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江戸時代の池は今どこに デコボコ地形を歩いてみれば
Reライフおすすめ講座「東京小説散歩 再発見する新宿」 その2
更新日:2019年04月05日朝日新聞東京版に連載されたコラム「東京物語散歩」の筆者・堀越正光さんがReライフおすすめ講座で語る「東京小説物語 再発見する新宿」。その2回目は、高低差のある地形がテレビで採り上げられて注目を浴びている新宿区荒木町です。
高校の課外活動「東京物語散歩」で生徒を連れて新宿の町を歩くとき、いつも起点にするのが都営新宿線の曙橋(あけぼのばし)駅です。外苑東通りが靖国通りをまたぐ曙橋がすぐ近くにあります。ここからちょっと歩いたところに荒木町という、とても魅力的な街があります。
残念ながら1996年に課外活動を始めた頃、荒木町を舞台にした物語は見つけられませんでした。荒木町はすり鉢型の地形をしていて、くぼ地には「策(むち)の池」という小さな池もあります。ちょっとした情報で知った荒木町の街並みや池を生徒に紹介したいと思い続けていたので、もどかしく思っていました。
やがてこの場所の魅力を広く知られる時がやってきます。2010年に「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)が高低差のある地形にスポットをあてて紹介しています。「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ系)では2016年にくぼ地の底にある池をとり上げました。
荒木町を舞台にした物語が二つも見つけたのは「タモリ倶楽部」の放送後間もなくのことです。
一つは佐々木譲さんの『地層捜査』(2012年)です。荒木町でアパートを経営する70歳の女性が殺される事件を発端にする物語で、被害者の女性は荒木町の花街で人気芸者だったという設定です。「迷宮入り」がささやかれるほど捜査は難航しましたが、法律改正により時効が撤廃されて仕切り直しとなります。
そこで新たに特命捜査を任された30代半ばの警部補が、コンビを組む定年退職した四谷生まれの元刑事から町に関する歴史を聞いたり、被害者の過去を調べたりしていくうちに事件の真相に迫っていきます。
テレビも紹介された小さな池は、小説の中にも登場します。「池は『策の池』という名、祠(ほこら)は『津の守(かみ)弁財天』を祀(まつ)ったもののようだ」(『地層捜査』より)。案内看板に記された池の呼び名について、元刑事は異論を述べます。「すり鉢の底がここだ。地元のひとは、ここを河童(かっぱ)池と呼んでいる。策の池という呼び方は、おれは聞いたことはないな」
実は「河童池」という呼び名について、私は小説を読む前、一つ誤解をしていました。
「史跡案内」にある「敷地」は、松平摂津守の屋敷のことなのに、私はビルの建つ敷地のことだと早合点してしまい、池はどこかなと、ビルの横手の敷地をじろじろとしばらく眺めていました。『地層捜査』を読み、「かっぱ池」イコール「策の池」だと判明した次第です。
それにしても、自分がのぞき込んだビル横の敷地が小説では事件発生現場となり、刺された被害者がよろけて崖下に落ちていくという設定となるとは思ってもいませんでした。
もう一つの作品は柚木麻子さんの「あまからカルテット」(2011年)というやわらかい物語です。女子校時代から交友が続いているアラサーの仲良し4人組が主人公で、章ごとに主役が替わる仕立てになっています。その第2章に荒木町が登場してきます。
実際に作者が歩いたと分かる描写があります。おそらく新宿通りから車力門通りに入って金丸稲荷神社を通り、階段をおりて池に到達したのでしょう。その場面は「住宅地にぽっかりできた、桃源郷といった趣きだ」(『あまからカルテット』より)とありますから、作者はかなり気に入ったのでしょう。
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これは朝日カルチャーセンター新宿教室で2019年2月17日にあった朝日新聞Reライフおすすめ講座「東京小説散歩 再発見する新宿」の採録第2回です。次回は「『新宿』発祥の地周辺」です。
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