作者:end&
「尋問で『お前がやったんだろ』って言われ続けたらどうします?」
整骨院での話だ。
最近の話である。整骨院のテレビで殺人事件の話をしていて、たまたま冤罪の話になった。
その際、取調室でずっと「お前がやったんだろ」って言われて正気を保っていられるか?と。
「私はやっていないとハッキリ言いますよ」
「そうですね、つづくさんは話し方とか合理的だし」
先生とはかれこれ五年くらいの付き合いだ。
これまでに昆虫の話とか、オカルト話など、施術中にいろんな話をしてきた。
そして、私は今、犯人にされている。
冤罪だ。
やっていないことで、その人の正しさの証明のために、利用された。罪をかぶせられた。
私が匿名でデマの情報を言った、ということから話は始まった。
それから、他の人に対して悪評を言い散らしているのもお前だ。という話しになった。
話せば話すほど、雪だるま式に私の罪は増えていく。
最後には「猟銃で狙ってる」と言われた。
ダウト。
そんなことはできない。
わかっていたけれど、すぐにスクリーンショットを撮った。
話しは終わった。
ツイッター社に通報した。
数分後、もう一度その発言を見に行ったが、すでに消えていた。たぶん、本人が消したんだと思う。
どうしようかと思った。
彼女と共通の友人には苦労はかけられない。一人でどうにかしなきゃだめだ。
だけど精神的にしんどくて仕方がなかった。
これはもう、警察に届け出るしかないと思い、通勤ラッシュの中、人に揉まれ、警察署に行った。
今回、私を犯人にした人は過去にいろんなトラブルを起こしている人だと知っていた。
話しの整合性がとれない。
前と言っていることが違う。
そのことから、ふと、彼女のツイートのいくつかをネットで検索したら別人の名前が出てきたが、その人物と自分が今接している相手が同じであることを示唆するまとめなども出てきた。
まとめられたネット上の事件があまりに多すぎて困惑した。
受け止めきれず――今回私を犯人にした人をA氏とする――A氏と私ともう一人、普段スカイプでやりとりをしていたもう一人の人物に話しをすることにした。
「私に前々から来ていたAさんに関する注意喚起のDMって、たぶんそのまとめの事だよ」
三人でスカイプするようになった時、彼女は「私のところにAさんは良くない人だってDM届くんだ」と言ったことがあった。
この集まりは、同人イラストがきっかけで、そのジャンルはよくツイッター上で炎上しているのを知っていたし、
Aさんはフォロワー数も多いから、有名税というものだろうと普通に思っていた。
だけど、私も外から見える形でAさんとツイッター上でやりとりをしているのに、そういった注意のDMをもらったことはない。
スカイプで話している時、私がそうもらすと、「文字書きだからじゃないかな?」と。これはAさんと友人のどちらが言ったか覚えていない。
そして、私がA氏の過去にたどり着く前に、自分が導き出したものがある。
A氏は私に対し、精神疾患を持っているという話しをしてきた。前々から聞いていた話だし、どんな薬を処方されているかも聞いていた。
PTSDとパーソナリティ障害――人格障害だと。
私も現在、甲状腺機能障害、橋本病からくる鬱病と不安症で心療内科に通ってるので特になんとも感じなかった。むしろ、自分よりも大変な病気を患っているんだなと思った。
ただ、人格障害は人格障害でも、その中のどれなんだろうと思った。
