機動警察パトレイバー2
the Movie





※NOTICE※
この声劇用台本は、ある程度本編映画を見てるなら解るだろうなって書き方をしてあるので、
一度本編をご覧になることを【強く】推奨致します。





警視庁警備部特科車両二課第一小隊

南雲しのぶ

警視庁警備部特科車両二課第二小隊(初代)


泉野明(1号機:通称アルフォンス搭乗フォワード。篠原重工技術開発部へ異動)←誰か正式名称教えて下さいw
篠原遊馬(1号機:バックアップ。篠原重工嫡男にして、泉を引き入れた張本人?)
太田功(2号機:フォワード。猪突猛進な脳筋男だが、階級に滅法弱い。異動後は教育学校で新人にスパルタ教育。)
進士幹泰(2号機:バックアップ。異動後は本庁:警視庁の総務課長に栄転。)




現・警視庁警備部特科車両二課第二小隊(二代目)(・は初代から居残り)

・後藤喜一(隊長)(かつて本庁ではカミソリ後藤という異名で有名だった小隊長。敢えて昼行燈を演じている。)
・山崎ひろみ(搭乗志望であったが巨漢な体格故にレイバー移送トレーラーの運転手に配属。土いじりェ…)
新人(隊長探してた若者)

警視庁警備部特殊車輛2課整備班

榊清太郎(整備班長。AV―98式イングラム整備の神様。)
シバシゲオ(斯波繁夫)(神様の愛弟子、飄々としているが、ウデは確か。)

警視庁刑事部捜査二課警部補

松井孝弘(松井刑事)(現場大好き。小隊長となった後藤が一番に頼る位には信頼されてはいるものの、
           松井自身は毎度使い走りさせられるので早々に縁を切りたいと考えている。)

陸幕調査部別室

荒川茂樹

主犯

柘植行人(告げ行く人の文字りから。)
――――――――――――――――――――――――――――(以下被り推奨)
PKF

ゴング(以下G)隊・乗員(冒頭のみ)

G0(柘植の乗る指揮官機に同乗した操縦手)
G1
G2(索敵)

OS(L.O.S.)(OPのみ)

シス


・試験場アナウンス♂
・試験場アナウンス♀
・篠原整備班
・整備員(特車2課)
・ブチヤマ
・訓練生(with 太田のところ)
・教官(上に同じ)(甲子園~)
・機動隊長(宮仕え~)
・同期1(レイバー技術専門:柘植学校の同窓生。茶色の背広を着用。空気読めていない方)
・同期2(柘植学校同窓生。青背広の七三眼鏡。)
・本橋(交通機動隊。通称:ロードランナー本橋)
・キャスター1(NHK壮年)(横浜ベイブリッジ爆破)
・キャスター2(新人女子アナ)
・キャスター3(妙齢女子キャスター)
・キャスター4(若いバラエティ畑っぽい男性)
・キャスター5(1と4の間ぐらい。男性)
――――――――――――――――――――――――――――(英文なので読めない場合はオミット可)
・SSNレポ(レポーター/外国人・黒人男性)
・SSNアナ(キャスター/外国人・白人女性)
――――――――――――――――――――――――――――(英文なので読めない場合はオミット可)
・海法(警視総監。元警視庁警備部長。小さな目とタラコくちびるが特徴的。
    後藤曰く「タヌキ親父」。特車二課を「金食い虫」と名付けたのは彼らしい。)
・山寺(警視庁警備部長。それ以前のポストは不明。
    劇場版2では無断行動をした南雲を詰問するが、逆に南雲から政治的策謀を追及され憤慨した。
    イメージ的には海法の腰巾着である。)
・編集(松井刑事が戦闘機の映像を取りに行った映像製作所に居た編集スタッフ。
    徹夜続きで覇気のない根暗な声。)
・中空SOC指令
・中空SOC副指令
・中空管制官
・三沢(みさわ)/三沢管制隊(3空)
・中空管制官男
・W3(ウィザード03)
・P21(プリースト21)
・オペ男1(中空SOC)
・オペ男2(中空SOC)
・コンビニ店員
・成A
・成B(冗談じゃねぇ~)
・成C
・成D(無茶しやがる~)
・成ア
・警察(横断橋爆撃の報告で飛び込んで来た人)
・警ヘリ
・SWAT
・学生1(柘植学校)
・学生2(柘植学校)
・陸自1(ヤタガラス)
・陸自2
・戦車兵1
・戦車兵2
・駅員
・主任
・電1
・電2



戦争という状況下に置かれた東京を舞台に、
この「状況」を演出したテロリストを逮捕するため、
特車二課第2小隊最後の任務が始まる。


0:00:00 PKOレイバー隊壊滅

 1999 東南アジア某国


 現地の武装テロリストより攻撃を受けるゴング隊。
 柘植の乗る指揮官機(ラーダー)が度重なる銃撃を受け、
 遂に後退が止まる。

 (BGM:ASIA)

G0「2番と4番、それに5番脚が損傷。走行不能です」
柘植「残りの脚で車体を戻せるか」
G0「やってみます」

 残された足で何とか水平を取り戻す指揮官機。
 その前方、約百メートル。三機の国連所属レイバーが見える。

柘植「ゴングゼロより各車。後方に地雷原。その場で停車せよ」
G1「ゴングワンより指揮車。前方に目標多数、接近中。目標小隊規模、なお増加中」
G2「警戒、右方向に熱源反応」
G1「方位マル・ヨン・マル、移動目標」
G2「距離、ひとふたまるまる、移動目標多数。装甲車らしき熱源反応。RPGの射程に入ります」
柘植「ゴングより本部。当該勢力の脅威、更に増大中。発砲の許可を要請する」

本部「交戦は許可できない。現在、カナダ隊がそちらへ急行中。繰り返す。交戦は許可できない。全力で回避せよ」
柘植「回避不能。本部聞こえるか!」
G2「前方よりRPGらしき熱源」

G1「イジェクト不能!」
G2「前方よりさらに熱源!なおも増加中!」
G1「脱出できません!!」

 前方の戦車からRPGが無数に迫りくる。

G1「隊長ぉおおおおおおお!!」

 前方の三機との音信が途絶した後、
 柘植の乗る指揮官機目掛け、1発のRPGが飛来する。

 カメラ・引き。
 着弾した爆音が遅れて聞こえてくる。

 間

 幾許経ったのか、雨が降る中。
 唯一生き残った柘植が、上部ハッチをあけて立ち上がる。
 負傷した右腕に変わり左手でヘルメットを外し、
 右眉から出血するのも構わず
 その場に立ち尽くす。

 徐に振り返れば、ブロックが積み上げられ
 人の顔を模した像があった。



0:03:42 タイトル。篠原重工、野明、遊馬

 (BGM:Theme of Patlabor 2)







機動警察パトレイバー2
―――――――――――
the Movie






Welcome to L.O.S.





LABOR OPERATING SYSTEM
- Version 0.98・β -



篠 原 重 工 株 式 会 社
――――――――――――――
Shinohara Heavy Industry Co.

[STL]tukuba 2002 Feb/14




シス「ブート、オーケー」



原作  ヘッドギア




シス「システム、ノーマル、タイプ、XL、スタンバイ」



脚本  伊藤和典




野明「システム、起動終了」
遊馬「よォし。視覚操作モードに入れ」
野明「了解」


 野明、開発用シミュレータに搭乗し、操作を開始する。


野明「視覚調整よし」



 キャラクターデザイン
  高 田 明 美
  ゆうきまさみ

         メカニックデザイン
              出 渕   裕
              川 森 正 治
              カトキハジメ




野明「下方視界よし。…背面視界よし」

 野明がカメラから得る視界に
 次々とCGで世界が広がって行く。
 ・・・と、そのCGを割って管制室
 もっと拡大され遊馬の顔が映る。
 やや苦笑気味に、牽制球。

遊馬「コラ、遊びじゃないぞ野明」



 演出  西久保 利彦

 作画  黄 瀬 和 哉

 撮影  高 橋 明 彦





 野明、指先に填めたマニピュレータ接続の具合を確かめる。



美 術  小 倉 宏 昌
色彩設計 遊佐 久美子

            レイアウト 渡 部  隆
                  今    敏
                  竹 内 敦 志
                  水 村 良 男
                  荒 川 真 嗣



野明「オートバランサー正常作動。下方視界良好。・・・前方、障害物なし」



 音楽  川 井 憲 次  

 録音  浅 梨 なおこ  

 編集  掛 須 秀 一(JSE)




 遊馬、システムを弄って野明の進行上に猫を出現させる。
 それを察知して制動を掛ける野明。



エグゼクティブ・プロデューサー
          山科  誠
          植村  徹


                プロデューサー
                     鵜之沢  伸
                     濱 渡  剛
                     石 川 光 久





遊馬「よォし、上出来だ野明。リセットしてもう一度はじめからいくぞォ」

野明「了解」





 監督  押 井   守




 (BGM:Theme of Patlabor 2)終わる。(長く残っている場合はF/O)
0:05:55 オープニング終了

 試験機体の中から、篠原のツナギを身に纏った野明が降りてくる。


試験場アナウンス♂「状況終了。状況終了」

 間(篠原の整備担当と何言か言葉を交わす野明)

試験場アナウンス♀「整備班長は点検終了後第2ブースに連絡して下さい」

篠原整備班「お疲れ」

 篠原の工場内を、MTBに二人乗りで移動する二人。
 ここでは遊馬が操縦、野明が後輪に足を掛け立っている。


遊馬「装備課から出向して3ヵ月か。大分慣れたみたいじゃないか」

野明「ぜぇんぜん? 遊馬も被ってみればいいんだよーあのギア」

遊馬「試したさ」

野明「それで?」


遊馬「背中や腹の下に目が付いてるみたいで気持ち悪い」

野明「でしょ。どうして今までのシステムじゃいけない訳?」
遊馬「レイバーのインターフェイスとしてはあれが理想なんだ。
   地底、水中、宇宙空間。 アイボールセンサーだけじゃ追い付かないんだよ」

野明「何それ」

遊馬「目玉だよ。肉眼」

 遊馬が片手を目に近づけ操縦が怪しくなりコケかける。
 が、すんでで持ち直す。

遊馬&野明「ゎあぁ!」



遊馬「それにな。このチャリにしたって、発明された当時は教習所があったんだぞ?
   自動車がレーサーだけのもんじゃなくなって何年経つ。人間何にだって慣れちまうもんさ」

野明「でもねぇ!」
遊馬「分かった分かった。じゃあ気分なおしに例のとこ行こう。な?」

遊馬「お邪魔します」

篠原整備班「おう。また来たの?」

野明「こんにちは」

  遊馬&野明、アルフォンスの前に立ち、
  ただただ、言葉も無く見上げている。 (偶に工具音※遠め)
  野明、徐に口を開く。


野明「つい1年前なんだよね。これに乗ってたの」
遊馬「ああ。実際あっという間だったな。今となっては、こいつもデータ収集用の実験機だもんな」

 遊馬、野明を一瞥。

遊馬「なあ、乗ってみるか」

 野明、僅かに驚き、
 遊馬を一、二秒見て視線を戻す。

野明「まさか・・・」
遊馬「どうして」
野明「うまく言えないけど、・・・もういいの。
   ・・・さあ、行こう。急がないと食堂また混んじゃうよ?」
遊馬「おおっと、そうだった。飯々っ、と」

 野明、振り返りざま足が止まり、
 アルフォンスに視線を戻す。

遊馬「どうも。お邪魔しました」

篠原整備班「おう」


 頭部通信アンテナの穂先に、一羽の尾の長い小鳥が留まっていた。


0:08:07 訓練校、太田、佐久間、進士

 一人の訓練生がレイバーに乗って、
 マニュアル操作で動く標的を狙うが、
 三発撃って全て外れる。

太田「スカ! どこを狙って撃ってんだこのボケ グランド5周!
   コラ! 間壁に糸井、手ェ抜くんじゃねえ 直線は全力疾走せんか!
   ダッシュダッシュダッシュ、何を、ヘラヘラしとるか北山 貴様だけ5周追加だ!
   よおし次行け!」

