(cache)漫画家・小林よしのりさん、文芸誌連載中の「新・おぼっちゃまくん」が単行本化「今の時代にピッタリ来る」  : スポーツ報知

漫画家・小林よしのりさん、文芸誌連載中の「新・おぼっちゃまくん」が単行本化「今の時代にピッタリ来る」 

「月1連載では足りないくらい、次々とアイデアが湧いてくる」と話す小林よしのりさん
「月1連載では足りないくらい、次々とアイデアが湧いてくる」と話す小林よしのりさん
「新おぼっちゃまくん」幻冬舎
「新おぼっちゃまくん」幻冬舎

 「ゴーマニズム宣言」などで知られる漫画家・小林よしのりさん(65)の代表作の一つで、90年代にはテレビアニメ化もされるなど子供たちに大人気を博した漫画「おぼっちゃまくん」が四半世紀ぶりに復活した。月刊文芸誌「小説幻冬」(幻冬舎)に連載中の作品が「新・おぼっちゃまくん」(1000円)として単行本化された。小林さんは「格差社会の現在だからこそ、この漫画は時代にマッチしているはず。これからも、作品を進化させていきたい」とペンを持つ手にも力が入っている。(高柳 哲人)

 平成の初めに子供たちの心をつかんだ「生まれた時から大金持ち」の御坊茶魔が、改元を迎えようとしている時代に再び“降臨”した。周囲が20年以上ぶりの「復活」と見ているのに反して、小林さん自身はむしろ「連載再開」のイメージの方が強いという。

 「当時は『ゴー宣』(ゴーマニズム宣言)がドカンと来てしまい、ひたすらそちらばかり描くようになって…。前回、連載が終わる時に『最終回』を描いた覚えがない。そんなこともあって、ワシの中では久しぶりに復活という感覚が全くないんです。『さあ、続きを描くか』というイメージなんですね」

 時を経たことで作品の世界が再び現実に近くなってきたことを感じているという。以前の連載当時はバブル時代で格差が広がっていたが、その時よりも格差が広がり、中間層がいなくなったと見ている。

 「この作品を描いたのは、当時の成金連中にむかついたから。成城の喫茶店でアイデアを考えていたら、隣の若い男が女性に『クルーザーに乗りに来ない?』と話していた。その時『ワシは一生のうちでクルーザーを持てる日が来るのか』と思って、そんな若者たちも絶対になれない大富豪の話を描いてやろうと思った。優越感に浸りたかったんですよ(笑い)。今は別の形で金持ちと貧乏人ができて、それが両極端になった。その点で、今の時代にピッタリ来ると思いますね」

 自身の中で「時差」を感じていないことは、作品を描く中での自信にもつながっている。

 「『ゴー宣』の時に、『小林はもう、ギャグは描けなくなった』と言われた。ワシは『そうなのかな?』と思っていたんだけど、今回やってみて『何だ、描けるじゃないか』と。現役ギャグ漫画家という自信が湧いてきた。ギャグマンガというのは、普通は20年も空いたら描けないもの。ただ、ワシの場合は自分の中でタイムラグがないから、全く問題がなかった。むしろ、もっと笑えるようになったんじゃないかと」

 作品のステージが上がったと自負しているのは、人生を重ねることで身に付けてきたことが多いから。そして、知識と技術の両面で進化したと考えている。

 「今は、漫画にするのが追い付かないくらい次々とアイデアが出て来る。以前は、ネタ出しに苦労していた記憶があります。違いは、ワシの中に蓄積された知識の量の差。だから、笑いのレベルを上げて描ける。絵もうまくなっているんじゃないか。漫画家は普通、40代くらいで頂点が来るのに、ワシはまだ到達していない。でも絵がうまいと毒が抜けるからギャグ漫画では意識的に崩したりもしてます」

 現在、作品が連載されているのは、文芸誌の「小説幻冬」。ギャグ漫画が掲載されるには、異質の雑誌とも感じられる。

 「連載にあたり、児童誌でという話もあったけれど、それだといろいろと規制が多くて、描きたいものが描けないと思った。例えば、今回の単行本の内容で言ったら、セクハラの回は難しいんじゃないか。こども食堂の回にしても、食堂で働く女性をちゃかすような結末はチェックが入るんじゃないかな、と思います。その点、文芸誌はそれがほとんどない。大人向けだから、何でも描けるんですね」

 確かに、今回の単行本に収録された作品のテーマは、現代社会の問題に警鐘を鳴らしたり、皮肉るような内容が多い。ただ、小林さんの中では児童誌で連載していた当時と「方向転換」をしたつもりはないという。

 「そもそも、ワシはずっと風刺ばかりを描いてきた。『東大一直線』も、学歴社会の風刺。その意味で、今回の『新・おぼっちゃまくん』の世界も、子供たちに受け入れられるのでは…と思っています。以前、読んでくれていた人たちは現在、親の世代になっている。自分の子供たちに読ませて、感想を言い合うようになってほしいし、なる可能性はあると思う。だって、何十年も前に描かれた『翔んで埼玉』の映画が大ヒットする時代なんだから」

 そんな「おぼっちゃまくん」は、数ある小林さんの作品の中で、どのような位置にあるのだろうか。

 「藤子・F・不二雄にとっての『ドラえもん』と同じですかね。ドラえもんは、ポケットから何でも出すことができる。茶魔は金で何でもできてしまう。『ドラえもん』とは違う形で、子供の夢を何でもかなえられる漫画だと思っています」

 ◆「新・おぼっちゃまくん」に登場する主な茶魔語

 ▽ともだちんこ(友達。相手に股間を触らせ、親愛の情を表す)

 ▽ありがたまきん(ありがとう)

 ▽いいなけつ(許嫁=いいなづけ。相手と尻をぶつけ合う)

 ▽いただきまゆまゆ(いただきます。トレードマークの一つ、太い眉を動かす)

 ▽ご地蔵様(ごちそうさま)

 ▽ぜっこーもん(絶交)

 ◆「おぼっちゃまくん」 児童漫画誌「月刊コロコロコミック」で1986年~94年まで連載されたギャグ漫画。世界でも有数の財閥である御坊家の御曹司・御坊茶魔(おぼう・ちゃま)がぜいたくの限りを尽くし、友人の柿野修平やガールフレンドの御嬢沙麻代(おじょう・さまよ)、没落した元上流階級の貧保耐三(びんぼ・たいぞう)ら同級生と繰り広げるハチャメチャぶりを描く。茶魔が使う下ネタやダジャレの入った「茶魔語」は、当時の子供たちの間で流行。89年の小学館漫画賞(児童向け)を受賞。同年から92年までテレビアニメ化もされた。

 ◆小林 よしのり(こばやし・よしのり)1953年8月31日、福岡県生まれ。65歳。大学在学中の75年に「ああ 勉強一直線」を投稿。翌76年に「週刊少年ジャンプ」でデビュー作「東大一直線」の連載を開始。92年、週刊誌「SPA!」で連載開始した「ゴーマニズム宣言」が大ヒット。他の主な作品に「よしりん辻説法」など。漫画家としての活動以外にも、国家や社会、政治について議論する「ゴー宣道場」を主催する。

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