強風に押され、5発が乱れ飛んだルーズベルト・ゲームが終わり、僕は同点のホームまであと90フィートが届かなかった三塁走者の京田を追った。9回、1死から遊撃へのゴロを俊足とヘッドスライディングで内野安打に変えた。7回もそう。同じようなゴロを打ち、同じように一塁をむしり取った。
「ああいうヒットが出るのは状態がいいからだとは思います。狙って打つものではありませんから」
本塁打が空間を支配する打球とするなら、内野安打は時間の支配者に与えられるご褒美だ。塁間は90フィート(27・431メートル)。京田のように俊足の左打者なら、3・8秒ほどで到達する。その間に捕り、投げ、届かなければ内野手は負ける。長いとつまらない。短いと興ざめする。絶妙の距離は「野球の神様が与えた」とも言われる。
2016年が大島(28本)、17年が京田(39本)で昨季が大島(28本)と、中日は3年連続で「内野安打王」を輩出している。3・8秒の支配者となってきたのだ。
京田も大島も「狙うものではない」と言う。だから守る側は厄介だ。イチローはこう言った。「ピッチャーから見て、僕の一番嫌なところはそこ(内野安打)でしょう」と。シフトを敷いても、強肩がそろっていてもイチローのスピードにメジャーリーガーは負け続けた。最後の安打(日米通算4367本目)も遊撃への内野安打だった。そんなイチローが、最後の打席では3・8秒をわずか数センチ支配しきれず、バットを置いた…。
「僕が守っていても嫌なんです。カーンと打たれるより、神経を使いますから」
京田の内野安打が昨季は18本と半減したのは、運がなかったからでも走るのが遅かったからでもない。振れていなかったからだ。7回は勝ち越しの起点になり、9回は同点機をつくった。勝っていればもっと評価されていたはずの内野安打。今季は早くも3本目と量産の気配あり-。