訓練生「はい!」
太田「コラ小倉(おぐら)! グランドに汚ねえ反吐(ヘド)をぶちまけるな 貴様も5周追加だ!」

訓練生「教官!質問」

太田「何だ!」

訓練生「あの、何故マニュアルで操作を。
    FCSを使用してロックオンすれば、98パーセントの命中率と聞いておりますが・・・」

太田「そのFCSが、故障したらどうする・・!」

訓練生「はあ? でもレイバーによる警備活動はペアーが原則ですし」

太田「その僚機が、行動不能だったら・・!」

訓練生「いやしかし、そんなケースは万に一つの・・・」
太田「その“万に一つ”に備えるのが、俺達の仕事だろうが、このボケェェ!!
   グランド20周、行け!」

教官「まあ面倒見はいいし真剣だし、よくやってるとは思うがなァ」

太田「気合を入れてけ、射撃用意!」

教官「甲子園に行く訳じゃねえんだからよ」

太田「標的出せえい」

教官「気合いだの根性だの喚いてみたって、今日々(きょうび)の若え奴が付いてきやしねえぜ・・・」

太田「このヘタクソ! どけ、俺がやってやる!」

教官「ついでと言っちゃなんだが、折角こんなとこまで足運んでくれたんだ。
   本庁の総務課長として、あんたからも言ってやってくれや」


太田「いいか!射撃は瞬発力と集中力の勝負だ!根性を入れて撃てば必ず当る!標的出せぇい!
   喰らええぇぇ!」

 太田の放った弾丸が、一発で見事
 標的に命中する。
 周囲の訓練生から「おぉ~」の声。

太田「まだまだァ!!」

 太田、銃を左手に預け、左腕に収まっていた特殊警棒を手に
 射的にレイバーで猛進し、
 逆手に持ち替え射的の装置を“破壊”。

太田「見たかァ! 初弾が当ったからって気抜くんじゃねえ 止めを忘れるな止めを!」
進士「何やってるんですか太田さん! 苦しい予算の中から調達した備品を、何だと思ってるんです・・!
   ただちに降車しなさい!」


0:10:24 特車2課、シゲ、ひろみ、後藤

新人「隊長ー」

新人「すいませ~ん、うちの隊長見かけませんでした~?」

整備員「班長。後藤さん見かけなかったか、って」

シバ「ああ? 後藤さんがどうしたってぇ?」

整備員「後藤さん捜してるんだって!」

シバ「さっき裏の方へ行くのを見たぞォ」

新人「どうもぉ」


 特車二課の新人、レイバーの整備工場の裏手に出た場所にある
 小さなビニールハウスに向かう。
 そこでは、山崎ひろみが農作業をしていた。


新人「山崎先輩、隊長見かけませんでしたぁ?」

ひろみ「ああ、倉庫から竿を持ち出してたから、多分岸壁ですよー」


新人「隊長ー!」

新人「隊長」

 新人、後藤が釣りをしている堤防へ駆け寄ってくる。

後藤「どした?」
新人「課長代理から連絡が入りましてぇ、帰隊時刻が多少遅れるそうです」
後藤「会議押しちゃったのかなぁ、それとも渋滞?」
新人「さあ、そこまでは」
後藤「あっそう」

 新人、何やら言いたげに手を後ろに廻したまま
 その場に待機している。

後藤「どうしたの」
新人「あのー、定刻を過ぎましたのでぇ、第1小隊に待機を引き継いで帰宅しても・・・」
後藤「そりゃいいけど、南雲さんがまだ戻らんしなァ」
新人「やっぱ、まずいですよ、ね」(残念そうに)

後藤「でも、 ま、いいか」
新人「いいですかね!」(うれしそうに)
後藤「いいんじゃないの?俺も残ってることだしさ」

 後藤の誘い笑いに新人もつられて笑う。

新人「第2小隊、待機任務終了。明ひとふたまるまるより、準待機に入ります」
後藤「はい、ご苦労さーん」
新人「じゃ、失礼しま~す」
後藤「まったね~・・・・」


 後藤、新人が見えなくなるまで笑顔で手を振るが、
 その後仮面を捨て、吐き捨てる。


後藤「いい訳ないじゃないの」


0:12:04 警視庁、南雲

南雲「これは昨年終了した首都圏湾岸開発計画、バビロンプロジェクトの工程と、
   レイバーの稼働状況を表示したものですが、
   本計画の中枢をなしていた、川崎木更津間の大突堤の完成から、その稼働数は減少の傾向にあります。

   その一方、大阪国際空港第2次拡張計画など、地方都市での工事計画の開始ともあいまって、
   レイバーの拡散の傾向がみられ、
   レイバーによるトラブルや犯罪も、各地で増加しつつあります。

   これに対処すべく、大阪府警、神奈川県警は、昨年レイバー隊を新設。さらに愛知県警、宮城県警、
   千葉県警の交通機動隊についても現在設置を検討中であります。次に」


 演説を終え帰途の南雲、

同期1「南雲さん」


 閉じようとするエレベーターに背広を着た二人の男が滑り込む。


南雲「誰か来てるとは思ってたけど、それにしても久しぶりね」

同期1「そりゃないだろぉ? 何度誘っても、埋立地に篭もって出て来やしないくせに」

同期2「警部昇進に次いで、課長代理だって?」

南雲「何を聞いてたの?特車2課そのものが本年度中にも改編される。それまでのつなぎよ」

同期2「昇進は昇進さ。遅すぎた位だよ」

同期2「ところでどうかな、今夜柘植学校の卒業生が集って一席設けるんだけど」

同期1「技本(ギホン)の、渡部や田中も来るんだ。
    今度こそ引っ張って来いって厳命でね」

南雲「悪いけど今日は遠慮させて頂くわ」

同期1「そんな・・柘植さんとのことならもういいじゃないか」

同期2「おい」

 南雲、心を落ち着けるかのように
 夕暮れに差し掛かった街並みを、
 エレベーターの硝子越しに見ている。

南雲「どの位になるのかしらね」

同期1「PKOから戻った柘植さんが行方不明になってから3年か
    ・・・ねえ、柘植さん、君にも何にも言わずに・・・」
同期2「おい、いい加減にしろ・・!」
南雲「一度だけ、帰国した直後に手紙を貰ったわ」


 エレベーター、1階に着く。
 エレベーターでの空気を払拭するよう数歩歩いた後、
 一度振り返る。

南雲「本当に御免なさい。今夜からうちの小隊が待機任務なのよ。皆によろしく伝えて」


 南雲、敬礼すると、
 踵を返し、去ってゆく。


同期2「お前が無神経すぎるんだよ・・・」

同期1「警視庁きっての才媛と言われた彼女の、ただ一つの傷か」


0:14:20 横羽線車中、南雲


 南雲、車内電話を使って特車2課に連絡を入れる。
 ハンズフリーで、
 表示はフロントガラスに速度計と共に表示されている。
 (SE:発信音2回)

シバ「はァい特車2課」
南雲「シゲさん?南雲よ?ようやく終わったわ、そちらの状況は?」
シバ「出動要請もなし。静かなもんです」
南雲「後藤さんいるかしら」
シバ「呼びます? ちょっと時間かかるけど」
南雲「あの人も携帯電話の必要な人ね・・。いいわ、今横羽(よこはね)線に乗った所だから渋滞がなければ15分程でそ・・
   ・・・早速捕まったわ」
シバ「ご愁傷様。まあ留守は任せて、ゆっくり戻って下さい。それじゃ」

 通話が切れる。
 渋滞情報を車備え付け端末で呼び出す南雲。
 どうやら横浜ベイブリッジ全体に通行規制が出されているようだ。

 と、そこにタカアシガニの様な交機のレイバーが
 サイレンを鳴らし、渋滞車輛を跨ぐ様にしてやってくる。

本橋「こちら、神奈川県警交通機動隊です。レイバーが頭上を通過します。
   危険ですので車から降りたり、ドアの開閉は行なわないで下さい。こちら、神奈川県警交通機動隊です」(F/I)
南雲「移動中のロードランナーへ。こちら、警視庁特車2課の南雲警部。応答願います」
本橋「こちらは交機201(にいまるいち)。南雲隊長ですね。研修でお世話になった本橋(もとはし)です。どうぞ」
南雲「任務中失礼します。橋の両岸で通行規制の様ですが状況を説明願えますか?」
本橋「ベイブリッジに違法駐車している車に爆弾を仕掛けたと通報がありまして、
   橋の通過を全面規制。えー現在処理に向かうところです」
南雲「了解。交信終わり。どうもありがとう」

 爆処理レイバーもタカアシ型。南雲の頭上を、交機レイバーに続く。


南雲「(自分以外の外界への緊張を解くような大きく短い溜息)」

 窓を開け、ベイブリッジに目を遣る。
 黄色い飛行船が1基見える位で、
 何ら変わらない日常しかなかった。

0:16:07 ベイブリッジ爆撃

 尾翼しか見えない飛行機であろう機体から放たれ、
 水上を遡上してくる一基のミサイル。
 標的はどうやら例の車輛のようである。(SE:継続的な電子音)

 200mほど手前で高度を上げ、(ホップ)
 50mほどからロック音。(SE:ピーーーーー)

 弾着。(SE:爆発音)

 (SE:ガヤ)

 南雲、黒煙が反射するフロントガラス越し、
 驚愕のあまりか、表情は強張っている。

0:17:15 報道番組

キャス1「今日午後5時20分頃、高速湾岸線の本牧と大黒埠頭を結ぶ横浜ベイブリッジで、
     大規模な爆発がありました。死傷者の数など、詳しい情報はまだ入っておりません」
キャス2「高速湾岸線はベイブリッジ爆発直後から全面通行止めになっています」
キャス3「爆破予告の電話により、ベイブリッジは事故当時交通規制が布かれていました。
     警察では予告電話の犯人の割り出しを急ぐ一方、一連のテロ事件との関連を調べています」
キャス1「爆発の状況とその規模から見て、大掛りなテロとの見方が強まっています」

キャス2「午後10時を回った現在も、首都高速横羽線の・・・」
キャス4「(かぶせ)大掛りなテロとの見方が強まる一方、
     事故発生時に、ベイブリッジ周辺で、ジェット機の爆音を聞いたという複数の情報も寄せられており、
     警察当局は、その裏付けを急いでおります」
――――――――――――――――――――――――――――(英文なので読めない場合はオミット可)
SSNレポ「...explosion or bombing. It is now eleven a.m. in Japan,
      six hours since the blast occurred, and the area is still gripped in an atmosphere ―
― of utter confusion.」

SSNアナ「At this point we'd like to show you this one shocking scene from a home video tape.」
――――――――――――――――――――――――――――(英文なので読めない場合はオミット可)


 ベイブリッジ爆破当時、
 偶然居合わせたハンディカメラの映像が流れる。


0:18:24 一瞬黄色い飛行船が見切れ、F・16機影まで拡大

キャス1「SSNが入手した映像を専門家が分析した結果、
       この機体は、米国製の、F・16の機体をベースに、独自の改良を加え、1998年に実戦配備された、
       航空自衛隊の支援戦闘機、F・16Jであるとの見方が有力となってきました。
       同機は、青森県三沢の 第3航空団の2個飛行隊をはじめ、全国で130機が配備されており、
      (航空自衛隊では事故当時の各機の所在の確認を確認しています)」
キャスター3「(かぶり)横浜ベイブリッジ爆破事件と自衛隊機の関連について、防衛庁は、
       自衛隊内には該当する機体は存在しないとの声明を発表しました」
キャスター5「ベイブリッジ爆破事件で様々な憶測が飛びかうなか、
       自衛隊機の関与があったか(どうかに論議が集中しています)」
キャスター1「(かぶり)防衛庁はいわゆる横浜ベイブリッジ爆撃事件で、
       自衛隊機の関与を繰り返し(強く否定しています)」
キャスター3「(かぶり)ベイブリッジ爆撃事件に関して、政府は、特別調査委員会を設置し、
       真相の解明に全力を尽くすとの見解を(示しました)」
キャスター1「(かぶり)この時間は番組を変更して報道特別番組をお送りしております」


0:19:26 ビデオ制作会社、松井刑事

 渋滞する大通り。松井刑事がチンクエみたいな小型車で移動している。
 並走するトラックの足が僅かに早い。
 トラックにはマメハチドリが描かれている。

 松井刑事、車中で携帯電話を持って話している。


松井「で、目撃者の一人が機材に書かれたそちらの名前をおぼえていましてね」
編集『おかしいなァ』
松井「は?」
編集『・・・いや確かにあの時うちのスタッフが撮影してましたよ?ベイブリッジ。
   でもそのテープはもう証拠品として提出済みですけどねェ・・・』

 直前のタクシーが停車したのに気づき慌ててブレーキ。

編集『・・・あんた、本当に警察の人?』

 電話相手のいる映像制作会社に松井刑事と編集スタッフらしき姿。
 

編集「昨日の2時頃だったかなァ。しかし妙な話だね~?」(しかし~苦笑い)

