小田急駅員バイトの実態
現在、学生ユニオンでは小田急電鉄(以下、小田急)との団体交渉を行っています。次回が3回目の団体交渉となり、準備を進めています。当事者は小田急電鉄で駅員アルバイトをしている学生ユニオンメンバーです。今回は、小田急の駅員アルバイトの実態を、団体交渉の要求項目に沿って、お伝えしたいと思います。是非、最後までご覧ください!
そもそも駅員を学生アルバイトがやっていることをご存知でしょうか?
今回交渉をしている小田急だけでなく、JR東日本や京王電鉄、東急電鉄なども学生アルバイトを募集しています。鉄道駅員という仕事は、公共性が高く、鉄道インフラの安全性・定時性を担う重要な仕事です。きっぷの発売や精算、お忘れ物業務といったお客様の「財産」を扱う仕事であったり、駅のホームに立ち、お客様の「命」や「時間」を守る仕事であったり、とその仕事にかかる責任はとても大きいです。小田急においても、そんな重要な業務の一部を学生アルバイトが担っているのですが、学生を都合のいい労働力として使い、学生の生活を顧みない会社側の姿勢が、団体交渉の中で見えてきました。では、どのような問題があるのか、見ていきましょう。
1.トラブル発生時の時間外業務
駅員バイトの業務の中で特に過酷なものが、人身事故等の輸送障害(トラブル)が発生した場合です。これは、小田急で輸送障害が起こった場合だけでなく、京王線など小田急と接続している路線で同じことが起こった場合も同様です。「○○駅まで振替でどうやって行くんだ。」「いつ動き出すのか。」などの問い合わせが沢山来ます。また、振り替え輸送を利用する大勢の旅客の対応が特に大変です。旅客ももちろん混乱していますが、駅員側も指令所からの急な指示に右往左往するので混乱しています。細かい話ですが、電車の運転に関する指示は、総合指令所→駅の信号所→駅員のいる事務所の順番に伝わるので、なかなか最新の情報が伝わってきません。ダイヤ乱れが収束し、落ち着きを取り戻すまで少なくとも2~3時間かかりますが、その間の労働強度は計り知れません。
アルバイトはシフト制なので、退勤する時間が決まっていますが、このような輸送障害が発生すれば2〜3時間の残業を強いられます。実際に当事者が遭遇した事例ですが、「朝勤務で輸送障害が発生して、午前中の授業を休んだ。」「夕方勤務だったが、家に帰れなくなり、翌日教科書がない状態で授業を受けた。」「延長した時間は短かったが、疲れすぎて授業が辛い。」など、学生生活に支障が出ています。
なぜ、このような事態になるのか。もちろん、人身事故などのトラブルも直接的な原因ではあります。しかし、構造的な問題として、駅の正社員の数が足りず、アルバイト頼みになっていることが挙げられます。通常の状態でも、小田急の多くの駅はアルバイトが基幹労働力化しており、アルバイトがいなければ、駅が回らないという体制になっています。ユニオンはこの構造的な問題にも切り込み、正社員の配置増加などの対応策を小田急側に求めています。
2.賃金の低さ
小田急の駅員バイトの時給は1,100円です。1,100円という金額だけ見ると、そこそこ良いバイトと思われるかもしれません。しかし、そうでもないのです。アルバイトとはいえ業務において担う責任はとても重いというのは既に少しお話しましたが、もう少し詳しくお話したいと思います。
アルバイトと正社員の業務が一部重複していたり、逆にアルバイトしか行わない業務があります。例えば、改札での精算業務・車いすや弱視のお客様の介助・忘れ物の捜索といった業務は1日の業務の中で大半を占めるもので、正社員・アルバイトともに行いますが、アルバイトが駅にいる時間帯は基本的に全てアルバイトが行います。もしも、お客様から間違えて多くお金を収受してしまったら...。もしも、車いすのお客様が乗りたい電車とは違う電車に乗せてしまったら...。本人の物じゃない忘れ物をお客様に引き渡してしまったら...。と、どのアルバイトもミスをした時の事の重大さを知っているからこそ、1つひとつの業務に神経をとがらせています。
