所功(京都産業大名誉教授)
待望の新元号「令和(れいわ)」が公表された。施行は1カ月後の5月1日であるが、この改元を機に多くの人々が元号(年号)を通して日本文化の在り方を考えている。そうであれば、誠に喜ばしいことだと思われる。
はや30年3カ月前の昭和64(1989)年1月7日、午後2時半ごろ「平成」という元号が発表され、翌8日から施行された。
当時は111日間にわたり闘病された昭和天皇の崩御直後だったから、深い悲しみに包まれていた。その中で、直ちに皇位と一体の「剣璽等」を承(う)け継がれた新天皇(今上陛下)のもとで、政府により最終的な改元手続きが粛々と進められたのである。
その元号「平成」は「国の内外に天地にも平和が達成されることを意味する」と説明された。それをNHK特番のスタジオでファクスにより伝えられた私は、なるほど「国民の理想を表すにふさわしい良い文字」が選ばれたと感嘆したことを、鮮やかに覚えている。
この「平成」という元号が、多くの国民に正しく受け入れられたことは、翌2年11月、即位礼正殿(そくいれいせいでん)の儀や大嘗祭(だいじょうさい)が行われたころ、皇后陛下が「ともどもに 平(たい)らけき代を 築かむと 諸人(もろびと)のことば 国うちに充(み)つ」と詠んでおられる。
しかも、今年2月24日、政府主催の「御在位三十年記念式典」において、今上陛下は「おことば」にこの御歌を引かれ、「このごろ(平成の初め)、全国各地より寄せられた『私たちも皇室とともに平和な日本をつくっていく』という静かな中にも決意に満ちた言葉を、私ども(両陛下)は今も大切に心にとどめています」と仰せられた。
言われてみれば、確かにその通りである。われわれ日本国民は、「平成」元号を使いながら、さまざまな形で「皇室とともに平和な日本をつくっていく」決意を持ち続けてきたことになろう。
もちろん、三十余年の現実は、理想どおりに進んでいないにせよ、それを共有理念としてきたことに意味があろう。しかも、これによって表意文字の良い漢字で年代を表示する元号の文化的意義が、広く理解されていることを知ることができる。