松井「どこの署の者か、名乗りませんでしたか?」
編集「いや?あんたとおんなじ位本物に見えたけどね」

松井「ビデオを押収する際に、何か書類は」

編集「そういうやりとりは発注元とやったらしくて。あたしが見たのはクライアントからの指示書だけでね。
   ・・・ま何だって言うなりだからねうちは下請けだから」
松井「コピーとか」
編集「(失笑)
   オリジナルすら満足に保存できないのに?
   マスターを納品したら素材は全て潰してしまうのが現状だから」

松井「ところで、テレビで放映した、例のF16の映像、あなたも見ました?」
編集「嫌んなるほど見たけどそれが何か?」

松井「押収されたテープ、あれよりは鮮明なんでしょうなァ」
編集「そりゃハイビジョンだからね。ホームビデオとは違うよ」
松井「何か映ってましたか」


松井「爆破の瞬間はあったわけでしょう?」
編集「瞬間というか、ま、直後のもんだね」
松井「あんた見たんじゃないの?その目で」
編集「そりゃ見たさ何度も何度も私が編集したんだから。
   ・・でも納期も迫ってたし、使える絵を探しただけで?“何か映ってないか”と思って見てた訳じゃないからね。
   映ってると知ってりゃ見えただろうけどさ」


 約十四秒:編集、
 鳥の羽ばたく短い映像を繰り返し見ている。


編集「もしかしたら、何か映ってたのかもしれないな・・・」



0:21:42 特車2課隊長室、後藤、南雲、ひろみ


後藤「なるほどぉ?そりゃあ確かに気になるわなァ。うん。頼むわ。面倒かけちゃってェ悪いんだけど。
   ・・え? またまたァ、精神的にお返ししますって。ほんじゃあまた」

 電話を切る直前、机に座っている南雲と目が合う。
 表情も硬ければ眼光も後藤を射抜かんばかりである。

南雲「松井さんね」
後藤「んー、うん。しのぶさんによろしくってさ」(やっと受話器を置く。)
南雲「後藤さん?」(優しくて怖いお澄まし声)
後藤「はい?」(何かを察知:心なし上ずる)
南雲「また松井さんと組んで何を始めたか知らないけど、動く時は一言言って頂戴。
   裏でこっそりってのはなしにして」(優しくて怖いお澄まし声)

後藤「それって課長代理としての命令?」
南雲「命令なんてしたくないわ?同僚としてのお願い」

後藤「お願いじゃあ聞かない訳にはいかないか」
ひろみ「失礼します」
後藤「おう」
ひろみ「あのー、隊長にー、お客さんなんですが・・・」
後藤「隊長二人いるけど、どっちの」(↑どっ↓ちの)

ひろみ「さあ」

後藤「誰なの」(↑誰↓なの)

ひろみ「・・・さあ」

0:22:42 特車2課隊長室、荒川、後藤、南雲

後藤「“陸幕調査部別室”、の荒川さんねェ。住所も電話番号もないんですねぇ」(読み慣れない感じで)
荒川「まあ色々不都合がありまして」
後藤「で、ご用件は?」

荒川「本題に入る前にちょっと見て頂きたいものがありましてね?」

 荒川、ブリーフケースからVHSカセットを取り出す。

荒川「これなんですが」

 荒川、背後のオーディオ機器に目を遣る。
 背後を向いたまま、

荒川「お願いできますか」

 後藤、南雲を見る。
 その視線を察知して南雲、小さな溜息。

 南雲、カセットを挿入する。
 放送試験用カラーコード(SE:ピーーー)の後、
 カラオケらしい映像が流れる。

┌―――――――――――――――――――┐
|思ひ出のベイブリッジ         |
|                   |
|                   |
|          作詞/雄 鹿 美 子 |
|          作曲/川 井 憲 次 |
|          編曲/川 井 憲 次 |
└―――――――――――――――――――┘


 歌はないが(流れ流れひとり~)のすぐ後、

南雲「このテープでいいんですか?」
荒川「いいんです。これで」
後藤「この曲俺歌えるわ」
荒川「まあこの辺はどうでもいいんですが。・・歌いますか?」
後藤「マイク、ないんだよね?」
荒川「じゃ飛ばします」(SE:ピッ)

 約五秒:飛ばし。

荒川「この辺です」
後藤「惚れて惚れて、泣いて泣いて?」
荒川「いえ、その後です。ああ、雨に濡れながら。・・ここです」
後藤「・・どこ?」
荒川「ほら、右上の。この雲の切れ目のとこ」
後藤「ん? んん? ん?」
南雲「どこ? あたしには見えないけど」
荒川「ここですよここ! この黒い鳥みたいな影!」


荒川「後藤さんはもうお分りの筈だ」
後藤「このすぐ後に、ベイブリッジが吹っ飛んだんだ」(南雲・息を呑む)
荒川「これを踏まえた上で、もう一本のテープを見て頂きたい」

 別のビデオが入れられる。

荒川「改竄の余地のないよう作業の過程を全て収録してあります」

 約五,五秒:カラオケ制作中に映像を拡大すると
       例の戦闘機の機影が写っている。

荒川「デジタル技術の驚異って奴ですな」(件の機影が拡大される。)

 約五秒:

荒川「分かりますか?」(鮮明に解像度処理がなされていく。)
後藤「あんまり詳しくないんですが、放映された例のビデオの奴とは形が違うような」
南雲「そういえば」

荒川「これでどうです」(機影が左右反転される)


荒川「左が今見たビデオのもの。そして右がテレビで放映されたもの。
   よくご覧なさい。左が最新型のステルス翼。そしてこれも、ごく最近開発されたベクターノズル」


荒川「そしてこっからが本題ですが、自衛隊はこのタイプのF16を、装備していない」

後藤「ちょっと待った。その前に、どうしてうちにその話を?」

荒川「無論真相究明に協力して頂きたいからですよ。
   それに最悪の事態に備えて、現場レベルでのパイプを警察との間に確保しておきたい。
   もちろんその為には我々の入手した情報は全て提供します」
南雲「最悪の事態とは、どういうことかしら?」

 荒川、テープを取り出すと、徐に立ち上がる。

荒川「どうです。ドライブでもしませんか。近場をぐるっと」


0:25:53 車中、荒川、後藤、南雲

荒川「走る車の中にいると落ち着く性分でね。考えがよくまとまるんですよ。
   走ることで自らは限りなく静止に近付き、世界が動き始める」

後藤「それに移動する車内なら話が外に漏れる心配もないか。そろそろ仕事の話、しません?」

荒川「ベイブリッジが爆破された夜、三宅島での夜間発着訓練中に失踪した米軍機がありましてね」

後藤「それがさっきのビデオの機体だと?」

荒川「米軍自身がそれを認めて報告してきたんですよ。
   勿論非公式なものですがね?
   我々には独自のルートがありまして、軍は軍同士って訳です。
   意外に思えるかも知れませんが、
   事実を隠して我が国の防衛体制を徒に混乱させるのは、彼らにとっても得策ではないのでね」

南雲「でも何故、米軍がベイブリッジを?」

荒川「無論彼らに攻撃の意志があった訳じゃない。今回の事件に関して言えば、米軍も、
   そしておそらくはミサイルを発射したパイロットも、
   被害者に過ぎなかった」

後藤「説明、してくれるよねぇ?」

荒川「我々は1年程前からあるグループの内偵を進めていましてね。
   国防族と言われる政治家や幕僚OB、それにアメリカの軍需産業。米軍内の一部勢力。
   まあそういった連中の寄り合い所帯です。

   冷戦終結後、拡大の一途を辿るアジアの軍拡競争の流れの中で、
   一向に軍備の増強を図ろうとしない日本に対して、彼等は根強い危機感を持っていた。
   そして、平和惚けの日本の政治状況を一挙に覆すべく、彼等は軍事的茶番劇を思いついた。

   憶えてますかね? 26年前、日本の防空体制と国防意識を揺さぶったミグ25の亡命騒ぎ。あれの再来ですよ。
   低空で首都の玄関先に侵攻し、その真白なドアにロックオンのサインを刻んで帰ってくる」

 約十五秒:(SE:ジェット旅客機)
 途端に消え、
   
荒川「…そして作戦は見事に成功した。ただ一つ、本物のミサイルが発射されたことを除けばね」


南雲「事故?」


荒川「かもしれないが、それが証明されない限り何者かの意志が介在したと考える方が自然だ。
   現にその場を離脱したF・16は、現在に至るも帰還していない」

後藤「その危ない連中の茶番が、どこかの誰かに利用されたとして、その目的は?」
南雲「ちょっと待って!その前に、そこまで分かってるなら、何故公表して自衛隊への疑惑を晴らそうとしないの?
   防衛庁は(そのことを)」
荒川「(かぶせ)勿論知ってるさ。幕僚達は公表を迫っているが、政府はまだ迷っている。
   第3者による犯罪の可能性といっても、状況から推測しているだけで確たる証拠は何もなし。
   事故の線で公表したにしても、収拾のつかないスキャンダルに発展することは避けられない。
   例によって、取り敢えず真相の究明に全力を挙げつつ、事態の進展を見守ろうと、
   まあそんなとこさ。
   ・・・馬鹿な連中さ。それこそ奴の思う壷だ。現場を無視したこんなやり方が続けば、いずれは」

後藤「薮を突いて蛇を出しかねないか」
荒川「そうなる前に何としても犯人を押さえたい。協力して貰えるでしょうな」


後藤「荒川さん、だったっけ?
   面白いお話だったけど、それこそ状況証拠と推測だけで、確たるものは何もない。
   さっきのビデオにしたって、
   ビデオテープそのものに証拠能力のないことは、あんた自身が証明してみせた訳だし。
   やっぱこの話乗れんわなァ?」

荒川「後藤さん。あんたはやっぱり噂通りの人だ。私の人選は間違っちゃいなかったよ。
   だが・・・二本のテープが二本とも虚構だったとして、吹っ飛んだベイブリッジだけは紛れもない現実だ。

   違うかね?
   座席の背にあるファイルを」

 助手席側のシートの背から南雲がファイルを取り出す。
 南雲、静かに驚く。
 その表情を後藤は見逃さない。
(SE:ソナー音)


荒川「柘植行人。例のグループの創立以来のメンバーで、現在所在不明。
   我々が全力を挙げて捜している、第一級の容疑者だ。
   レイバーに関わる者なら、その名前位は知ってると思うが?
   仕事柄、我々はこの手の人捜しが苦手で、事が事だけに警察に持ち込むわけにもいかなくてね」

後藤「一応俺達も警官なんだけど」

荒川「後藤警部補はあちこちに強力なパイプをお持ちだそうですな。それに、特車2課の超法規的活動、いや、
   活躍と言った方がいいのかな? 噂は常々」

後藤「大変な誤解ですなぁ。お宅と同じ、只の公務員ですよ」(ムッとしてる)

荒川「失礼。私だ………何?」(車内電話が鳴る)

 荒川、急に増速する。(BGM:Wyvern)

後藤「おい! 仮にも現役の警察官2名を乗せてるんだからさぁ!」

荒川「奴の動きの方が速かったよ・・! 爆装したF・16Jが3機、三沢を発進して南下中だ。
   約20分後に、東京上空に到達する」


0:31:15 航空自衛隊スクランブル事件

 (SE:プー)

オペ男1「SIF照合。当該機、北部航空方面隊、3空8飛行隊所属、F・16J3機。
     コールサインワイバーン。応答ありません」

 (エスアイエフ:Selective Identification Feature。敵味方識別装置の一種。)
 (SE:プー)

オペ男2「エリアホテルツーキロワン、ヘディングワンナインゼロ、高度3万2千、速度7百20ノット、なお南下中」

中空SOC指令「三沢はどうだ、つながったか」

 (SE:プー)

オペ男1「北部SOCをはじめ、各飛行隊とも応答ありません」

中空SOC副指令「ダイレクトラインで基地の司令を呼び出せ。出るまで続けろ」

中空SOC副指令「まさか、三沢が」(インカムのマイクを手で覆い)

中空SOC指令「バカ、そんなことがある訳ないだろ」(SE:プー)

オペ男2「要撃機、上がりました。  (SE:ビー)
     百里(ヒャクリ)にいまるよんよりウィザードゼロスリー、小松さんまるさんよりプリーストツーワン。
     会敵(カイテキ)予想時刻ウィザードネクストゼロフォー、プリーストネクストワンゼロ」

W3「トレボー、ディスイズウィザードゼロスリー、(トレボー こちらウィザード03)
  ("Trebor". This is "Wizard 03".)
   ナウメインテインネンジェルスリートゥー」 (現在高度32000)
  (Now maintain angel 32)

中空管制官「ウィザードゼロスリー、ディスイズトレボー。(ウィザード03 こちらトレボー)
     ("Wizard 03", this is "Trebor".)
      ユーアーアンダーマイコントロール。(誘導を開始します)
     (You are under my control.)
      ステイアゼロフォーゼロ、メインテンプレゼェントエンジェル」(同高度にて方位040へ)
     (Steer 040, maintain present angel.)

