彼女は38歳で3人のお子さんを持つお母さんです。仮に田中さんとします。
彼女は「子供にきつくあたってしまい、ひどく怒鳴りつけたりしてしまうんです。手が出そうになる時もあるんですが、それはどうにか押さえています。でもこのままいくと押さえ続ける自信がありません。そんな状況ですから、子供は母である自分に気を使って、オドオドと顔色を窺うようになってしまって…。優しくしなくっちゃと思いながらも、ついイライラしてしまう自分をどうにかしたいんです。」というご相談でセッションにいらっしゃいました。
カウンセリングを進めるうち、彼女自身が子供のころにひどい虐待を受けていたことを、涙ながらに話し始めました。彼女も彼女のお母さんから、その時の気分で殴られたり、食事を与えられなかったり、時には車で山に連れて行かれて置き去りにされたり…。さらには「あんたなんか産まなければよかった!!」と何度も言われていたのです。
「とにかくお母さんの怒りのスイッチがどこにあるかわからないんです。」と悔しそうに言われます。
「いきなり怒鳴り始めたかと思うと、まず服を脱がされます。そして真冬でも外に出されて、布団叩きやほうきで叩かれて、朝まで放置されるのです。それが高校卒業して家を出るまで続きました。高校生になっても、裸で外に出されたことも何度もあります。
あるいは、夜寝ているといきなりたたき起こされて、怒鳴り始めるのです。そうするとまず裸にされます。とにかく意味が分かんないのです。
階段に正座をさせられます。しかも1番上ではなくて3段目位に。さらに内向きではなくて外向きに正座をさせられるのです。内向きだと上の段に手をついて、少しでも休めるから。それすらできないように、外向きに正座をさせるのです。それが登校時間が来るまで続きます。
食事を抜かれることもしょっちゅうです。だから、お母さんのことが許せないんです。」
とうぜん彼女はお母さんを恨みました。
そんな母親に対して「その時の思いを母に訴えても、あの時は仕方なかったとか、あなたがあんなことをするからとか、そんなことしか言わないんです。絶対のあやまってくれないんです。一言でも本心で謝ってくれたら、少しは違うと思うんですが…。」と涙をこらえながら、訴えられます。
さらに、「ですから、今まで絶対に許したくないと思ってきましたが、自分も同じようなことを子供たちにするようになってしまって。母に対する怒りが子供に向いているんだということに、自分でも気づき始めました。母を許さなくちゃと思うのですが、どうしても出来ないんです。結婚して実家から車で10分くらいの所に住んでいるのですが、母と会うとイライラするものですから、盆と正月くらいにしか帰らないようにしてるんです。父も7年前に亡くなり、母も年をとって一人暮らしで寂しそうなんです。ですから昔の事は忘れて優しくしなくっちゃと思うのですが、どうしても出来ないんです。」と絞り出すように話してくれました。
彼女も子供のころからひどい虐待を受け、心の奥底に悲しみと寂しさと、怒りがこびりついていたのです。そのこびりついていた感情が、子供たちに向いていたのです。いわゆる虐待の連鎖が起きかけていたのです。
「しかし、なぜあなたはそういうお母さんを選んで生まれてきたんだろうね?」と私が言うと、彼女は「私は選んだ覚えはありません!。子供が親を選ぶと本に書いてあるのは読んだことあります。しかしそれは、私には当てはまりません!!。もし選んだとしても、間違いました!!」と言い張るのです。
「しかしね、間違うと言う事は絶対にありえないからね。大丈夫だから、あなたがお母さんを選ぼうと思った原因となってる人生と向き合おう。」と私が言うと、彼女も覚悟が決まった様でした。
セッションを進め、前世に誘導するうちに、彼女の原因となっている前世が明らかになってきました。
彼女は1000年ほど前のヨーロッパのある宮殿のお姫様でした。とてもわがまま放題に育てられ、使用人に対してとても傲慢に接していたのです。気に入らないことがあると、平気でせっかんをしたり、時には部下に命じて拷問に近いこともしていました。中には死に至った人もいたのです。しかし、わがままな彼女は気にも留めていませんでした。
そんな彼女も親の勧めで結婚はしたものの、そんな性格ですから結婚生活もうまくいかず、離婚し実家に帰ってきたのですが、さらにわがままに拍車がかかり、せっかんや監禁は当たり前のようになりました。そうやって5人くらいのメイドさんを死なせてしまっていたのです。もちろん使用人はどんどんいなくなりました。
そういう状況でも、まだご両親が健在なうちはどうにかなっていたようですが、当然ご両親も先に亡くなり、自分が後を継ぐことになった時には、全ての使用人が出て行ってしまったのです。
