              『千年家族』を制作したインディーズゼロは、東京・吉祥寺で活動中。地元に根付いたスタッフたちの活気で、新しくも楽しいゲームが完成しました。かつてのゲームセミナー受講生たちの立ち上げた会社ということで、その逸話に興味ある読者も多いのでは? 未体験の楽しさを創り出すまでを、そして作品に込めた思いを伺ってきました! |  -インディーズゼロさんは、10年ほど前に開催された任天堂ゲームセミナーの受講生だった方々が立ち上げた会社なんですよね。 鈴井: 昔あったセミナーは一期~三期まであって、僕は三期生になります。任天堂の辻村さんは先輩にあたりますね。スタッフのなかで6名がセミナー出身者なんですよ。今回は任天堂さんとお仕事をしましたが、任天堂社内にはセミナーの同期生だった人や講師をされていた方がいますから、他社であってもどこか安心感があって、ちょっと不思議な関係ではありますね(笑)。 -どことなく気心知れているという感じですか。 鈴井: そうですね。普通なら関わり合いのない部署の人も、顔見知りだったりするっていうことで、見えない部分に対して不安を抱くということがないんですよ。馴れ合いはもちろん良くないですし、作品作りに関しては厳しくあたらねばなりませんけど。ゲーム作りに関しては、それこそ当時のセミナーで『任天堂の現場のノウハウ』を教わったという感じです。いかにしてクオリティの高いものを作るか、よく教えていただいたと思いますね。 -どういう経緯で会社を立ち上げられたんでしょう。 鈴井: 僕はセミナー卒業後、学生時代に任天堂さんでアルバイトをしていたことがありまして。その時は衛星放送事業部にいたんですが、その後は違う会社に就職し、そこで1年ほど働いて他のセミナー卒業生たちと会社を設立することにしました。 渡辺: 僕は他社で3年ほど働いていたんですが、インディーズゼロ設立の半年後くらいに鈴井の方から誘いがありまして。「一緒にやらない?」と。 鈴井: うちは本当になにもない所からのスタートだったんです。ほかのクリエイターさんのように、大きな実績を積んでというわけではなかったんですね。で、サテラビューの『すってはっくん』や他社さんで出したタイトルを作っていくうち、スタッフが必要になって。 -『千年家族』はどのように制作が進んだんでしょう? とても印象の強いタイトルですよね。 鈴井: 2003年夏に、新しいゲームのプロトタイプを2つ作りまして。そのうちの片方がこれですね。当初はリアルで細かい描写を持ったゲームにするつもりだったんです。タイトルがすごく印象強いということで、任天堂の岩田社長と宮本さん(任天堂情報開発本部長)がぜひこのタイトルを使って欲しいと。そこから色々考えて、ゲーム内に参加するのではなく、人間を俯瞰(ふかん)で描いていくことにしました。 渡辺: いまってネットや携帯があって、情報量がものすごく多いじゃないですか。ゲームをするにしても、そこで情報交換をする、ということのウェイトが非常に大きい。だからパスワードを使って情報交換したり、通信機能を使うことで『みんなで進めている』という外部へのふくらみを持たせたかった。じゃあなにをやりとりしようか、ということになって、「カートリッジ内に家族がいて、キャラクターたちによって盛り上がりがある」ということを考えました。嫁や婿をやりとりしたり、遺伝的要素を入れることで、盛り上がっていきますよね。代替わりすれば定期的に人とやりとりすることができますし。 鈴井: コミュニケーションして欲しいな、と思ったらやはりそういう機能が必要ですから。パスワードを活かしたいというのはあって、そのフックとして"家族"をテーマにすればいいのではと思ったわけです。誰にでも共通の話題になるものですしね。 | -タイトルを拝見した時は、「なにをするゲームなんだろう」という興味をかき立てられました。 辻村: タイトルそのものが、全てを物語っている感じですよね。この4文字があって、そこからイメージが湧いてくるというか。自分がゲーム内に介入してどうなった、ということを友人との話題にして欲しいし、していきたいなと思うゲームなんです。 鈴井: 結婚というテーマで…と考えた結果なんですが、渡辺が考案したんですよ。 渡辺: このゲームはですね、『ながら遊び』ができるようにと作ったものなんですよ。なにかをしながら、ちょっと手を出したり…というサブ的な遊び方ですね。そこを本格的に考えた時、自分が見ていない時間はどうなっているのかっていうのを考えたわけです。そこからプレイヤーを『神様』にしようとか、三人称視点というものが出てきたと。時間を早送りする"ウォッチモード"は、辻村さんが命名されたんですよ。 辻村: いまの人って、やりたくても忙しくてゲームに割く時間があまりないですよね。