W3「ラジャー」(了解)
  (Roger)

 (SE:プー)

オペ男2「ワイバーン、なお南下中。応答ありません。
     追尾、SSさんななよりSSにいななへハンドオーバー。ウィザード会敵予想時刻修正、ネクストゼロファイブ」

中空管制官「ウィザードゼロスリー、ターゲットポジションゼロスリーゼロ、(ウィザード03 目標方位030)
     ("Wizard 03", target position 030,)
      レーンジナイナーゼロ、アルティチュードスリートゥー」(距離90ノーチカルマイル 高度32000)
     (range 90, altitude 32.)





中空SOC副指令「部長、会敵(カイテキ)してなお応答のない場合は」

(SE:プー)(SE:ビー)

オペ男1「北空SOC、つながりました」

中空SOC指令「こちら中空SOC、どういうことなんだ。南下しているー・・FSを、すぐに引き返させろ。
        ・・なに? 上がっていない!?」

三沢「三沢管制隊は発進を確認していません。
   8飛行隊に保有機の所在を確認中ですが、回線が不通。ダイレクトラインも輻輳(ふくそう)を起こしています」

 (輻輳:回線のパンク)

 指令お口あんぐり。


中空SOC指令「北空の飛行隊を、全部確認しろ。最優先だ」

三沢「了解」

中空SOC副指令「部長、」

中空SOC指令「SIFコードは確実に変更されているし、外部の偽装は不可能だ。システムエラー?」

中空SOC副指令「自己診断プログラムが常時走ってるんです。エラーのまま進行することはありえません」

中空SOC指令「ウィザード、コンタクトはまだか」

中空管制官「ターゲットデッドアヘッドトゥーファイブ。ウィザードゼロスリー、(目標 正面 距離25ノーチカマイル)
     (Target dead ahead 25. "Wizard 03",)
      ハウバウトコンタクト?」(レーダー探知どうか?)
     (how about contact?)

W3「ネガティブコンタクト。リクエストターゲットアルティテュード」(コンタクトできない。目標高度の確認を乞う)
  (Negative contact. Request target altitude.)

中空SOC指令「目標は、あとどれ位で首都圏に入る」

中空SOC副指令「約、十分後です」

中空SOC指令「入間(いるま)の第一高射群に発令。ただちに迎撃態勢に入れ。それと……長官に、緊急連絡だ」

W3「トレボー。ウィザードゼロスリー。ネガティブコンタクト。ボーギードープ (トレボー こちらウィザード レーダーに反応なし。再度目標の確認を乞う)
  ("Trebor". "Wizard 03". Negative contact. "Bogy dope".)

中空管制官「ターゲットデッドアヘッドワンファイブ、ヘディングワンナイナーゼロ、 (目標正面 距離15ノーチカルマイル 方位190)
     (Target deadahead 15, heading 190,)
      アルチチュードスリートゥー、ナウクワンポイントトゥー。リデュースピード」(高度32000 速度マッハ1.2 ウィザード減速せよ!)
     (altitude 32, mach 1.2. Reduce speed.)

W3「ノージョイ。ネガティブコンタクト(捕捉できない! レーダーに反応なし!)
  (No joy. Negative contact.)
   アイセイアゲイン、ノージョイ。リクエストターゲットポジション」(繰り返す 捕捉できない!)
  (I say again, no joy. Request target position.)

中空SOC副指令「危険です。一度退避させて、再度」

中空SOC指令「時間がない。奴が進路を変えれば、プリーストのアプローチは手遅れになるかもしれん」

中空管制官「コーション。オーモーストセイムポジション。セイムアルティテュード。 (警戒 同位置 高度差なし)
     (Caution. Almost same position. Same altitude.)
      プリーズコーション。・・・・・・ウィザード!」(ウィザード! 退避して下さい!)
     (Please caution "Wizard".)

 ジャミングによりノイズが大きくなり、
 管制の声がかき消される。

 発令所のレーダーに
 撃墜コード(スコーク7700)が表示される。

中空SOC副指令「ベイルアウト……撃墜された?」(指令・思わず立ち上がる)

中空SOC指令「まさか・・・」

オペ2「目標、転進します。方位にいいちまる、降下しつつ増速中!」

オペ1「プリースト接近、距離20マイル」


(新東京国際:現成田)空港。
 


成A「なんだこれは?」



成B「一体どうなってんだ?」


成A「こっちにくるぞ」



成C「府中から連絡のあった奴か。無茶しやがる~」

成D「まさか、ベイブリッジの続きじゃ・・」

成B「冗談じゃねえ・・・
   アプローチに入った便を除いて、着陸待ちは全て上空待機だぁ。高度に注意しろォ!?」

成A「国際線は大阪にまわせ。急げぇ!」

成ア「ただいま上空の天候が不安定なため、全ての到着便ならびに出発便の変更を行っております。
   いましばらくお待ち下さい」


 南ウイング出発の表示が段階的に消えていく。



オペ1「成田上空を通過、東京へ向かっています 60秒後に首都圏に到達」

オペ2「プリースト、レーダーコンタクト。ワイバーンを捕捉しました」

中空SOC指令「武器の使用を許可する」

中空SOC副指令「しかし、」

中空SOC指令「人口密集地に入る前に落とせ」

中空管制官男「プリーストトゥーワン、ディスイズトレボー。 (こちらトレボー 武器の使用を許可する)
      ("Priest 21", this is "Trebor".)
       クリアファイア。キルワイバーン」("ワイバーン"を撃墜せよ)
      (Clear fire. Kill "Wyvern".)

P21「トレボー。・・・セイアゲイン」(トレボー もう一度言ってくれ)
  ("Trebor". ...Say again)

中空管制官男「アイセイアゲン。キルワイバーン」(繰り返す "ワイバーン"を撃墜せよ!)
      (I say again. Kill "Wyvern".)



 プリースト21、転進。
 返答まで約8秒。
 ワイバーン後方に着く。


P21「ラジャー。キルワイバーン」(了解 "ワイバーン"を撃墜する)
  (Roger. Kill Wyvern.)

W3「……ゼロスリー…………ディスイズウィザードゼロスリー。 (こちら "ウィザード")
  (......03............This is "Wizard 03".)
   リクエストオーダー」(指示を乞う…)
  (Request order)

中空SOC副指令「プリーストツーワン、待て!」
中空管制官「ウィザード、ウィザードゼロスリー、ディスイズトレボー。アーユーノーマル?」(ウィザード こちらトレボー 無事ですか?)
     ("Wizard", "Wizard 03", this is "Trebor". Are you normal ?)

W3「トレボー、ディスイズウィザード。 (トレボー こちらウィザード)
  ("Trebor", this is "Wizard".)
   …ウィハブヘビージャミン、アンドナウロストポジション。 (…強力な通信妨害にあったもよう 現在位置を見失った)
  (Ah,,, we have heavy "jamming", and now lost position.)
   リクエストファーザインファクション。アイセイアゲイン、リクエストオーダー」(指示を乞う 繰り返す 指示を乞う)
  (Request further instraction. I say again, request order.)

オペ1「ウィザードゼロスリー、確認しました。
    周辺空域にストレンジャーなし」

中空SOC副指令「プリースト、攻撃を中止せよ」

オペ1「攻撃中止」

中空SOC指令「ワイバーンが、消えた」(力が抜けて椅子にへたり込む。)

オペ2「FIが指示を求めています」(エフアイ:Fighter Intercept・要撃機)

中空SOC副指令「警報解除。プリースト帰投せよ。ウィザードも帰投させろ」

W3「……ディスイズウィザードゼロスリー。リクエストオーダー。
     ディスイズウィザードゼロスリー。リクエストオーダー……」
      (This is "Wizard 03", Request order.(Refrain))


0:37:00 水族館、後藤、荒川

荒川「元々空自のバッジシステムはその性格上閉鎖システムとして設計されていたんだが、
   政治的判断やら、安全保障体制への建前やら、色々あってね。
   結局在日米軍基地ともリンクしているのが現状だ。あんた聞いてんのか?」

後藤「その代償が例のスクランブル騒ぎってことだろぉ?」

荒川「犯人はドイツにある情報サービス会社のゲートウェイからアメリカの大学のネットを経由して
   在日米軍基地のシステムに潜り込み、府中COCのメインフレームを通して、幻の爆撃を演出してみせた。
   そういう仕掛けさ」

後藤「原理的には可能でも、実際問題として、できるの? そんなこと」

荒川「現行のバッジは1991年に旧システムを一新したものだが、
   処理速度の向上を図って去年ソフトを書き替えたばかりでね。
   その計画に関わった技術者の中に、奴等のシンパがいたのかもしれん」

後藤「今回も真相は公表されずじまい、か」

荒川「政府も防衛庁も、バッジにハッキングされたなんてことは公にしたくないしな。
   またしても泥を被るのは現場だ。
   それに真相を解明する前に次の状況に移るとしたら」
後藤「事実そうなったしな」





後藤「柘植について、他には?」

荒川「柘植学校のことは」

後藤「概略位はねぇ。
   多目的歩行機械運用、研究準備会だったかな。
   レイバーの軍事的価値に逸早く注目し、様々なシュミレーションモデルによってその有効性を実証。
   自衛隊技術研究本部と、民間企業との連携に、多大な成果を挙げた。
   会の中心人物の名前から、通称、柘植学校。

   PKOへ、レイバーの派遣が決まった時、彼が志願したのは自分の理論を、
   実践してみたかったからなのかもしれんなァ」

荒川「レイバーの運用に最も向かない高温多湿の熱帯雨林で、
   十分なバックアップもなしに単独で投入された機械化部隊がどうなるか・・・彼が一番よく知っていたさ」

後藤「それでも彼は行った。何故かな?」
荒川「その前に。
   警視庁レイバー隊創設直前、レクチャーを受けるために本庁から一人の警察官が、柘植学校に派遣された」




後藤「・・・・南雲しのぶ」



後藤「彼女は柘植学校の優秀な生徒であり、そして柘植本人の最高のパートナーだった。
   ・・・まあ、ちょっとした不祥事があって、記録にゃ残ってないけどね。
   ・・・・・立場がどうあれ男と女だもの。そういうこともあるさ」

荒川「彼に妻子がなければ、それで済んだかもしれんがね?
   ・・・・・調べたのか」

後藤「当時本庁にいた者なら、誰でも知ってるさ・・・俺みたいな男でもね。
   同僚の過去を調べるなんざ、願い下げだ」

荒川「同僚ねぇ。まあそういうことにしておこうか」

後藤「警察ってとこはそういうのに煩いからねぇ。
   本来ならキャリア組として警備部のエリートコースを歩む筈だった彼女が、埋立地に島流し。
   ・・・それが理由なのか?」(後藤、足を止める)

荒川「さあねぇ」


 携帯の音。
 小さな桟橋。
 特車2課整備班員が哨戒艇で待っている。


整備員「隊長ぉ~~~~~!」

荒川「しかし派手だな、あんたたちの制服は」

後藤「中年には酷な服さ。私服のあんたが羨ましいよ」

荒川「なに、これはこれで苦労があるのさ。
   地味ならいいっ、てもんでもなくってね。
   敵とは異なっていながら、しかも目につきにくい服装ってのは難しいもんさ。
   俺の仕事では、それが特に重要でねぇ」

後藤「なるほど。んじゃ」


 後藤、荒川と別れ階下にある哨戒艇へと歩を進めるが、
 途中で振り向く。


後藤「ねえ。奴の最終的な目的って何なのかな!?
   奴(やっこ)さん一人で戦争でもおっ始めようってのか」

荒川「戦争だってぇ?
   ・・・・そんなものはとっくに始まってるさ。問題なのは如何にけりをつけるか!それだけだ」

後藤「・・・・・・・・・・」(目を見開き荒川を見る)


0:41:23 東京湾、後藤
 (BGM:Unnatural City Ⅰ)

 荒川と別れ、帰途の哨戒艇上。
 笛の音に気付き上方に目を遣ると、
 奇しくも破壊されたベイブリッジ。

 過ぎ行く哨戒艇から、目が釘付けになる。


荒川「後藤さん。
   ・・・警察官として。自衛官として。
   俺達が守ろうとしているものってのは何なんだろうな?」

荒川「前の戦争から半世紀。・・俺もあんたも生まれてこの方、
   ・・戦争なんてものは経験せずに生きてきた。

   平和・・・。


   俺達が守るべき平和・・・。


   だがこの国のこの街の平和とは一体何だ?



