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雪組東京特別公演「Samourai」観劇 [┣宝塚観劇]

ミュージカル
「Samourai」
~月島総記「巴里の侍」(メディアファクトリー刊)より~

原作:月島総記
脚本・演出:谷正純
作曲・編曲:吉崎憲治
編曲:脇田稔、水野久興
振付:山村若、尚すみれ
殺陣:清家三彦
装置:新宮有紀
衣装:任田幾英
照明:勝柴次朗
音響:切江勝
小道具:下農直幸
演技指導:立ともみ
衣装補:河底美由紀
舞台進行:政村雄祐

雪組日本青年館公演「Samourai」を観劇した。あ、実際の文字、最後の“i”は、実は“Ï”なのですが、環境依存文字(すべてのPC、携帯からは見られない)のため、普通の“i”を使用していることを付け加えておきます。

感想を一言で言うと、熱演の出演者には申し訳ないが、コレナニ状態でポカーンとしている間に幕が下りてしまった。
え、これで終わり?これじゃ、冒頭の話にどう繋がるかわからん!本当にここで緞帳下ろすの???と、緞帳を恨めしく見上げ、こんな風に緞帳を見たのは、「愛と死のアラビア」以来だなーと思った。
さすが谷先生だ。
主人公の前田正名(音月桂)は、薩摩藩出身で、外交官になるための研修生としてパリに留学し、帰国後は政治家として活躍するも、いろいろあって、最後は阿寒湖の自然を守ることに尽力したらしい。で、彼の息子の一人に嫁いだのが、「モン・パリ」にも出演経験のある芸名文屋秀子という元タカラジェンヌ(麻樹ゆめみ)。彼女に新聞記者の鹿内(彩風咲奈)がこの地にゆかりのある人物として、前田男爵のことを取材していると言って話を聞き、そこから、正名という人物が浮かび上がって来るという設定になっている。
プロローグは、祝獅子の場面となっており、お正月らしく、三人の獅子(音月・早霧せいな・緒月遠麻)によって祝舞が披露される。毛振りのところで、緒月が命懸けで振っているかのごとく、大胆で見事な毛振りだなーと思ったものの、三人のテンポがズレているのが残念だった。
引き続き、アイヌの娘、アシリレラ(花瑛ちほ)が、「モン・パリ」を歌う阿寒湖のほとり。
ここで、阿寒の母と呼ばれている女性に、新聞記者が話しかける。
文屋秀子の芸歴から、前田正名の生涯まで、すべて説明台詞を言わされた彩風には、本当にお疲れさまでした!と言いたい。こういう説明台詞は歌舞伎の常とう手段なので、植田先生では、植田歌舞伎なのでしょうがないか…と思うが、谷先生、そこまで植田先生を真似してどうするんだ[exclamation&question]
前田正名という人物は、あまり知られてはいないが、阿寒湖周辺の保全に貢献した、土地の名士だったらしい。その次男に嫁いだのが、元タカラジェンヌの文屋秀子で、彼女はかつて、「モン・パリ」にも出演していた。
しかし、それを遡ること60年前、文屋秀子の岳父である前田正名もパリに行っていた!
前田正名の体験したパリとは…という風に物語が展開したら、(鹿内がパリ繋がりで、正名と秀子の記事を書くという設定だったら)すんなりと進んだようにも思えるのだが、ここで余計な一幕が登場する。
前田正名と坂本龍馬(緒月)のエピソードだ。
これがあるから、文屋秀子は、前田正名の生涯を語る的スタートを切らざるを得なかったし、だから、ラストシーンで“え?そういう終わり方?”となってしまうのだ。正名は、故郷の英雄、大久保利通の紹介でパリに行き、帰国後、大久保の姪と結婚している。それが史実だ。
だから、『巴里の侍』の舞台化としては、パリの話だけを切り離して描いた方がよかったのでは?と感じた。

正名と龍馬のエピソードはこんな感じだ。
馬関海峡(現在の関門海峡)の封鎖を突っ切って書状を届け、龍馬を助けた正名に、龍馬が礼を言う。どうやって封鎖を突破したかを聞いた龍馬に、小舟を漕いで…と答える正名。もし撃たれて死んでも骸は汐のまま、流れ着くだろうから…という大胆かつ冷静な判断を聞いて、龍馬は感心すると同時に、もっと命を大切にするように説く。
そして、エゲレスより文明の進んだ国、世界の中心、フレンチに行ってみろ、と正名に勧める。ヨーロッパには、フリー、自由があると、龍馬は上機嫌に言い、歌になって客席下りとなる。
こんなん、お得意の説明台詞で十分だと思いますが?
二人の手合わせや、龍馬が剣を授ける件を含めても。
緒月は後半演じるフルーランス少尉もいい役なので、ここに龍馬がプラスされると、2番手の早霧よりいい役になっている気がする。
この場面の終わりに、「半年後に坂本竜馬は暗殺された」というような唐突なナレーションが娘役の声で入る。このナレーション、麻樹さんだったのかな?すみません、声で聞き分けられなくて。どっちにしても、ここが「暗殺された」という断定調なのに娘役というのがめっちゃ違和感。
ナレーション入るの、ここだけだし、文屋秀子が鹿内に語るように設定した方が、まだましなのでは?と思った。

