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【社説】

<虐待なくすために>(1)親も甘える誰かが必要

赤ちゃんは本文と関係ありません

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 春の花で色づき始めた高知県の町で、生後三カ月になる赤ちゃんを連れたお母さんが、小児科医の沢田敬さん(79)=写真=と向かいあっていた。寝返りがうまくいかず泣きだす赤ちゃん。お母さんに手助けしてもらってうつぶせになると、笑った。

 二カ月前、お母さんの心は極限状態にあった。「虐待する人は特殊な人と思われているけれど違う」と、自分の経験が役立てばという思いから、沢田医師との面談に同席し取材するのを認めてくれた。

 第一子の男児は死産だった。次に生まれたこの子をかわいいと思うと、お兄ちゃんに悪い。葛藤の中、赤ちゃんの激しい泣き声は、お兄ちゃんが「助けて」と叫んでいるようにも聞こえた。妖怪のようだと思った。「育てられない」と追い詰められた。

 異変に気付いた家族から沢田医師にSOSが届いた。地元の保健師とともに定期的にお母さんの話を聞き続けた。「お母さんの悲しい気持ちが響いて、赤ちゃんも泣いている。お母さん思いだね」。沢田医師はそう語りかけた。

 二カ月たってもお母さんは背中のあたりにお兄ちゃんの気配を感じることがあるという。それでも気持ちはずいぶん落ち着いた。「吐き出せる先があったから」

 沢田医師は高知県の公立病院や児童相談所に勤務し多くの親子に接する中で「甘えの力」に気づいた。親に甘えることで、子の原因不明の症状が消えていくこともある。でも、子どもの頃の虐待など、心に傷を抱えている親は、まずそれを誰かが受け止めてあげなければ余裕も生まれてこない-。

 二〇〇九年、保健師や保育士、医師らとNPO法人「カンガルーの会」をつくり、虐待予防の研修会などの活動を始めた。

 千葉県野田市の虐待事件を契機に、親の体罰禁止など法改正の議論が今国会で進む。「北風」の施策も必要だろうが、「太陽」もなければ、救える親子も救えない。社会が太陽であるとはどういうことか、沢田医師と高知県内を巡り考えた。 (早川由紀美)

 

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