   かつての総力戦とその敗北。米軍の占領政策。
   ついこの間まで続いていた核抑止による冷戦とその代理戦争。
   そして今も世界の大半で繰り返されている内戦。
   民族衝突。
   武力紛争。
   そういった無数の戦争によって合成され支えられてきた、血塗れの経済的繁栄。
   …それが俺達の平和の中身だ。
   戦争への恐怖に基づくなりふり構わぬ平和。正当な代価を、余所の国の戦争で支払い、
   その事から目を逸らし続ける不正義の平和」

後藤「そんなきな臭い平和でも、それを守るのが俺達の仕事さ。
   不正義の平和だろうと、正義の戦争より、余程ましだ」

荒川「あんたが正義の戦争を嫌うのはよぅく分かるよ。かつてそれを口にした連中に ろくな奴はいなかったし、
   その口車に乗って酷い目にあった人間のリストで、歴史の図書館は一杯だからな。

   だがあんたは知ってる筈だ。正義の戦争と、不正義の平和の差は、そう明瞭なものじゃない。
   平和という言葉が、嘘吐き達の正義になってから、俺達は俺達の平和を信じることができずにいるんだ。

   戦争が平和を生むように・・、平和もまた、戦争を生む。

   単に戦争でないというだけの消極的で空疎な平和は、いずれ実体としての戦争によって埋め合わされる。
   そう思ったことはないか?

   その成果だけはしっかりと受け取っていながら、モニターの向こうに戦争を押し込め、
   ここが戦線の単なる後方に過ぎないことを忘れる。・・・いや・・・、忘れた振りをし続ける。
   そんな欺瞞を続けていれば、いずれは大きな罰が下されると」

後藤「罰? ・・・・誰が下すんだ。神様か」

荒川「この街では誰もが神様みたいなもんさ。
   いながらにしてその目で見、その手で触れることのできぬあらゆる現実を知る。

   ・・・何一つしない神様だ。

   ・・・神がやらなきゃ人がやる。・・・いずれ分かるさ。
   俺達が奴に追い付けなければな・・・」



0:45:13 特車二課、後藤、南雲

 後藤、事務所に入ってくる。

整備員「オライ。オライ。オライ」

南雲「それは十分分かっております。はい。(後藤と南雲、目が合う)    ……ですからそういうことでは・・・しかし部長!」


 後藤、慌てて別の内線を取り、傍受する。


山寺「だからこそ我々としても万一に備えて可能な限りの対応をせねばならんのだ。
     これは長官の強い要請でもある。
     改めて命令する。明朝7時より特車2課はその総力を挙げ、
     所轄の警察署、及び第4機動隊と共に、練馬駐屯地の警備に当たりたまえ。以上だ」

後藤「出動するつもり? ・・・しのぶさん?」

南雲「三沢の各飛行隊に 飛行禁止命令が出たのは知ってるわね。
   今から30分前、青森県警が、抗議のため車で東京に向かおうとした基地司令を、    事情聴取のために連行したそうよ。しかも基地ゲート前でね」

後藤「あそこの本部長は、警備部時代から、総監の腰巾着と言われてた男だったなぁ。
   それにしても無茶しやがる。自分の家の玄関でそんな真似をされて、黙ってるかどうか」

南雲「三沢基地は現在外部との音信を途絶して実質的な篭城に入ったそうよ。
   こんな時にあなたは一体どこをうろついてたの!?

   準待機とはいえ無断外出で持ち場を離れ!、高速艇の迎えまで出させるなんてどういうつもりなの!
   裏でこそこそ動かないと言った私との約束なんかどうでもいいってことなのね・・!」

後藤「御免。この通り。
   ――でもさぁ、あの荒川に会いに行くと言ったら許可してくれた?」

南雲「する訳がないでしょう、あんな男。それに選りにも選ってこんな情勢下に、
   自衛隊の、それも情報関係の人間と警備部の人間が密会するなんて・・!」

後藤「こんな情勢だから会う必要があるんだけどなぁ」(後半ゴニョゴニョ)
南雲「なんですって」

後藤「ねえ、落ち着いて考えてご覧よ。今俺達が何をするべきなのか。
   其々の持ち場で何かしなくちゃ、何かしよう、その結果が状況をここまで悪化させた。
   そうは思わないか?」

南雲「でも“万一の事態”に対応できるようにやれるだけのことはやっておく必要が・・・」


後藤「万一の事態って一体何だい。

   ・・・誰もがまさかと思い、同時にもしやと疑いを否定できない、あのベイブリッジ以来ねぇ。
   この間のスクランブル騒ぎがいい例さ。府中の防空司令は撃墜命令まで出しちゃったって言うじゃない。
   あンの狸親父、この機会に点数を稼いで警備部の権限を拡大しようって腹だろうが、
   こんな情勢下に警察がその矛先を自衛隊に向けたら・・・。

   柘植って男、もし今回の事件の首謀者だとしたら大した戦略家だ。
   僅か一発のミサイルでこれだけの状況を作り出し、しかも事態はなお進行中だ。
   ・・・やっぱり明日の出動やめようよ」(いやそーに)

南雲「私だって行きたくないわ。でも警備部長の正式な出動命令なのよ」

後藤「うちの小隊、動かないよ」
南雲「課長代理として命令することもできるのよ?」
後藤「してみれば?、命令」

南雲「結ッ構! では第1小隊もこれより“独自”に行動します。私もたった今から課長室の方へ移りますから」


後藤「いや…、あのしかし、しのぶさん?」
南雲「私物は後で取りに参ります。失礼」
後藤「そんなぁ・・・!ねえ、んなことしたって俺絶対に行かないんだから!!」

 ストーブに当たっていたが、暫くして内線に手を伸ばす。

後藤「あ、しのぶさん? ・・・気、変わった。・・今変わった」



0:49:17 練馬駐屯地警備

中継ヘリが来土地正面玄関前を旋回しながら滞空している。

キャスター4「はい、こちら練馬区にある陸上自衛隊の駐屯地上空です。
       昨日実質的な篭城に入った三沢基地に呼応し、各地の自衛隊駐屯地で、これに同調する動きがみられます。
       首都に駐屯するここ第1師団でも、
       今朝から警戒にあたっている警視庁警備部、第4機動隊および特車2課との間に、
       無言の睨み合いが続いております。
       今回の警備出動に関しては、警視庁警備部の独走であるとして、その法的根拠を巡って、
       政府部内にも批判が高まっています。防衛庁は抗議行動中の部隊に対し・・・(F/O)」


 <<場転>>

 ミニパトに手をついておにぎりを頬張っている後藤。
 そこに、現場指揮の機動隊長が詰め寄ってくる。


機動隊長「おい

     君の小隊のレイバーは起動せんそうだがどういう訳だ?」
後藤「は?」
機動隊長「レイバーだ。何故寝たままなんだ。訳を言いたまえ」

後藤「ああ、これですか。故障であります」

機動隊長「何、故障? 特車2課は故障したレイバーを担いで出動するのか?嘘をつくな」

後藤「本当です」

機動隊長「よし。だったら立っているだけでもいい。デッキアップしたまえ」
後藤「お言葉ですが、なにせ故障中ですので万一倒れるようなことがありますと、
   テレビを通じて全国に警備部の恥を晒すことになりますが、それでもやります?」

機動隊長「これは現場指揮に対する明白なサボタージュだ。警備部長に報告する。覚悟しておけ」


 <<場転>>
 ミニパトの無線が音を立て、後藤は運転席に消える。


後藤「はい、後藤」
荒川「俺だ。テレビで拝見してるよ。宮仕えは辛いってとこか」
後藤「子分の勇み足で引っ込みがつかなくなって、頭に血が上ったのさ。
   馬鹿な親分の下にいると苦労するよ」

荒川「こちらも同じさ。悪い軍隊なんてものはない。あるのは悪い指揮官だけだってね。
   各地の篭城の責任を取るってことで、陸海空の幕僚長達が一斉に辞任したよ」

後藤「本当か」

荒川「30分程前だ。じきに報道されるさ。連中これで天下晴れてベイブリッジの一件をばらすつもりだが、
   遅すぎたよ。ここまでこじれた後じゃな。米軍が掌返せばそれまでだ。
   真相を公表するタイミングを逸しただけでなく、事態を収拾するチャンネルも消えちまった。
   また一つタガが外れたのさ。

   おい。聞いてるのか」

後藤「ああ。聞きたくなくなってきたがなァ」

荒川「聞いて貰うさ。ここからが本題なんだ。政府は自分達のことは棚に上げて、
   ここまで事態を悪化させた警察を逆恨みしている。
   頼るに値せず、ってな。で、シナリオは変えずに主役を交替することにしたって訳だ」
後藤「おい。まさか」

荒川「そのまさかだ・・・。

   舞台はミスキャストで一杯。誰もその役を望んじゃいないのにな。
   素敵な話じゃないか。 これが俺達のシビリアンコントロールってやつさ。

   柘植は3年前、自分の部下を死なせたのと同じルールで今度は俺達がどんな戦争をするのか、
   それを見たがっているのかもしれんな」



0:52:56 自衛隊治安出動


  新 宿  34km
 Shinjuku


陸自1「ヤタガラスよりタカマ。カムヤマトの通過を確認。送れ」

キャスター1「東京および近県の視聴者の皆さんにこれから緊急放送をお送りします。
       テレビの近くにいる方はできるだけ多くの方に声をかけ、放送をご覧になるようご協力をお願いします。
       先程石川内閣官房長官は緊急記者会見を行い、
       首都圏の治安を維持し予測される最悪の事態に備えるため、
       陸上自衛隊内の、信頼の置ける部隊に出動を要請したと発表しました。
       今回の要請について石川長官は、次のような政府の公式見解を表明しました。

       一連の自衛隊関連事件について十分な検討を行なった結果、
       最早現在の、警察力のみでは、予測される最悪の事態に対応できないという判断に基づくものであり」

キャスター3「この決定を受けて、現在配備が進んでいる部隊は、陸上自衛隊東部方面隊・・・」

教官「座ってろ」

太田「しかし主任」

教官「いいから、座ってろ」

キャスター3「第1師団第1普通科連隊、同第31普通科連隊、同32普通科連隊、同第1特科連隊、同第1戦車大隊、
       富士教導団、同特科教導隊、同戦車教導隊、同普通科教導隊、同東部方面第1飛行隊、・・・」

整備員「はいこちら買い出し部隊」

シバ「俺だ。いいかよく聞け。たった今からお前らは買い占め部隊だ。
   その店の食い物をありったけ買ってこい。今増援部隊を送った」

整備員「了解! 直ちに買い占め、突入します!」

シバ「かかれぇ!!」

 車の急停車音。


コンビニ店員「いらっしゃいませー」

整備員「ああ、ブチヤマ先輩」(どしたんスか?:ぐらいの感じで)

ブチヤマ「馬鹿野郎!!!!! こんなとこで何じたばたやってやがる!
     ピクニックに行くんじゃねえんだ! ちっとは保存ってことを考えんか!!
     倉庫だ!
     倉庫行ってラーメンを“箱”で買え“箱で”!!
     おい姉ちゃん! この店の食い物はたった今特車2課整備班が買い切った!!」

シバ「プロパンの電源をチェックだ! 予備のバッテリーも全部充電にかかれぇ!」
後藤「シ~ゲさん」
シバ「特車2課整備班はこれより24時間の臨戦体制に突入する!
   長期戦に備えよ! 今日からはトイレットペーパーも一人一回15センチまでだ!」

後藤「シゲさんってば」
             
整備員「来たぞ」

整備員「90(きゅうまる)式に、小松の2式もいるぞ!」


 国会議事堂前に到着する戦車隊その他。


陸自1「ヤタガラスより移動。オオトリ1および2タカメへ到着確認。送れ」

陸自2「移動。オオセグロ208(ふたまるはち)集合。セグロ4、および5、     220・10(ふたふたまる、いちまる)。送れ」



0:57:28 市中


駅員「お下がり下さい到着です。外回り危険ですので歩かない様お願いします。    電車が到着いたしております」

アナ3「日本国憲法施行後は法律上戒厳に関する情報は存在しません。戒厳法の制定は・・・」

0:58:11 歩道橋から手を振る園児たちに手を振りかえす戦車兵。
 (BGM:Unnatural City Ⅱ)
 暫く自衛隊タイム。
 日常に自衛隊が混入されてゆく・・・。

