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木村草太の憲法の新手(101)夫婦別姓訴訟(上)戸籍上の婚前姓、選択認めず 社会生活の「混乱」重視

2019年4月7日 17:15

 民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と、夫婦が同じ氏であることを求める。この規定について、サイボウズ社長の青野慶久氏らが原告となり、夫婦別姓での婚姻を認めないことは違憲ではないかを争った。3月25日、東京地裁は合憲の判断を示した。

 夫婦別姓を求める訴訟は以前にもあった。その際には、法律婚カップルの96%が夫の氏を選んでおり、民法750条は、女性に氏変更を強要する女性差別規定だとの主張がなされた。しかし、2015年12月16日、最高裁判所は、民法750条自体は男性の側が氏を変えることも認めており、男女の不平等はなく、合憲だとした。

 同じ主張を繰り返したのでは、合憲判決が出るのは明らかだ。では、今回の訴訟では、どのような不平等の主張をしたのだろうか。

 現行法では、婚姻・養子縁組など、民法上の身分が変わるときに、戸籍上の氏が変わるのが原則だ。ただし、これにはいくつかの例外がある。

 例えば、離婚について定めた民法769条1項は、婚姻時に氏を変えた者は、離婚時に元の氏に戻ることを規定する。ただし、それでは社会生活上、不都合な場合に備え、同2項は、離婚による身分の変化にもかかわらず、戸籍上、婚姻中の氏を継続することを認める。これを、「婚氏続称」という。

 また、日本人と外国人の婚姻の場合、戸籍実務では、民法750条は適用されないとされており、日本人の夫・妻の氏は変わらない。ただし、氏を統一したい場合には、戸籍法107条2項・3項により、戸籍上の氏を変更できる。

 青野氏らは、こうした制度を参照しつつ、民法750条に基づき婚姻により「民法上の氏」が夫婦同氏になるとしても、「戸籍上の氏」を婚前の氏にすることは可能だと指摘した。そして、婚氏続称や外国人との婚姻の場合に比べ、婚姻前の氏を戸籍上継続する制度がないのは平等権侵害だと主張した。あえて民法750条の違憲を主張しなかったのは、それを合憲とした2015年最高裁判決を意識したからだろう。他の制度と比較する論理も興味深い。

 しかし、東京地裁判決は、この主張を退けた。判決全文は未公表だが、メディア向けに発表された判決要旨によれば、判決は、次のような論理を採用したようだ。

 婚氏続称や外国人配偶者の氏への変更の場合は、氏の変更が民法上の身分変動を表現するわけではないが、法制度や社会の中で用いられる氏が複数生じるわけではない。これに対し、「民法750条自体は合憲・有効で、夫婦が民法上同氏になる」ことを前提に、「戸籍上の氏」だけを変えると混乱が生ずる。このため、婚氏続称・外国人との婚姻との区別は合理的で、平等権侵害ではない。

 「民法上同氏だが戸籍表記上別氏」という状態は、混乱を招くため好ましくないとの指摘には一定の説得力がある。この論理をみると、民法750条自体の合憲性を争わずに、戸籍上の氏の扱いの不平等のみを主張するのは難しいようにも思う。

 では、今後、この問題をどのように考えるべきか。次回は、この点を考えてみよう。(首都大学東京教授、憲法学者)

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■木村草太 著
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