シビル・トレローニのいない世界 作:一文
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ホグワーツ魔法魔術学校行きの汽車の中で、ハリー・ポッターはひどく落ち着かないときを過ごした。
早めに漏れ鍋を出発したお陰で、車内では苦もせず空いているコンパートメントを見つけることができた。
このロンドンの駅までほとんど引きずるようにして運んできた重いトランクを、なんとか荷台に上げてしまうと、疲労と緊張も相まってハリーは崩れるようにして席に座った。
さて、とハリーは思う。見送りに来てくれるかと思ったピーターは、生憎と仕事のためにハリーより先に宿から出ていってしまった。
ロンドンへ行くことも、全く知らない世界に行くこともハリーにとっては不安でたまらない出来事ではあった。できればピーターに付添を頼みたいと思ったが、昨晩から申し訳なさそうな顔をして何度も謝るピーターにわがままは言えなかった。
ピーターはハリーの父親の友人だったらしい。
おどおどしていて、気弱な小男だったが、優しくて気のいい人物だった。
頼りがいがあるとはお世辞にも言えなかったが、彼は子供であるハリーにもフェアに接してくれた唯一の大人だった。
ピーターのことを考えながら、ふと窓に目を向けると、ブラットフォームにハリーと同じ背丈の丸顔でポッチャリとした少年が見えた。
両親に挟み込まれるようにしてトランクを積んだカートを押している。
少年は、輝くような笑顔を交互に両親に向けていた。
ハリーが食い入るように少年を眺めていると、コンパートメントのドアがノックされた。
*
漏れ鍋に滞在している間、ピーターは何度もハリーの部屋に足を運んできてくれた。
なかなか多忙であるらしく、ハリーにはわからないことをボヤきながらも、暇を持て余していたハリーの話し相手になってくれた。
知らない世界に飛び込んできたハリーは、山のような質問を彼にぶつけたが、ピーターはその一つ一つに丁寧に答えを返してくれた。
その話を聞かせてくれたのは、ハリーが両親のことをピーターに聞いたときだった。
その昔、悪い魔法使いがいた。
重々しく、ピーターらしくない口ぶりで始めた。
その人物は、暴力と支配のために持てる魔力を注ぎ込み、イギリスの魔法使いを恐怖に包み込んだ。
大勢の魔法使いが死んだ。
ハリーの両親も、その友人も、そしてピーターの家族も。
学生時代の話をするとき、ピーターは懐かしそうに、そして寂しそうにしてハリーに語った。
「友たちは皆勇敢だったんだ。もちろん君の両親も。僕は彼らほど勇敢ではなかったから、生き残ることができた。けれども、みんなはそうじゃなかった。」
ピーターは沈鬱な顔をハリーに見せた。
疲れた顔には後悔と悲しみが刻まれているようだった。
「もっと早く君を訪ねたいと思っていたんだ。けれどもジェームズが君の叔父さんと揉めたことがあってね。魔法使いが来るのを好まないだろうと尋ねるのは控えていたんだよ。」
「その悪い魔法使いはどうなったの?ピーター?」
話に引き込まれていたハリーが思わず口を開いた。
「ああ、ダンブルドアが倒したんだよ。ホグワーツの校長で、最も偉大な魔法使いがね。」
そう言ったピーターの声には喜びはなかった。