で書いているミステリー小説も読むだろう。ゴルフが好きな人なら日本語字幕なしでも英語のゴルフ中継を見る。つまり、自分の好きなものを教材にすると続けやすいのではないだろうか。ただ、そもそも続けることにこだわりすぎないほうがいいと思う。伸び悩んだら、一息入れて休むこと。行き詰っているときは、時間をとって寝かせたほうが能も情報を正しく処理できる。英語の勉強に行き詰っても、それを挫折と考えず、気楽に構えてほしい。 |