人格障害は大きく三つに分けられる。
A群、奇異型、風変りで自閉的で妄想を持ちやすく、奇異で閉じこもりがちな性質。
B群、劇場型、感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴。ストレスに対して惰弱で、他人を巻き込むことが多い。
C群、不安型、不安や恐怖心が強い性質を持つ。周りの評価が気になり、それがストレスとなる性向がある。
※ウィキペディアより
当時、私にはB群に含まれる境界性人格障害と、演技性人格障害に関する知識があった。
境界性は、長年の親友が軽く患っていて、それでいて、親友であっても会って話すことが本人にはつらい。一時は関係が途絶えそうになったが、ここで関係が途絶えてしまったら、親友はずっと今のまま、他の誰とも深い交友関係を持てず、自傷行為を繰り返すばかりだと思い、手紙なら大丈夫ではないかと、ずっと文通を続けている。
少しでも症状を緩和させたい、気持ちを理解したいと思って身につけた知識だ。
もう一つの演技性は、ネット上で知り合った人物がツイッターに掲載している写真がすべてどこかからの拾い物で、話している過去や現在の状況が嘘だと知り、その時に調べて知っていた。
嘘、虚言癖と言われれば、ミュンヒハウゼン症候群が代表的なのだが、ミュンヒハウゼン症の場合は、「病気を患っている」ところから嘘が始まる。
だが、上記の人物は大病で云々ということは一切話していなかったので、これは当てはまらない。そして、出てきたのが演技性人格障害という名前だった。
私はこの時、「騙された!」と境界性の友人に手紙で書いた。
演技性の人を境界性の友人も知っていたからだ。
私はたぶん、「そんな酷い人だったんだ」、「大変だったんだね」って、同乗してもらいたかったんだと思う。
だけど、戻って来た返事は全く想像していないものだった。
「嘘をつかなきゃ人の輪に入っていけない人も世の中にはたくさんいると思う。みんな、自分に自信をもっているわけじゃないから、嘘が必要になることもあると思う」
私にとって嘘とは「悪」でしかなかったが、それが必要な人間もいるということを始めて知った。そして、嘘を看破したことで少し満足していた自分を恥じた。
私には特に隠すべきことなんてない。
隠したところで何の得にもならない。
嘘をついたところで誰かが見破る。
嘘は悪いこと。泥棒の始まり。
私の母方の祖母は日蓮宗の人だった。
他にも、体力があるうちは修行に行っていた。それは修験道のものも含まれていた。家には稲荷様を祀っていた。
猫を飼っていたので、みんな祖母の家の前に猫を捨てていく。祖母はそれを全部拾って養っていた。
肉と生魚を一切食べない人だった。
一度、腰を手術し、病院に入院することになった。
そして、リハビリも終わり、退院する時、中身の残った養命酒を「何号室のお祖父さんに渡してきてほしい」と。
「あの人、いつもこっそりこれ飲んでたの。だから、渡してきてあげて」
私が小学生の頃の出来事だ。
神様を拝んでる人は、不殺生どころか、人を叱ることもないのかとびっくりした。
私の母自身、怒られたことは一切ないという。
洗い物をしてて、食器を割ってしまった時、「怒られる!」と思ったそうだ。そしたら「この食器は何かの不幸を代わりにかぶってくれたんだよ」と母に言ったそうだ。
そんな見たり、聞いたりして育ったせいだろうか?
