憲法改正 9条より教育無償化が障壁? 国民は負担増が嫌い 自民党内に「外国の留学生も対象に…」の心配の声も

安倍政権考
日本青年会議所の会合に出席し、憲法改正への意欲を重ねて表明した安倍晋三首相=23日、横浜市
日本青年会議所の会合に出席し、憲法改正への意欲を重ねて表明した安倍晋三首相=23日、横浜市

 「私が5月に憲法改正について発言したのは、自民党、政権与党、第1党として、その責任を持って憲法の議論を深めていく。そして自民党として多数派形成が可能な案を具体的に出すべきではないかという思いでした」

 安倍晋三首相(62)は7月23日、横浜市の国際会議場「パシフィコ横浜」で開かれた日本青年会議所主催の「サマーコンファレンス2017」に出席し、青木照護会頭との対談で憲法改正の実現に改めて意欲を示した。東京都議選の自民党惨敗、内閣支持率の急落など逆風が吹き荒れる中だが、首相はこれまでの主張どおり、秋の臨時国会に与野党各党がそれぞれ改憲案を示し、積極的に議論を進めるべきだとの考えも示した。

 自民党総裁として首相が掲げた改憲案で、野党の一番のターゲットとなっているは9条1、2項を維持した上で自衛隊を明記する案だ。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が7月22、23両日に実施した合同世論調査では、9条を維持した上で自衛隊の存在を明記することに対し賛成が55・3%、反対は31・3%と賛成派が多数を占めた。しかし、「反戦平和」「子供たちを戦場に送るな」といった情緒的な反対論は一般の国民に分かりやすく、実際に憲法改正の国会発議や国民投票を行うことになった際にこうしたキャンペーンが繰り返されれば、反対派が勢いづくことも予想される。

 ただ、政府・自民党内では「9条改正よりも教育無償化の方が、実は反対が多くなるのではないか」(首相周辺)との見方が浮上している。首相は憲法9条の改正に加え、高等教育を含む教育無償化を憲法に明記する「9条とセット」を考えているためだ。

 厳しい財政状況の中、教育無償化の財源捻出のための負担増は避けられず、教育無償化による家計への影響を気にして憲法改正に反対する人が続出するかもしれないというのだ。

 教育無償化に必要な財源の規模は無償化の対象の範囲によって異なるが、自民党内の議論では、幼児教育から大学までの無償化に年間5~10兆円程度は必要との意見が出ている。消費税率に換算すると2~4%分となる。

 教育無償化の恩恵を直接受ける人は基本的に子育て世代に限られるため、こうした大幅な負担増を国民全体が受け入れられるかは心許ない。自衛隊の存在が9条に明記されても普段の生活は変わらないが、教育無償化が庶民のおサイフを直撃するとなれば、なかなか素直には賛成できないという人は多いだろう。

 こうした状況を懸念し、教育無償化の財源として使途を教育に限る「教育国債」の創設が有力視されている。借金を返済するのは後世の世代になるため、現世代の負担増はとりあえず必要ない。首相も23日の対談で「教育についての借金はどうかという議論が自民党の中にあります。さまざまな議論がある中において、大いに人材育成、人への投資の議論、財源論を深めていきたい」と述べ、教育国債を財源の選択肢として排除しない姿勢を示した。

 教育国債をめぐっては、インフラが残る建設国債と違い、「単に後世代に借金のツケを回しているだけ」(閣僚経験者)との批判も根強い。教育無償化で学んだ世代がもくろみどおりに活躍して経済成長や税収増を生み出してくれるかは、実際にやってみなければ分からない部分がある。

 また、高等教育の無償化については「海外からの留学生も対象にせざるを得ず、日本国民の税金が中国など外国の人材育成のために使われてしまう」(自民党中堅)との指摘も出ている。

 自民党内には「教育無償化を掲げる日本維新の会を引きつけるために今は改憲項目に挙げているが、いずれ取り下げることになるだろう」(政調幹部)といった見方も少なくない。8月1日に自民党の憲法改正推進本部で教育無償化の議論が行われる予定だが、意見集約は容易ではなさそうだ。(政治部 桑原雄尚)