番外1026 伝えたい言葉は
光の中に散ってマスティエル本体の魔力反応が消失していく。アンデッド体が崩れて消える。それに覆われていたゴーレム部分も止めの一撃を中心部に食らって、内側から外側に向かって炸裂するように穴を穿たれているので、あっさりと光に噴き上げられて消滅していった。
術式が効果を終えたところで、妙な魔力反応が残っていないか、しっかりと見回す。効果範囲内は瓦礫一つない綺麗な更地になっているという事もあって、大分見晴らしが良い。
デュラハンを見やると手にした頭部を縦に動かして、きっちり倒した事を教えてくれる。
では……あちこちにばら撒いた連絡用呪法を使って被害情報を調べておこう。これについては用が済んだら解除しておけばよい。
あちこちから大丈夫、という返答がある。点呼も進めているが……問題はなさそうだ。
禁忌の地に溜まっていた陰鬱な気配も、薄れて行っているようだ。黒い怪物が出る心配もあるまい。
「ん。こっちは戦いも終わったよ。負傷者はいるけど……俺も含めて、命に別状はない、と思う」
被害状況を確認し、人数を点呼しつつサウズを通して現世のみんなに伝えるとグレイス達は安堵の表情で胸を撫で下ろしていた。
『ああ――。良かったです』
「まだ事後処理があるとは思うから、すぐに戻るっていうわけにも行かないけれど……落ち着ける状況になったら、母さんやリヴェイラも交えて、みんなでゆっくり話そう」
『楽しみに待っているわ』
『私も……話ができるのを楽しみにしているわ。後で沢山お話をしましょう』
俺の言葉にクラウディアが穏やかな表情で嬉しさを噛み締めるように目を閉じて、母さんも離れた場所で嬉しそうに答える。呪法を通して聞いた言葉を伝えると、お祖父さん達もうんうんと頷いていた。
『テオドール殿……! ご無事で良かったであります!』
『本当にな……。感謝の言葉も見つからない程だ。冥府ばかりでなく父まで』
と、母さんと一緒にいるリヴェイラとベル女王も、呪法を通して感謝の言葉を伝えてくる。後方からこっちに向かって来ている最中だ。
「どうやら……無事に片付いたようだな」
そうしているとヴァルロスとベリスティオが近くにきた。他の面々も続々と更地に駆けつけてきているようだ。
「反応からするときっちり倒せたかな。先王も無事に目を覚ましたようだし。ところで……それは大丈夫なのか?」
ヴァルロスやベリスティオの掌や腕には少し亀裂が走っているが。
「一先ず問題はない。変身できない事もあって、力の最大限の放出には耐えられなくなるのだろう。まあ、少々くたびれたのは事実だが」
ベリスティオが手を握ったり閉じたりしながら言う。
「お怪我については、私達に任せて下さい」
と、天使がやってきて、心配そうな表情で胸のあたりに手をやる。リネット達のところにも天使達が飛んでいっているようだ。
「そんな大層な傷でもないがな」
「共に戦い、あれほどの奮戦して下さったのですから。感謝しているんです。是非私達に治させてくれませんか?」
リネットはそっぽを向いて腕を差し出し、天使は嬉しそうに傷を治したりしていた。ゼヴィオンは戦いを終えて満足そうに治療を受けていたし、ルセリアージュは「ではお願いするわね」と笑って応じている。
そんな元魔人達のやり取りを見ていたベリスティオはふっと静かな笑みを浮かべると、天使に応える。
「では……世話になろう」
「そうだな。よろしく頼む」
ヴァルロスも頷いて、天使達も嬉しそうにその手を取り、到着したベル女王も穏やかに微笑む。
その光景にテスディロスとウィンベルグも安堵の表情を浮かべ、オズグリーヴも頷いていた。
母さんもそうだが、ヴァルロスとベリスティオについては……第一世代の魔人だしな。今後の身の置き場所や冥府の立場、見解等もあるのだろうが、一先ず冥精達との関係については落ち着いたもので安心できた、というのは有るだろう。