歳の割には大人びているだとか、おおらかだとか周りから言われた。
周りからは警察官になれだとか、教師になれだとか言われた。
だけど、私はならなかった。
父が「警察官と、教師と、医者にだけはなるな」と言ったからだ。
それは、人の人生に関わる仕事だから、とても大変な仕事だし、恨まれることもあると、私を想っての事だった。
だけど、「やるな」と言われるとなぜか興味がわいてくる。
心理学にしたって、法律にしたって、興味のあることは何でも調べてノートにまとめるようになった。
だから、人の嘘に気づいてしまう。
でも、人を信じること、許すこと、人にしたことは自分に戻ってくると教わって育ったので、簡単に騙されることもある。
そして、今のこのありさまがある。
A氏の過去がどうであれ、今の自分には関係ない。
そう、私は被害者ではなかったから。
無名だから誰も作品読んでくれるわけがない、本を買ってくれるわけがないと言われても、「確かに」と納得してしまったこともある。
今思えば、かなり辛辣なことを言われたこともあるけれど、そういうのは抜きに趣味の話をするのは楽しかったし、たとえ嘘だとしてもA氏のエピソードは面白かった。とても話し上手なのだ。
私は今でも、騙されたとは思っていない。
信じたのは私だ。私の責任だと思っている。
三月末、A氏の過去をどうするべきか、法的な部分と照らし合わせて考えていた。
これは私が勝手にしていたことだ。
その最中、A氏が、周りに対して攻撃的なツイートを始めたので、止めるように、消すようにと指示した。
たぶん、私が冤罪犯にさせられたトリガーはこれだと思う。
この話はスカイプでしていた。
愚痴とかならいくらでも私が聞くから、もうこういうことするのは止めた方がいいと言った。
だけど、「やめられない」と言われてしまった。
その後、ツイッター上でのつぶやきがほとんどなく、スカイプにメッセージを送っても、既読がつくだけ。
どうしたらいいんだろうなあと、もうこの時点で私とA氏の関係は終わっているとわかっていた。攻撃の対象にされると薄々気づいていた。
だけど、まだスカイプで数回しか話していなかった十一月。ちょうどその日が私の誕生日で、Aさんはハーゲンダッツ三つの交換券をDMに送ってくれた。
とても嬉しかった。
だから、関係が終わる前にと思って、千円の商品券を贈ったのだ。同じサービスから。
四月一日の日の事。
新年号が発表された日。
そして、三日のAさんの発言。
四日、私は犯人にさせられた。
前日、早めに就寝していたためか、予感があったのかわからない。ちょうど、私のアカウントが犯人としてさらされた時、目が覚めた。
――猟銃構えてニコニコしてる
ああ、もうこれは私の手には負えない。
私ではかばい切れない。
そして警察に行った。
八時半から十一時まで生活安全課で話しをし、警官から「とにかく寝て、落ち着いてください」と言われ、家に戻って横になった時、スマホが鳴った。
スカイプに対してA氏から「どうしてこんなことしたんですか?」と文章が送られてきて、もう無理だと、110番した。
スマホからスカイプのアプリを消した。
何度も警察から電話があり、ろくに眠れなかった。
五日、前日刑事課に話しを移したほうがいいと言われたので、窓口で用件を伝え、刑事課の取調室に入った。
――あなたはどうしたい? 罪に問うか? 警察に届け出るということはそういうことなんですよ。
前日、生活安全課でも言われたことだ。
私の言葉一つで、罪人が生まれる。
彼女を罪人にしてしまうと思ったら涙がこぼれた。
私一人の力ではどうすることもできなかった、今自分がこんなに苦しいのは彼女のせいじゃないか、なのにすごく怖い。私の言葉で、罪人が生み出される。
警察に届け出るということは、被害者になることじゃない。
罪人を生み出すということだ。
その重圧に耐えきれず、涙がこぼれた。
なんで私が?
今までの被害者がちゃんと届け出ていれば?
なんで私が言わなきゃならないのか?
今までのA氏の罪、被害者の恨みつらみをどうして私一人が背負わなければならないのか。
でも誰かがしなければならないことだ。
よろしくお願いしますと、私は担当刑事さんに頭を下げた。
その後、刑事さんにバス停まで送ってもらいながら、個人情報は流しちゃダメだよ。なにかあったらすぐに110番してと言われた。
疲れていたけれど、吐き出したいことがたくさんあって、同郷の友人に連絡した。
そして、「名誉棄損じゃん!」と言われた。
名誉かあ、こんな私にも名誉ってあるの?
今度は民事裁判? 弁護士さんに連絡しなきゃ。でもそんな気力残ってないよ。
賠償金もらってどうする?
賠償金で何買う?
賠償金で買ったモノなんて家に置いておきたくない。
そんなものいらない。
何もいらない。
ただ、平穏を返してほしい。
お金ではどうにもならないもの、返してほしい。
過去なんてどうにもならないってわかってるけれど。
誰か、助けてください。
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