0:59:43 新帝都航空、松井


後藤「はい、特車2課」

松井「後藤さん?」

後藤「ああ松井さん?元気?」

松井「元気じゃないが、まあ取り敢えず息災ってとこかな。そっちの様子はどうだい?」

後藤「今んところ平静だけどさ、都内に入った部隊の中に柘植が息がかかった部隊が紛れ込んでるとすりゃ、
   何時何が起こってもおかしくない状況さ。今どこ?」

松井「福生(ふっさ)の郊外。新帝都航空って飛行船会社を張ってるとこさ」

後藤「飛行船? 何だいそりゃ」

松井「荒川の資料にあった連中の公然組織、東亜安全保障って会社を洗ってたら浮かび上がってね。
   ダミーを介してだけど、1年前に倒産寸前だった会社を買収して、経営者も送り込んでる。
   半年前にアメリカ製の飛行船を3機購入。こないだから都内を飛び回ってるだろ?
   ちょいと気になっててねぇ?」

後藤「あれか。しかしよく調べたね」

松井「犯罪の陰に女と金。女は専門外なんで、金の流れを追いかけたのさ。
   お偉いさん達は、柘植の暴走に恐れを為して店畳んじまったが、銀行や税務署の記録は消せないからねぇ」

後藤「んなもんどうやって見たの?」

松井「営業上の秘密て奴さ。ま、軍人さんには無理だけどな、と。いたいたぁ。
   どう見ても堅気にゃ見えないのが、やばそうなのぶら下げてるぜ」

後藤「剥き身で? 大胆だねどうも」

松井「それと、例のベイブリッジ爆撃の一週間程前だが、この会社相当大きな買物してるぜ?
   何だか分からんが同じものを三つ。凄え金額をアメリカに送金してるよ」

後藤「また三つか。核ミサイルでも買い付けたかなぁ」

松井「さあね。ここは横田からも近いし。米軍経由なら税関もノーチェックだからね」

後藤「直接、調べるしかないね?」

松井「まさか潜り込めってんじゃないだろうねぇ」


 後部座席から枝切りばさみを取り出し、堀状になっている斜面を滑り落ちる。
 

松井「器物破損(パチッ)。住居不法侵入(パチッ)。多分窃盗(パチッ)。
   もしかしたら暴行障害(パチッ)。警察官のやることじゃねえなあこりゃあ(パチッ)」

 窓を割って侵入する松井


学生1「動きが素人だな。こそ泥か?」

学生2「いや、どっかで見たような・・・
    そうか。例の特車2課の後藤って隊長とつるんでる捜査課の刑事だ」

学生1「消すか」

学生2「無用な殺生は可能な限り避けろとのお達しだ。
    …眠らせて放り込んどけ。どうせもう、何をする時間もないさ」

学生1「やれ」



1:03:08 南雲、柘植、密会


南雲「私に?」

南雲母「どうしても今夜の内に連絡を取りたいとかで、2課の方に電話したらこちらへ向かった(後だったからって)」
南雲「(かぶせ)分かったわ。有難う」

南雲母「お食事は?」
南雲「書類と着替えを取りに来ただけで、すぐ戻るから」

電話を掛ける南雲。
通話はリダイレクトされ他の電話機へ。

南雲「・・・もしもし。南雲と申しますが」
柘植「元気そうだな」

南雲「・・・・・・」(瞬間的に言葉に詰まる)

 途中の桟橋に車を止める。(BGM:With Love)
 降り際、ダッシュボードから拳銃を取り出す。

 エンジン付きの小舟で道の下の閉鎖的でない運河を進む。

 あと一歩と言う所で何かを察知し、
 増速する柘植を乗せた小舟。

(BGM:With Love F/O)
南雲「止まりなさい!」 南雲、拳銃を構える。


 ライトの加減か、一瞬だけ柘植の顔を視認する。(スロー)
 眼鏡をかけ、寂しそうな表情で、
 次第に遠ざかって行く船―・・・。

 背後から2,3隻の小型艇が来て灯光器を照らす。
 一人の男が、南雲の背後脇でライフルを構える。

荒川「止せ。この暗さでは無駄だ。上の班に連絡して、地上から追わせろ! ライトを消せ!

   ・・・やはり女か」

南雲「・・・どうしてここを・・・」


荒川「人は敵意でなく善意ゆえに通報者になる。子供のためなら何でもするのが親だ」

南雲「あの人が、・・・あなたに?」

荒川「あいにく俺はあの手のご婦人が苦手でね。意外な人間に人望があるものさ」


 背後の漁船。
 後藤が難しい表情で南雲を見つめている。

 暫く見つめ合う二人。
 降り出した雪を認め、天を仰ぐ南雲。



1:08:01 戦闘ヘリ、飛行船発進

 翌日、早朝。
 朝靄の中。押犬と漁師らしき男性を乗せた釣り船が川を行く。

 押犬が何かに反応し吠える。
 あまりに吠え続けるので漁師らしき男が押犬に近付き、
 吠えている方向を確認する。

 すると、極大な箱が展開図の様に開き、
 その中からヘリコプターが出てくる。(ノーター機)

 次第に驚愕の表情になる漁師。

 同型機が合計三機、第23埋立地区を離陸する。



 気絶していた松井、意識を回復する。
 すると、飛行船が三基とも離陸した直後である。
 状況を確認しようと立ち上がり外に出ようとすると、
 何かに引き戻されその場に倒れこむ。

 右腕を見ると、手錠で施設の配管に繋がれていた。


 強引に配管一本と一緒に施設から出てくる松井刑事。
 車に戻ると、ハンドルが外れ、通信機器諸共
 叩き潰したように壊されていた。




松井「電話はどこだぁぁ!!」(001:KDDの看板のすぐ横で)


陸自1「前方を飛行中の編隊へ。攻撃ヘリの出動要請は出ていない。所属、管制名を名乗れ。どうした」

柘植「ゴングゼロより各機。時間だ。状況を開始せよ」

学生2「了解。状況を開始する」

陸自1「おい今のは何だ!状況って何だ!?」



1:12:38 東京都大田区城南島 特車二課棟


 シバが二課棟の扉を背で開けながら、歯を磨いている。
 と、そこへ先程のノーター機が低空でやってくる。

 驚くシバ、風圧でタオルや帽子、歯ブラシ等が飛ぶが、
 ・・・それ所ではない。


1:10:28 東京都千代田区霞が関 警視庁警備部緊急会議


山寺「早朝にも関わらず全幹部職員を緊急召集したのは他でもない。
   現今(げんこん)の情勢下に警備部としてその任務を全うするにあたっていかなる方針で臨むべきか。
   それを討議する為である。
   状況が状況であるので今日は特に海法総監の列席をお願いした。
   が、その前に。

   今朝(こんちょう)未明神奈川県警交通機動隊レイバー隊に対し、    特車2課課長代理名をもって出動要請がなされた。
   南雲警部。これは一体どういうことか?」

南雲「その前にここにお集まりの方々に申し上げたい」

山寺「君の意見などを求めてはおらん。
   警備部長である私の承諾も得ず、これは全くの越権行為だ。
   君の行なったことは警察内部の秩序を乱し、延いては、
   社会に無用の混乱を招く軽率な行動だったとは思わんのか?」

南雲「では、確たる根拠も具体的な要請もなしに行なわれた自衛隊駐屯地への警備出動や、
   基地司令に対する予防検束に等しい不当な拘束は、軽率ではなかったのか。

 (南雲、立ち上がり机に両手。)

   今回の非常事態を招いたそもそもの原因は、
   一連の事件によって醸成された社会不安に乗じ、上層部内の一勢力がその思惑を性急に追求したことにあることは、
   ここにいる全員が承知の筈です」

山寺「貴様・・・!!」

海法「南雲君。警察内部に一種の政治的策謀があったとする君の発言は聞き捨てならんが、
   ・・・上層部内の一勢力とは一体誰のことかね?」

南雲「ご自分の胸に聞かれてはいかがですか」


 凍りつく場の静寂を割く様に
 後藤の携帯が鳴る。


後藤「ちょっと、失礼します」

山寺「あっ、こら」

海法「放っておきたまえ」

 松井刑事の後には真っ赤なスポーツカーと、げんなりした悪そうな男。
 ”何故”かフロントガラスに丸い穴が開いている。

松井「後藤さん? ああ、やられちまったよ。それより15分程前だが、3機とも飛んでっちまったぜ。
   ・・・ああ。あ? よし分かった」

 後藤、特車2課に連絡を入れる。
 が、3回呼び出しても誰も出ない事で、
 表情が険しくなる。

1:12:38 東京都大田区城南島 特車二課棟 特車2課壊滅

 篠原重工 AVー2 ヴァリアント2機 壊滅。
 四菱 99式レイバーキャリア2輌 壊滅。
 汎用コンピュータ3台とその端末全損
 整備ハンガーおよび第1・第2小隊オフィス半焼
 違法改造高速艇1隻轟沈
 階段を踏み外して落ちた隊員一名重傷
 落下した天井の下敷きになった整備員2名軽傷
 その他、給湯室・風呂・二階男子トイレ等に被害多数
 ショックで卵を産まなくなったニワトリ1羽

1:13:19 転 警視庁警備部緊急会議


南雲「…首都圏の治安を楯に要らざる警備出動を繰り返して彼等の危機感を煽り!
   事態をここまで悪化させた責任を、誰がどのように取るのか。
   部内の秩序を論じるならまずそのことを明らかにして頂きたい」

海法「防衛庁内部には警察OBも多数いることを知らん訳ではあるまい。
   事は既に、政治の舞台に移されている。
   今は、彼等を刺激することなく、その行動において協調を図り、
   撤収の早期実現を模索すべき時だ」

―――――(後藤:カミソリタイム発動:他演者はここだけ後藤を意識せず進めて下さい)――――――――――――――
後藤「(どうにもならないって言ってるだろ)」(呟くように:※元々アドリブのパートです)
南雲「(かぶり)その為にも警視庁上層部がその責任を明確にし自らの非を世間に正されてはいかがです」
海法「この地上にはわが国だけが存在する訳ではない。この状況が長引くと、
   万に一つとはいえ、内戦紛いの状況が出現することにもなる。米軍の介入すらあり得る」

後藤「(第2小隊の連中を・・・・・・・集めて・・・)」(呟くように:※元々アドリブのパートです)

海法「首都の治安を預かる警察が自らの失態を認めるがごとき行動は徒に社会の不安を増長させることにもなる」

南雲「この期に及んでもまだそのような妄言を。あなた方はそれでも警察官か!」
                 不明瞭←|→明瞭
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


海法「レイバー隊をここまで育て上げた功労者の一人と思えばこそ大目に見てきたが、その暴言は最早許せん。
   南雲警部。特車2課課長代理および第1小隊隊長の任を解き、別命あるまでその身柄を拘束する」


 拘束役、南雲の肩に手を置く。

南雲「私に手を触れるな!」

海法「後藤君。君はどう思うかね」

後藤「戦線から遠退くと楽観主義が現実に取って代る。
   そして最高意志決定の段階では、現実なるものはしばしば存在しない。   戦争に負けている時は特にそうだ」

海法「何の話だ。少なくともまだ戦争など始まってはおらん」

後藤「始まってますよとっくに! 気付くのが遅過ぎた。柘植がこの国へ帰って来る前、いや、
   その遥か以前から、戦争は始まっていたんだ。

   突然ですがあなた方には愛想が尽き果てました。自分も南雲警部と行動を共に致します」

海法「後藤君。君はもう少し利口な男だと思っていたがな」

山寺「二人とも連れて行け」

警察「たった今自衛隊機の爆撃により、東京湾横断橋が・・・!!」


後藤「だから!!! 遅過ぎたと言ってるんだ!!!」



1:15:42 橋梁、通信塔爆撃、ケーブル爆破

 東京都品川区 NTT品川Twinsアネックスビル

電1「主任! 通信回線が各所で不通になっています!」

主任「国際電話は全てバックアップケーブルに切り替えて幕張に廻すんだ。被害状況の確認を急げよ」

電2「都内のケーブル回線に異常が発生しています。港、中央、新宿、文京、世田谷。各ブロック不通!」



1:17:19 後藤、南雲、警視庁脱出

 南雲・後藤、拘束役2名と共にエレベーターで移動中。
 ヘリの爆撃でエレベーターに衝撃が走り、非常用の赤灯になる。(SE:爆撃音)
 機転を利かせた後藤は、一人の拘束役の顔面を壁にぶつける。