ベル女王とプルネリウスも俺を見て頷いていたから……色々と考えてくれていると思う。状況が諸々落ち着いたら話をする場を作る事になるかな。
「それじゃあ、テオの傷は私が」
と、母さんが微笑んで言う。
「手当はここでどうぞ。テオドール公は先程の戦いでも功労者ですからな」
オズグリーヴが空飛ぶ絨毯を広げて言ってくれた。
「ん……。ありがとう」
軽く頬を掻いて、絨毯の端に腰かける。母さんも隣に腰かけて、傷の手当をしてくれた。相手の体内魔力に働きかけて傷を治す光魔法だ。母さんが手を翳した肩口から……傷の痛みが引いていく。温かくて少しだけこそばゆいような……そんな感覚がある。
「本当……テオは強くなったのね。強さだけじゃなくて優しい所もあって……お母さんとしても自慢だわ」
「ん。色々あったから。えっと、それに……言うほど優しいわけじゃない、と思うし」
そう言ってみても母さんはにこにこと笑っていて。
話したい事、伝えたい事は色々あるのだけれど……こうして一旦腰を落ち着けてしまうと伝えたい事が多すぎて、何から話したらよいのか分からなくなってしまう。
色々……そう。本当に色々あった気がするな。……ああ。この事は最初に言っておかないと。
「ああ。そうだ。母さんと話せるようになったなら、きちんとお礼を言っておきたいなって思ってたんだ。イシュトルムの力をずっと封じてくれてた事とか、月で……助けてくれた事とか。その事、ちゃんとありがとうって言いたかった」
「うん。お墓参りの時に伝わっていたけれど、お母さんもありがとうって、きちんと伝えたいって思っていたわ。封印の楔になっている時も、テオやグレイスやアシュレイちゃん……。みんなが想ってくれるのはしっかり届いて、力になっていたから。私一人では、きっと力が持たなかった」
傷の一つ一つへ順番に手を翳しながら、母さんが言う。
「父様――いえ、お祖父ちゃん達の事を助けてくれた事もそうだけど……支えられていたのは、私の方。なのにテオが一番辛い時に、一緒にいてあげられなくて、ごめんなさい」
「謝る必要なんか。母さんは、離れていても守ってくれていたんだから。確かに……辛い事もあった。それで回りの人を信じられなくなっていた事も確かにあった。だから母さんみたいに優しくはなれないとは思っていたけれど……でも、失望されたくはないなって……そんな風にも思っていて。今、みんなに受け入れて貰えているのも……回りの事を大切に思えるようになったのも……そこが歯止めになっていたから……だと思う」
「うん……。テオは、お母さんにとっても誇りだわ」
母さんは頷いて。それから、治療も終わったのか、そっと抱擁される。最初は軽く。段々と腕に込める力が強くなって……母さんは少し身体を震わせ――泣いているようだった。そうして抱擁されたまま、髪を撫でられる。懐かしくて温かな感覚に、目を閉じて。
……――結構長い間そうしていたように思うが、やがて母さんが俺から離れる。俺の両手をとって、まだ少し涙ぐんでいるが優しい笑みを見せてくれた。
「みんなの事も……ちゃんとお祝いの言葉を伝えないとね。お母さん、とっても嬉しいのよ」
「ん……そうだね。みんなも喜ぶと思う」
俺がそう答えると、モニターの向こうでみんなも涙を拭きながら頷き、笑顔になっていた。
グレイス達の事もそうだが、話をしたい事はまだまだ沢山ある。でも、それはもう少し落ち着けるような場所に移動してから、かな。
そうしてシーカーとハイダーを通してあちこちに連絡をする。保全部隊の面々が監視役として禁忌の地に残ると申し出てくれて、残りの面々は前線基地まで戻る、という事になった。
交代の人員も送って、しばらくはこの場所の監視も続ける、という事だ。シーカーもいれば安心だろうから、俺からも協力を申し出ると冥精達は「それは心強い」と、嬉しそうにお礼を言ってくれたのであった。
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