一方で、夕方~終電の時間帯は清掃業者の方がいないため、駅構内(コンコース・ホーム・トイレ・ゴミ箱の取り換え)の清掃は全てアルバイトが担っています。他の業務との兼ね合いもあり、限られた時間で効率よく行うにはある程度の経験と技術が必要です。夜間は吐しゃ物も多くあり、とても気持ちのいいものではありません。この清掃業務に関しては、正社員は一切やらず、「アルバイトがやるもの」になっています。さらに、一部の駅では終電後の駅閉め作業(お客様が全員改札外に出たことを確認してシャッターを閉める作業)をアルバイトが行っています。万が一、シャッターを閉めた後にお客様が改札内にいた場合、新聞沙汰になるほどの営業事故になります。それほど責任が重い業務をアルバイトに任せているのです。
このような実態を踏まえて、学生ユニオンでは、1,100円という賃金は業務の内容・責任には見合わないと考えており、小田急に対して時給の賃上げを要求しています。東京都の最低賃金の985円より100円強しか変わらないということも主張しています。
ユニオンの要求に対して、小田急は「現在の時給は適正である。」との一点張りです。ユニオンでは、引き続き交渉を続けていきます。
3.着替え時間・準備時間・移動時間の未払い
アルバイトは学生の募集に限定されており、長期休みを除けば大学の行き帰りに勤務に入っています。そのため、アルバイトは全員駅に出勤し、制服に着替えています。加えて、アルバイト同士の連絡に使うトランシーバーやダイヤグラム(業務用の時刻表とお考えください)を事前に(点呼の前に)取りに行くなどの準備行為があります。さらに、しばしば制服に着替える駅と勤務する駅が異なる場合に列車に乗って移動します。本来、これらの着替え時間・準備時間・移動時間には賃金が支払われなければなりませんが、未払いとなっています。
団体交渉では、これら未払い賃金の支払いを要求しました。これらに対する小田急側の反応ですが、まず着替え時間に関しては、「着替え場所を会社から指定していない」ことを理由に、未払い賃金の発生を否定しました。さらに小田急側から、「自宅や学校から制服を着て会社に来ても構わない」という趣旨の発言がありました。この発言には、ユニオン側も驚きを隠せませんでした。
次に、準備時間については、「副駅長(労務管理をしている上司)が点呼前の準備業務を指示していない。」「点呼前の準備業務に関する文書による業務指示がない。」として、こちらの主張を退けました。アルバイトが今まで行っていた準備行為は、「“姿勢”としては大変ありがたいので、止めることはできない。」とのことでした。ユニオンは、準備業務が駅員業務に必須であること・多くのアルバイトが点呼前に準備業務を行っており暗黙の業務指示が成立していることなどを理由に、この点については粘り強く今後も交渉していきます。
最後に列車の移動時間ですが、これについても小田急側は未払い賃金の発生を否定しています。小田急側は、「列車での移動は業務をしているわけではない。お客様から声をかけられた等があれば、報告してくれれば時間外をつける。」としていますが、制服を着て列車に乗っている以上、会社の指揮監督下に入っているはずであり、矛盾が生じています。
4.新人研修の賃金未払い
当事者が務める駅では、新人アルバイトの研修は先輩のアルバイトが業務中に行います。見極め(一人立ちのOKサインを出すこと)も先輩アルバイトが担っています。このこと自体が問題ではあるのですが、交渉事項ではありませんので、この程度に留めておきます。
さて、この新人研修ですが、しばしば業務時間外に及ぶことがあります。当事者の場合、この時間外部分に賃金が支払われていないため、未払い分の支払いを要求しました。この点については、交渉の中で、小田急側は「もともと業務が延長した分に関しては、上司に報告すれば時間外をつける」として、未払い分の支払いに応じました。現在は、未払い分がいくらになるのかについて交渉をしています。ただ、当事者のように新人研修による時間外を報告してよいと知らないアルバイトは、会社側の調査によれば、約40%にも及んでいたため、時間外報告の周知徹底を小田急側に求めました。
