シビル・トレローニのいない世界   作:一文
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マグル生まれの忌むべき点は、何よりもその傲慢さにある。

ドラコ・マルフォイはそのように思っていた。

彼らは最初、魔法が万能だと信じ込む。そして、それが世界を幻想的で素晴らしいものに変えることを疑わない。

バカバカしい。

魔法族がすべからく知っている点は、魔法の非万能さと、自分たちの無力さ。つまるに、この種族の斜陽である。

魔法族はとうにマグルからの人の流入なしにはそのコミュニティーを維持できない。

マグルを真似た中央集権的な統治機構をつくれるほど、我々は組織力も協調性も、人口も持ち合わせてはいない。

しかし、何代か前の酔狂なマグル贔屓の魔法族がそれを提案した。

そして、反対を押し切った末に生まれたのが魔法省だ。

結果として、それは我々をマグルへと近づけなかった。

魔法省ができれば我々はマグルのように発展する、そう豪語した初代魔法省大臣は、忘れていたことがあった。

 

我々はマグルとは共存することができない。

 

それはどの世界の魔法族にとっても自明のことであり、語るるに足りぬとして誰もが理解していた暗黙のことだった。

しかし、初代魔法大臣にとってはそうではなかった。

彼は魔法族に育てられたのではなかったのだから。

我々はマグルから姿を隠し、世界の支配権を彼らに譲ることでそのコミュニティーを存続させてきた。

しかし、魔法省の設立とともに、コミュニティーを維持すること以外の仕事が増えて、魔法界は深刻な労働力不足に陥った。

結果として、魔法界にはマグル生まれが大量に流入することになった。彼らは秩序を知らず、不文律を犯し、勝手気ままに社会制度を変えることを要求した。

不文律は明文化できぬ故に、マグル生まれはそれを知らずに育つ。

そして不文律を躊躇なく犯し、マグル的な物差しにおいた魔法界を規定しようと躍起になる。

こうして、約束の発展は訪れず、過去の生き方を奪われつつある魔法界において、およそ希望などあるのだろうか、とドラコは思う。

ドラコは懐古主義的な人間なのだと自身で思っていた。

所詮叶わぬ思いであるにも関わらず、現実の衰退に目を背けながら過去にしがみつくような人間なのだと。

それに、彼がそんな考えを持つに至ったのも、亡き父の影響に他ならないのだということにも気づいてはいた。

変革しつつある魔法界に、ドラコの父は常に憤っていた。

マルフォイ家の当主として、それまでの魔法界に対する多大な貢献と引換えに得た権益が侵され続けていく現状に相当な不満を感じていたのだとドラコは思う。

それは一義的には正しいことであるとドラコは信じている。

しかし他方において、犯罪者として闇払に殺された父を手放しで弁護することは、ドラコにはできないことであった。


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