まあ、とにかく、正名は大久保利通の紹介でパリへ渡り、パリ総領事に任命されたモンブラン伯爵の屋敷に住んで、フランスについて学ぶことになる。フランス人が日本の外交官として総領事に就任するというのは、極めて異例のことだと思うが、モンブランは、維新以前から薩摩藩のために仕事をしていて、日本語もペラペラ、しかもフランスにも詳しい。大久保らにとっては都合のいい人材だったのかもしれない。
場面がパリに転換すると、男役たちが紫の燕尾服で登場し、「モン・パリ」をフランス語で歌い踊る。
日本⇒フランスと舞台が転換し、日本人がフランス語を話すような場面に無理なく繋げるため、我々の良く知っている歌がフランス語で歌われているレビューシーンを使うのは、うまい切り替えだと思う。ハリウッド映画(どこの国の人もみんな英語で会話する)でも、こういう切り替え点をうまく作っているらしいので、谷先生も考えたのだろう。
フランス語はよく聞きとれなかったが、「モン・パリ、我がパリ」の部分は、「モン・パリ、ノートル・パリ」だったのね。つまり、「私のパリ、私達のパリ」。これこそ、この芝居の裏テーマでもあるな、と終わってようやく気づく。

そして、このモンブラン伯爵邸で、彼は伯爵の姪、マリー(舞羽美海)、私費留学生渡会晴玄(早霧)に出会う。
マリーをはじめ、フランス人たちは、日本人をバカにしていた。彼らの差別的な言動のひとつひとつが、正名らを苦しめる。
ある日、酒場で、正名らは、士官学校の留学生五島(帆風成海)が、祖国の誇りを傷つけられて切腹する現場に出遭ってしまう。その姿を見せられても、フランスの軍人は命を懸けた彼の行動を理解しない。正名は深刻なカルチャーショックを受けるのだった。
そうこうするうちに、プロイセンがフランスに侵攻、普仏戦争が始まる。
包囲されたパリを守るため、正規軍以外に市民軍が組織され、さっそく兵士の募集が始まる。正名は渡会と共に市民軍に入り、フルーランス少尉(緒月=二役)の部隊に配属される。
ところがこの戦争、ナポレオン三世が降伏して捕虜となってしまい、新政府も軍部も戦争を継続したもののやる気がなく、パリは包囲されたまま、物資もない状況で、その上、モンブラン伯爵によれば、軍部はプロイセンと通じて、戦後の己のことしか考えていない。
こんな政府、軍部には任せられない、と市民は蜂起する。
つまり、パリ・コミューンの話がここから始まるのだが、それはあからさまには登場せず、ひたすらパリ市民たちによる私設軍隊の戦いの模様がずーっと描写されていく。
ヴェルサイユ宮殿においてプロイセン王のドイツ皇帝への戴冠式が挙行されるので、ヴェルサイユへ行軍すると、それが読まれていて発砲され、すごすごと帰って来るとか、女も銃を持って戦うけど、みんな殺されるとか、最後は墓地にまで行って戦って日本人残して全滅とか…。
そこに至る経緯の説明がほとんどないので、まったく理解も共感もできないまま、あっけにとられた状態の間にほぼ全員が死んでしまった。満足して死んでいったのは、ただただ戦争が大好きだった渡会くらいじゃないのか…。では、正名は何のために戦ったか、というと、なんとマリーを守るためだったらしい。
マリーはだんだん正名を好きになっているように思えたが、正名がマリーをどう思っているのか、あまり伝わる場面がなく、いつの間にか守りたいという話になっていたような…?
でも、この人、最初から、帰国したら大久保利通の姪と結婚するって決まっていたようにも思えるし、この先どうするんですかね?
同期で親友のアイザワさんとかいう人が、インフィニティ号で迎えに来て、マリーに直談判して、無理矢理連れて帰るんでしょうかね?
マリーが狂わないことを祈ります[もうやだ~(悲しい顔)]

