元経済ヤクザが明かす、人工知能との「仁義なき投資戦争」の壮絶現場

そして、たどり着いた結論とは
猫組長(菅原潮) プロフィール

猫組V.S.人工知能

もはや、金融市場の不確定性を職人的相場師の「カン」で処理することは少なくなった。現在の金融世界の主役は相場師ではなく「エンジニア」だ。経験やカンで読み解く相場師ではなく、理論と情報で一瞬先の相場を予測するエンジニア(と彼らが作り出したAI)のほうが、幅を利かせている。アメリカのゴールドマン・サックスが抱える世界4万人の従業員の内、約25%がエンジニアだということが、その証左である。

「人工知能」を謳うサービスの中には、ポンコツも多く存在する。大手家電メーカーが導入した「AIお客様相談」を利用すると、ため息が出る回答ばかりで肩が凝る。だが、数式が支配する金融の世界で人工知能は、その能力をフルに発揮する。

複数の数式モデルを組み合わせるばかりか、発信されるニュースや、モメンタム(勢い)のある株価を常時監視し、株の流れを追いかける。

 

私が驚くのは、リスクを計算し尽くしたAIの株価予測能力だ。損をせず成立する株価に「買い」と「売り」の注文を出し、確実に利益を取っていく。リスクが低い分「儲け」は当然薄くなる。そこで利用されるのが超高速取引だ。現在、AIはナノ秒(10億分の1秒)の世界で戦っている。こうして薄い利ざやを売買することで、利益を莫大なものに膨れ上がらせていくのだから手に負えない。

大手だけではなく、小さな証券会社から小規模の投資家集団までAIを利用しはじめたことで、AIアルゴリズムは、乱立している状態だ。

AIが版図を拡大したことで、「職人的相場師」は徐々に住処を追われている。

上がって行く株に釣られて大量に集まり、下がると逃げていく小口投資家は、稲を食い荒らす害虫に例えられて「イナゴ」と呼ばれる。当初私は乱立するAIに対抗するために「イナゴ」を利用した。

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かつては資本量がエサとなって「モメンタム」を創造することができたが、現在では情報もエサになる。「猫組」の中には、個人投資家として知名度の高いメンバーがいる。そうした者たちがTwitterで、特定銘柄に注目していることを発信すると、その「稲」にイナゴが群れるのだ。こうした情報にはAIもうまく食いついてくれた。我々の狙い通りだった。AIを誘導して「イナゴ相場」を形成することで、猫組は需給戦を展開した。

ところが、すぐに異変が起こった。最初は巨大イナゴとして活躍をして、我々に富をもたらしてくれたAIだが、ほどなくこちらの手口は見破られることになる。リスク管理に長けたAIは、積み上がったイナゴ相場をうまく切り抜けて、美味しいところだけを食べて逃げていく、タチの悪いイナゴに進化した。私の腕の見せ所ということで、「冷やし玉」を入れてAIを攪乱する手段も使ってみたが、ほどなくしてそれも見抜かれる。

AIを利用するつもりが、私たちがAIに利用されるようになった。