でもこれは仕事をやっている時に横に置いて、たまにチラッと見て…という遊び方ができるんですよ。この家族どうなっていくんだろう、というアリの観察をしているような感覚で楽しめますよ。 鈴井: うちが作ったパソコンゲームで「メインの作業をしている裏側で進むゲーム」というのがあって、そういうタイプのゲームをコンシューマーで作りたかった。『千年家族』を作るなら、これまでやってきたノウハウが活かせるしということで。のめり込んで遊ぶより、見ているうちに話が進んでいって、自分が手を触れない間も進んでいく…というものを表現したかったんです。 -最初、タイトルの字面だけ見て「リアルなキャラクターがシリアスに壮大ななにかをやってるのかな」という感じだったんです。 鈴井: 家族を描くわけですから、楽しいイベントばかりじゃないですよね。死別したり挫折したり浮気したりという、シビアなイベントをリアルに描写することになる。そうすると下手にリアルなキャラクターが動いてると、ずしーんと重くなっちゃいます(笑)。最初はリアルでとも考えてたんですが、イベントを具象化しやすくするためにリアル指向から方向性を変えたんです。 辻村: 本当にありとあらゆるイベントが起きますからね。そのなかには割と辛いものも多くて。 鈴井: プロトタイプ作成後に、三人称のゲームへ方向性を変えようという打ち合わせの時、キュピットも生まれたんですよね。これは任天堂の大澤さんが以前作った『パルテナの鏡』のキャラクターをイメージしたんです。大澤さんはこのソフトのプロデューサーだし、いいかなって(笑)。 渡辺: 大澤さんとお話している時に、プレイヤーは神様にしようとか、神様にもランクがあって部下がいて…なんていう話になったんですよね。キュピットは『パルテナの鏡』の"ピットくん"が原型で、そこを出発点に弊社デザイナーの中村と鈴井がイメージをやりとりして、デザインを完成させました。キュピットは矢を撃ってくれたり、ナビゲーションしてくれたりという役割なんですが、アニメーションも入れると入れないとでは全然印象が違うと。家を眺めるのがメインの画面なので、あのアニメが入るとメリハリがついて、ビジュアルにインパクトが出ますよね。 鈴井: キュピットには思い入れがとてもあって、個人的には可愛くてしょうがないんですよ(笑)。笑う時の目の形はこうじゃないとダメとか、うるさいですよ(笑)。自分にパートナーがいてくれるって、やっぱり嬉しいですよね。それを反映させたかったんですよ。 -動きだけじゃなく、声がとっても可愛いですよね。 土山: 任天堂のサウンド部隊が試しに声を入れたんです。私は声優さんともお仕事をしたことがありますが、まず内部で試しに使ってみて様子を見ようと。やってみたらとても良くて…経費もかかりませんし(笑)。 鈴井: 違いますよ! 経費じゃなくて、その声がバッチリはまってて、良かったからですよ!(笑) 土山: この声を吹き込んだスタッフはかなり恥ずかしかったみたいです。 | -プレイしていたら、選挙があって大統領に立候補したんですが、惜しくも敗れてフリーターに…(笑)。 渡辺: やはり『大統領になれる』というのは、プレイしているとここまで行くんだよ、というわかりやすい目標ではありますね。選挙は5年ごとにあるんですが、「あ、そろそろ選挙の時間だ」ってゲームの電源を入れたりとか。ゲームの世界も日本という設定ではないので大統領なんですが。 鈴井: 通信機能では、ジョイスポットでお嫁さんやお婿さんをもらうことができるんですよ。そっちはパラメータや容姿のいい人たちが揃ってるんで、ぜひ活用してほしいですね。やっぱり遺伝していきますから。 -容姿は重要ですよね。行かなきゃ(笑)。
鈴井: そうそう、この制作をしている時って、スタッフや関係者がやたら結婚したり子供が生まれたりってことがありましたね。僕も子供が生まれましたし。 -"リアル千年家族"ですね(笑)。 鈴井: そうですね(笑)。子供が生まれそう…って時は、仕事のやりとりを妻の実家からFAXを使って吉祥寺の渡辺とアレコレしてました。 辻村: ゲーム内では、そんなリアルなやりとりを彷彿とさせるドキッとした言葉を数多く入れてますので、ぜひ見て下さい。 -土山さんは任天堂側の意見として、どのようなことを言われたんでしょう。 土山: 私は制作の中盤から参加したんですが、外側から眺めてみてこうした方がいいとか、客観的な意見を提供する感じで。初めに作っている物を見た時、てんこ盛りすぎてこれをどうするつもりなんだろうと思ったんですよ(笑)。その1週間後にはシェイプされたものが上がってきて、全く違う形になっていたんです。原型が掴めたら面白くなってきたという印象で、具体的にどうしていくかは鈴井さんと話し合いを進めていきました。