出演者がとても熱演しているのが、逆に観ていて痛々しく、気の毒に思えた。
ほんと、これはない。
「コード・ヒーロー」はネタ公演として笑い飛ばせたが、これはない。
谷先生の作品には、多くの人が死んでいく物語があって、その中には、一人一人の死は虫けらのようであっても、そうやって重ねていくことでカタルシスに繋げていく手法なんだな、と感じられるものも存在する。
でも、これは、絶対にない。
たぶん、それは、市民戦でありながら、軍隊化した組織であり、まともなリーダーが存在しているから…という気がする。フルーランス、お前がついていながら、しかも、みんな死ぬなって言いながら、なんで全滅するんだよーっ!
軍人なんだから、もう少しちゃんと作戦を考えろー!!!
自分が死ぬ時ですら、死んだふりして、弾薬の入ったリュックサックを撃って爆発を起こしていたが、これによって敵が誰もケガひとつしなかったのが残念すぎるし…つか、自分だけ死んだんですか?あんな大爆発だったのに。
そして、正名に対しても同じ作戦にひっかかるレオン(大湖せしる)。本当はイイヤツなんじゃないだろうか。
そんな敵(大貴族)をも含めて、無駄死にのオンパレードの上、最後に正名とマリーだけが生き残る。そして二人で生きていこうとするところで、唐突に幕が下りるのだ。
途中「ベルサイユのばら」に似た展開や衣装が随所に見られるのに、みんなのために主人公が死んでいく「ベルサイユのばら」的カタルシスは採用しなかった。ひとつの文明が滅びていく瞬間に観客を立ち合わせる「EL DORADO」的主人公を含めて全員皆殺し的カタルシスも採用しなかった。
都合よく主人公とヒロインの二人だけが生き残る物語といえば、かの「望郷は海を越えて」の伝説のラストシーン(涙でお顔が見えませぬ)で、あの本当に感じが悪かったラストシーンを思い出すから、余計、この作品がない、と思うのだろうか。
生き残った正名が、その後の人生をどう生き、死んでいった人々にどう向き合ったのかが、彼の人生から見えてこないのも痛い。(荒唐無稽なフィクションのため、史実のパリ・コミューンを正名がただの災難位にしか思っていなければ、見えてくるわけはないのだが。)
やっぱり、創作してでも、後日談とか、ほしかったなー。龍馬の場面をカットしてでも。

そうそう、正名は最初からフランス語ができたわけではないと思うが、最初からマリーの言葉を理解しているように見えた。一方、渡会は、かなり後まであまり言葉を解していないようにも感じられたが、どうなんだろう?
彼らはパリで言葉を勉強するので、フランス語は訛っていないだろう。
フランス語が話せるようになったところで、訛りを外していくのがわかりやすいと思うが、その辺のタイミングがズレているようにも感じられた。
あと、英語を知らずにフランス語を学んだものが、CHOPINを「チョピン」と呼ぶとは考えられない。無粋な笑いを取りに行ったな!と思った。残念!

フィナーレは、「宝塚 我が心の故郷」のフランス語版で黒燕尾男役の群舞など見所はあったが、中途半端な長さだった。
出演者には、ただもう気の毒としか言えないが、一言感想を。
音月桂(前田正名)…聴かせる歌と、ちょっと大丈夫か?という歌があったような。まったく感情移入できない役だったので、よかったのかどうか、判断もできない。竜馬との手合わせの場面では、「ちぇすとー」と打ちこみの間に時間差がありすぎて、それじゃやられるよ…と思ったのはわざとでしょうか?
舞羽美海(マリー)…髪形が超可愛かった。性格も可愛いな。でも、またまた奥さんにはしてもらえないのね。
早霧せいな(渡会晴玄)…キャラに合っていた。可愛かったなー。でも、緒月とどっちが2番手なんだろう?と真剣に悩んでしまった。
緒月遠麻(フルーランス少尉/坂本龍馬)…少尉だけでもすごくよい役なのに、坂本龍馬までやるなんて、どんだけ緒月アゲ?でも、両方とも似合っていて、しっかり期待にはこたえていたと思う。
飛鳥裕(モンブラン伯爵)…よい人なんだなーというのがしみじみと伝わった。
麻樹ゆめみ(文屋秀子こと前田光子)…大先輩の役なのでひたすらよい人に見えるように頑張っていたと思う。
奏乃はると(ノエル)…もしかして二枚目?ちょっとときめいてしまった。よい役でした。
花帆杏奈(レティシア)…女優らしい。なんかいい役っぽかったけど、ちょっとわざとらしい設定が気の毒だった。
涼花リサ(ブランシェ)…酒場のマダム。すっごーくかっこいい役だった。感動。
大湖せしる(レオン)…悪い役だけどハンサム、しっかりやっていたと思う。イヤミな風情が、大きさは違うが和央ようかに似ていて、うるわしかった。
香稜しずる(チプリアニ)…可愛かった。歌もとてもよかったです。
彩風咲奈(ガスパール/鹿内圭介)…鹿内、すごく大変だったと思います。ご苦労さまでした。
最近、早花まこの役付きが悪いなーと気になっている。出来る子なので使って下さい!


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msy

数年ぶりに宙組以外の小劇場の公演を観たのですが、同じような感想を持ちました。
周りの方は泣いておられたので、「私、変なん?」と、戸惑いながら帰宅したのですが・・・
夜野様の感想を読んで安心しました(笑)
マリーが正名をばかにした次のシーンで、もう普通に話していて「私、寝てた?」と思ったんですが(笑)もう少し、二人の変化を描いてほしかったです。
by msy (2012-01-26 15:49) 

夜野愉美

msyさま
コメントありがとうございます。
私も周囲の方が泣いているのを聞いて、どきどきしてしまいましたが、自分の感想は、自分の感想なので。
それにしても雪組は、作品に恵まれない率が高いような気がします…。
by 夜野愉美 (2012-01-27 22:23) 

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