第34回「県民健康調査」検討委員会発言要旨
1.3巡目における甲状腺がんの検出数の減少について
2巡目と比較して3巡目の甲状腺がんの検出数が著明に減少している。学校検診の受診率は低下していないので、1次検診で異常を指摘された対象者の相当数が通常診療に流れてしまっている可能性が高い。今後学校検診を卒業する対象者が増えること、20歳から25歳までは間隔が空いてしまうことを考えると、このような集計外が増加する可能性は非常に高い。結節を有する対象者の多数が検診外に漏れてしまえば、調査の信頼性が著しく毀損されるとともに、過剰診断の被害を防ぐ手段が失われてしまう。その場合、福島で行われている甲状腺検査が単なる過剰診断の入り口と化してしまう懸念がある。
2.IARCの提言書について
当委員会ではIARCは福島の実情を考慮に入れて検討していないので提言に従う必要が無いとの意見が出ているが、実際に福島に関する情報は考慮されずに議論がなされたのか。
➡県立医大の回答 福島の状況を考慮にいれた提言ではない。
(解説)
1については発言内容だけではわかりにくいので下記に解説します。あの場で取り上げても恐らく多くの委員や傍聴者は理解できないのではないかとは思いましたが(実際そうだったようですが)、今の時点でこういう指摘があったという記録を残しておく必要があると思ったので発言しました。
1巡目でそれまでに発生した癌を拾い挙げたあとは、受診率が変化しなければ2年ごとにスクリーニングすると2年分の新規発生分のみ同じ数が見つかるはずです。しかし、3巡目で見つかった数は2巡目の半分にもなりません。1次検査でB判定を受けた対象者の比率は変化していませんが、細胞診を受けた対象者数が激減しています。つまり、B判定を受けてから細胞診に至るまでの間に相当数脱落しているのです。これらの対象者はどうしているのでしょうか?結節がある、と診断されてそのまま放置しているのでしょうか?それは考えにくいです。おそらく自主的に病院を受診して診断を受けているのでしょう。これからこのような対象者は増えるでしょうか?減るでしょうか? 福島では子供たちが学校で教師の指導の下、甲状腺超音波検査を受けています。そして彼らはインフォームドコンセントを受けていません。つまり、無症状の段階で甲状腺超音波検査を受けて小さな癌を見つけにいくことが良いことだ、と信じている子供が38万人いるのです。彼らが学校を卒業すると学校検診から外れます。また、20歳を超えると25歳まで検診がありません。学校検診でA2あるいはBと判定された子供たちがそのような状況に置かれたら、どのような行動をとるでしょうか?おそらく検診を待たずに通常診療で超音波検査を受けることを選択するでしょう。福島は東京へは1時間半で出られる距離にあります。これらの子供たちが大挙して東京の甲状腺専門病院を受診する可能性があります。そのような専門病院で患者が希望した場合、どんなに小さい結節であっても必ず細胞診が行われます。なぜかというと、専門病院の立場として、自分のところで診断しなくてよい、と判断した後で他院で癌と診断されてしまえば、自院の評判を落とすことになるからです。すなわち、いったん通常診療に移ってしまえば過剰診断を防ぐことはほぼ不可能です。福島の甲状腺検査は過剰診断の発生をそもそも想定外としてデザインされたものです。このような対象者の心理や社会状況に対する配慮がなされていません。
では、このような集計外が増えた場合どうなるか考えてみましょう。がん登録で報告される症例数が検診で検出される症例数を大幅に上回る状態になれば、超音波検査の結果をベースとしたデータの信頼性が大きく損なわれます。また通常診療では過剰診断の抑制をすることができません。すなわち、福島県で行われている学校検診は過剰診断を引き起こすだけで本来の目的である放射線の健康影響の有無を判断する役割を果たせなくなります。また、このように通常診療で癌が多発(実際は多発見ですが)しているとの情報が流れれば、新たな社会不安を引き起こすでしょう。
このような事態にならないことを望みますが、残念ながら既に兆候は出ています。過剰診断のアウトブレイクはまず超音波検査の実施数の増加という形で現れ、その後にがん統計における罹患率の上昇がみられます。前者は既に確認されていて、福島および近隣県では2011年以降、頸部超音波検査の実施数が急増しています。過剰診断の抑制の鍵は既に多くの専門家が語っているように教育です。県民に超音波検査の弊害を理解してもらう以外はありません。是非県や学会は対象者への情報提供に積極的に動いて欲しいと思います。