提督の憂鬱 作:sognathus
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突然の指令に首を傾げながらも、取り敢えず彼女は出向の準備をする事にしました。
第1話 「指令」
彼女「行くわよ武蔵。準備しなさい」
武蔵「む? 何処に行くんだ? もぐもぐ」
彼女「あいつ、元彼に会いにいくのよ」
武蔵「......」ピタ
彼女「武蔵?」
武蔵「やだ」
彼女「え?」
武蔵「嫌だ。行きたくない」ムス
彼女「ちょっと、こんな時に嫉妬なんかやめてよ」
武蔵「嫌だと言ったら嫌だ! お前の元彼なんかに私は会いたくなんかない!」
彼女「武蔵、言う事を聞きなさい。一応命令なのよ」
武蔵「い・や・だ!」プイ
彼女「......めんどくさいわね。いいわよ、私一人で行くから」
武蔵「なに?」ピク
彼女「一人で行くって言ったのよ。あなたはもう来なくていいわ」
武蔵「ふふん、護衛艦なしで行く気か? 危ないぞ」
彼女「中将に大和を借りるから大丈夫よ」
武蔵「なっ!? っく......だ、だとしても私がいなかったら、その元彼に襲われるかもしれないぞ」
彼女「あなた、あいつの事を何だと思ってるのよ。そんな事あるわけないじゃない」
武蔵「お前は無条件にそいつを信用し過ぎだ!」
彼女「あー、もういい」
武蔵「え」ビクッ
彼女「もうそこでずっと駄々をこねてるといいわ。相手をするだけ時間のムダだから」
武蔵「な、何を言って......」
彼女「じゃあね、留守番頼んだわよ。あ、もう戻ってこないかもしれないけど」
武蔵「!?」
彼女「行ってきま――」
ギュ
武蔵「ごめんなさい......ぐす」
彼女「反省してる?」
武蔵「うん......」
彼女「文句を言わず着いてくる?」
武蔵「言わない......」
彼女「あいつに会ってもつっかかったりしない?」
武蔵「分かった。しない......」
彼女「絶対?」
武蔵「信じて......」ウル
彼女「......分かった。もう喧嘩はこれで終わり。私も怒るのをやめた」
武蔵「ほ、本当か?」
彼女「ええ」ニコ
武蔵「っ、う......うわぁぁぁん!」ギュ
彼女「っと、もう......」ナデナデ
武蔵「......すん」
彼女「落ち着いた?」
武蔵「......ああ。悪かった」
彼女「よしっ。それじゃ、行くわよ」
~大本営本部、廊下
武蔵「それにしてもなんで急に視察なんて」
彼女「ま、確かに本部の司令官が直接出向くっていうのは、ちょっと気になるわね」
武蔵「......提督の事、気になるか?」
彼女「ん? ああ、元彼のこと。まだ好きかって?」
武蔵「いや。まぁ、それも気にはなるが。その、心配とかそういう意味だ」
彼女「......そうね。あいつが本部が動くようなマネをするとは思えないけど......少し、気になるわね」
武蔵「大丈夫だ。私が付いている。何が起こってもお前も、その提督も守ってやる」
彼女「不安な事言わないでよ。ま、頼りにしてるけど」
武蔵「ああ、任せてくれ」
彼女「頼むわよ。さて、中将の部屋に着いたわ」
コンコン
彼女「私です。参りました」
中将「おう! 入れ!」
彼女(相変わらず大きな声ね)
武蔵(怖い......)
ガチャ
彼女「失礼します」
武蔵「失礼す......します」
中将「おう。出向前に呼び出してすまんな」
彼女「いえ、問題ありません」
中将「もう大体予想は着いてると思うが、若造のとこの視察の件だ」
彼女「はい」(わ、若造......)
中将「いや、別にあいつが何かしでかしたというわけじゃないんだ。ただ、ちょっと個人的に気になる事があってな」
彼女「この視察は本部の意向によるものではないのですか?」
中将「表向きにはそういう事にしてある。ま、実際は俺の個人的な頼み事だけどな」
彼女「そう......ですか」
中将「ん? ホッとしたか?」
彼女「あ、いえ......」
武蔵(む......)
中将「ははははは! お前たちは元々知り合いだったんだろ? 無理するな」
彼女「私が視察官に選ばれた理由が解りました」
中将「ん、そういう事だ」
彼女「それで視察の体を装って、何を確認すればいいのですか?」
中将「話が早くて助かる。それはな......」
中将はそこで敢えて言葉を発するのをやめ、胸元をトントンと叩いた。
彼女・武蔵「!」
中将「そういう事だ。気付いたかもしれん。お前達と同じようにな」
彼女「了解致しました。お任せ下さい」
中将「ああ、頼むぞ」
大和「中将?」
中将「ん? ああ、そうだった。おい少将」
彼女「はい?」
中将「ほどほどにしておけよ?」ニヤ
彼女・武蔵「なっ!?」
中将「おい、少将はともかく、なんで武蔵まで動揺するんだ? なぁ、大和?」ニヤニヤ
大和「さぁ何故でしょう」ニコニコ
武蔵「大和......貴様......」カァ
大和「あら武蔵、そんなに顔を真っ赤にしてどうしたのですか?」(ふふん、いつも少将とイチャイチャしてるお返しよ)
中将「ま、それくらいにしておけ」(こいつにも困ったもんだ)
中将「それでは改めて頼むぞ、少将」
彼女「は、はい。了解しました。失礼します」
バタン
武蔵「......」ムス
大和の計らいで明らかに不機嫌そうな武蔵、そんな彼女を見て少将は壁にもたれ掛かって少し困った顔をして上を向いた。
彼女(やれやれ......)
俺が知ってる武蔵はこんなんじゃない!というそこのあなた。
ツンツンしてるからこそ、デレデレにしたいとは思いませんか?なんて。