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国内最年少肺移植の1歳女児退院 岡山大病院、経過は順調

ベッドで元気に動く女児を抱え上げる両親

大藤剛宏教授

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で5月、肺の血管が狭まって心機能が低下する肺高血圧症で脳死両肺移植を受けた1歳女児が3日、退院した。病院によると、女児は生体間を含めて国内最年少の肺移植患者で、合併症もなく経過は順調という。

 同日午前、両親と長男(4)に付き添われた女児は、見送りの医師や看護師らに元気な笑顔を見せながらベビーカーに乗って退院。地元の九州地方に新幹線で向かった。九州大病院で主治医らが術後の状態を観察した後、生まれて初めて自宅での生活を始める。

 母親(39)はドナー(臓器提供者)の家族に宛てて「笑顔で生きていける未来を切り開いていただいた」との感謝の手紙をしたため「多くの人の支えでいただいた命。大切に、大切に育てたい」と目を潤ませた。父親(52)も「家族4人で食卓を囲み、公園で遊ぶという当たり前のことができる幸せを感じる」と話した。

 女児は生後間もなく呼吸状態が悪化したため九州大病院に入院。薬物療法や人工呼吸器を用いるなどしたが改善せず、今年2月に日本臓器移植ネットワークに登録。5月11日、岡山大病院に転院し約6時間半の手術を受けた。

 4日後には人工呼吸器が外せるまでに回復。執刀医の大藤剛宏・臓器移植医療センター教授によると、定期的な診察や免疫抑制剤を飲み続ける必要はあるが、日常生活は支障なく送れるようになるという。

 肺移植患者のこれまでの最年少は、岡山大病院で2014年に生体移植を受けた2歳男児だった。

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  執刀医・大藤剛宏教授「『命のリレー』理解深めて」

 国内最年少の肺移植患者となった1歳女児の退院に合わせ、執刀医の大藤剛宏・岡山大病院臓器移植医療センター教授が3日、同病院で取材に応じ、小児の臓器移植が進まない現状に対して社会の関心を高める必要性を強調した。

 ―女児のドナーは6歳未満の男児だった。

 「ドナーの家族の尊い気持ちをつなぐことができ、ホッとしている。女児は明日をも知れない状況だったが、1歳の体には大人の肺が分割しても入らず、小児の脳死ドナーを待つしかなかった」

 ―しかし、肺以外も含め小児ドナーは極めて少ないのが現状だ。15歳未満の脳死臓器提供が可能になった2010年以降、15歳未満の提供は今回を入れて15人しかおらず6歳未満は7人にとどまる。

 「女児の両親も、いつ移植を受けられるか分からず一時は絶望していた。それでも可能性はある。難病の子どもを持つ親は希望をなくさず、ぜひ移植の道を模索してほしい」

 ―岡山大病院では、生体間を含め10歳以下への肺移植を全国最多の17例実施してきた。

 「大人の肺の一部を分割し幼児の両肺として移すといった世界初の術式などを駆使し、あきらめず救命の道を探ってきた。ただし、理想は小児間の移植。子どもの成長とともに移植肺も大きくなり、再手術の必要もないためだ」

 ―小児の脳死ドナーが増えない現状をどう思うか。

 「臓器の提供をためらう家族の心情は当然だと思うが、脳死となった子ども自身や自分たち家族のためだと考えてほしい。子どもの細胞や臓器は他人の体の中で生き続ける。女児の家族もドナーが現れないまま脳死したら、わが子をドナーにと決意していたようだ。まさに『命のリレー』。小児の臓器移植への社会の関心、理解が高まることが何より大切だ」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年07月03日 更新)

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