説明の長さはいらないとか、どうしたら楽しめるか、ユーザーの皆様に楽しんで頂けるかを詰めていって。 鈴井: 受け入れてもらうためにはわかりやすくしないといけないですから、人に伝わるようにしなくてはならない。そこは任天堂さんが心配して「大丈夫?」としょっちゅう連絡して下さいまして(笑)。こちらは「大丈夫です!」と言ってたんですが、裏側で「…大丈夫、だよね?」と(笑)。 渡辺: 矢を撃って影響を与えることや、電源を切った時に進んでいるというのは楽しいはず、とこちらはわかっていたのですが、それをわかってもらうのが大変で。 鈴井: 電源を切っていても楽しめるというのは絶対に入れたかったんですよね。普通のゲームは電源を入れてからですが、これは電源を入れる時には既になんらかの結果が出てる。そこをどうしても入れたかったっていうのがあります。とても勉強になったのは、面白くしようと色々工夫してアレコレ詰め込んでも、芯であるコンセプトさえぶれなければ、相手には伝わるものなんだということです。 辻村: 千年間というものをどう落とし込んでいくか、面白くするか、いかに電源を切ってる間も遊んだ気にさせるかが大切ですよね。プレイしていない時にも遊んでいるような気分にさせたくて。 鈴井: たとえ家系が途絶えたとしても、それは悪いことじゃないんですが、この家系は何百年続いたよ、っていう記録的な部分でも楽しんで欲しいです。エンディングの演出もぜひ楽しんで下さい。きっと、泣けますよ! | -個人的な感想ですが、「自分を見守ってくれているご先祖様の視点って、こうなのかなあ」と深く考えたりしたんです。 鈴井: そう思ってもらえると本当に嬉しいですね。これを作っているうちに、ゲームというより『家族観察シミュレーター』という発明品的なイメージになっていきました。そこが他にない部分、新しい所だと思います。たとえば1970年から年代を設定できますから、自分の家族の名前を入れて、「もうひとつの自分の歴史」をシミュレートしてもいいと思います。架空の自分、そして未来の自分も観察できるんですよ。 渡辺: 家族や結婚がテーマですから、リアルにするとシビアなイベントも入れざるを得なくなりますよね。それでどこまで入れていいんだろうと悩んだんですが、任天堂さんいわく「離婚とか浮気なんかも入れていい。優等生なゲームを作りたいわけじゃないんだから。ドラマチックで波瀾万丈というのを表現したい」ということだったんです。収入が上がって偉くなったら浮気しちゃったりとか。もちろん倫理的に問題のない表現になるように気をつけましたが(笑)。 土山: 表現に気をつけるだけでもまずいものがあるので、扱い自体に悩みました。それで、「最近シビアなイベントが少ないね」ってことになるとドッと増やすんですが、増えたら今度は「あ、全部使えない」だったり(笑)。でも、インディーズゼロだからできる物を作って欲しかった。こちらの意見も当然考えて欲しいですが、それ以上にインディーズゼロならではの味を出して欲しかったんですね。 鈴井: 人生を描くのって大変なんだなあ、と。自分ひとりの人生だけでも大変じゃないですか(笑)。人生をシミュレートするアルゴリズムを作るというのは、こんなにも難しいのかと。最後の最後のギリギリまで、微妙なバランスを調整しつづけてました。本当はもっと切ない部分とかも入れたかったんですが、それはまた次回作ですね。 - では最後にメッセージをお願いします。 辻村: 今回の作品は、過去にないイメージが拡がるゲームです。会社の人や友人の名前を入れて、「あ、この人こうなった! くっついた!」なんて、ちょっとひねくれた遊び方をすると楽しいですよ(笑)。自分は第三者の立場だけど、愛情を注いで見守っていけば家族が幸せになっていくという変化の過程を楽しんでほしいと思います。 土山: ほかのゲームとはテンポが全く違うので、必死にプレイするのではなくゆったり遊んで欲しいです。気分を変えてリフレッシュ…というつもりでやってもらえれば嬉しいですね。私は好きなサッカーチームの選手名を入れたりしてたんですが、思い入れを託すとまた違った楽しみ方ができますので。 渡辺: さきほども出ましたが、「もしも」の世界をシミュレートできるというのが、かなり楽しいはずです。子供さんなら未来の自分をシミュレートできますし。それと通信機能を使うとさらに盛り上がるので、自分のもうひとつの人生をぜひ味わって下さいね。 鈴井: ひとりひとりの何気ない関心ごと、ちょっとしたできごとがその人を作っていきます。それが重なり合って家族を作り、やがて次世代へと想いを紡ぐことで家系になっていく。家族たちの日常を、神様の視点でそっと覗いてみて下さい。きっと新しい発見があるはずです。それと、「みんながあっと驚くものを作りたい!」という人は、ぜひ吉祥寺のインディーズゼロで一緒にやりましょう! |  |