警察「きっ貴様! 何をするか!」

 それに南雲も続くが、
 後藤の方は気絶には一歩足りず、逆に鯖折りで拘束されかかっていた。

後藤「s…しのぶさん!!」



 品川 80 あ 510
 爆撃で割られたガラスの雨に機動隊が混乱している最中、
 後藤がミニパトを運転して走り去る。
 助手席には、南雲の姿。


後藤「しのぶさん、辞めるつもりだったでしょ
   今は降りちゃ駄目だ。奴を止めることはできなかったけど、俺達の勝負は終わっちゃいない」

南雲「でもどうやって。もう2課にも戻れないし」
後藤「2課は壊滅したよ。多分。だが戦力はある。
   戦力は、まだあるさ」



1:18:15 飛行船、ECM


戦車兵1「オジロ。こちらキニス。ふたふたろく、まるろく。送れ」
戦車兵2「第2小隊指揮車より中隊本部。応答せよ。2号車、聞こえるか。3号車、答えろ!」
歩兵1「本部。こちらにいまるいち守備隊。本部応答せよ。本部、聞こえるか」
陸自1「オナガよりツドメ。都心上空に民間機と思われる飛行船を確認。送れ。
    オナガよりツドメ・・・」


1:19:38 特車2課、ひろみ、シゲ

山崎「土をほじれば虫もいるし、寒さはビニールハウスで凌げますよね」

シバ「ああ。きっと大丈夫さ。2課育ちは逞しさが身上だからね」

 二人、バイクで2課棟の中へ。

整備員「シゲさん。整備班の人たちキャリアにあんなもの積んで、一体どこ行こうっていうんです?」

シバ「あ? 万が一の場合にはと、後藤さんと手筈を決めておいたのさ。黙ってて悪かったな。
   ・・・じゃ、出前の付けとかプロパン屋の支払いとか色々あるけど、後始末よろしくな!」



1:20:29 榊宅、後藤、榊、南雲、シゲ

 純和風建築の榊宅。
 居間と窓の間を走る廊下の座布団の上に南雲が、
 居間では榊が猫の爪切りをしていたが、深爪したのか
 猫に逃げられる。
 

キャスター3「羽田、成田両空港も閉鎖されています。
       今回の事件について政府は、自衛隊内の一部勢力による反乱、クーデターであるとの見解を示しており、
       (ノイズ)依然として分かっておりません。
       繰り返します。ただ今通信網が大変混乱しております」

 (後藤が襖を開けて入ってくる。)

榊「切っちまってくれ。んなもの聞いてもどうにもならねえ」

後藤「頑張ってるとこがまだあるんですね。全滅かと思った」

榊「ありゃ電波妨害って奴だ。時々聞こえる所がやりきれねえ。無駄と分かっちゃいてもつい耳を澄ましちまう。
  で? どうなんだい」

後藤「そりゃまあ不平や不満はあるでしょうけど、
   今この国で反乱を起こさなきゃならんような理由が、例え一部であれ、自衛隊の中にあると思いますか?
   しかもこれだけの行動を起こしておきながら、中枢の占拠も政治的要求もなし。
   そんなクーデターがあるもんですか・・・。

   政治的要求が出ないのは、そんなものが元々存在しないからだ。
   情報を中断し、混乱させる。それが手段ではなく、目的だったんですよ。
   これはクーデターを偽装した、テロに過ぎない。それもある種の思想を実現するための確信犯の犯行だ。
   戦争状況を作り出すこと。
   いや、首都を舞台に戦争という時間を演出すること。犯人の狙いは、この一点にある。
   犯人を捜し出して逮捕する以外に、この状況を終わらせる方法はない」

 途中からは南雲の背中に向けられた言葉だが、
 彼女は外を向いたまま、正座の足も崩す気配はない。

榊「しかし分からねえな一体何のために・・・」

後藤「想像はできますが、捕まえて聞くのが一番でしょうね。
   じゃ、出かけますんで、後はよろしく」
榊「あ、そっちは勝手口だぜ」
後藤「これでもお尋ね者なんで」
後藤「親父さん、念のために言っときますがくれぐれも・・・」

榊「若え連中に、命令も強制もするなだろ。分かってるよ」

後藤「んじゃ」

榊「南雲さんよ。できなかったこと悔やんでも始まらねえ。これからどうするか。そのことを考えようや」


 南雲、窓の外を眺めたまま、微動だにしない。

 暫くの間。4、5秒程だろうか
 

シバ「おやっさぁーん!」

榊「野郎御出でなすったか」

 それが合図だったかの様に、
 南雲は、徐に立ち上がる。

1:23:06玄関前

数人が『おやっさん』と呼ぶ声。

シバ「手前等 やることは分かってんな!」

整備員「へい!」

榊「2課は壊滅したそうだが俺達はまだ目え瞑っちゃいねえ!落とし前はこの手できっちりつけてやる!
  有りったけの兵隊掻き集めて八王子に連れて来い! ごたごた抜かす野郎は首に縄付けても引っ張って来るんだ!!」


1:23:27 進士宅、進士、多美子、シゲ

進士の妻「あなたぁ!!!!
     行ったらお終いなのよ!折角課長さんになったのに、どうしてあなたが行かなきゃならないの…!!」

進士「御免ね。でも行かなきゃ、仕事より大事なものを失う。・・・それじゃあ、皆が待ってるから」

進士の妻「二人目がいるの…」
進士「えっ」(思わず妻を振り返る)

進士の妻「お腹に、二人目の赤ちゃんが」
進士「ッッ!!・・・ぐぐっ・・・ぐうぅ・・・」(何かを突き付けられるように苦渋に染まり首を振る)

 が、シバが外からドアを開け、進士倒れ込む。

シバ「ちょっと! いつまでやってんの。時間がないんだよ時間が
   じゃあ御主人お借りしていきますからァ!どうもぉ~」
進士の妻「鬼! 悪魔! 誘拐魔! みきちゃん死なないでえ~~!!」



1:24:14 訓練校、佐久間、太田

教官「助かるよ。よく引き取りに来てくれたな。
   あの野郎生徒達を扇動して、都内に進撃やらかそうとしやがって、往生したぜ」

ブチヤマ「で、何人集まったんです?」

教官「今日々の若え奴等があんな熱血馬鹿のアジに乗せられると思うか?

   太田。お迎えだぞ」

ブチヤマ「どうもどうも」

整備員「太田ちゃん。元気してた?」

太田「遅いっ!!!」



1:24:40 車中、野明、遊馬

野明「どうしたの」
遊馬「ここから引き返してもいいんだぞ。正規の任務じゃない。行けば、警察官の資格は勿論、
   レイバーの搭乗資格剥奪ってこともあり得る。それでもいいのか?」
野明「私より遊馬の方が迷ってるみたい」
遊馬「迷うだろ普通・・!」
野明「私、いつまでもレイバーが好きなだけの女の子でいたくない。レイバーが好きな自分に、甘えていたくないの」

 軽い驚きの表情で野明を見る遊馬。

野明「お願い。車出して」



1:25:37 飛行船落下

警ヘリ「やはり無人だ。自動操縦で周回飛行しているだけだ
    陸自のヘリが上がる前に俺達の手で片付けるぞ。外すなよ?」
SWAT「あんなでかい的、外しようがあるかよ。
     ・・・鳥が邪魔だな」
警ヘリ「鳥位何だ。一緒に落としちまえ」

 SWATによる狙撃。

警ヘリ「どんどん下がってくぞ。おいどこ撃ったんだ!?」
SWAT「冗談じゃねえ…!ポート以外、傷一つ付けちゃいないぞ・・・」



1:26:52 飛行船墜落・ガス噴出

陸自1「逃げろ!!

    状況、ガス!」

陸自2(無線)「こちら第3管区。落下した飛行船よりガスが発生。急速に進行中」
陸自1「装備のない者は駅ビルまで退避させろ。できるだけ上のフロアに上げるんだ。
    おい、何ぼさっとしてるんだ。マスクを装備した者は住民の避難の誘導を・・・ぉ」

 柴犬がマスクを被った陸自の歩兵に向かって吠えている。
 その様子は黄色のガスを吸いながら、何とも無い様である。




1:27:44 車中、後藤、荒川

後藤「ただのガス?」

荒川「虫も死なん程度のほぼ完全に無害な着色ガスだそうだが、効果は絶大だ。あれが本物だったとしたら・・・」

後藤「ブラフじゃないの?」

荒川「船内からは本物のボンベも発見された。実際に使う気があるかどうかは分からんが、
   少なくとも上の連中に、それを試す度胸はないさ」

後藤「何の知恵もなくあんなでかいものを浮かべとく訳はないと思ってたけど、
   10万単位で人質をとるのと一石二鳥とはね。考えたもんだ。膠着状態だなァ」

荒川「それがそうもしてられんのさ。これを見て貰おうか」

後藤「埋立地の航空写真か」

荒川「18号のな。2枚目がその拡大だ」

後藤「ん?」

荒川「転がってるのは爆破されたヘリの残骸。そしてそのパラボラは、専門家の分析によると、
   野戦用の強力な通信装置だそうだ。敵の本部といった所だな」

後藤「こいつであの飛行船を?」

荒川「それ以外の何に使う。これだけの広域を完全にジャミングできる訳がない。
   恐らく任意に選択された周波数を使って、暗号化されたコードを圧縮して送信すれば、
   あの強力なECMを解除できる筈だ。スタンドアローンで制御不能な兵器などナンセンスだからな」

後藤「で、その周波数とコードは?」

荒川「柘植本人に聞くさ。間違いなくそこにいる」

後藤「ここにミサイルを撃ち込むってのはなし?」

荒川「今も通信が続いていて、それが中断することが、
   飛行船のプログラムの発動条件だったとしたらどうなる。
   俺ならそうする。
   その写真、誰が撮影したと思う」
後藤「米軍か」
荒川「今回の事態はその当初から米軍の厳重な監視下にあったのさ。
   1時間程前に、大使館経由で通告があった。
   明朝7時以降、状況が打開の方向に向かわなければ、
   米軍が直接介入する。
   現在、第7艦隊が全力で西進中。各地の在日米軍基地も出動準備に入った」

後藤「そんな無茶を」

荒川「やるさ。国家に真の友人はいない。連中にとっては願ってもないチャンスだ。そうだろう?
   この国はもう一度、戦後からやり直すことになるのさ」




1:30:15 篠原重工、突入準備

榊「電装品の換装のチェックの終わった機体からシステムを転送だ。装甲を着けたらやり直しはきかねえぞぉ!」
整備員「3号機、出ます」

榊「流石に手慣れたもんだな」
シバ「この機体で一人前になった連中ばっかりですからね~ぇ。このペースでいけば、なんとか」



南雲「敵の野戦本部のある18号埋立地へは、奇襲という作戦の性格上、空や海からは攻め込む訳にはいかない。
   そこでバビロンプロジェクト2期工事の際、作業用レイバーを搬入するために使用された地下道を使う。
   次のステップへ」

進士「はい」

進士「汐留から中継の人工島を経て、目的地まで全長約1200メートル。問題なのはこの最終の行程です。
   ケーソン工法で作られた典型的な海底トンネルで、全長250メートル。
   人工島側から傾斜エレベーターで海面から50メートルの深さまで降下、
   続いて高さ約9メートル、全長約200メートルの一本道を抜け、そして最後に埋立地側のエレベーターで上昇」

太田「待ち伏せには絶好の場所だな」

進士「敵もこのトンネルの存在について知っていると考えるべきでしょうね」
遊馬「質問。この地下ルートまではどうやって? 都内は敵味方不明の部隊が入り乱れてるんだろう」
進士「それは現在後藤隊長が手配中です」
太田「後藤隊長が?」

整備員「凄え
    凄えや。
    凄えや・・・。本物の対戦車ライフルだぜ」

太田「だから! 機関砲とかバルカン砲とか、そういう凄いもんはないかと言ってるんだ!」

ブチヤマ「ライアットガンだってライフルスラッグ弾使やぁ、装甲車や軍用レイバー程度なら結構いけるんだぜェ?
     要は当てることよ。片目瞑ってよーく狙う、これよ。じゃ俺忙しいから」

太田「戦車が出て来たらどうすんだ戦車が!」

ブチヤマ「そん時ゃもう片方も瞑るさ」

整備員「よおぉし!もういいぞー止めろぉ!」

南雲「あなた達ここで何してるの?」
進士「松井さんが手に入れたディスク、何かのコード表じゃないかと思いまして」
南雲「コード表?」
遊馬「おおっと出た」



1:32:46 地下鉄銀座線

 地下鉄の駅に配備されている自衛官が電車の音を聞きつけ、急いでホームへと降りる。
 数か所の自衛隊員が次の駅に集まり、電気をつけ待機していたが、
 電車はホームに入る直前で別の路線に入る。
 駅に待機していた自衛隊員達は、
 音は聞こえども一向に姿の見えない電車に呆気に取られる。





