【ドラニュース】【龍の背に乗って】試合に出られない苦しさを知った京田2019年4月5日 紙面から
右翼スタンドに届いたのを確かめると、京田は右腕を突き上げた。昨日は取れなかった追加点。6回、岡田の147キロを振り抜いた。1年目は5月3日、昨季は5月15日に出た第1号。石川県から駆けつけた両親に、最速本塁打を見せられた。 「いつも連絡をくれるんですが、今年は開幕からうまくいかず、一番心配していたと思う」 なめていたわけでも甘えていたわけでもないのだが、自分の名が開幕オーダーから消えるとも思っていなかったはずだ。彼は自分の野球人生を振り返ってくれた。 「ベンチから野球を見たという経験がほとんどないんです。高校でも1年生の春から使ってくれました。大学でも春に試合に出ていました。今にして思えば、どちらの監督さんも我慢してくださっていたんでしょうね」 甲子園の土は踏めなかったし、東都でも2部の悲哀を知っているが、選手としては間違いなくエリートだ。ゆえに冷え込んだ横浜のベンチはこたえたことだろう。そんな体験にも収穫があった。 「自分が出ているといっぱいいっぱいになるじゃないですか。でも横から見ていると、次はこんな球が来るんじゃないかな。このパターンかなってわかるんですよ」 位置は横だが、グラウンドを俯瞰(ふかん)できた。もちろん控え選手も試合の当事者なのだが、仲間を観察する冷静さが新鮮だった。 「昨日も同じ3ボール1ストライクからピッチャーゴロ。試合後に平田さんから『カウントで絞るなら、もっと(体が)センター方向に入っていく方がいいよ』ってボソッと言われたんです。(両親だけじゃなく)みんなが気にかけてくれているんだなと」 打者優位のカウント。1点差の先頭打者を出したくはない。ベンチで見たこと、平田に聞いたことを生かして直球に的を絞り、一発で仕留めた。人生で初めて試合に出られない苦しさを覚えた。もうベンチに我慢して使ってもらう立場ではないことも知ったはずだ。 (渋谷真)
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