5.年休日数の計算方法
当初の要求は、年次有給休暇(以下、年休)の日数の計算方法を明らかにするというものでした。交渉において明らかになった計算方法を巡って、ユニオンと小田急側で評価が分かれました。小田急側は、年休が付与される要件である、「全労働日の8割以上の出勤」について、母数を労働契約書記載の週3日としていますが、ユニオン側はこれは不適当であると考えています。
というのも、小田急は週3日としながらも学生の事情を考慮して、シフトを柔軟に運用しており、その柔軟な運用に年休の運用も合わせるべきだからです。現状の年休の計算方法は、様々なイベントがある学生生活を送るアルバイトの年休取得の権利を否定することを意味するとユニオンは評価し、計算方法の見直しを要求項目に加えました。
以上が小田急電鉄の駅員バイトの実態です。今回の交渉で重要なポイントは、当事者のみならず全社的な改善を要求していることです。当事者は、「会社が憎いからこんなことをしているのではなく、会社が好きだからこそ、アルバイトを含めて従業員全員が働きやすい職場にしたい。」という想いで、ユニオンと一緒に電鉄側と交渉をしています。この運動が、小田急だけでなく他の鉄道会社にも影響を与えるようなものにしていきたいです!
では、長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!交渉の経過は、またこのブログやTwitterなどでご報告したいと思います!
この記事へのコメント
ま
安全のためにも改善が必要ですね。頑張って下さい
AT
皆会社が好きでやっているので声をあげにくい。ぜひ他社の実情も外部公表してほしい。改札に立たせている(バイトが現金収受をするような)会社はかなりキツい。
とはいえ小田急はこのままでいいわけはない。
徹底的に戦ってほしい。
そもそも鉄道バイトの業務知識は他職種に応用できない専門知識が多い。(ICカードの取り扱いなどが筆頭格)
それでいて低い時給でも好き人が集まってしまうので、「やりがい搾取」の典型だと言わざるを得ない。
好きでやっているので文句も言わない人が多いが、皆働きながら疑問を抱いている。
声をあげようものなら、正社員雇用に影響すると感じその疑問を見て見ぬ振りをする。
そんな背景がある中で声を上げた小田急のバイト。(私個人は小田急は私怨もあるので好きではないが)そんな過酷な鉄道バイトのみなさまを陰ながら応援します。
元関東某社バイトより
azusa
いくつか気になったことがありましたので、参考になればと思います。
一応、立場を軽く書いておくと、鉄道を利用したことはありますが、鉄道会社で働いたことはありません。
鉄道の少ない地方のメーカーで開発職(正社員)をしています30代男性です。
勘違いしていることがあるかもしれません。また、キツめに書いている部分もあります。
ご容赦ください。
1.トラブル発生時の時間外業務
正社員を増やしたところで問題は解決しないと感じました。
正社員が増えれば、その分アルバイトは減らすことになるでしょう。そして(被害者は減りますが)、残ったアルバイトは同じ状況になります。
実現しなければならないことはトラブル時の負荷低減であり、理想は平常時の人員でトラブル時も対応できる体制づくりです。
最新の情報が瞬時に伝わる仕組みづくり、ダイヤ乱れや振替輸送についての状況や対応方法が利用者に伝わるような仕組みづくりなどでしょうか。
この辺は現場にいる方のほうが案はいろいろと出てくるかと思います。
2.賃金の低さ
アルバイトがミスをしたときの責任はすべてアルバイトに行くのでしょうか?
怒られるだけではなく、そのミスに対して賠償や減給、解雇といった制裁も付随するのでしょか?
