福岡知事選 県と政令市「役割」再考へ

 いわゆる「安倍1強」政権下で生じた自民党の慢心が、選挙結果につながった。民意を侮ったというほかない。

 保守分裂選挙として注目された福岡県知事選は、現職の小川洋氏が自民推薦の新人武内和久氏らに勝利し、3選した。武内氏は、小川県政の生みの親とされた麻生太郎副総理と麻生渡前知事が対立候補に立てた。

 政治的な確執が分裂選挙を招いた。昨今の首長選は、特定候補者に与野党が相乗りしがちである。その意味で、選択肢が増えたことは有権者にとって歓迎すべきことだった。ただ、肝心の政策論争は深まらなかった。

 明確な争点となったのは、観光振興に充てる「宿泊税」である。県と福岡市がそれぞれ導入を表明している。徴収主体について、小川氏が県だと主張し、武内氏は支援を受けた高島宗一郎市長に配慮してか、市だと訴えた。とはいえ選挙で決着がついたとは言えまい。今後、対立が深まる事態も予想される。県と市による「二重課税」の懸念も出てきた。

 ここで提案したい。知事選の結果はもはや過去のものと考え、県と市町村、とりわけ政令指定都市との役割分担について、宿泊税を契機に県内全体で積極的な議論を始めてはどうか。

 政令市制度は、大都市を効率的に運営するため1956年に始まったが、より望ましい姿を巡る論議はなお過渡期にある。道府県から移譲された権限は当初の想定より限定され、社会福祉、衛生、都市計画など20項目にとどまる。

 多くの利害が絡み、容易に着地点を見いだせないのは当然だ。しかし新時代「令和」もすぐそこだ。少子高齢化や災害多発など難題に対処していくためにも、地方行政は国との関係も含めさらに変化を求められる。

 福岡県は福岡、北九州という二つの政令市を抱える。「住民に身近で切実な行政ニーズとは何か」-。地方自治の趣旨に照らし、そんな物差しで議論を深めれば、福岡独自の意外な回答が出てくる可能性はある。

 過去にも何度となく、県と福岡市の摩擦は起きた。県営の大濠公園(福岡市中央区)は80年代半ば、放置された池水の汚濁による悪臭で市民が悲鳴を上げ、県は埋め立てまで示唆した。市への移管要求が市内部からも巻き起こり、県はようやく多額の予算を付けて浄化した。

 大濠公園を県内施設の一つと見る県と、地元の顔と見る市と市民の温度差が表れた事例だ。

 大阪の都構想で指摘された政令市との主導権争いや、類似公共施設の併設など二重行政は全国的な問題だ。時代にふさわしい知恵が求められる。

=2019/04/08付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]