しかし、一人ぼっちになってしまった彼女を見かねて、一人のメイドさんが戻ってくれたようです。
そんな彼女も年をとるにしたがい、今までの自分の言動に気付き始めました。
「何て傲慢な自分だったんだろう。みんなに本当に悪いことをしてしまった。こんな自分が寂しく惨めな老後をおくらなくちゃいけないのも自分のせいよね。仕方ない、自業自得よね…。」と思っても遅かったのです。
そして「次は、もっと人の痛みがわかる、優しい自分にならなくちゃ…」彼女はそう思いながら、50歳の若さで一人残ってくれたメイドさんに見守られながら、死を迎えたのです。
彼女の壮絶な前世が明らかになった後、さらに彼女を「今のお母さんのお腹の中に入る前、今回の人生の計画を立てている場面」へと誘導しました。
彼女に「あなたはそこで、次の人生どうしようと思ってる?」と聞くと、「人の痛みがわかる優しい自分にならなくてはいけないと思っています。」と答えます。
さらに「ではあなたは、なぜ今のお母さんを選んだの?」と聞くと、彼女は号泣しながら「とても優しい人だからです…」と言うのです。
私が「優しくないでしょ。あなたにあんなひどいことをしたお母さん、優しくはないでしょう。」と言うと、彼女はさらに号泣しながら「優しいんです!!優しいんです!。とても優しい人なんです。」と訴えるのです。
さらに私は「では、その優しいお母さんに、あなたは何かお願いしなかった?」と聞くと、「お願いしました。私に痛みを教えてとお願いをしました…」と言います。
「お願いされたお母さんは、何と言ったの?」
「あなたのお母さんになる事はいい。しかし、そんなひどいことをあなたにすることだけは勘弁して、と何度も断られました。」
「断られて、あなたはどうしたの?」
「何度もお願いしました。こんなお願いが出来るのは、あなたしかいないから。あんなだめな自分にはなりたくないから、どうかお願いだから私にきびしくしてって。私がメイドさん達にしたことと同じことをして、と何度もお願いをしました。(号泣)」
「その時のお母さんはどんな気持ちだっただろう。どんな表情をしていたの?」
「とてもつらそうな表情をしていました。」
「本当はお母さんはあなたにどう接したかったんだろう。」
「もっと優しくしたいと思っていたと思います。」
「そうだよね。その方がお母さんだって穏やかな人生が送れた。」
「はい。」
「お母さんも辛かっただろうね。そのお母さんに何て言いたい?」
「本当にごめんなさい。辛い役目をお願いして、本当にごめんなさい。」
「そして、あなたの願いを聞いてくれたことに対しては何て言いたいの?」
「ありがとう。本当にありがとう(号泣)」
「そのお願いをしたお母さんは、前世の誰なの?」
「最後に残ってくれたメイドさんです…」と更に泣きじゃくります。
「本当にごめんなさい。本当にごめんなさい。」と何度も何度も謝るのです。
そうなのです。彼女は今回生まれてくるときに、前世で自分を看取ってくれたメイドさんをお母さんに選んだのです。自分のわがままを最後まで聞いてくれた、前世の使用人だった人を。
この人なら私の真の願いを聞いてくれると思って、文字通り一生のお願いをして生まれてきたのでした。彼女はもう前世のような失敗はしたくないから、人の痛みが解かる優しい自分になりたかったから、お母さんにお願いをしていたのでした。
そのことに気づいた瞬間、全てが「ありがとう」に変わったのでした。苦しいこと辛いことは沢山あったけど、実は素晴らしいことしか起きていなかったことに気づいたのです。
その3日後のことです。彼女から電話がかかってきました。
「あの日、セッションが終わって、実家に直行したんです」
彼女の実家が、セッションルームの近くだったんです。
さらに、「お母さんの顔見た瞬間、生んでくれてありがとうと思わず言ってしまいました。言った瞬間、涙が溢れてそれ以上何も言えなくなってしまいました。それを見ていたお母さんは、おろおろしながら、何かあったの?と言ってたようですが、しばらくしてお母さんも泣きながら、今まで本当にごめんねと本心で謝ってくれたんです。」と電話口で泣いていました。
ここまでいくと、人生が180度変わりそうですよね。
彼女は今までの体験の本当の意味に気づくことができたのです。
彼女のお母さんは、自分の人生をかけて、彼女の望みを聞いてくれていたのです。
そのことを彼女は思い出したのです。
そして、彼女とお母さんの間にあった魂レベルの契約はすべて成就して、解約されたのです。
二人は、本来の素晴らしい関係に戻っていったのです。
その後お子さんたちにも怒鳴ることがなくなり、子供らしい表情にもどられたそうです。