責任とだけ言うと曖昧であり、交渉する上で意見の食い違いが起きるように感じました。
また、最低賃金から100円強しか変わらないとありますが、"最低賃金からの差"と"仕事の内容"はある程度相関するかもしれませんが、無関係です。
一概には言えませんが、時給とは"求めている仕事を社員がいつも同じようにしてくれるのに必要な額"を雇用者側が設定しているものです。
低すぎると人が集まらなかったり、仕事がいい加減になったり、辞めていったりしますが、適当な額であれば仕事は回ります。
実際、(学業に支障は出ていますが、)今も仕事自体は回っているようですので、会社側が適正であると主張するのはそういった経緯があると思います。
そのため、最低賃金の話は出さないほうが懸命かと思います。
正攻法で行くのであれば、自分たちの行っている仕事の価値を何かしらの方法で算出する必要があります。
算出しなければ、賃金を上げて欲しいと駄々をこねているようにしか見えません。
最初に書いた責任についてもう一度考え、要求内容を見直してみてはいかがでしょうか。
3.着替え時間・準備時間・移動時間の未払い
もし着替え時間分の賃金を支払った場合、"家で着替えてきた人"と"職場で着替えた人"で支払いに差が生じると解釈しました。
前者は着替えた時間分が賃金として受け取れず、後者は受け取れます。
払おうとしても、不平等になってしまうため、一律には払えないという主張でしょうか。
最後の移動時間の未払いについても上記主張と合わせれば納得がいきます。
家を"普段の職場"に、職場を"その日の職場"に置き換えればいいのです。
"普段の職場で着替えてきた人"と"(着替えを持って行き、)その日の職場で着替えた人"で支払いに差が生じます。
どこで着替えても良いと言われてしまうと、この主張を覆すのは難しいと感じました。
"制服を着て列車に乗っている以上、会社の指揮監督下に入っている"というのも、家で着替えてからの移動中は業務時間外として扱っているので通じません。
準備時間も含めてですが、時給と同じ枠として賃金を求めるのではなく、出勤回数に応じた手当のようなものを要求する案はいかがでしょうか。
1回の出勤の賃金 = 出勤手当 + 業務時間×時給、となるような形式です。
もちろん、準備時間が必要であることは納得してもらわなければなりません。
4は解決しそうで、5は雇用契約内容の詳細がいまいちわからなかったためコメントは控えます。
長くなってしまいましたが以上です。
はるか
仕事に加えての交渉、大変だと思いますが、ぜひ実りあるものとなりますように。
小田急は私も時々利用しますが、学生バイトの方がそれほど多く入っているとは知りませんでした。
小田急側の主張で気になった点がありましたのでコメントさせて頂きます。
制服への着替えの時間について、賃金支払い対象としないことにつき、「家から着てきても構わない」とのことですが、制服とはなんのために着るのでしょうか。
乗客にとって、小田急に乗っている小田急の制服を着た人がいれば、当然その人を社員だと思いますよね。しかしそれは業務外だということであれば、小田急の指揮命令下にはないわけです。
そのときの制服を着た学生バイトの対応に基づきトラブルが発生した場合、仮に乗客から損害賠償請求があった場合、小田急はどう対応するのでしょうか。
民法では表見代理という考え方があります。「自宅から制服着て通勤して構わない」という小田急の回答で、本当に責任を免れ得るのか、乗客の立場としては甚だ疑問です。
コンビニで着替えや準備の時間を労働時間として認めさせた例がありましたね。
がんばってください。
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3.着替え時間・準備時間・移動時間の未払い
これにつきましては根本的な解決は不可能に近いと思います。
要は始業時間に合わせて業務を開始できるよう準備をする時間に賃金を支払え、ということですよね。
9時始業のサラリーマンが8時半に会社に到着し30分準備をしていたから8時半から9時までの残業代を請求する、と同義だと捉えられますが果たしてそのような意見は通る事例がありますでしょうか?
2〜3回読み直しましたが基本的な問題は小田急のみでなく人材不足な昨今、同業他社でもあり得る事ですね。
また上記のように他種職場でも当たり前の「世間では多数派、それで世が回っている」という現実を覆さなければ解決できない難しい事であると考えます。
どうにもこの文章を作成された方は私怨によりそれらしく書いた、または悪く見えるように仕上げる依頼を受けそのように書いた風に読み取れます。
きっとその考えを見抜かれて、交渉が難航しているのではないでしょうか。当事者側から事実相違、名誉毀損と返されないよう祈ります。