1:33:42 幻の新橋駅

荒川「こんな所が東京の地下にあるとはな」

後藤「湾岸開発華やかなりし頃の夢の跡さ。
   昭和18年に閉鎖されて以来半世紀以上眠っていた地下鉄銀座線の幻の新橋駅と、
   湾岸の工区とを結ぶ新旧の結節点。
   結局、使われなかったがね。
   この街には、きっとこういう場所がいくつもあるんだろうなぁ」

荒川「誰に知られることもなく、か」

後藤「来たか」

 レイバーと人を乗せた列車が後藤の前に停車する。

南雲「全員降車。整列」

後藤「よく来てくれたな。
   篠原。泉。進士。太田。それに山崎。
   お前達の使命は、南雲隊長と共に18号埋立地に潜伏する今回の事件の首謀者を逮捕することだ。
   これ以降は全て南雲隊長の指示に従え。あらゆる妨害は、実力でこれを排除しろ。

   特車2課、第2小隊最後の出撃だ。存分にやれ」


 南雲、後藤を除く全員が敬礼する。後藤がそれに応える。


南雲「直ちに出発する。全員乗車」

後藤「しのぶさん。差し違えてもなんてのは御免だよ?
   彼を逮捕して、必ず戻るんだ。
   俺、待ってるからさ」

南雲「出発」

荒川「何故だ。どうしてあんたが行かない」
後藤「俺にはやらなきゃならんことが色々あってね。さんざっぱら世話になっといてなんだけど、あんた逮捕するよ」

松井「全員そこを動くな!荒川茂樹。破壊活動防止法その他の容疑で貴様を逮捕する!」

荒川「説明はあるんだろうな」

後藤「今回の一連の事件に関して、あんたの情報は恐ろしく正確で素早かったよ。
   そりゃそうだ。
   あんた自身内偵を進めていたっていう例の組織の一員だったんだから。
   あんた柘植の同志だった。
   そして奴に裏切られたんだ。

   政治的デモンストレーションに過ぎなかった計画を変更し本気で戦争を始めるために奴が姿を消したことで、
   あんた窮地に立たされた。事の性格上、公に捜査することもできんしな? 
   そこで特車2課に目をつけた。南雲警部の監視も兼ねて一石二鳥だからな」

荒川「全部あんたの推測じゃないか」

後藤「決起の前夜、あんたは柘植を見逃した。
   例え当たらなくても一発でも発砲すれば治安部隊が殺到する。
   狭い水路だ。奴を逮捕できる可能性は高かったのにあんたはそうしなかった。何故だ?

   あんたはどうしても自分の手で奴を押さえる必要があったからさ。

   柘植の企ては阻止しなければならないが、奴の口から組織の全容が公表されてしまっては元も子もない。
   もう一つ。
   この期に及んでも正規の部隊を動かさず、独立愚連隊同然の俺達に頼らなければならなかったのが決定打さ。
   まともな役人のすることじゃない」

荒川「それはお互い様じゃないのか」

後藤「まともでない役人には2種類の人間しかいないんだ。悪党か正義の味方だ」

 松井刑事、無言のまま荒川に手錠をかける。

後藤「荒川さん?あんたの話面白かったよ。欺瞞に満ちた平和と、真実としての戦争。
   だがあんたの言う通り、この街の平和が偽物だとするなら、奴が作り出した戦争もまた、偽物に過ぎない。
   この街はね、リアルな戦争には狭すぎる」
荒川「(笑う)戦争はいつだって非現実的なもんさ。戦争が現実的であったことなど、ただの一度もありゃしないよ」
後藤「なあ、俺がここにいるのは俺が警察官だからだが、あんたは何故柘植の隣にいないんだ」


 荒川、答えない。


松井「行こうか」




1:38:05 18号埋立地海底トンネル

遊馬「やっぱりいやがったか。ありゃアメリカ陸軍が開発した戦術ロボットで、イクストルって奴だ。
   こいつは、有線操縦の移動砲台みたいなもんですが、この状況だと厄介ですね。
   レイバーに攻撃を引き付け、俺と進士さんで回り込んでケーブルを切断し、3号機でECMをかける。
   これを基本に、後は出たとこ勝負ってことで、どうです?」
南雲「それしかなさそうね」
遊馬「太田、前衛に出ろ。野明は南雲隊長を守って続け。ひろみはこの場で援護。目眩ましを上げたら、行くぞ」

 遊馬、イクストルが居る方向に照明弾を撃ち、壁に隠れる。
 照明弾弾着後、太田が二号機で突っ込む。
 1ブロック進んだところで、太田がショットガンを乱射する。
 が、案の定、機銃掃射の反撃に遭う。

太田「どうしたどうしたこの悪党はぁ!!!」
遊馬「太田! 馬鹿かお前は!」
太田「うるせえ」(声のした【太田から見て左側】にレイバーの顔を向けると、アンテナが壁と接触して折れる)
野明「何やってんの太田さん!」

太田「ブチヤマの野郎いい加減なこと抜かしやがって!一発狙う間に百発撃ってくるじゃねえかい」
遊馬「当たり前だ! こんな距離で撃ち合って勝てる相手か!!
   ひろみ 援護はどうしたんだ」

山崎「それが、目の前が真っ白になっちゃって…」
野明「私眩しくて転びそうだよ」

遊馬「…―どっちにしろこの手はもう駄目だ。あいつ自体の頭は太田並みでも、後で操作してるのは人間だからな」
太田「何だとォ!?」

進士「どうします?」

太田「ごたごた言ってても始まるかぁ~!!」
遊馬「あっ待て馬鹿!!」
野明「私も出ます」
南雲「泉巡査!」
遊馬「しょうがない。ひろみ、撃ちまくれ!」

 山崎・対戦車ライフルを発砲する。
 イクストル・反撃の機銃掃射。
 その硝煙弾雨の中を、三体のパトレイバーが疾走する。

 太田の駆る二号機のメインカメラ(顔部)を流れ弾が打ち抜く。


野明「太田さん!」
太田「喰らえ!!!」

 太田、走りながらショットガンを撃つが、それでイクストルの反撃に遭う。

太田「がぎょ~んがぐぐ」(機銃掃射されてますよ的な悲鳴) 
遊馬「太田!」

 イクストル、太田に狙いを定めるが、
 山崎の放った対戦車砲がイクストルの足に命中。
 バランスを失いながらも発射準備に入っていた弾は、
 本来の軌道を逸れ、
 遊馬と進士が走っていた、坑道の脇に作られた作業用通路を打ち抜く。
 それにより単身落下しようとする遊馬を進士が手を掴み留める。

進士「遊馬さん!!

   遊馬さん・・・もう・・・駄目」

 が、第二射でその脇道自体が壊れ、二人共下に落ちる。

野明「遊馬!!」

遊馬「太田、太田! 生きているか太田! 返事をしろ!」

太田「凄く綺麗なお花畑が・・素敵な香りの白い花が一杯・・」

野明「動き始めた」

 壁際から見張っていた一号機を機銃が撃つ。

遊馬「隊長、南雲隊長!」

南雲「こちら南雲」

遊馬「ECMをスタンバイして下さい!」

南雲「篠原巡査、今どこにいるの?」

 遊馬・進士、通風用ダクトを抜け、
 イクストルの背後を取ることに成功する。

遊馬「ケーブルが切れるとオートモードに入って、識別信号に反応しないものを無条件で攻撃するようになります。
   一気に叩いて下さい!
   太田。もう目は覚めたか?」

太田「おう」

遊馬「お前の大好きな接近戦だ。準備しろ!」

遊馬「隊長!」

南雲「各員へ。最大広域帯でジャミングをかける。開始後は全てのセンサーを切り、有視界で対処せよ」
遊馬「行くぞ」

 遊馬・進士、イクストルの有線接続をショットガンで打ち抜こうと
 何度も線を撃つ。
 途中でこれに気付き、銃口を向けてくるイクストル。
 あわや機関銃発射かという時、二機分の有線がやっと千切れる。

太田「喰らえ、この火星野郎が!
   これでどうだ!!」

 拳銃を五発発射し、
 一機目のイクストルを蹴り倒し、
 二機目のイクストルと格闘戦に入る太田。

 蹴り倒したイクストルが自律で起き上がり太田に銃口を向けた刹那、
 山崎の対戦車砲が三発、イクストルのメインフレームに直撃、
 一機目は動作を停止する。

太田「泉! 早くこいつに止めをさせ!」

 二機目のイクストル、
 脚で拘束の制約を一部解き、
 射界に入った二号機を打ち抜こうと機銃を掃射するが、
 太田には当たらず、天井を撃ち抜いた。

 ここは海底トンネル…それはつまり…

遊馬「天井をぶち破りやがった!!」
進士「浸水だぁ!!!」

野明「隊長、行って下さい!」

南雲「でも…っ」

野明「早く」

 山崎・対戦車ライフルのスコープを覗いていたが、
 海水が波になって押し寄せる様を見て
 慌てて避難する。

 エレベーター前、
 坑道の物資搬入エレベーターのスイッチを押し、
 来た道に目を遣る南雲。
 扉が開いたその場所には、最後のイクストルが。


南雲「どけぇええええええええ!!!」


1:44:08 18号埋立地、南雲、柘植

 エレベーターが上がってくる。
 南雲機(ECM装備)は見るも無残な状態である。
 ハッチが開かなかったのか、緊急発破し、
 コックピットから地面に降り立つ南雲。

 小丘の上に一人分の人影があった―…。

 柘植、行人。
 彼は、双眼鏡越しに都市を眺めていた…。

 白い鳩が無数に飛び交う、小丘の上で。

 南雲しのぶ――、そこに彼女が歩み寄る。

柘植「ここからだと、あの街が蜃気楼の様に見える。そう思わないか」

南雲「例え幻であろうと、あの街ではそれを現実として生きる人々がいる。それともあなたにはその人達も幻に見えるの?」
柘植「3年前、この街に戻ってから俺もその幻の中で生きてきた。
   そしてそれが幻であることを知らせようとしたが、・・・結局最初の砲声が轟くまで誰も気付きはしなかった。
   ・・・いや、もしかしたら今も」

南雲「今、こうしてあなたの前に立っている私は、幻ではないわ」

 南雲、徐に取り出したショットガンを、空に向けて放つ。
 どうやら発光信号だったようで、

後藤「お願いします」

 それを確認した後藤が、中継車らしき車に乗った数人に合図を出すと、
 自身はヘリに乗り込んだ。

編集「送信開始。出力最大」

南雲「我、地に平和を与えんために来たと思うなかれ。我汝等に告ぐ、然らず、むしろ争いなり。
   今から後一家に5人あらば3人は2人に、2人は3人に分かれて争わん。
   父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に」

柘植「あれを憶えていてくれたのか」
南雲「帰国したあなたが最後にくれた手紙はそれだけしか書かれていなかった。
   あの時はそれが向こうでの体験を伝えるものだとばかり・・・」
柘植「気付いたときにはいつも遅すぎるのさ。だがその罪は罰せられるべきだ。違うか」
南雲「柘植行人。あなたを逮捕します」

 18号埋立地にヘリで降下してくる後藤は、
 一方の手錠を柘植に、
 もう片方の手錠を自分の腕に、
 そして二人の空いた手の行方を見てしまった…。

1:48:00 第2小隊

後藤「篠原。聞こえるか」
遊馬「こちら篠原。隊長」
野明「地上で隊長の声が聞こえるってことは」
遊馬「妨害電波が消えたんだ」
野明「やった~!!」

野明・遊馬「隊長~!!」


後藤M(結局俺には、連中だけか・・・)



1:48:38 松井、柘植、南雲

松井「先程連絡が入ったが、ボートで脱出したお前の部下達は全員治安部隊に投降したそうだ。
   死傷者不明。被害総額はどれ位になるか見当もつかん。
   一つ教えてくれんか?これだけの事件を起こしながら、何故自決しなかった?」

柘植「もう少し、見ていたかったのかもしれんな」

松井「見たいって、何を」

柘植「この"街"の、未来を―…」
 (BGM:Hallucination)

1:49:25 スタッフロール

1:53:20 (C)1993 HEADGEAR/EMOTION/TFC/ING/SHOGAKUKAN

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